前編

ああ、神様。あんまりです。罰なら私にお与えください。

(葛城ミサトの独白)


すべての想いをこの一言に

“ Thanks For The Memories ”

                <前編>             by みやも


<プロローグ>

ある少年と少女にまつわる話をしようと思う。

物語の舞台は第三新東京市。

<使徒>と呼ばれる異種生命体と人類との過酷な戦闘に終止符が打たれてから数ヶ
月が経過した頃の出来事だ。

『それ』は別に世界を揺るがす大事件ではなかったし、その出来事によってとくに誰か
が損や得をしたというわけでもない。結果としてプラスマイナスゼロだった、と言って
しまえばそこまでのことである。

ただ、『それ』によってこの世界から消滅してしまったひとりの少年の魂について
考える時 、この物語にはいくらかでも価値が付与されるのではないだろうか。

少女は信じている。
少年と共に過ごした日々の思い出は、これから先も彼女の心の中で輝き続けていく
という事を。

そう、少女は信じている。
いつまでも、変わることなく。

では、舞台の幕を上げるとしよう。

ある夜、ネルフ本部施設内のエレベーターにて。

「………本当にいいの?」

綾波レイは隣に立つ繊細そうな黒髪の少年に訊いた。うなずく少年。

「うん。このことは秘密にしておいてほしい」

「……隠し通せることじゃないわ。どちらにせよ『その時』が来たらあなたは……」

赤木リツコ博士から受けた説明の内容を思い出して、うつむくレイ。

「わかってるよ、綾波」

その少年は穏やかにほほえんだ。

「ただ、ぎりぎりまでは彼女と普通に日々を過ごしたいんだ」

「……」

「身勝手、だね」

「……そうね」

レイの目に、少年の笑顔がとても痛々しく映って見えた。

「……ほんとうに……身勝手……」

レイの瞳から、自分でも気付かぬうちに一粒の涙がこぼれおちた。目の前に立つ少
年の存在が彼女にはあまりにも悲しすぎた。

流れる沈黙。やがてエレベーターが上昇をやめ、ドアを開けた。

「じゃあ……また明日、学校で」

少年は涙の跡がついたレイの頬をそっと手の甲で拭ってから、扉の外へひとり歩き
だした。

コンフォート17マンション。

「ただいまー」

碇シンジは、『皆様に愛される総合科学研究団体』を目指す新ネルフで、最後の戦
いが終わって以来ひさびさに行われたシンクロテストを受けて帰ってきた。

そんな彼を出迎えたのは、

「おーそーいー!」

という、なんとも元気のいい声だった。

キッチンで食卓について頬を膨らませているその声の主は、シンジの同居人こと完
全無欠の天才美少女(自称)、惣流・アスカ=ラングレー嬢であった。

「バカシンジ、もっと早く帰ってきなさいよ~。お腹すいちゃったじゃない」

ラップをかけられたままの夕食の皿がテーブルに並んでいる事に気付いてシンジは
きょとんとした表情を見せた。

「あれ、まだ食べてなかったんだ」

「そうよ!あったりまえじゃない!」

「どうして?」

「…………」
「…………」
「…………」

「もしかして、僕が帰るのを待っててくれた……とか」

「あ、アンタバカァ?」

ストレートに見透かされてしまったために赤面するアスカ。

「アタシはただ、一人で食べるごはんなんておいしくないから、だから、その、一緒
に……えーと…………あっ、な、なに笑ってるのよ」

「なんでもないよ」

というシンジの表情はやけに明るかった。

「じゃ、さっそく食事にしよう。おかずを温めてくるから少し待ってて、アスカ」

「……うん」

そこでふいに、キッチンへ足を向けたシンジが立ち止まって振り向いた。

「アスカ」

「ん?」

「ありがとう」

「い、いきなりなによ。別に礼をいうほどの事でもないでしょ」

「うん。けど、うれしかったから。だから、ありがとう」

そう言うと背を向けてレンジの前に向かうシンジ。

「……やっぱり、ご飯は一緒に食べる人がいたらおいしいよね、アスカ」

「?」

最後に聞こえたシンジの呟きがやけに真剣な雰囲気だったので、アスカは首をかしげた。

なぜか、彼の微笑が寂しそうに見えるのがアスカには気になった。

「……シンジ………?」

それは12月に入って間もない、ある夜のことだった。

数日後。

その朝、学校へ向かう道の途中で、アスカはぴたりと立ち止まって自分の隣にいる
シンジに話しかけた。

「ねえ」

「ん?」

「……なんでさっきからアタシの方をじーっと見てるわけ?」

「あ、迷惑だったかな」

と言いつつものんびりとした笑顔を見せ、アスカから視線をそらさないシンジ。

慣れているのとは少し違うリアクションに、アスカは『見とれてたの~?』とからかう
つもりだったのも忘れてとまどった。

「迷惑ってわけじゃ……ないけど」

「よかった」

「むぅ~。なにニコニコしてるのよ。良いことでもあった?」

するとシンジは少し考えてから、返答した。

「……うん。いい事だったんだ、ってやっと気がついたんだ」

「はぁ?…………アンタ、最近ヘンよ。なんだか悟ったような顔しちゃって」

「はは、そうかな」

シンジは軽く受け流すと、ごく自然な動作でアスカの手を握った。驚くアスカ。

「ちょ、ちょっとシンジ………」

「行こう、アスカ。学校に遅れるよ」

シンジがアスカの手を引いて歩きだす。

アスカはあっけにとられてどう反応すればいいか分からず、つながれた手をそのまま
にただうなずく事しかできなかった。

「………そ、そうね。遅れちゃうわね…………」

それから学校に着くまでの間、アスカの思考は『シンジの手ってあったかいなあ』
などと、見当違いな方向へすっとんでいた。



「碇くんが?」

休み時間、アスカは心の友こと学級委員長・洞木ヒカリに相談していた。

「そう。ここんとこ、様子が妙なのよね。ヒカリは見てて気付かない?」

背後にちらっと目をやるヒカリ。シンジの席にトウジ、ケンスケが集まってなにやら
談笑している。とくにおかしな所はない。

「うーん。いつも通りだと思うけど。どこが妙なの?」

アスカは自分の右手をぼーっと見つめていた。

「あいつ、なんだか最近やけに優しいのよ」

「いつものことじゃないの」

「アタシがわがまま言っても怒らないし」

「今さらじゃないの」

「そうじゃなくて!え~とね、やたらアタシの事をかまってくれるっていうか……」

「アスカ………ノロケならよそでやってね」(--;

(アスカ……)

トウジたちとの会話にひと区切りついたシンジは、アスカの方を見ていた。

「…………っ!」

突然シンジは、身体を引き裂かれるような激痛に襲われた。

「どないしたセンセ。顔色悪いで」

「……いや、ちょっとね……」

額に汗を浮かべつつも、どうにか平静を装うとシンジは席を立った。

「ん、トイレか?碇」

「うん。行ってくるよ」

そんな彼の様子を、窓際の席に座るレイがじっと見つめていた。

(碇くん……)



屋上に上がって誰もいないのを確かめると、シンジはその場にくずおれた。

「はあ、はあ、はあ…………」

全身の細胞が揺らぎ、悲鳴を上げている。

(お願いだ、あと少し……あと少しだけもってくれ………)

「くっ……」

「………碇くん………」

うずくまっているシンジの頭上にふっと影が差した。ゆっくりと顔を上げるシンジ。

「………綾波」

「……………」

レイは無言だったが、その瞳は言葉よりも多くのことをシンジに語りかけていた。

「わかってる。でも、大丈夫だよ」

シンジは力を振り絞って立ち上がり、どうにか笑みを浮かべようと努力した。

「まだ大丈夫さ」

「もうとっくに限界なのよ」

ジオフロント、新ネルフ本部職員休憩所。

リツコはテーブルを挟んで向かい合っている友人に言った。

「理論上、ゲシュタルト崩壊を起こす一歩手前よ。あんな不安定な状態で日常生活を
送れること自体、奇跡に近いわ」

「まさに精神力ってやつね」

葛城ミサトがなかば独り言のように呟く。手にしたコーヒーカップにはまだ口もつけて
いないが、中身はすでに冷めきっていた。

やるせない思いに包まれて、ため息をつくミサト。なぜこんな事に?

ふとリツコが何気なしに疑問を示した。

「ひとつだけ分からないことがあるのよ」

「珍しいわね。リツコがそんなこと言うなんて」

「本当に分からないのよ。ここの設備なら、多少なりとも『その時』を遅らせる事が
できるのに、なぜ彼はああまでして家に戻りたがったのかしら?」

「……決まってるじゃない」

ミサトはその問いの答えを思うと、哀しすぎてほほえむ事しかできなかった。

「どうしても伝えたい、たった一言のためよ」

次の日。

(まだだ。まだ、早い)

学校にて。

授業中、シンジは必死で己にそう言い聞かせ続けていた。激しい頭痛と睡魔に襲わ
れ、今にも意識を失ってしまいそうだった。

「ではこの文章を朗読してもらいます。えーと、次は碇君ですね。………碇君?」

「え……あ………はい………」

教師に指名されたことに数瞬遅れて気付いたシンジが教科書を手に立ち上がる。

「ええと………」

「114ページの冒頭ですよ」

「はい………」

シンジの変調に気付いたヒカリが、小声で隣の席のアスカを呼んだ。

「ねえアスカ、碇くん具合が悪いんじゃない?」

「朝、けっこう高い熱があったのよ。たぶん風邪だと思うけど」

「昨日は元気そうだったのに………でもなんで学校休まなかったのかしら」

「知らないわよ。シンジがバカだからでしょ」

怒ったように答えるアスカ。

実はアスカも今朝かなり強引にシンジを家で静養させようとしたのだが、彼がそれ
をかたくなに拒んだのだ。

「大体あのバカシンジは………」

その時ふいに、テキストを朗読していたシンジの声が途切れた。

どさ、っと後ろで何かの倒れる音がして、誰かが「碇!!」と大声を上げた。

「シンジ?」

アスカがはじかれたように振り返る。

10分後、彼女は昏倒したシンジの付き添いとして、ネルフ本部の医療センターへ
向かう救急車に乗っていた。



(どういうこと?)

アスカは医療センターの待合室でいぶかしげに眉をひそめていた。

なぜネルフ所属の救急車が来て、学校から一番近い病院ではなく、わざわざジオフ
ロントにある本部に収容されなければならないのか?

いやな予感がしていた。最近のシンジの様子といい、何か自分の知らない異変が彼
の身に起きているのではないだろうか。

「アスカ」

誰かが彼女の名を呼んだ。

思考を中断させてその声の方に顔を向けると、そこにはリツコとレイがこわばった
表情を並べてアスカの前に立っていた。

「リツコ、それにファーストまで……どうしたのよ」

「……博士……」

遠慮がちに、リツコの白衣の袖を引っぱるレイ。レイはいま迷っていた。

リツコは首を横に振った。

「黙っているのが優しさとは限らないわ、レイ。何も教えずに『その時』を迎えさせる
ほうが残酷だとは思わない?」

レイはうなだれると、沈黙によって承知の意を表した。

「アスカ、ついてきて」

と言うなりリツコはさっさと歩き出した。

「ま、まちなさいよ!一体何が……」

「来れば分かるわ」



「冗談でしょ?」

コンピュータのスクリーン上を流れる情報の意味を把握するなり、血の気の失せた
顔でアスカが呟いた。

「事実よ、アスカ」

リツコは感傷的な台詞を付け加えそうになる自分を抑えて事務的な口調で言った。

そばにいるミサトは無言でアスカを見つめていた。

(確実に地獄行きね、私)

また自分たち大人はこの子たちに何もしてやれないのだ。ただ見てるだけ。

「残り時間は少ないわ。どうするかは、貴女の自由よ」

と、リツコが最後に言い添えた。

「………………」

ぼう然としながら、アスカはその場をふらふらと立ち去った。

「シンジが………?」

あまりにも突然すぎた。一体どうすればいいのだろう?



「ん……」

医療施設独特の清潔すぎる空気のにおいを感じながら、碇シンジはベッドの上で目
を覚ました。

目覚めたシンジが最初に見つけたのは、自分の寝顔をのぞき込んでいる赤髪の少女
の青い瞳だった。

「お目覚めね、バカシンジ」

「アスカ…………?」

「アンタ、授業中にぶっ倒れちゃったのよ。具合はどう?」

シンジは起きあがった。

「………ああ………少し眠ったからかな、気分は良くなったよ」

「そう」

アスカは、ぽつりと呟いた。感情を押さえ込んだ声だった。

「………じゃ、家に帰るわよ、シンジ」

ジオフロントをあとにしてミサトの車で家へ向かう途中、アスカはふいに言った。

「ここで降ろして、ミサト」

「わかったわ」

ミサトはネルフ本部を出てからはじめて口を開いて、短く答えた。

自動車が停止した。高台の公園の入り口に近い場所だった。

後部座席でアスカの横に座っていたシンジが訊ねる。

「どうしたの、アスカ?」

「シンジ」

アスカが微笑んだ。

「今日はきれいな夕焼けになりそうよ。公園で一緒に見ていかない?」

「…………」

シンジはじっとアスカを見つめていたが、しばらくしてうなずいた。

「うん」



「ねえ、覚えてる?いつかこんな夕日を見たでしょ、アタシたち」

ゆっくりと朱に染まっていく街並を眺めながらアスカは楽しそうに笑った。

シンジは彼女の横顔を見つめて、きれいだな、と思っていた。

「覚えてるよ。ユニゾンの時だね」

「大騒ぎだったわね、あのときは」

「いつも大騒ぎだよ、アスカといると」

「あー、ひどぉい。バカシンジのくせにそーいうこと言うわけ?」

「たまにはね」

「むぅー。……ま、ちょこっとくらいはホントのことかもしれないけどぉ」

「あはは。でも、楽しかったよ。いま考えてみると」

「そうね」

アスカが、シンジの方に向きなおった。夕陽を浴びて彼女の髪が輝いていた。

「アタシも、楽しかったと思う。ほんとうに」

「…………」

「………あれから、いろんな事があったわね」

「……………うん」

「…………………」

そして二人の間に覆い被さる、沈黙と静寂。

やがてシンジが静かに言った。

「………知ってるんだね、僕の身体のこと」

「………後遺症って………本当なの?」

「うん。
前に、僕がエヴァとのシンクロ過剰でLCLに取り込まれた時のサルベージが完全な
ものじゃなかったらしいんだ。
身体と魂にずれができててね………その歪みがだんだん大きくなって、もうすぐ完全
に分離してしまうんだって。
あと一ヶ月、もつかどうか分からない」

あっさりと説明するシンジとは対照に、アスカは青白い顔をしていた。

「…………死ぬ、って事なの?」

シンジは首を振った。

「ある意味ではね。『その時』が来たら僕の魂だけがLCLに変化して、身体から流れ出て
しまうんだ。そうなったら、もう元に戻す方法はないんじゃないかな」

「そんなのっ………!」

シンジにつかみかかるアスカ。

「アスカ………」

「冗談じゃないわよ!
どうして!?戦いはもう終わったっていうのに!
どうして今になってシンジが死ななきゃいけないのよ!?
いやよ!そんなのゆるさないんだから!
バカシンジ!アタシのそばにいなさいよ!!
まだアンタに言ってないことが、言いたいことがたくさんあるのよ!!
何もかもこれからでしょ!?これからアタシはシンジと、ミサトと……本当の家族に
なるんじゃない……なのに………どうして……っ」

しだいに消え入るように弱まっていくアスカの声。肩を震わせる彼女を抱き寄せて
そっと背中をさすってやりながら、シンジは少し困ったように微笑した。

「アスカ」

そして少年は、様々な想いを込めてただ一言だけ呟いた。

「ありがとう」

三週間ほど時は流れ、12月24日。

「メリークリスマス!」

クリスマスイヴ、葛城家ではホームパーティーが催されていた。
参加したのはいつものメンバー(レイ、トウジ、ケンスケ、ヒカリ)である。

シンジが気合いを入れて作った豪勢な料理を囲んでいつも通りの大騒ぎが始まる。

だがその日、ヒカリは隣りあって座っていたアスカとシンジの雰囲気に普段と違う
ものを感じていた。

「ほらほらシンジ!これも食べなさぁい!」

「ま、待ってよアスカ、もう入らな………むぐぐっ」

「あはははは!どう?おいしい?」

表面はいつも通りの二人に見える。
だが、どこかが違う。とても楽しそうなのだ。不思議なくらいに。

ヒカリには、彼らがまるでわずかしか残されていない貴重な時を必死になって思い出に
刻み込もうとしているように思えてならなかった。



「んじゃな、碇、惣流」

「ほな、またな」

「うん、バイバイ。ケンスケ、トウジ」

宴が終わり、レイ、ケンスケやトウジが帰っていく。
レイはけっきょく一言も口をきかなかった。

「アスカ、何かあったの?
碇くんとあなた、今日はすこし様子が………なんていうかこう……」

帰り際に、玄関口まで見送りに来たアスカにヒカリが質問しかけて言いよどんだ。
ヒカリ自身、何を聞けばいいのかよく分からなかった。

「ん、べつに何もないわよ。アタシたち、いつも通りだったじゃない」

「そう?」

「そうよ、ヒカリ」

アスカは微笑んだ。だが、それはひどく弱々しい笑みだった。

やがてヒカリが去って、玄関のドアが閉まった。

とたんに家の中を静寂が包み込む。

アスカは視線を前に向けたまま、背後に立つシンジに言った。

「いつも通りよね、アタシたち。これからも………ずっと」

「………」

「そうでしょ………シンジ………」



翌朝早く、ミサトがマンションに戻ってきた。

「アスカは?」

「まだ寝てます………僕の部屋で」

「そう」

ミサトはじっとシンジを見つめた。

シンジの様子から察するに、とくに何かあったというわけではなく、ただ単に同じ
ベッドで眠ったというだけのようだ。たぶんこの子たちは、残された時をできる限り
そばで分かち合いたかったのだろう。

ため息をついてから、姿勢を正すミサト。

「碇シンジ君」

「はい」

「これからあなたを本部へ移送します。保安条例の規定で、チルドレンの生命に明白な
危機が予想される状況下では……」

ミサトの言葉を手で制して止めるシンジ。そして彼はわずかに苦笑した。

「分かってます。もう少しもつと思ってたけど……限界なんですね」

そう言うと不意にシンジはうつむいて、押し殺したような小さな声でささやいた。

「ミサトさん……僕、本当は……すごく………怖いです」

ミサトは心をナイフでえぐり取られたような気持ちに襲われた。
彼女はシンジのそばへ歩み寄ると、少年をその胸に強く抱きしめた。ずっとこらえて
きた涙があふれ出してくる。

 ああ、神様。あんまりです。罰なら私にお与えください。

「……ごめんね……」

 このままでは、この子はあまりにも哀しすぎます。

「ごめんね……シンジ君………私には何も………」

 どうか、罰なら私にお与えください。
悪いのは私です。この子を戦場に送ったのは、この私です。

「ごめんなさい………ごめんなさい………」

 神様、お願いだから私の家族をもう奪わないで!!

「ミサトさん………」

深く息を吸い、吐き出すシンジ。
そしてシンジは、そっと身体を離し、嗚咽するミサトの頭をゆるやかになでた。

「………ミサトさんは悪くないよ………きっと、誰も悪くなんかないんだ」

そうささやいたシンジの表情は、とても穏やかなものにもどっていた。

「シンジ君……」

「………………今までありがとう、姉さん」

2時間後、シンジはネルフ本部へ送られた。
誰にも別れは告げなかった。アスカにさえも。

ジオフロント、ネルフ本部施設。

『その時』を間近に迎え、用意された部屋に入ったシンジは、室内にいた先客の姿
に驚いた。

「…………アスカ?」

<後編へつづく>