第40話 エピローグ

雲一つない空には、常夏の太陽がその姿をさらしていた。容赦なく降り注ぐ日の光に、アスファルトは焼け遠くに逃げ水が浮かび、うだるような暑さに、人々は涼を求めて木陰へと逃げ込んでいた。新世紀になってからはありきたりの日常の風景。その風景にとけ込むように、3人の少年が肩を並べて歩いていた。白いシャツに黒い学生ズボン。典型的な日本の高校生と言う出で立ちをした3人は、容赦ない日の光を浴びながらのんびりとアスファルトの上を歩いていった。
そこだけ切り出せば、どこにでもある風景。ここのところよく見られる風景にもかかわらず、彼らは周りの視線を集めていた。もちろんそのことには十分な理由がある。3人組のうちの一人が、少し前まで世界の英雄と呼ばれた少年だったからだ。そんな少年がいるのだから、彼らが周りの注目を集めるのも仕方がないとも言えたのだが、意外にも同年代の女性の視線を集めていたのはその少年ではなかったのである。何しろ、その少年は、世界的にも売約済みであることが広まっていたのである。もっとも、それだけならば女性の耳目を集めることの妨げにはならなかったであろう。彼と一緒に歩いている少年、その少年が英雄と呼ばれた少年以上に女性の注目を集めていたのである。
その少年は……もはや彼らを少年というのは適当ではないのかもしれない。すでに少年の甘さが影を潜め、青年の精悍さが強く表れていた……色素の薄い髪と肌、まずその異質さが人の目をとらえ。そして、その次には彼の美しさが見た者の心を奪うのである。そう彼こそが、人類を再び恐怖に陥れた渚カヲルその人である。もっとも、共存が受け入れられた今となっては、彼は人=リリンに対して害をなそうなどとは考えていなかったし、その正体自体一般には明らかにされていなかった。だから周りの人々も、少し特徴的な容姿をした青年だと思っているだけである。そして彼もまた、人の中にうまく溶け込み、日々の生活を楽しんいた。身を守る武道など必要がないにも関わらず、足繁く道場に通うのもその楽しみの一つだった。本当の目的が、どこにあるのかは誰も知らないのだが……
そして今日もまた、日課となった道場通いのため彼らは強い日差しの中歩いていたのである。

「しかし、リリンと言うのはおもしろいものだね。
人と争い、人を殺すための方法を道として精神修養の方法としてしまう。
そして道となった殺人手法からは、もはや血なまぐさいものが感じられなくなってしまう」

その道すがら、カヲルは本当に興味深いと繰り返した。日々の生活、特に普通の人々に紛れた生活は、彼にとって驚きの連続だった。その中でも驚いたのが、殺し合いの手段に精神を求めた武道だと言う。
そんなカヲルの感想に、相変わらずだとムサシは苦笑を返した。

「刀ってのは、銃ほど簡単に人を殺せないからな。
使いこなすためには、それなりの鍛錬が必要になるんだ。
そして、人なんて殺していいものじゃない。
そのモラルを確実にするために、精神修養を求めるんだ」
「しかし、リリンの歴史は殺し合いの歴史だと思うのだけどね。
それは、日本における戦国も例外ではないはずだよ」
「それは否定しないがな。
しかし、その殺し合いの歴史の中にもモラルはあったんだ。
戦争において、敵の兵を殺す……
そのことにしても、降伏した相手は殺さない。
そして、その戦争に関係のない者も手を掛けない。
もちろん物事にはそのモラルからはずれた奴もいる。
しかしそう言う奴には、後から厳しい社会的制裁が待っているんだ」
「種の保存に関わるからかな?」
「身も蓋もない言い方だな」

そう言って苦笑こそ浮かべたが、ムサシはカヲルの言葉を否定しなかった。

「まあ、人を殺す……何か話がおかしい気もするが、
それをするのは、昔は特権階級だったんだよ。
まあ、サムライってのは、身分階級の一番上にいたからな。
だから、そこに居る者には品格が求められたってことだよ」
「特権を守るためにかい?」
「人数的にはずっと少ないからな。
好き勝手をするには、意外と力が弱いんだよ」

ムサシの分かったかどうか分からない説明に、カヲルはフムフムと頷いた。そんなカヲルに、剣のことはどうでもいいのだがとムサシは顔を寄せた。話している内容をシンジに聞かせないためである。

「ところで、風の噂によるとウチの妹に言い寄っているそうだな?」
「ムサシ君、君は特殊能力を持っているのかい?
どうやったら風の言葉を聞き取れるのかな?」
「そう言う話を聞いたと言う意味だ。
で、ことの真実はどうなんだ?」
「そう聞かれても困るのだけどね。
まず、言い寄るということの具体的な意味が分からないんだよ」
「それは……」

一瞬言葉に詰まったムサシは、何か適当な例がないかとシンジの方を見た。二人の会話が見えていないシンジは、ただただ要領を得ないままだった。それでもちょうどいい例えを思いついたムサシは、カヲルに向かって綾波レイのことを思い出せと言った。

「レイのことかい?」

それもよく分からないと、カヲルは首をひねった。

「その綾波レイの、シンジに対する態度が言い寄るということだ」

その例えに、なるほどとカヲルは納得して見せた。そして、それならば言い寄っていないと断言した。

「僕には、レイのような拘りはないからね。
レイコさんと親しく見えるとすれば、彼女とマナさんが身内だからだよ。
レイコさんには君が、マナさんにはシンジ君がついているからね。
そのことが大きいのじゃないのかな?」
「つまり、妹ととは遊びだと言うんだな?」

そう言って凄んだムサシに、カヲルは何かとても理不尽なことを言われている気になってしまった。さすがのカヲルでも、ムサシの入っていることが矛盾しているのは理解できた。だがムサシは、そんなことは無視して、カヲルの耳元で妹を泣かせたらただではおかないぞと脅しを掛けた。

「……な、なにか穏やかじゃない気がするのだけどね」
「その通り、穏やかじゃないんだ。
なにしろレイコには一度悲しい目に遭わせているからな。
だから今度は、兄として積極的に支援することにしたんだ。
それが、例え力づくだとしてもだ!」

痛い目に遭わせてやると言うムサシに、カヲルの顔ははっきりと引きつった。

「どうして、ちょっと耳にしたぐらいのことでそんな話になるのかな?
僕にはムサシ君の考えることが分からないよ」
「カヲル……世の中にはいい言葉があるのを教えてやろう。
『無理が通れば道理が引っ込む』
『泣く子と地頭には勝てない』
『長いものには巻かれろ』ってことだ」
「意味不明だよ、ムサシ君!」

本当に訳が分からない。そう言ったカヲルに、ムサシは涼しい顔で当たり前だと返した。

「からかっているだけだからな。
意味なんて分かる方がおかしいんだ!」

しっかり楽しんでいるな。対照的な表情を見せる二人に、シンジはぼんやりとそんなことを考えていた。彼の心の中を文字にするのなら、『平和だねぇ~』と言うところだった。

***

ようやく活躍しどころができたと言うころだろう。それからのミサトは、周りが認めるほど生き生きしていた。まあ、大切な弟と妹の将来にも関わるのだから、彼女が張り切るのも当然と言えば当然のことだった。
ミサトが最初に行ったのは、ネルフ内の意見整合だった。もともと冬月やリツコなどは、よほどミサトより使徒のことを知っているのだ。その点二人への説得はさほど難しいことではなかった。ミサトは、彼らにはシンジ達を交えて話し合ったこと、それをありのまま伝えることにした。

「共存を、彼らが希望したのかね?」
「ええ、それが一番丸く収まる方法だからと」
「葛城二佐の話に補足しますと、我々と同じ大きさの使徒に対して、有効な対抗措置はありません。
エヴァとの正面からの対決を選んでくれれば対応のしようもありますが、
人の中に紛れ込まれたら、ATフィールドを張ってくれない限り見つけようがありません」
「つまり、事実上補足は不可能と言うことか?」
「姿形を変えられると言う事実を考えれば、そう言って差し支えないかと思います」

リツコの意見に、なるほどと冬月は頷いた。

「つまり、実際に戦えば我々は負けることを知らしめれば良いと言うことか?」

ふむと、冬月はあごに手を当てた。

「それなりの仕掛けを用意しなくてはならないと言うことだな。
おそらく、幾ら口で説明したところで納得はしてもらえないだろう……」
「そのことについて、私に考えがあります!」
「その考えとやらを聞かせてもらえるかね?」

はいと、ミサトは日向とマヤを呼び出した。そして、彼らがやってくる前に大げさな芝居が必要だと前置きをした。

「あまり大それたことをしたら、私の首が危ないのだがね……」
「どうせこの問題が片づいたら、ネルフは無くなりますよ」

ミサトの答えに、その通りだなと冬月は笑った。ミサトに呼ばれた二人が入ってきたのは丁度のその時のことだった。

「ところで、この二人を呼んだことに何か意味があるのかね?」

入ってきたきたのはいいが、要領を得ない顔をした二人を前に、冬月は何か意味があるのかとミサトに尋ねた。ミサトは、その問いかけに対して、日向とマヤの二人に意味があるわけではないと答えた。

「繰り返します。
日向君とマヤには特に意味がありません。
日向君でなくて、大和副司令代理でも構いませんでした」
「つまり、男女二人というところに意味があるのかね?」
「別に、男女と言うことにも深い意味はありません。
ただ、国連での説明には司令と赤木博士が出席されるかと思います。
そのためのシミュレーションだとご理解ください」

ミサトの説明を横に、呼ばれた意味自体分からないマヤは、不安そうにリツコにどういうことかと尋ねていた。

「ところで二人とも、これからのことに協力してくれる?」
「これからのことと言われましても、何のことかさっぱり分かりませんが?」
「日向君……あなたは、協力するかしないかをはっきりさせてくれればいいのよ」
「そんなむちゃくちゃな……」
「あたしのためになることなのよ?」

そう言って、ミサトはにやりと日向に笑って見せた。日向は、いつものようにただただ困った顔をしただけだった。そんな二人のやりとりを前に、自分も意味が分からないのだと冬月が口を挟んだ。

「種を明かせば、すぐにご理解頂けると思います。
実は、国連での報告にもこの方法が使えるのではないかと思っています」
「ますます、訳が分からないのだけどね。
それにこの二人は、まだ事情を知らないはずだが?」

まだ明かすのは早いのではないか。冬月の懸念はそこにあった。その冬月の言葉に、ミサトはしてやったりと口元を歪めた。

「いえ、二人こそ関係者なのです。
そうよね、レイ、渚君?」
「そう言うことになりますかね……」

全てを任せるとは言ったが、どこか遊ばれている気がする。ミサトに答えたカヲルの口元は、微妙に引きつっていた。
しかし、いきなり二人が現れたことで、冬月とリツコの二人は大いに慌てることになった。それもそうだろう。ネルフの中枢に、いきなり使徒が潜入してきたのだ。それをMAGIが見つけることが出来ないばかりか、見知った顔に変身されていたのを見破ることも出来なかったのである。特にリツコなどは、マヤが本物と区別付かなかったことに大きなショックを受けていた。そんな二人を前に、ミサトは自分の計画だがと追い打ちを掛けた。

「国連の理事会には、この二人に出席して貰うことにします。
もちろん、総司令と赤木博士の顔をしてです。
こちらの説明がすんなりとおればそれでよし。
通らない場合は、今のようにデモンストレーションをして貰いましょうか。
場合によっては、ネルフを制圧したと脅しをかけて貰うのも効果的かも知れません」
「国連を恫喝しようと言うのかね?」
「ペテンにかけると言う方が正しいでしょう。
リツコが言うとおり、人の中に紛れ込まれたらネルフの手に負えません。
そうなると、管轄は各国の軍隊、警察と言うことになります。
それがいかに難しいことかを、実際の二人を前にすれば理解して貰えると思います」

確かに、どうにもならない。そのことを納得した冬月なのだが、それでも方法自体に問題があると考えていた。しかし、ミサトの方法に対する代案が思いつかないこともあり、渋々ながらそれを認めることにした。

「分かった……葛城君の筋書きに乗ることとしよう」

ところでと、冬月はレイへと向き直った。

「久しぶりだな、レイ」
「はい、副司令……」

3年前と代わらぬ、そしてどこか碇ユイの面影を増したレイに、冬月はほうっとまなじりを下げた。

「レイは、この世界で生きていくことを選択したのか?」
「はい、碇君と生きていくことを選びました」
「ほう、シンジ君とかね。
それは、なかなか難しい希望だな」

思わず吹き零した冬月に、レイは全く表情を変えなかった。

「願いを叶えることは難しい、でも願わない限り叶えられない。
それを、私も理解しましたから……」
「そこまで言うのなら、私は何も言うことはない」
「葛城二佐!」

大きく頷いた冬月は、それならばとミサトの名を呼んだ。

「芝居のシナリオを至急作成したまえ!!」

了解した。ミサトは鮮やかな敬礼を決めて見せた。

上の二人さえ落としてしまえば、後のメンバー、特に発令所スタッフを説得するのは簡単なことだった。特に日向、青葉、伊吹と言ったところを初めのうちに懐柔しておいたのは効果的だった。そしてミサトは、ここでも冬月達にしたのと同じいたずらをした。ただ今度は、二人にはシンジとアスカに化けさせた。
ここまで来ると悪のりとしか言いようがないのだが、当たり前のことにこの仕掛けは絶大な効果を示した。発令所に現れた二人は、誰がどう見ても慣れ親しんだシンジとアスカだったのだ。それが気が付かないうちに、使徒の二人に代わっているのである。何人かが、椅子から滑り落ちたのも仕方のないことだった。

「私たちは、MAGIに何の指示も出していないわ。
それにもかかわらず、MAGIは何の警報も出していない。
この意味をよく考えてちょうだい」

今更MAGIを持ち出さなくても、全員が全員目の前の二人の正体を見破ることが出来なかったのである。姿形だけではなく、仕草や会話までそっくりそのままなのである。ミサトですら区別が付かなかったのだから、見破れと言うのが酷な要求なのだ。

「見ての通り、彼らはネルフを占拠するだけの実力があるわ。
でも彼らは、それを行使するのではなく、共存という道を選択した。
そのことをみんなにも考えて貰いたいの。
私たちは、本当に敵対しなくてはならないのかと」

実力と言うことで、全員は第17使徒との戦いのことを思い出した。彼の張ったATフィールドは、全ての電磁波・光子まで遮断して見せたのである。弐号機を使ったとは言え、初号機とも張り合って見せた。生身で相手にするのは無謀を通り越した要求なのを理解した。

「彼らは、本当に共存を選択したのですか?」

一人が手を挙げて、そのことを確認した。

「この二人がそう言っているのだから、それ以上ではないわ。
繰り返すけど、彼らにはここを占拠するだけの実力があるわ。
それを考えれば、私たちを騙すことに意味があるとは思えないもの」
「しかし、エヴァの力は驚異なはずです」
「そうね、実力的に行けばエヴァを使えば対抗できるかも知れないわね。
でも、それが不可能なことは理解しているわよね?」

ミサトに聞き返されて、質問した男は思わず答えにつまってしまった。言われるまでもなく、人のサイズと言うのが一番のネックなのだ。多大な犠牲を払うことを厭わなければ、殲滅は可能かも知れない。だが人の間に紛れ込まれたら、その多大な犠牲の規模がふくれあがるのである。相手が共存を持ち出している中で、全人類の犠牲と秤に掛けるのは幾らなんでも割りの悪すぎる賭なのである。もっとも、そのことを持ち出さなくても、今自分が置かれている状況は、エヴァでは打開できないのだ。
それを再確認した男は、確かにその通りだと引き下がった。

「しかし、ここにいる我々ならいざ知らず。
国連の上層部に通じますかね?」

これは、別の男からの疑問である。その的を射た疑問に、ミサトもそれが問題なのだと打ち明けた。

「使徒の恐怖、実際に目の当たりにしないと分からないでしょうね。
この二人がエヴァほどの大きさがあれば別なのでしょうけど、
このサイズは、不当に低く見られる原因にもなり得るわ」
「破壊の力が、サイズに比例すると考えられると思います」
「しかも、二人が破壊光線や目からビームを出す訳じゃないのよね。
でも、そのことを差し置いても二人の力は驚異だわ」
「つまり、そのことを知らしめればよいと?」

その指摘に、我が意を得たりとミサトは頷いた。

「そこで、二人には大芝居を打って貰います。
思いっきりその驚異を見せつけることで、頭の固い人たちにも納得させてあげようと思います」
「あまり、大事にしない方が良いと思うのですが……」

そうは言ってみたが、やけに嬉しそうなミサトの顔に、全員が無駄な忠告だと理解してしまった。そう言う意味では、全員が正しく葛城ミサトと言う女性を理解していると言うことだ。

もちろんミサトは、全てを自分の胸に納めて公表しないと言う選択肢も持っていた。何しろ、砦の破壊後使徒の活動が無くなったのである。それを持って、全てが収束したという空気が、国連の中にも漂っていた。そのことを考えれば、使徒の二人に人の間に紛れ込んで貰えば、ことを荒立てなくても済むという考えもあったのである。
しかしその考えは、冬月に短慮だと窘められた。ミサトの考えを一つの解決方法であると冬月は認めたのだが、一方で最良の解決方法ではないと指摘したのである。それは、パイロットの身分を含めたネルフの扱いが代わるというものだった。

「上の連中に対する重しが必要だと言うのですか?」

そして冬月の考えを聞かされたミサトは、確認するように聞き返した。ミサトにその通りと頷いた冬月は、これまでの折衝の経過をかいつまんで説明した。

「既に、世界はネルフ解体後の利権に関心が移っていたのだよ。
君も知っての通り、ネルフには膨大な技術の蓄積がある。
だが各地に分散された技術は、今回の事件で失われてしまった」
「だから、本部の扱いが問題になるのですね?」

その通りと頷き、冬月は言葉を続けた。

「稼働可能なエヴァにしても、使徒の驚異があるからこそ日本に置かれているのだよ。
そして、それを動かしうるパイロットにしても、分散してはまずいという判断が行われた。
だが、使徒の脅威が無いとなれば話は変わってくる。
使徒、エヴァ、MAGI……その技術を、日本にだけ置いておくというのは彼らの好みではないのだよ」
「各国にネルフ支部が再建されると言うことですね」
「そうなれば、あの子達がどういう扱いをされるのか分かるだろう?」

ええと、ミサトは頷いた。要は、3年前の繰り返しと言うことである。

「そのことを考えれば、使徒という重しは存在してくれた方が好ましい」
「ですが、そのままでは二人はエヴァに縛られることになります!」
「そうしないための筋書きを考えて欲しいと思っているのだがね?」
「簡単に仰いますが……」

うむと、ミサトは唸ってしまった。使徒との共存、しかもパイロット二人をエヴァから解放する。それが出来ればベストなことは分かるのだが、とんでもなく壁が高いように思われてならないのだ。ミサトでなくても、考え込んでしまう問題だ。
だが冬月は、どうしたものかと考え込んだミサトに、君ならば大丈夫だと口にした。そんな冬月に、ミサトは唇をとがらせた。

「……大丈夫だと言われましても、少しも気分は楽になりませんよ」
「それぐらい、君のことを評価しているのだと思ってくれないかな?
大和君にも、君は逆境に置かれたときこそ力を発揮すると聞かされているからな。
今の状態こそ、君が力を発揮するときではないのかね?」

冬月の言葉に、ミサトは思わず苦笑を浮かべてしまった。

「私が力を発揮できなくても、あの子達が幸せになれれば良いんですよ。
無能、役立たずと誹られようとも、私たちはあの子達を優先してあげたいと思います」
「君がそう心に誓っているのなら、必ず解決策はあると思うよ。
使徒相手に絶望的な戦いをくぐり抜けてきた手腕、今こそ発揮すべきではないのかね?」
「私は、おだてられても木には登りませんよ」

でもと、ミサトは冬月を正面から見つめた。

「あの子たちのためなら、私は空だって飛んで見せます。
希代のペテン師にもなって見せますよ」

にこりと笑ったミサトに、冬月はうなずいて見せた。

***

ムサシがカヲルをからかうように、レイコもまたマナのいいおもちゃとなっていた。さすがにマナも、兄のネタでは親友をからかえなくなったのだが、うまいことに新たな燃料が投下されたのである。その機会をマナが逃すはずがなかった。その日の授業が終わったところで、家事を手伝わなければならないというレイコを、マナは強引に喫茶店へと連れ込んだ。もちろん、その軍資金は金満な兄から調達されていた。

『レイコに対して、責任があるんでしょう?』

にやりと笑った妹に、シンジが抗えなかったのは言うまでもない。レイコと遊ぶためのお金だと、シンジはマナにお小遣いを巻き上げられていた。ただマナが知らなかったのは、その程度の“かつあげ”では、シンジにとては痛くもかゆくもないことだった。
まあそう言う理由で懐に余裕のあったマナは、レイコを慰めるためという大義名分の元、自分の趣味を満足させるためにレイコを誘い続けていたのである。マナの懐事情は知っているのだが、それにしても金遣いが荒くなっているとレイコはやんわりとマナに釘を刺していた。だが肝心のマナは、馬耳東風とレイコの忠言を聞き流した。

「ちゃんと限度はわきまえているわよ。
だから、こんなところで手を打っているでしょう?」
「“こんなところ”で悪かったわね!」

マナの言葉を聞き逃さなかったウエイトレスは、どんと水の入ったコップをマナの前に置いた。もちろんレイコに対しては、普通より丁寧なぐらいにコップを置いたのは言うまでもない。そんな差別に、当然マナは不平を漏らした。

「ミナミさん、扱いが違いすぎません?」
「お店も客を見るってことよ。
で、注文はいつものでいいの?」
「ええ、それでお願いします」

二人のやりとりに苦笑を浮かべながら、レイコはいつもので構わないとミナミに答えた。そんなレイコに、ミナミは必要以上に丁寧に答えた後、オーダーを告げにカウンターへと戻っていった。
その後ろ姿に唇を尖らせたマナだったが、すぐに目尻を下げてレイコの方へと向き直った。ぞくり、レイコは何か冷たい物が背筋を走った気持ちになった。

「ねえレイコ、最近女の子たちに反感買っているのって知ってる?」
「……私が、ですか!?」

初耳だと、レイコは盛大に驚いて見せた。それもそうだろう、反感を買っているというのは、マナのネタなのである。もっとも、それに近い雰囲気があることもマナは知っていた。

「そうよ、レイコがカヲルさんを独占しているって。
お兄ちゃんからさっさと乗り換えたって、結構白い目で見られているのよ」
「渚さんとって……私が居るときには、必ずマナも一緒にいると思うんだけど……」

どうして自分だけ棚に上げられるのか。素朴な疑問だと、レイコはマナにその疑問をぶつけた。しかしマナは、そのレイコのつっこみに勝者の笑みを浮かべて見せた。

「不本意なことなんだけどね、世間の見方はそう言うことなのよ。
お兄ちゃんにはアスカさん。
あたしにはムサシが居るって見られているのよ。
そうすると、問題になるのがレイコの存在でしょう?
そこから導き出されるのが、カヲルさんとレイコの関係なのよ」
「あら、カヲルさんって、あの渚さんのことなの?」

得意げに説明するマナに、横からミナミが割り込んできた。二人の前には、すでにショートケーキとアイスティーが並べられていた。

「そうそう、あの渚さんのこと」
「へぇ、大和さんは渚さんとおつきあいして居るんだぁ」

そりゃあ敵を作るわね。そう笑って、ミナミはレイコの隣に座り込んだ。

「おつきあいって……
渚さんとは、シンジさんや兄の繋がりなんですけど……」
「でも、カヲルさんもレイコと一番話しているでしょう?」
「そりゃあ、マナちゃんとだったらレイコちゃんを選ぶわよねぇ」
「ミナミさん、それってどういう意味ですか!」
「どういう意味って、それが世間の常識だと思うわよ」

ねぇとカウンターの中にいる夫に、ミナミは同意を求めた。もちろん彼は、曖昧な苦笑を返しただけだった。

「ほら、カツヤさんはそうは言っていないでしょう!」
「あらっ、違うとも言っていないわよ」

何で俺に話を振る。カツヤはそう言いたげにして、黙々と作業を続けた。もっともほかに客が来ていないのだから、所詮ポーズにすぎないのだが。それでも女性たちは、カツヤの苦悩を無視して話に花を咲かせていた。

「とにかく、問題はレイコがカヲルさんとつきあっているように見えることよ」
「どうしてそれが問題なの?
事実はさておいて、一応私はフリーなのよ」
「レイコがフリーなことぐらい、あたしだって知っているわよ。
でも、ここをでるときはレイコったらお兄ちゃんにラブラブだったじゃない。
それなのに、帰ってきたらカヲルさんでしょう?
なんでレイコばかりって、周りから妬まれているってことよ」
「だったら、レイコちゃんと取り合いをすればいいのにねぇ」
「ミナミさん、それは無謀に類することよ。
女としての見た目や、家庭的なこと。
そこら辺に転がっている子じゃ、レイコに太刀打ちできないわよ!
それに、カヲルさんとの関係だって、一歩も二歩もアドバンテージがあるじゃない。
相思相愛の二人に、今更割ってはいるだけの度胸のある子なんていないわよ。
だから、妬まれて居るんじゃない」

力説するマナに、ミナミはおもちゃを見つけた猫のようににやりと笑った。そして、マナの反対側では、反論をあきらめたレイコが、黙々とケーキをつついていた。

「で、マナちゃんはああ言っているんだけど、レイコちゃんの気持ちはどうなの?」

まんざらではないのだろうと、ミナミはレイコに詰め寄った。だがレイコから返ってきたのは、ある意味彼女にとっては意外な答えだった。

「私の気持ちですか?
そうですね、どちらかと言えば迷惑でしょうか」
「迷惑?」

これはまた意外だと、ミナミは目をぱちぱちして見せた。そしてマナもまた、信じられないという顔をした。

「レイコ、カヲルさんじゃ不満だって言うの?」
「そう言うことを言っているのではないのですけどね。
少なくとも、今の私は渚さんに特別な気持ちを持っていませんから。
変な決めつけをされるのは迷惑と言ってもいいのではありませんか?」
「でもさ、相手はあのカヲルさんだよ。
性格はちょっとおかしなところもあるけどさ。
見た目なんて、兄貴を完全に置いてきぼりにしているわよ。
所有権を宣言しておいてもいいと思うんだけど?」

よく分からないというマナに、男女の間は見た目だけじゃないのだとレイコは微笑んだ。

「でも、マナだって渚さんとつきあいたいとは思っていないのでしょう?
でしたら、それが答えになると思うのですけど?」
「そりゃあさ、そう言われると返す言葉はないけどさ……
でも、あたしとレイコじゃ事情がだいぶ違うと思うんだけど?」
「だから、今の私はと言ったんですけど?
まだ、私は17歳なんですよ。
あわてて相手を見つける必要なんて、どこにもないと思いません?」

特に寂しい思いはしていない。レイコはそう言って笑って見せた。

***

用意周到に計画された演出は、ミサトの予想以上の効果をもたらした。使徒との戦いに、自分たちの信じる常識が通用しない。それを徹底的に知らしめることを目的とした作戦は、安全保障理事会の席を小さなパニックに陥れることに成功したのだ。突如現れた“ふたり”の使徒に対して、彼らは有効な防御手段を見いだせなかった。そこに共存という餌がぶら下げられたのである。彼らが飛びつくのは自然な流れだった。もっとも、彼らが承認を受け入れるまでには、多々の紆余曲折があったことは言うまでもない。

「僕たちには、リリンに対する思い入れはないからね」

必要なら滅ぼすことも吝かではない。カヲルの言葉はただのはったりにすぎないのだが、誰にもそれを確かめる勇気はなかった。
だがそのことを持って、直ちに万事解決というわけにはいかなかった。自分達では使徒の首に鈴を付けることはできなかったが、その役目をネルフ、そしてチルドレンに求めたのである。安全保障理事会は、使徒から提案された共存を受け入れるに当たり、一つだけ条件を付けてきたのである。それが、身元保証とでも言えばいいのか、行動の際に後見人を付けると言うことだった。その条件が示されたとき、カヲルはレイの口元がわずかにゆがんだのを見逃さなかった。

(やれやれ……)

度を過ぎると嫌われるのに。そう思ったカヲルだったが、交渉の途中なのでそれを口にしなかった。その代わりに、人選は自分たちに任せてほしいとだけ注文をつけた。

「リリンである以上、生身で僕たちには敵いませんからね。
とは言え、あなた達が条件を持ち出した理由も分かっています。
では、サード、セカンドの二人を後見人にするというのはどうですか?
僕はともかく、リリスはサードに思い入れがありますからね」

自分を棚に上げたカヲルには文句はあったが、それでも彼の持ち出した条件は満足のいく物だった。だからレイは、あえて異論を挟まなかった。

「もちろん、これが僕たちの譲歩であることをお忘れなく」

そう言いながら、どうシンジに説明した物か。カヲルの頭の中は、この後のことでしめられていた。

そしてその結果で現在に至っているわけである。カヲルは、剣道の練習が終わった後に、同じマンションの中にある自分の部屋にシンジを誘った。部屋に入ったシンジに、カヲルは少し待ってほしいとキッチンの中に入っていった。そしてもらい物だがと断って、お茶菓子と一緒にお茶を持ってきた。

「もらい物って……誰がカヲル君にお菓子をくれたの?」

この建物に住んでいる限り、一般に言われている近所づきあいは皆無なのである。それを考えれば、もらい物をするというのが不思議に感じられる。だがカヲルの方は、別にたいしたことじゃないとはにかんで見せた。

「どういう訳か、学校やら町やらでプレゼントを貰うのだよ。
だから、いつの間にか物がそろってくるんだ」

女性が多いが、たまに男性もいるのだとカヲルは明かした。当然ながら、カヲルの正体は一般人には知らされていない。そのカヲルの説明に、なるほどと頷きながらシンジは出されたお菓子に手を伸ばした。
そのお茶をすすりながら、ところでとカヲルは話を切り出した。

「シンジ君、アスカさんからは連絡があったのかな?」
「ああ、今朝メールが入っていたよ。
とりあえず区切りがついたから、明日には帰ってくるって」
「ならば、レイも一緒に帰ってくるのだね」
「また、にぎやかになると思うよ」

何も考えていないようなシンジの発言に、カヲルははっきりと分かる苦笑を浮かべた。

「そんなにのんびりとしていていいのかい?
君の顔を見たら、レイは積極的に迫ってくるよ」
「アスカを、乗り越えられると思うかい?」
「普通なら、無理だと思うのだけどね……」

何しろ普通じゃないからと、カヲルは国連との交渉後のことを思い出した。あの時は、誰が誰の後見人になるかと言うことで大いにもめたのだ。

「レイと一緒にいると、時々首筋が寒くなるのを感じるんだよ。
なにしろ、僕は相当レイの恨みを買っているからね」
「でも、僕はカヲル君の選択は正しかったと思っているよ。
幾らなんでも、カヲル君の後見人がアスカになったら嫌すぎるからね」
「僕のことはさておき、惣流さんのことを信用していないのかい?」

意地悪な質問に、シンジはそう言う訳ではないと首を振った。

「アスカのことを信じているのとこれは、全く別の話だよ。
僕がアスカと一緒にいられないのに、他の男がずっと一緒にいる。
それを嫌だと思わないのは、男としてどうかと思うよ」

シンジの答えに、カヲルはなるほどと吹き零した。

「それが、恋するリリンとしての正常な感情なんだね。
これからのために、大いに参考にさせて貰うよ」
「これからって……」

どういうことかと、シンジは疑問を口にした。

「僕たちも、リリンに伴侶を求めると言うことだよ。
かりそめとは言え、リリンの体に身を宿して居るんだよ。
この世界に同化しているのだから、それも自然なことだろう?
シンジ君も気づいていると思うけど、肉体的には成長も老化もしているんだよ」
「老化もって……つまり、カヲル君も死ぬときが来るってこと?」
「肉体的な死はやがて訪れるよ。
でも、シンジ君達と違うのは、それが最後ではないと言うことだよ。
肉体からの解放、それが僕たちの場合は自由を手に入れると言うことだからね」

カヲルの説明に頷きながら、シンジは伴侶のあてが有るのかと聞き返した。別にムサシやマナの影響ではないのだが、使徒が人を伴侶にすると考えたことに興味を覚えたのだ。だがそれに対するカヲルの答えは否であった。

「僕の場合、予定を言ったに過ぎないからね。
具体的に、誰というあてはないのだよ。
それに、僕の場合は肉体的に問題を抱えている」
「問題?
病弱ってことでもなさそうだし……」

どういうことかと、シンジは首をひねった。これまで付き合ってきて、カヲルから不健康な部分を感じ取ることが出来なかったのだ。

「間違いなく、リリンとの間では交配出来ないと言うことだよ。
わずか1%足らずの違いとは言え、その壁は大きいんだ」
「でも、世の中には不妊とか子供を作らない夫婦もいるよ」

シンジの指摘に、それは分かっているとカヲルは答えた。

「でも、もう一つの問題は、僕には性的欲求が起こらないんだ。
その点ては、レイの方が進化しているのかも知れないね」
「綾波の言っていることも、少し違うと思うけどね」
「それにしても、僕にはその程度の欲求すらないんだ。
さすがにそれは、伴侶を得たときには問題だと思わないかい?」
「まあ、セックスレスってのもあるにはあるようだけど……」
「そのあたりについては、追々解決していけばいいと思ってはいるよ。
それに、僕自身、リリンの年齢から行けば若すぎるようだからね。
どこかの誰かのように、焦る必要はないと思っているよ」
「どこかの誰かって……」

カヲルの言い回しに、シンジはほんのわずかだけ頬を引きつらせた。シンジの変化に気づいたカヲルは、少しだけわざとらしく驚いた顔をして見せた。

「おや、シンジ君は身に覚えがあるのかい?」
「わざとらしいよカヲル君!」
「こういうときは、遠回しにからかうものだと聞いたからね」

そう嘯いたカヲルに、変なことは覚えるなとシンジは釘を刺した。

そしてその翌日、学校を自主休校した二人は、新鹿児島の空港に現れていた。もちろん、その朝早々に帰ってくる二人を出迎えるためである。
二人の乗った機体が到着するのを、今か今かと待ちかまえているシンジに、カヲルは今日何度目かの苦笑を浮かべた。

「そんなにそわそわしなくても良いと思うのだけどね。
到着には、まだ少し時間があるのだからね」
「それは分かっているよ。
でも、なにか落ち着かない気持ちになっちゃうんだ」
「新鮮な発見だね。
シンジ君がそんな風になると言うのは。
やはり、溜まっているからかい?」

予想外のカヲルのつっこみに、シンジは思わずむせかえってしまった。

「な、何を言って居るんだよ!」
「自主休校をするとマナさんに告げたら。
親切なことに、いろいろと忠告してくれたのだよ。
二人とも溜まっているから、無粋な真似をしてはいけないとね」

ところでと、カヲルは真顔で尋ねてきた。

「溜まるとか、無粋な真似とはどういうことなのかい?」
「あのね、カヲル君……」

真剣な顔をして聞かないでよと、シンジははっきりと肩を落とした。そんなシンジに向かって、思い出したとカヲルは言った。

「思い出したって、何を?」
「いやね、ムサシ君からの言づてがあったのだよ。
それを伝えるのをすっかり忘れていたんだよ」
「ムサシからの言づて?」

どうせろくなことではないだろうなと、シンジは腹をくくった。

「今日の夜は、惣流さんとレイの帰国祝いを行うそうだよ。
だから、ほどほどにしておいてくれと伝えるように言われていたんだよ。
ところで一つ聞いても良いかな?
ほどほどにしておくとは、何のことを言っているのかな?」
「あのね……知ってて言っているでしょう?」

人が悪い。シンジはそう言って、カヲルをなじった。だがカヲルは、にやりと笑うとそれは違うと言い返した。

「僕はヒトではなくシトだからね。
同じ基準を当てはめないで欲しいね」
「カヲル君、それを詭弁と言うんだよ」
「ふむ、一つ賢くなったね。
詭弁とは、こういうときに使うものなのか、覚えておこう」
「カヲル君……」

何か言いかけたシンジだったが、言うだけ無駄と悟り目を掲示板へと向けた。丁度、アスカの乗った機体の到着が告げられていた。

「そろそろだね……」
「まだ二人の反応が弱いところを見ると、距離は離れているね」
「そんなことが分かるの?」
「何しろ、シトだからね」

そんなことはいいと、カヲルは行こうかと促した。それに頷いたシンジは、立ち上がるとカヲルに先立って到着ゲートへと歩き出した。

「ところでシンジ君、もし良かったら答えて貰いたいことがあるんだ」
「なに、カヲル君?
僕に答えられることならやぶさかじゃないけど」
「たぶんシンジ君にしか答えられないものだと思うよ」

カヲルはそう言うと、二人が出てくるであろうゲートへと目を向けた。

「君は、この答えに満足しているのかい?」

その問いかけに対するシンジの答えは、残念なことに与えられなかった。カヲルがその言葉を発したのと同時に、目の前の自動ドアが開いたのだ。しかしカヲルは、違った形で答えを貰ったのを理解した。扉が開いたときに現れた女性の表情、そしてそれを迎えるシンジの表情。それを見れば、答えなど一目瞭然なのだ。

「……これ以上の繰り返しは必要ないと言うことだね」

そのカヲルのつぶやきは、再会に喜ぶ二人の耳には届かなかった。

終わり