VOL.8 ~哀しき戦士達~

NEON GENESIS EVANGELION

ANOTHER STORY

 

SAVE THE LOVE !!

 

VOL.8 ~哀しき戦士達~

 

written by とみゅー

 

日本。第3新東京市。

NERV本部に隣接されてる飛行場の駐機場では、ドイツへ向かう部隊の所属機が出発前の整備、点検を行っていた。部隊は途中、ロシアのハバロフスクで護衛機の燃料補給を行い、目的地のマンハイムに向かう事になっている。

部隊の構成は輸送機1機、護衛機8機、そしてそれらを指揮する空中管制機1機の計10機である。

輸送機の格納ハッチが開かれ、機材が次々に搬入される。

機材はそれぞれ黒い箱で梱包されており、中身の確認は出来ない。

そして、護衛機のウエポンベイには、対空ミサイルや機関砲弾、レーザー爆弾が装備されている最中である。

整備を受け、装備を次々と装着していく機体をシンジはぼんやりと眺めた。

その思いは複雑であった。

やがてシンジは第2待機室へ足を向けた。

これから自分が為さねばならない事、それは大きく重い...

そして失敗は断じて許されない...

彼の心中に去来する言い知れぬ不安や恐怖...

でも、その奥底に流れるのは...

キョウコの願い...レイの祈り...カヲルの意志...そして、アスカへの想い。

『...僕はもう、迷わない...』

第2待機室のロッカールームでNERVの制服を脱ぎ、下着だけになっていたシンジは右手の具合を確かめた。

シンジの右腕は爆発の際の熱風と破片で、火傷と裂傷を負っていたが、泉でキョウコ達と接触した際、傷は完治していた。

傷の痕が何処なのか分からなくなっている自分の右腕。

爆発の際に感じた引き裂かれるような痛みは今はもうない。

シンジは何度も腕を曲げたり伸ばしたりしていた。

「よし、やれる。」

シンジはロッカーの中に納められている自分専用の装備を取り出し装着する。

シュッ!と身が引き締まる....

これから起こるであろう決戦に、もはや気負いはない。

第2待機室から、直通する薄暗く長い通路をシンジは一人歩んだ。

「来たわね。」

通路から中に入るドアの前に、腕組みをして壁に寄り掛かっていたミサトが声を掛けた。

「此処から先に足を踏み入れたら、もう後戻りは出来ない...全てはシンジ君...あなた次第よ。」

何時になく真剣な表情のミサトを見て、シンジは優しく微笑した。

「そのための『サードチルドレン』なんです。もっとも、二十歳過ぎた人間に『チルドレン』はないでしょうけど...開けてください...僕は行きます...」

ミサトは固くしていた表情を緩め、ドアを開けた。

ドアが開くにつれ、少しずつ漏れ出す光。その眩さに眼を細めるシンジ。そんなシンジをミサトは誘った。

「じゃあ、早速行きましょう。」

「はい。」

ミサトに続いて、シンジも光の中に飛び込んで行った。

その頃、ブリーフィングルームでは加持が参加各パイロットに作戦内容を説明していた。

「....今回の作戦目標はドイツの新本部施設の完全破壊とエヴァ14号機の撃破にある。だが、我々の保有する通常兵器では、エヴァには全く通用しないのが現実だ。従って今回の任務はエヴァ14号機の足止めと、NN爆雷攻撃実施のための陽動にある。本作戦の成否は君たちの活動如何によることが大である。」

加持は一旦言葉を区切り、一同を見回した。

「何か質問は?」

一人挙手した人間が現れた。

攻撃隊の指揮を執るムサシであった。

「“シンデン”か...何だ?」

「本作戦に於ける14号機の撃破は“エヴァ”が行うのでありますか?」

「そうだ。彼には葛城一佐が付き、諸君達とは別行動で目標に侵入する。“エヴァ”の侵入を敵の眼からそらし、敵の反撃を引き付けていて貰いたい。」

加持は厳しい顔つきで、パイロット達に話した。

「諸君には大変危険な役回りではあるが、諸君らをおいて他には出来ない任務なのだ。頼むぞ。」

「了解。」

短く答えるムサシ。

他に加持に質問するパイロットはいなかった。

「では以上だ。解散。」

ムサシは立ち上がると、ヘルメットをとり愛機へと向かった。

『...掃除はやっておくからな...うまくやれよ、シンジ...』

一時間後、攻撃隊は予定通りハバロフスク目指し離陸を開始した。

司令室から彼等が消えていった西方の空を見上げていた冬月は小さく呟いた。

「頼むぞ。」

そして、おもむろに受話器を取り指示を出した。

「私だ。第三支部へ連絡。『“MAGI輸送隊”は定刻通り出発した。』とな。」

『...こうして、また若者達を死地に送り込み続けるのか...

 ...だが、すべての責任は、この老骨がとる...地獄の業火で焼かれるとも構わない...

 ...だから、いま少し彼等に祝福を...』

冬月は誰ともなく、ひとり独白した。

攻撃隊が出撃してから六時間後、1機の大型輸送機が離陸していった。

上昇した輸送機は進路を北方にとると、そのまま飛び去っていった。

ドイツ。マンハイム。

ハバロフスクの基地で燃料補給を済ませマンハイム目指し出発したた攻撃隊は、最終目的地に接近しつつあった。

その報告はすでにドイツ支部側にも伝わっていた。

「フン!やって来たか!!小賢しい連中が!!」

「迎撃隊、発進せよ!」

迎撃機が1機また1機と東を目指し離陸していく。

「目標をレーダーに捕捉次第、強制着陸を命令せよ。従わぬ場合は、直ちに撃墜して構わぬ。これは訓練ではない!」

ゲルハルトから、迎撃隊の隊長へ命令が下された。

「了解。」

編隊長から、マスク越しのくぐもった声で応答がなされた。

「冬月め、自分の判断がいかに愚かであったかを嫌というほど思い知らせてやる。」

『....死ねなかったのね.......』

血の臭いがするLCL。

プラグスーツに身を包み、エントリープラグ内にいる自分。

...また、ここへ戻ってきてしまった...

...何故、ここに?...

...アタシはエヴァになんて...もう乗りたくない....

...でも...結局、エヴァに乗ることが自分の存在意義?...

エントリープラグという閉鎖された自分一人の空間の中で思いは巡る。

眼を閉じ瞑目する。

これから起こるであろう、凄惨な戦いを思い浮かべ心は沈む。

それが自分一人に課せられた罪であるかのように...

だが、本人は気付かなかった...

同じ時間に同じ所で同じ事を考えている人間がもう一人いることを...

「出撃だ。」

ゲルハルトの声にアスカの返事はなかった。

姿を眩ませたアスカは、旧市街地の廃墟で発見され、病院に収容された...

眼は虚ろでただ虚空を見つめるだけであった。

それは、6年前に彼女が陥った人格崩壊の現象そのものであり、変わり果てたアスカの姿に、ゲルハルトは計画の成功を確信した。

「だから、言っただろう。お前は私達の“人形”なんだってな......」

反応のないアスカをゲルハルトは唇を吊り上げて嘲笑した。

「ふん!バレバレって奴か...」

空中管制機からのデータによって、迎撃機がこちらに向かっていることを確かめたムサシは、吐き捨てるように呟いた。

「アベンジャー01より各機へ、“お出迎え”がやって来るぞ。射程に入り次第、FOX3をぶっ放して反転しろ!」

「了解。」

僚機からの了解の返答が入り、ムサシは加速した。

「全機突入!続け!」

火器管制装置が敵機が中距離空対空ミサイルの射程距離に入り、ロックオンしたことを示した。

「FOX3...ファイア!」

ムサシの機体から、2発のミサイルが発射され、続く7機からも次々とミサイルが発射されていった。

数の上では圧倒的であった迎撃機隊であったが、ステルス性能があり、管制機による目標振り分けと的確な指揮の下に動く攻撃隊の前に敢えなく敗れ去った。

「マザーグース...こちらアベンジャー01。」

ムサシは管制機を呼び出した。

「アベンジャー01。マザーグースだ。」

「ボギー11機撃墜。3機撃破。残りは逃走した。」

「了解。こちらでもモニターしている。進路そのままで進入せよ。」

「アベンジャー01了解。通信終わり。」

マイクのスイッチを切ったムサシは「ふぅ」と溜息をついた。

『...パーティーの準備は万端ってことだな...これからが正念場だな...』

キャノピー越しに遥か北方を見つめ、ムサシは小さく呟いた。

「役に立たない連中だ...まぁ、いい。足止め位にはなっただろう。」

ゲルハルトは余裕の笑みを浮かべて、オペレーターに確認した。

「14号機はどうか?」

「現在シンクロ率54%で安定中です。」

「敵が侵入してきたら、コントロールシステムを直接操作に切り替えろ!セカンドは居るだけで良い。」

ハンスの両目が冷酷な光を放った。

20分後。攻撃隊はマンハイムの新本部施設上空に到達した。

市長の退去命令により、市街地に居残る市民は誰もいなかったため、市街戦になったとしても、一般市民を巻き込んだ戦闘には発展しないことは確実であった。

「アベンジャー01より各機へ、気を付けろ!花火が来るぞ!!」

ムサシはマイクのスイッチを入れ、がなり立てた。

その直後、打ち上げられる対空ミサイルや機関砲弾。まさに空が赤く染め上がるようであった。

「アベンジャー05!!エンジン1アウト!!...クソッ!やられた!!...」

1機のF-22がエンジン部分を吹き飛ばされ、錐揉み状態で墜落していく。

「メーデー!メーデー!!...アベンジャー05がやられた!!」

「機を捨てて脱出しろっ!」

「...駄目だ!作動しないっ!!...助けてくれ!!死にたくない!!」

「“チャーリー”!!」

「うわぁ!!!!」

断末魔の叫びと共に機体は地表に激突、爆発炎上する。

「5時方向にボギー!誰か来てくれ!!」

「待ってろ!今援護に向かう!!」

管制機からの指示が出されるが、上空は敵味方入り乱れての大乱戦に陥っていた。

「ふははは!こいつはいい!!見渡す限り敵だらけだ!照準をつける手間が省けるぜ!!」

地表を見下ろし、輸送機の機長は笑い飛ばし、火器管制手へ命令した。

「有りったけのクラスターを叩き込め!!」

「了解!」

輸送機のハッチが開かれ、大きな物体を5発投下した。

大きな爆弾はケースが開き、中にある無数の小型爆弾を雨霰のように地表に降らした。

対空砲やミサイルが爆弾の爆発に呼応して誘爆する。

一瞬にして沈黙する対空防衛陣地。

地表は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

「イントルーダーよりアベンジャー01。火災は鎮火した。これより、発破をかける。」

「アベンジャー01、了解。始末は任せる。」

敵の抵抗が、思ったほどではないことに疑念を抱きつつも、ムサシは任務続行を指示した。

上昇していた輸送機...実際は爆撃機だった...は上昇を止め、再び爆撃目標に進入していた。

「NN爆雷投下用意。」

「投下準備完了。カウントダウン開始。5...4...3...」

オペレーターが秒読みを開始する。

「これで、終わりだ!!」

機長はそう叫んだ。

その直後、彼は大きな衝撃を受けた。

「なにぃ!!」

ムサシは眼を疑った。

巨大な白い物体が上空より接近し、爆撃体勢に入っていた輸送機の左主翼を半分に切り裂いていた瞬間を目撃した。

全てがスローモーションのように見える。

脱落する主翼。コークスクリューのように回転していく輸送機。そして、空中分解していく機体。

NN爆雷はその膨大なエネルギーを放出することなく、機体とともに地面に叩き付けられた。

その残骸を跡形なく踏み潰す白い巨人....

エヴァンゲリオン14号機がその活動を開始した。

「...エヴァ...飛べるのか...」

ムサシはただ呆然と事の成りゆきを見守るしかなかった。

『...アタシは...何をしてるの....?....』

シンジは死んだのよ....

この先、何を希望していけばいいの....

また....独りぼっちになったのね....

やだな....折角シンジと仲直り出来たのに....

もう...世界なんて....

どうでもいいわ....

シンジの居ない世界なんて.........

滅んじゃえ!

エントリープラグ内で、アスカは何が起きていたのか理解できなかった。

自分の意志とは無関係に活動を開始し始める14号機...

それは、輸送機の上空まで上昇してから、一気に滑空し、輸送機を切り裂き、その残骸を叩き潰した。

そして今、1機の戦闘機を半分に切り裂いていた。それは、迎撃に上がった機体であった。

爆発で上がる炎を浴びて、14号機は次の敵を求めた...敵味方関係なく...というより、全てが敵であった。

滅んで...アタシもシンジの所へ行くの!

《それで君は満足するのかい?》

《それであなたは満足するの?》

『だ....誰?』

《君と話すのは初めてだね...僕はカヲル...》

《生きてるわね....問題ないわ.....》

『ファースト....それに....あんた、確かシンジが言ってた...あの...渚カヲル?』

《そう....でも、僕達は実世界の存在じゃない...僕達の存在を必要としてくれたリリンにだけ、その心と話すことが出来る...その状態を維持してくれてるのは、シンジ君なんだ....》

床に項垂れているような姿勢のアスカに、やって来たのはカヲルとレイであった。

アスカを取り囲むようにカヲルとレイは声を掛ける。

《この機体は僕の...そして...レイちゃんの心のダミー...つまり、偽者なんだ...本当の心はシンジ君と伴にある...》

『判らないわ...どういうことなの?』

《いいえ。それはあなた自身が、一番判ってるはず...人の痛みが解かる今のあなただったら.....》

『シンジ...生きてるの?』

レイとカヲルは静かにアスカの意識から消えていった

「待って!!」

アスカは、盛んにコントロールバーを引くが、全く反応はなかった。

「...無駄だ...」

「!!」

ポップアップモニターに浮かぶゲルハルト。

その顔には勝者の蔑みがあった。

「機体のコントロールは、こちらでやっている。もうエヴァを止めることはできない。」

「........」

アスカは無言のままゲルハルトを眺め続ける。

「お前の心は、我等の計画のために有効に利用させて貰うよ。長いつき合いだったが、これで終わりだ。せいぜい『2番目の適格者』としての能力を持ってしまった自分自身を呪うがいい。」

ゲルハルトは口の端を吊り上げて笑い出した。

「............」

エントリープラグ内に響くゲルハルトの嘲笑...

黙って見つめるアスカにゲルハルトは愉快さを表面に出していた。

「つくづくお目出度いな、君達は...だから、拠り代に相応しいのだがな......お前から、最愛の人間をことごとく奪ってきたのは我等なのだからな。惣流・キョウコ・ツェッペリン然り、碇シンジ然りだ!!」

「!!!!」

アスカの意識が、不意に現実に引き戻された。

「お前の心の拠り所となるものは、すべて葬る...それが、お前の任務に支障を来たすからだ...

そう...お前達はいつも自分一人なのさ...誰にも心を許せない...受け入れようとするものは、自らの意思でそれ以上に傷つける...それこそ、我々の拠り代たる所以なのだ...だが、あの時サードチルドレンは小賢しくも、自ら盾になってお前を守った...その時点で、奴は『適格者』ではなくなったのだ...ならば、抹殺するのみ!!」

『...よくも...シンジを...!!...

 ...よくも...ママを...!!...

 ...よくも...アタシを...!!...

 ...許さない

 ...許さない

 ...絶対に許さない!!...』

アスカの憎悪、怒り、敵意がエントリープラグ内に溢れる。

14号機は不気味なうなり声をあげていた。

跳ね上がるシンクロ率。

「いいぞぉ!もっと憎め、怒れ、それこそが我等のお前への望み...フフフフ。」

ゲルハルトは絶頂に達したような恍惚とした顔をしていた。

ハンスは両手を上にあげ、自らの気を14号機に放とうとしていた。

「さぁ、始めるのだ!...フォースインパクトを...世界の浄化を!!...導かれし者に祝福を...」

そう呟くハンスの眼は虚ろであった。

何処からとなく響く轟音。それは振動となって、施設全体を覆い込む。

その刹那...異変は起こった。


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1999-5/10作成
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どうも、こんにちは! VOL.8をお届けしました。

当SSは、シリアスLASストーリーです。

アスカを引き戻したのは、レイ&カヲル...

そして二人の心はシンジとともに...

次回、シンジとアスカの再会です。

お楽しみに!!

それでは、またお会いしましょう。