第十六話 夢

シンジは夢を見ていた。

シンジが父ゲンドウと母ユイとで一緒に遊園地に遊びに行った夢だ。

初めて乗った子供向けのジェットコースターで怖い思いをしたシンジは泣いた。

ユイがシンジをあやし、ゲンドウは困った顔をしていた。

そのあと、観覧車にみんなで乗った。

遠くの街までよく見え、みんな笑った。

ソフトクリームを食べた。

芝生の上でお弁当も食べた。

おいしかった。

涼しい風が穏やかに吹く晴れた日で、いつもより空が高く感じた。

なんだかいい夢だった。

 

 

「シンジ、シンジ…」

「なに、母さん」

「シンジ、寝ぼけているの?」

アスカに起こされたシンジはここがどこなのか最初わからなかった。

「アスカ?……夢かぁ。アスカ~、まだ眠いよ」

「私、いまから行くから。シンジの見送りには行かれないからね」

「うん、わかった」

「まだ寝てていいわよ。昨日言ったとおり、今日はレイが来てくれるから。
レイが空港まで送ってくれるわ。それとあの話、レイにはシンジから話してね」

「わかった。アスカ」

「なに?」

「元気でね。愛してる」

「私もよ。またすぐに会えるわ」

「うん」

 

アスカは出かけたようである。

でもその頃、シンジはまた眠りに戻っていた。

ベッドにはアスカの香りが残って、それに包まれるようにシンジは眠りに落ちていく。

 

 

シンジはまた夢を見た。

今度は川べりをアスカと歩いている夢だ。

アスカは楽しげに笑っている。

大きな犬も尻尾をゆっくり振って一緒に歩いていた。

空は抜けるように青い。

笑い声が聞こえる。

アスカの声ではない。

『もう1人いる。子供?』

そう思った時、シンジはまた夢から引き戻された。

 

 

「お兄ちゃん、起きないとフライト間に合わないよ」

「レイ、おはよう」

「おはようの時間じゃないわ。早く起きて」

いつのまにかレイが来ており、シンジを起こしていた。

 

てきぱきとシンジの世話をするレイ。

食事を取りおえたシンジは、レイに話しかける。

「レイ」

「なに?」

「昨夜、アスカと話したんだけど…、母さんのこの指輪、レイがもらってくれないかな」

食器を下げていたレイはその手を止めた。

「……………………指輪は碇くんのお母さんが残したもの。…………私はもらえないわ」

レイはかつてのシンジに対する呼びかたをしていた。

それにシンジは気付くが、さらに言葉を継ぐ。

「いや、たぶん母さんがいたら、レイに残したと思うんだ。
それにアスカにはもう指輪があるしね。
レイもたぶん誰かから指輪をもらうと思う。
それでも、この指輪はレイが持っていたほうがいいと思うんだ。
アスカが言ったんだけど、このようなものは、お母さんから娘に渡すものだって。
指輪はレイが受け継ぐべきだって」

シンジはそういって、指輪をレイに差し出した。

少しレイは考えていた。

そして、

「…………お母さん…………うん、ありがとう。………大切にする」

と微笑んで答え、シンジから受けとった。

「よかった。これで安心してアメリカに行けるよ。それとこれはレイへのお土産。
まだ渡していなかったね」

シンジが渡した箱を開けると腕時計だった。

「タンクフランセーズ。レイ、いつか欲しいと言っていただろう?」

「覚えていてくれたんだ…」

「レイの誕生日のプレゼントもまだだったし、レイの卒業と院生のお祝いもまだだったからね。
それも兼ねてって思って、前から探していたんだ。
でも、レイが欲しいって言っていたこのヴィンテージものはなかなか無くてね。
ずっと前に教授の知り合いにも頼んでいたら、この間、いいコンディションのものがあるって連絡があったんだ。
値段も手に届く程度だったし、いい買い物だったよ。
大丈夫。心配しないで。
あれっ、レイ?
どうしたの?」

指輪と時計を胸に抱えて、泣きだしたレイをなだめるのにシンジは苦労した。

 

 

ここは空港

アナウンスは、シンジの乗るアメリカ行きSSTOの搭乗手続の最終案内をしていた。

ミサト、レイ、トウジ、ケンスケ、ヒカリ、マヤが見送りに来ている。

「シンジ、頑張れよ」

「うん、トウジ、ケンスケ、ありがとう。洞木さんも元気でね」

「碇くん。アスカを泣かせないで」

「うん」

「みんな仕事の都合で来れないけどよろしくって」

「マヤさんありがとうございます。昨日もみんな忙しいのに集まってもらって、こちらこそ感謝しています。
冬月さんや皆さんによろしく伝えてください」

ミサトがにこやかに声をかけた。

「シンちゃん、おねえさんが恋しい時はすぐ帰ってくるのよ。それと大事にするのよ」

「何をですか」

「もう、にぶちんねぇ。アスカのことよ」

「そうですね。ミサトさんもアスカのことをよろしくお願いします」

「ん? あはは、そうねぇ」

ミサトをはじめ、みんなが笑いだしたが、シンジには何のことかわからなかった。

「お兄ちゃん、時間よ」

笑っていたレイが促す。

「じゃあ、行ってきます」

シンジは搭乗口に入って行った。

 

SSTOはシンジを乗せてアメリカに向かっていった。