第十一話 家族

「シンジ、起きろ~っ!」

『がしっ』

何か鈍い音が聞こえたようだ。

「アスカ、ひどいよ。もう少し優しく起こしてよ」

「何言ってるの、もうすぐお昼よ。
それとも、王子様はお目覚めのキスをご所望だったのかしら」

シンジは真っ赤になったが、急にアスカの腕をつかむ。

そのまま自分のほうに引き倒した。

「キャ」

抱きしめられたアスカは、シンジの胸の中に包み込まれた。顔は真っ赤だ。

そのまま、お互いを感じていた二人であったが、しばらくしてアスカが身を起こす。

「シンジ、今日は私につきあうのよ。起きて。食事にするわよ。」

 

アスカはシンジに背をむけ、コーヒーメーカーからコーヒーを注ぎながら尋ねる。

「シンジはいつまでの予定?」

「明日の午後の便で行かなくちゃならないんだ。
UN関係の人が来るからすぐ戻るよう教授に突然頼まれたから…アスカ、ごめんね」

怒られるかと思ったシンジは少し身を固くして答える。

「そう、じゃあ、しょうがないわね」

シンジは、アスカが後ろを向いていたためその表情はわからなかったが、
意外とあっさりとアスカが承認したのでホッとした。

そして、シンジは、経験から、承認済の事項からすぐに離れた方が無難なことを知っていたので、
話題を別のことにする。

「いまからどこに行くの?」

「決まっているでしょ。ミサトのところよ。そのあと、みんなのところよ」

「みんなのところって?」

「シンジのおかえりなさい会を開くのよ」

「あ、うれしいなぁ。じゃあ、準備がいるね」

「それは必要ないわ。局長の家でするから。準備はレイやヒカリ達がしてくれることになっているし」

「冬月局長の家? ぼく、行くのは初めてだよ」

「みんなそうだわ。でもお義父様は別ね」

「お父様?」

アスカの言葉に戸惑うシンジ。しかし、すぐに気がつく。

「父さんも来るんだね」

「そうよ。紹介してくれるわよね。シンジ」

「紹介っていったって、アスカ知っているじゃないか」

あまりにも天然ボケなシンジの答えにアスカの顔が怒りで真っ赤になる。

「こぉの~バカシンジ」

[バシッ]

2秒後にシンジの頬に紅葉がはっきりと浮きでてきたのであった。

 

 

加持とミサトのマンションのリビングに2人はいた。

「加持さ~ん、シンジったらひどいのよ」

「シンジ君、婚約者を泣かすなんて穏やかじゃないな」

「父さんにはちゃんと話すつもりだよ。信じてよ。あの時はぼ~っとしていただけだよ」

「肝心なところで『あの時はぼ~っとしていただけだよ』ですって?
それでよくアタシのことを愛しているなんて言えたわね。
これは考え直す必要があるかもね」

「かんべんしてよ~。アスカの言うことを何でも聞くからさぁ」

「ほんとボケボケッとしているのだから。これは貸し1ね。この貸しは高いわよ」

ミサトはニヤニヤ笑いながらコーヒーを飲んでいた。

リョウジも息子のリョウタを抱えて、『高い高い』などしながら適当に聞き流している。

年をとったペンペンはお昼寝中だ。

アスカの愚痴が下火になったのを見計らい、ミサトが声をかける。

「アスカ、指輪を見せて」

さっきまでふくれていたアスカが、にんまりとして自慢げに左手をミサトに差し出す。

「シンちゃん、またいい指輪を買ったわね~。高かったでしょう。給料何カ月分?」

「ミサト、シンジはまだサラリーをもらっていないわ。
それにそういうことは聞くんじゃないわよ。まったく
あ~ぁ、やだやだ、セカンドインパクト世代はすぐ『給料3カ月分』とか言っちゃってさ。
お金に換算するなんて、精神的に貧困よね」

アスカがたしなめる。

「私は保護者よ。心配するのは当たり前だわよん」

「それは昔の話でしょう。今はアタシもシンジも成人しているのだから」

「アスカちゃんがそういう悲しいことを言うとは、私、育てかたを間違ったのかしら。
いえ、子供の親離れってこんな感じなのね」

何かひとりで盛り上がっているミサト。
リョウジはあいかわらず知らん顔を決め込んでおり、
子供にせがまれて『なつかしのヒーロー特集〈戦隊編〉 カクレンジャー vol.3』のDVDなど見始めた。

「「はぁ~」」

つっこむ気にもならないアスカとシンジである。

 

自分の世界から戻ったミサトはにっこりと笑ってさらにシンジに話しかけた。

「シンちゃん、よくアスカの指のサイズがわかったわね」

「え、えぇ、まぁ」

「あちらのガールフレンドのアドバイスかしら?アスカの指は日本人の平均サイズより細いしねぇ」
と、爆弾を投げこむ。

『ミサトさ~ん。また、何てこというんだよ。』頭を抱えるシンジ

「シンジ、どうなの?」

アスカの柳眉がつり上がる。

「レイに調べてもらったんだよ」

白状するシンジ。このままでは尻の毛まで抜かれそうである。

「あぁ、あの時ね。」心当たりのあるアスカ。ホッとした表情を浮かべる。

「ちっ」

ミサトはアスカがすぐ鎮火してしまったので面白くないらしい。ほんとにお気楽である。

 

子供とテレビモニターを見ていたリョウジがシンジを向いて声をかける。

「ミサト、そのくらいにしたらどうだ。あまりシンジ君を困らせるのは感心しないな。
シンジ君、アスカ。あらためて婚約おめでとう。
ミサトも口ではおちゃらけたことを言っているが実はうれしいんだ。
わかってくれていることとは思うが」

「加持さん、大丈夫よ。ミサトのことはシンジもアタシもよく知っているわ」

「加持さん、ミサトさん、ありがとうございます」とシンジが言う。

優しい表情をしたミサトが答える。

「二人ともおめでとう。よかったわ。やっと安心したわ。
そうだ、私たちからお祝いを贈りたいけど、シンちゃん、アスカ、なにか欲しいものはある?」

「今のところは特に…。アスカに任せます。」すぐアスカにふるシンジ。

「せっかくだからじっくり考えさせてもらうわ。
結婚のお祝いとは別ということでいいわね。お姉様、期待していますわ」

ニヤリとするアスカ。

慌ててミサトがアスカに言う。

「ち、ちょっと、アスカ、たいしたことはしてあげられないのよ。心ばかりのことだから。
あまり期待されると…」

ミサトの慌てぶりにアスカが笑い出し、そして、みんな笑った。