VOL.4 ~揺れる想い~

NEON GENESIS EVANGELION

ANOTHER STORY

 

SAVE THE LOVE !!

 

VOL.4 ~揺れる想い~

 

written by とみゅー

 

エントリープラグ内で、アスカのシンクロテストは繰り返された。

サードインパクトの影響が少なかったとはいえ、現在の技術力ではまさにオーバーテクノロジーともいえるエヴァンゲリオンの製造は、遅々として進まなかったのだ。

すでに計画は2年半の遅延を発生し、13号機もようやくメインフレームが出来上がったにすぎなかった。

やはりサードインパクトの影響でMAGIシステムが作動しないことが原因ともいえた。

「今日のテストは終了です。お疲れさまでした惣流博士。」

オペレーターの抑揚のない声でアスカは眼を開き、エントリープラグをエジェクトさせた。

「...ご苦労様。」

機器の整備に来た職員に声をかけるアスカ。

声をかけられた職員は思わず赤面する。

身長は170cm以上、プラグスーツなためはっきりとわかる...

副業でモデルをやっているのかと思わせるような...均整のとれたプロポーション...

そして、サファイアブルーの瞳と、紅茶色の髪....

6年の歳月は少女を女性へと変身させていた。

アスカはそんな職員に目もくれずシャワールームへと向かった。

全てを洗い流したかった。

血の臭いがするLCL溶液の全てを....

かつて、アスカは自分の上にもう一枚「アスカ」を覆っていた。

弱く泣き虫で、誰かに支えられていないと生きられない存在...それが自分であるとアスカは思う。

だから、どんなときも活発で、くじけない、強い「アスカ」を常に演じ続ける必要があった。

自分一人の力で生きていこうと決意した時から...

『要らない子』にならないように...

そんな弱い自分の心を使徒に覗かれ蹂躙されたとき、アスカは壊れた。

自らの存在意義が急速に失われていった。

アスカは再び『要らない子』になっていった。

そんな自分を包み込んで欲しかった...

ただ一つの存在から...

だが、その対象となる存在は逆に自分を逃げ場にしていた。

...憎かった...アタシを裏切ったアイツが心底憎かった...

...そんなときアタシはママの声を聞いた...嬉しかった...

...独りじゃない、ママに支えられてる!もうアイツはいらないって...思った...

しかしアスカは量産型エヴァに敗れ、弐号機もアスカの身体もズタズタにされた。

...殺してやりたかった...あのエヴァを...ママとアタシを陵辱したアレを...

...そして助けてくれなかったアイツを...憎んだ....

アスカの回想はそこでシンジに移って行く...

...でも...ママがアイツの本当の気持ちを引き出してくれた....

...ママの言葉に...アイツは言葉を詰まらせながらようやく話してくれた....

...この世界が出来た原因と、本当の自分の姿を...

...アタシだけを...望んでたの...?

...アタシと同じだったんだ...寂しかったんだ...でも、アイツは自分を変えようとしてる...

...アタシのこと支えようとしてる...

...格好つけないで!...アタシにあれだけの事をしといて!!...

...抱きしめられてる...嬉しい...

...やめて!

...アタシはアンタを憎んでるのよ...

...もう訳が解らない!!

「...嫌いよ...」

...アタシはそう言ってアイツの身体を抱きしめていた...

...そう...始めから解ってたの...アタシの気持ちは...

...でも、アイツの気持ちを知るのが恐かった...

アスカはシャワーを全開にしてその下で佇む。

...「アスカ」じゃない本当のアタシがもっと強くならなきゃ駄目...

...あの時の使徒みたく入り込まれて好き放題されるなんて御免だわ...

「...シンジ...」

その声はシャワーの音でかき消されてた。

シャワーを浴び、更衣室に入ったアスカは真っ先にペンダントを取り出した。

ペンダントにはボタンがあり、アスカはそのボタンを押す。

カチッ....

ペンダントが二つに分かれ、中には一枚の小さな写真が入っている。

右側にシンジ、左側にアスカ。まだ平和だった頃、芦ノ湖で燃やしたマナの写真の換わりと称してアスカが強引にシンジとケンスケを捕まえて撮影したものだ。

それを見つめるアスカの顔は安らかなものになり、再び蓋を閉じる。

蓋を閉じるのと同じくして、アスカは実生活に意識を戻した。

それまでアスカの顔に浮かんでいた安らぎはなくなり、毅然としたものに変わっていた。

訓練所を出たアスカは、駐車場に停めてある自分の車に乗り込んだ。

フェラーリF40...色は彼女のトレードマークでもある真紅である。

アスカは低いエグゾーストノートを轟かせ、逃げるように訓練所を立ち去った。

「やっぱり、ついてくるわねぇ...暇よねぇ...嫌われるわよ、しつこい男って!!」

ルームミラーで尾行する車を確認すると、そのままのペースで車を走らせた。

有機人工知能研究所。

ドイツへ連れ戻されたアスカは、NERVの監視下ではあったが、有機人工知能の理論と運用について研究を続け、修士課程・博士課程を優秀な成績で進んでいき、博士号を取得した。

そこでアスカはNERVから、専門外郭機関である有機人工知能研究所の所長に任じられ、20人のスタッフを率いていた。

研究所に到着すると、アスカは所長室に入って、ジャッケットを脱ぎ白衣を纏った。

端末を立ち上げメールのチェックを行う。

今日も150件のメールが届いている。

リストをざっと眺めると軽く溜息をついたアスカは、DMやイタズラ、そしてその大半を占めるラブレターを一括消去した。

「今日も楽しい話題はないようね....」

「じゃあ、私が楽しい話をしてあげよう。」

アスカが振り返った先には、光輝く金髪、185cm以上はあるかと思える長身、アイスブルーの瞳を持つ一人の男が立っていた。

「ゲルハルト...前にも言ったはずよ、部屋に入るときはノックして欲しいわね。」

ゲルハルト・メックリンガー...修士課程以来、アスカと共同研究を続けているパートナーである。

アスカの窘めを聞き流したゲルハルトはアスカの方へ近づき片膝をつく。

「お姫さま、お食事のお迎えに参りました。」

そんな、ゲルハルトの仕草にフッと笑うアスカ。

「ご苦労様。行きましょう。」

アスカの手を取ってエスコートするゲルハルト。

研究所のスタッフは二人が恋人同士であることを信じて疑っていなかった。

ゲルハルトとの昼食を終えたアスカはツカツカと第1研究室に向かう。

「所長、お帰りなさい。」

ヒルダという女性スタッフがアスカを出迎える。

「如何でした?彼との二人だけの時間は?」

ヒルダは興味津々でアスカに尋ねる。

所長のアスカがまだ20歳であるから、スタッフの年齢層も若い。

特にアスカとゲルハルトの組み合わせが正に美男美女であるから、研究所の話題もこの二人の事になってしまう。

かつてのアスカでしかも相手がシンジだったら、アスカは顔を真っ赤にしムキになって否定した事だろう。

「そうね、良い時間を過ごさせてもらったわ。」

アスカは事も無げに言ってのける。

アスカの意味深長な回答に想像力を発揮させるヒルダを見て、アスカは話題を仕事に切り替える。

「で、ヒルダどう?解析は進んでる?」

「現在の所カスパーの論理プログラムの解析を行ってますが、1024行目以降のロジックプログラムの内容がちょっと...」

「そう...」

「このOSを作った赤木博士は、やはり偉大な科学者です。」

両手を上げて大袈裟な仕草のヒルダを見てアスカが微笑む。

「そうね...とにかく時間はまだあるから、よろしく頼むわ。」

ヒルダの肩をポンと叩き、アスカは歩き出した。

『...そう、時間はまだあるわ....』

アスカの視線はまっすぐに、そして彼方へ向けられていた。

アスカの日常は多忙を極めた。

有機人工知能研究所所長として、欧州各国視察団への応対や、研究所の運営のための資金捻出交渉。

人工知能についての公演。

そして、管理者の宿命というべき各種書類の確認と決裁。

そしてエヴァパイロットとしての定期的なテスト。

帰宅するのはいつも深夜である。それも運が良ければのことで、帰宅せず研究所に泊まり込んで徹夜になることが殆どである。

少し時間が空くと、ゲルハルトが誘いを掛けてくる。

アスカの心にゲルハルトが少しずつであるが、確実に入り込んでくるのが分かる。

その気持ちが不快ではないこともアスカは気付いていた。

『...若さと体力と精神力でこなしてるだけね...それも、考えないようにするため...』

流石にアスカもこの連日のハードワークが堪えてきたのだろう。

ようやく帰宅して、シャワーを浴びた後バスローブに身を包んだアスカはベットの上にヘタリ込んだ。

「ねぇ、ハーブティー入れてよ!シ.......」

思わず言いかけて黙り込んだ。

いつもはそんなことは口にしなっかったアスカだったが、疲労が溜まっていたのだろう...

アスカはコツンと自分の頭を軽く叩いて、一杯分のハーブティーを入れた。

ハーブの香りがアスカの心をリラックスさせていく。

香りを楽しんだアスカは少し啜る。

暖かさが身体の中に流れるのがわかる。

研究室と訓練所そして宿舎...常に監視の眼があるアスカには、数年前に自分の置かれた立場が如何に恵まれ幸せだったかを実感する。

生活力はないものの、常に保護者としてアスカ達を引っ張ってきた葛城ミサト。

いつも身の回りの世話をし、アスカの事を気遣っていた碇シンジ。

アスカはこの二人の存在に戸惑いながらも甘え、頼ってきた。これからもそうなるはずだった。

.....帰りたい....あの頃へ....

.....帰りたい....あの家へ....

.....帰りたい....シンジの所へ.....

アスカはそのままベットにつっ伏して泣いた。

....シンジ!...アタシ...またエヴァに乗るの...ゴメンネ...

....そう...でも、心配しなくていいよ...アスカ....

....でも、アタシ...もう、エヴァはいらないの....

....君がエヴァに乗るんだったら、もうすぐ逢えるよ.....

....いつ逢えるの?....

....君がエヴァを降りたとき.....

....早く逢いたいよぉ.......

....きっと迎えに行くよ....

どの位時間が経ったのだろうか...

アスカを包み込むような不思議な感覚に捕らわれ、ふと眼を覚ました。

枕元の時計を見る。

時間は午前二時を差している。

『....やだ...泣いたまま寝ちゃったの....』

むっくりと起きあがり、暫くの間呆然としている。鏡に映る自分の顔....

『....酷い顔、やだなぁ...これじゃシンジに会えないわよ...』

アスカの両頬には涙の乾いた筋が二本残っていた。

洗面所で顔を洗い、髪をブラッシングする。紅茶色の髪が照明の下でキラキラと輝く。

アスカはシンジに向かって呟いた。

少しずつ他の存在へ傾こうとしている自分を伝えるかのように。

「惣流・アスカはナマモノなんだからね!!賞味期限のある内に迎えに来ないと承知しないわよ!!」

アスカは自分の髪の毛を見つめた。

....シンジが好きだって言ってくれたアタシの髪...

....シンジがいつも撫でてくれる....アタシの宝物....

....いつでも、シンジのことを感じていたい.....例え離れてても...

....いつかきっと、二人で帰ろうね....あの家へ...

アスカは心の中でシンジに語りかけると、鏡の前でにっこり微笑んだ。

いつシンジに逢っても、ちゃんと笑顔が出せるように......


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1999-3/22作成
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どうも、こんにちは! VOL.4をお届けしました。

当SSは、シリアスLASストーリーです。

オリキャラが登場しました...

シンジに強力なライバル出現!と、言ったところでしょうか?

何者なのかは、そのうち判明すると思います。

道程は険しいです...陽は沈み、今は丑三つ時ってところですね。

それでは、またお会いしましょう。