第拾話 つかの間の幸せ

学生にとって永遠につきまとう試練・・・そう、定期試験である。
シンジ達は転校して始めての試験に臨んだ。
が、シンジの結果は見る影もなく撃沈であった。
ただ、アスカは漢字がある程度理解出来るまでになっていたので、辛うじて上位に食い込んだ。

「ったっく、本当にバカね! 何であんな簡単な問題が解けないのよ!!」

アスカはお冠だった。 試験休みにシンジとデートするはずだったのが、赤点をとったシンジが追試を受ける事になり、デートが消えたからだ。

「仕方がないだろ・・・。 あんまり勉強出来なかったんだから。 それに、僕はアスカみたいに勉強できないし・・・。」

シンジは申し訳なさそうに言った。
それでも、怒りの収まらないアスカはなおもシンジに喰って掛かっていた。

「私が毎日家庭教師してあげたのに、あんな点採る! 信じらんない!」
「だから。ゴメン」
「かぁ~謝って済む問題じゃないでしょう。 せっかく楽しみにしてたのに・・・。いいバカシンジ! 何がなんでも追試をクリアーするのよ。 クリアーできなかったら補習で夏休みがなくなるんだから。 良いわね。 これから、毎日私が付ききりで勉強教えてあげる。」
「う、うん。判った・・・。」

そんな二人の会話を近遙が聞いていた。

「そうなんだ。碇君の成績が悪かったの惣流さんのせいなんだ。 可哀想な碇くん・・・」

近遙はワザとアスカに聞こえるように言った。 当然、カチンとくるアスカは近遙と口げんかを始めてた。

「ちょっと、言いがかりは辞めてよね。 私が教えたからあの程度で済んだのよ。」
「そんなこと無いでしょう。 あなたの教え方が悪いんでしょう。」
「私の何処が悪いっての!」
「全部でしょ! 万年学年トップの私が教えたら絶対あんな事にはなってないわ!」

二人の口げんかを余所にシンジはトウジと二人追試対策に頭を抱えていた。

「「はぁ~」」

二人からは溜息しか出てこなかった。


結局二日後の追試はシンジもトウジもクリアーできた。 シンジは毎日アスカと近遙に挟まれて試験勉強をしていたし、トウジもヒカリに勉強を教えてもらっていたからだ。
そして、終業式の前の日に担任が終礼時にクラス全員に言った。

「明日、成績表と共に進路指導の用紙を配るから、夏休み明けに提出してくれ。 取りあえず、今したいことや将来何がしたいかも含めて考えてくれ。 実際、高校に言ってから修正が効くが、今から自分の将来について考えるのも悪くはないからな。 それじゃ、今日はこれで終わりだ。 みんな気を付けて帰れよ。」

担任がそう言うとクラスは一斉に帰り仕度に入った。 帰りに何処で遊んでいくかとか何食べて帰るとかいろんな会話が教室中に氾濫していた。

「なぁ、センセ。 今日帰りによらんか?」

トウジがシンジに話しかけてきた。 そんなトウジの手はゲーム機のレバーを動かす様に左右に動いていた。 トウジの後ろにはケンスケもいた。 この組み合わせだけで十分にどこに行くかが判った。

「そうだね。 ここのところ試験や追試で行ってなかったし、行こうかな。」

シンジはそう言ってアスカをさがした。

「アスカ、今日トウジ達とゲーセンに寄ってから帰るから、先に帰っていいよ。」

シンジはアスカにそう言ってトウジ達の元へと行こうとした。

「待ってシンジ。 私も行く。」

アスカがシンジの手を掴んで言った。

「え?」

シンジは突然アスカが何を言い出すのかと思った。

「行くって。何処に?」

シンジは聞き返していた。

「だから、私もゲーセンに行くの。 たまにはスカーっとしたいもんね。」

アスカはそう言ってシンジの腕に自分の腕を絡めた。
そんな、二人を見てトウジとケンスケはは思わず呟いていた。

「「イヤ~んなかんじ!」」

実際、ゲーセンにはシンジ、アスカ、トウジ、ヒカリ、ケンスケの5人で行くことになった。ただ、2組のカップルにあてられたケンスケ一人が後悔していた。

「どうせ、僕なんて・・・」

そして、ひと遊びしたシンジ達はファーストフードで休憩していた。
そんな時ヒカリが言い出した。

「ねぇ、アスカは進路どうするの?」

突然の質問にアスカは一瞬返事に困った。

「進路か~。 考えたこと無かったわ。 ひと昔前なら『エヴァのパイロット!』で十分だったっから・・・。 将来ね・・・。 もう一度大学に行くのもね・・・。」

アスカは答を導き出そうと考えをめぐらせていた。
ヒカリは質問の矛先をシンジに向けた。

「じゃ、碇君は?」

シンジはしどろもどろとなった。 が、曖昧ながらも今自分の心にある答を言った。

「人に役立つ仕事かな? そう、誰もが僕を必要としてくれる・・・そんな仕事がしたいな。 そう言う、洞木さんは?」

シンジはヒカリにふった。

「えっ、わ、私・・・。私は看護婦かな?」

そう言って赤面した顔を隠すように俯いた。

「へ~え、そうなんだ。 ヒカリがね・・・看護婦さんか・・・。」

アスカは親友の具体的な職種を聞いて感心していた。 そして、言った後に赤面したことで何か感ずいたのかニヤニヤしながら同じ質問をトウジにふった。

「じゃ、ジャージは?」

ハンバーガーをぱくついていたトウジが急にふられて戸惑ていた。 しかし、既に決めていたのかあっさり答を返していた。

「ん? わしか? そやな、わいは医者かな?」

意外な職種がトウジの口から出てきたのでヒカリを除いた全員が呆気にとられた。
当の本人は食い気に走っていたのでそんなみんなの驚きに気が付いていなかった。

「トウジがい、医者・・・・」

ケンスケは白衣姿のトウジを想像して青ざめた。
しかし、アスカはニヤニヤしてヒカリに言った。

「ふ~ん。 ジャージが医者ねぇ。 ふ~ん。 それで、ヒカリは看護婦なんだ・・・。」

そんなアスカの意味ありげな笑みにヒカリはますます顔を紅くした。
そして、ヒカリはアスカに聞き返した。

「じゃ、アスカは何になるか決めたの?」

照れ隠しでヒカリがアスカに突っ込んだ。

「・・・シンジの奥さんかな・・・」

アスカはぽつりと言った。 言った後でアスカは首まで真っ赤にして俯いた。
いや、アスカだけでなくシンジまで真っ赤になって俯いたしまった。
その場にいたトウジ・ケンスケ・ヒカリは撃沈されていた。
ヒカリは聞いたことを今の空気を察して後悔した。
熱々のシンジとアスカを見てトウジはジト目で

「やってられんな・・・所構わずいちゃつきよってからに・・・」

 

と一言言っていた。
そんな、熱々の中一人シェイクをズズズっと音を発ててすすってるケンスケがいた。

「だ、誰も僕の事なんて気にしないのさ・・・」

ケンスケの回りには陰の風が吹き滅の雨が降っていた。


トウジ達と別れた後シンジは射撃の定期練習に行った。
冬月等により人類補完計画の全容が明らかにされた結果旧NERV職員に対するテロは減っていた。 しかし、一部のテロ組織は未だにテロ行為を続けていたのでシンジは進んで射撃練習に取り組んだ。
自分以外に守る者がいる限りシンジは自らの手を血で汚す覚悟をしていた。
しかし、いつもの射撃練習とは行かなかった。
なぜなら、アスカが同行していたからだ。
最初は拒んだシンジだがアスカに言い寄られてついつい動向を認めてしまった。

「だいたい、シンジが射撃練習して、何で私がしないのか納得行かないのよね。」

アスカは射撃レンジでマンターゲットに照準を合わせているシンジの背中を見つめながら言った。 ただ、言葉とは裏腹に目尻は下がりきっていた。 男が最愛の女を命がけで守るという状況に酔っていた。

「しかし、退屈よね。 ただぼーっと見てるのって・・・。 シンジに言って私もちょっと撃たしてもらおうかな・・・。」

アスカはそう言ってイヤープロテクターをしてレンジ内に入っていった。
シンジはそんなアスカの行動も知らずターゲットに弾を撃ち込んでいた。
そして、残弾を撃ち尽くしてスライドストップした時アスカが側にいることに気が付いた。

「どうしたの? そんなところにいると危ないよ!」

シンジはアスカにそう言って待機室に戻るよう言った。
アスカはそんなシンジの言う事には耳を貸さずまるで子供が親におもちゃをおねだりする時の様に甘えた口調で言った。

「ねぇシンジ。 私にもちょっと撃たしてよ。」

そんなアスカの言葉を聞いてシンジは声を荒げて言った。

「ダメだ。 アスカが撃つ必要はないから。 言ったろ。 僕がアスカを守るって。」

しかし、アスカはシンジの意見に反論を唱えた。

「確かにシンジが無事な時はいいけど、もし、シンジが怪我をして撃てない時はどうするの?そんな事があったらイヤだけど、もし、そんな事があったら私がシンジを守りたいの。 だから、御願い私にも練習させて! 御願い!」

アスカの嘆願はシンジの心を動かした。

「判ったよ。 ただし、8発だけだからね。」
「サンキュー。 シンジ。」

そう言って、シンジは空になったマガジンに特殊弾を8発装填しアスカに渡した。
アスカは銃を受け取り、セフティが掛かってることを確認しイヤープロテクターを着けなおした。

「いい、シンジよーく見てなさいよ。 射撃ってのはこうするのよ!」

アスカはシンジにそう告げて首をぐるっとひと回して肩の力を抜いてから、照準をターゲットに合わした。
パーンパン・・・・・。
アスカは8連射した。 気分が晴れてご機嫌のアスカの横には少々不機嫌なシンジがいた。
そんな、シンジの表情を見てアスカは少しふざけ過ぎたかなと後悔をしていた。
自分の守りたい女性が銃を持つのは男にとってこれほどの屈辱はないだろう。
そんな事を思ってる内にアスカの打ち抜いたマンターゲットが近づいてきた。
ターゲットが目の前に来たときシンジは目が点になってしまった。
何とアスカが打ち抜いたマンターゲットの顔の部分に目と鼻と口が出来ていた。
アスカが8発の弾丸で撃ち抜いていたのだ。

「どう? シンジ。 射撃ってのは狙った所に思い通りに弾を撃ち込んでこそ射撃なのよ。 シンジももうちょっと練習してこれぐらいの事が出来るようになってね。 期待してるわ。」
アスカはそう言ってシンジに銃を返した。
シンジはターゲットを見つめていた。
『二度とアスカを練習に付き合わすもんか・・・』


アスカはシンジに悪いことをしたかなっと思いつつ一人帰宅の途に着いていた。
あの後シンジがもうちょっと練習して帰ると言い出したのでアスカは一人帰ることなった。
シンジのプライドを傷つけたお詫びとしてシンジの為に夕食を作ろうと心に決めていた。
実際、シンジと同居してからアスカは簡単な料理なら出来るようになっていた。
だからこそ毎日のお昼の弁当を作る様になっていた。 シンジは嫌がるけどアスカは愛妻弁当ってからかわれる事に少しは喜びを感じていた。
鼻歌まじりでアスカはスーパーに入って行った。

「今日は何にしようかな? 久しぶりに焼き魚でも良いかな?」

シンジとの幸せ一杯の夕食時を想像しながらアスカは夕飯の材料を買っていた。
『美味しいよアスカ・・・』
シンジの言葉を想像してアスカはスーパーの売場のど真ん中で踊っていた。
そして、アスカが上機嫌で買い物を終えてスーパーから出てきたときアスカの目の前を猛スピードで一台の黒いワゴンが通りすぎた。

「あんたバカ!! 危ないじゃないの!」

アスカは走り去ろうとする車に怒鳴りつけていた。 そんな、アスカの声が聞こえたのっかワゴンが急停車した。

「ゲッ。 聞こえたのかな?」

アスカは絡まれた時の対処法を考えていた。

『ここは人通りの多いスーパーの前・・・大声で可愛い子ブリっ子すればきっと助けがくる・・・。』

そんな事を考えていたアスカの目の前では一人の黒ずくめの男が車を降りてきた。 しかし、降りただけで中にいる人間と2、3言葉を交わしてまた車に乗った。
アスカが呆気にとられてるとその車は急発進してどこかに行ってしまった。

「い、一体何だったのよ。」

アスカは呟いていた。


「ただいま。 アスカ」

アスカが夕飯の準備が終わった頃シンジが帰ってきた。

「お帰り、シンジ。 夕飯できてるわよ。」

アスカはエプロン姿でシンジを玄関まで迎えに出た。
しかし、其処にはシンジと近遙がいた。

「おじゃまします。 惣流さん。」

近遙が敵対心顕に言った。

「い、いや・・・偶然そこで近遙さんに会って・・・、何でも夕飯作り過ぎたから差し入れって・・・。」

シンジは額に冷や汗を流しながら経緯をアスカに告げた。

「そう・・・。 わざわざ済みませんね。 でも、夕飯ありますから無駄になりましたね。」
アスカはこめかみをピクピクさせながら近遙に言った。
しかし、そんな事で引き下がるような近遙ではなく、シンジにおかずを手渡していた。

「そう、惣流さんはいらないの。 じゃ、碇君が食べて。 惣流さんの口にあわなくても碇君の口に合うはずだから。 それじゃ、私は帰るわね。 もし、良かったらだけど惣流さんも食べてね。 じゃ、さよなら。 碇君また今度デートでもしましょ。」

そう言って近遙は帰って行った。
そんな近遙の後ろ姿にアスカは切れていた。

「なっ、な、何なのよあの女わ!!」

碇家の玄関には香ばしい焼き魚の匂いとアスカの怒りが満ちていた。


シンジは今日の出来事をベッドの中で反芻していた。
進路の事、ゲーセンでの勝負、アスカの将来の夢、近遙の押し掛け・・・。 このまま何事もなく楽しい毎日が続く事を祈っていた。
ただ、アスカに銃を撃たせた事は後悔していた。

「やっぱり良くないよ。 女の子が銃を撃つなんて。 女の子・・・アスカの手を血で汚したくないよ。 やっぱり、アスカの手は綺麗なままがいいよ。 そうだよ、将来赤ちゃんを抱くなら綺麗な手の方がいいよ。 絶対。 だから、僕がもっともっと強くならないといけないんだ。 アスカを・・・アスカの夢を100%守れるくらいの男になれるように・・・。」

シンジがそう独り言を言っていたら突然ドアが開いてアスカが入って来た。

「シンジちょっといい?」

アスカは既にパジャマに着替えていた。
そんなアスカの姿にシンジはちょっとドキッとした。

「いいけど・・・。」

シンジは声が完全に裏がえっていた。

「シンジ・・・。 今日は我侭言ってゴメンね。 興味半分で拳銃なんか撃ってさ。 女の子らしくないよね。 そんな女の子ってシンジ嫌いだよね。」

アスカは半泣きでそうシンジに言った。

「どうしたのアスカ? 何かあったの?」

シンジはアスカが突然そんな事を言い出すので何かあったのかと心配になっていた。
しかし、アスカの瞳からは大粒の涙が溢れ出していた。
そんなアスカの姿を見てシンジは心が痛くなった。
自分もアスカに銃を撃たせた事を後悔していたがアスカも後悔していたんだ。
いや、それ以上に苦しんでいたんだと。

「アスカ・・・。 僕がアスカの事嫌いな訳無いじゃないか。 確かに今日の事で少し頭に来たけど。 でも、アスカは言ってたろ。 僕に万が一の事があったら僕と自分の命を守るためだって。 それを聞いてちょっと安心したんだ。 アスカが僕と一緒に生きていこうとしてくれてるって・・・。 僕の事を大事にしてくれてるって・・・。」

シンジはそう言ってアスカの頬を伝わる涙を拭った。
シンジのそんな言葉を聞いてアスカは心が救われた様な気がした。

「ありがとう・・・。 シンジ・・・好きよ。」

アスカはそう小さく言ってシンジの胸にもたれた。

「あの時と一緒だ。 シンジの鼓動が聞こえてくる。 気持ちのいい音・・・。」

アスカは目を閉じてシンジの鼓動を聞いていた。
そんなアスカの背中にシンジは腕を回した。 そして、少し力を入れた。
シンジとアスカはお互いの体温を心地よく感じていた。
そんなときアスカが言った。

「ねぇ、シンジ。 今日はシンジの横で寝ても良いでしょ? ダメ?」

アスカは甘えるような声で言った。

「ちょ、ちょっとアスカ。 僕達まだ中学生だよ・・・。 そんなの早いよ。」

シンジは赤面して言った。 中学生の男子としては正常な反応なのか何かを誤解していた。

「ち、違うわよ。 ただ、シンジの温もりの側で寝たかったのよ。 心安らぐから・・・。何想像したのよ! もうH!!」

アスカも赤面して言い返していた。 シンジの言いたいことが判ったのであろう。
しかし、次の瞬間アスカは真顔になり言った。

「そりゃ、シンジが良いなら私はいつでも良いわよ。 シンジの子供なら直ぐにでも生みたいし・・・。」

アスカはそう言ってシンジに体重をかけた。
そんなアスカを優しい瞳でシンジは見ていた。 かけがえのない存在のアスカ。 それがシンジの本心であった。 だからこそ守りたいのだ彼女の存在を。

「アスカ・・・。 まだ、僕らには早いよ。 これから幾らでも時間があるじゃないか。だから焦らずゆっくり・・・ね。」

シンジはそうアスカの耳元で囁いた。

「うん・・・」

アスカはシンジの答に一言頷いて再びシンジの鼓動に聞き入っていた。

そして、その夜からシンジの鼓動の側で寝るアスカの姿があった。