第十四話 父と子

パーティが始まった。

肉や野菜を焼きはじめたアスカ達に青葉が声をかける。

「焼くのは男の仕事だから。アスカちゃん達は楽しんでいてよ」

 

「いいんですか?じゃあ、お言葉に甘えてお願いします。」 すかさずお礼を言うレイ。

「すみませんが、お肉は焼き終えたら保温にしているプレートに少しおいて落ち着かせてくださいね。
すぐ切ると美味しい肉汁が出てしまいますから。」  料理に細かいヒカリ。

「まったく三馬鹿トリオにも見習って欲しいわ。」  文句を言うアスカ。

 

「まぁまぁ、アスカちゃん、ここは二人もいればいいから。ほら、あそこが空いているから行った行った。」

と三者三様の反応に笑いながら日向が言った。

 

 

アスカとレイと乾杯して、ビールを飲もうとしたヒカリがアスカの左手に気がつく。

「アスカ、それって…」

顔が笑みで崩れるアスカ。その笑顔を見て、ヒカリが大きな声をあげる。

「きゃ~、ほんとぉ?いいなぁ。いつもらったの?」

「昨日の夜…」赤くなりながら答えるアスカ。

「どのようにして渡されたの?」興味津々なレイ。

ヒカリも目を輝かせて身を乗りだす。

「それはねぇ、…」と照れながらもうれしそうに話すアスカ。

そのアスカを『アスカもかわいくなったものねぇ。意外だわ。』と独り冷静に見ている赤木リツコであった。

 

 

話し終えたアスカが真顔に戻って二人に言う。

「でも、この話はまだみんなには黙ってて」

「どうして?」レイが不服そうに言う。

「シンジがお義父さんに言ってから発表したいの」

「そう。わかったわ。でも、本当におめでとう」

「良かったわね。おめでとう」

「ありがとう。レイ、ヒカリ」

アスカはまたにこりと笑った。

 

 

「アスカ、ちょっといいかな?」とシンジがアスカを呼ぶ。

「アスカの愛しい旦那様がお呼びよ。」 からかうヒカリ。

「もう!」といいながらまんざらでもないアスカである。

 

そうしたアスカをつれてシンジが向かったのは、冬月と飲んでいる父ゲンドウのところであった。

 

「父さん、話があるのだけど」とシンジは話をきりだした。

「まぁ、二人ともそこにすわりたまえ」といいながら冬月はゲンドウに「碇」と小声で言う。

『わかっているだろうな?』を言外に含めている。

その冬月の忠告に何も答えないゲンドウの目はサングラスにさえぎられ、感情を窺うことはできない。

ゲンドウ達の向かいに空いていた縁台にアスカと共に座ったシンジがゲンドウを見つめて言う。

「父さん、ぼくアスカと結婚しようと思っているんだ。昨日アスカにも話した。アスカも同じ思いなんだ」

「………」

何も答えないゲンドウ。冬月のゲンドウを見る目が険しくなっていく。

シンジは力強く話を続ける。

「ぼくは学生だから、今は婚約だけど、一人前になったらアスカと結婚するよ」

二人をじっと見ていたゲンドウは何も答えず、すっと立ち上がった。

「碇!」

冬月がゲンドウの名に怒りを含めて呼びかける。

「思いだしたことがある。冬月先生、ちょっと席を外します」といい、シンジの前に立つ。

「すぐ戻る。話はその後だ」といい、庭から歩み去っていく。

「ちょっと」

アスカがゲンドウの後ろ姿に何か言おうとした時、近くにいた加持リョウジが止めた。

「加持さん、なぜ止めるの?シンジが大切な話をしていたのよ!逃げたんだわ」

「話しはまだ終わっていない。待とうじゃないか」

「そうだよ。アスカ。 父さんはぼくに戻ってくると言ってくれたんだ。待とうよ」

加持リョウジに向かってうなずいたシンジはアスカに言った。

アスカはシンジの真剣な顔を見て、それ以上何も言えなかった。

 

 

みんなの飲む酒がビールからそれぞれ好みのものになった頃、冬月コウゾウが話していた。

いつになく、饒舌になっているようだ。

 

「セカンドインパクト前、宮崎の山奥の造り酒屋が、オーダーに応じて、
廃線になった鉄道トンネルに焼酎を長期貯蔵するということを聞いたので、
一斗瓶を頼んでおいたんだが、その後の混乱ですっかり忘れていてな。
先日九州に出張した時、このことを思いだしたので尋ねてみると、ちゃんと貯蔵しているということで
先日届けてもらったのだよ」

「じゃあ、4半世紀ぐらい前のものですか?」と日向が聞く。

「ああ。ある意味、幻の焼酎だろう。酒屋から買い戻したいと言われたよ。どうだ味は?」

「まろやかですねぇ」と青葉がつぶやく。

冬月うれしそうである。

そして、加持リョウタが大人たちの間を人見知りすることなく遊んでいるのを見てさらに目を細め、ミサトに話しかける。

「ミサトくんの子供も大きくなったな。名前はリョウタくんと言ったかな?」

「そうですわ。リョウジに似て腕白ですけど」ミサトが答える。

「いい子だ。男の子はそうでなければいかん。
私は子供がいないからな。いれば、また、ちがった楽しみがあっただろうが…」

「あら、今からでも間に合いますわよ」

「よしたまえ。いまさら結婚もあるまい」

「そうじゃありませんわ。シンちゃんとアスカちゃんの子供のゴットファーザーという手がありますわよ」

ミサトがシンジにウインクする。

「おお、そうだな。シンジ君、私が君たちの子供の名付け親になってやろうか?」

とシンジに聞く冬月。

『局長、大分酔っていらっしゃるようね。大丈夫かしら』 独り冷静に見ている赤木リツコ。

「そうですねぇ、その時はお願いします」 何も考えずに答えるシンジ。

「バカねぇ。何でそんな大事なことを簡単に答えるのよ」 小声でシンジを責めるアスカ。

シンジが困った顔でこれも小声で答える。

「だって、冬月さん、寂しそうじゃないか」

「それとこれとは話が別だわ」

アスカ、ご立腹である。当然であろう。

「レイ君の子供も私が名前を付けてやろう」 冬月はレイにも声をかける。

「わたしは自分で考えますので、お気持ちだけで結構です」レイはサラリとかわす。

「そうかね」

冬月残念そうである。調子に乗るな冬月コウゾウ!

「しかし、シンジ君とアスカ君の子供は男の子でも女の子でもかわいいことは間違いなしだな。
何せ美男美女のカップルだからな。名前を考えるのも一苦労だろう」

「え~っ、そうでしょうか」

アスカなにやらうれしいらしい。すぐ機嫌を直して答える。

「うむ。アスカ君は才色兼備だし、シンジ君はあのユイ君の息子だしな。
いや、ゲンドウの遺伝子も入ってくるか。
あいつの性格は問題だからな。
しかし、シンジ君は見事にユイくんの良いところを引き継いでいるし、まぁ、大丈夫だろう」

科学者らしからぬ、めちゃくちゃな発言をする冬月。

ミサトはえびちゅをぐいぐいやりながら、無責任にウンウンとうなずいている。

『局長…、アブナイわね。』独り冷静に見ていたのは、赤木リツコだけである。

その時、「冬月先生、人を劣性扱いとはひどいですな」と声がした。

みんなが声の方を向くと、碇ゲンドウが立っていた。