「よっ、シンジ君。元気そうだな」
加持はあいかわらずひょうひょうとした雰囲気でシンジに声をかける。
「加持さんもお元気そうで。誰かのお出迎えですか?」
「ごあいさつだなぁ。シンジ君の出迎えに決まっているじゃないか」
シンジの顔が引き締まる。
加持の目を見つめて、「アスカに何かあったのですね?」といった。
加持の車は滑るようにマンションに向かっていた。
「…というわけだ。マヤちゃんが心配してね。
『シンジ君にはとびっきりかわいいアスカちゃんを見て欲しいのにあれじゃ先輩は厳し過ぎます』なんてね。
まぁ、たいしたことじゃないんだが、ミサトに話してもなぁ、話をこじらせるばかりだし…。
暇な俺のところにお鉢が回ってきたというわけだ」
「加持さん、いつも迷惑をかけてすみません。
でも、ぼくはリツコさんが正しいと思います。
アスカもそのことをわかっているはずです」
前を向いてはっきり言うシンジ。
「ほう」
『シンジ君、すっかり男になったな』
‘男子、三日会わざれば刮目してみるべし’の言葉をふと思い出すリョウジ。
「加持さん、すみませんが少し違うところで降りたいのですが…」
「わかった。どうやら俺たちの取り越し苦労だったみたいだな。シンジ君、後は任せた」
「はい。」
シンジは公園の入り口で車を降りる。
そこは、市街が一望できるアスカのお気に入りの場所で、二人の思い出があるところでもある。
『アスカはここにいる。』
シンジは確信していた。
公園に入ると、奥の展望台のベンチに人影がみえる。
シンジはゆっくりと歩く。
そして、ベンチの後ろに立った。
虫の音が消え…静寂があたりをおおった。
アスカはベンチに座っていた。
『誰? この歩き方は…シンジだ』
アスカは後ろを振り向くことが無く、後ろに立った人物を知る。
『こんな顔してシンジに会いたくない』と思う。
アスカは自分自身を元気づける。
『私は惣流 アスカ ラングレー、泣き顔は似合わないわ』
そして大きくひとつ息をのむと、大きな声で振り向かず言う。
「遅い! バカシンジ、待ちくたびれたわよ」
「ごめん。いま着いたんだ。これでも急いで帰ってきたのだけど」
懐かしい声がアスカを包む。
振り向いたアスカは、シンジの顔を見た。
『だめ、泣いちゃだめ。』思うけど止まらない。
熱いものが目からふつふつとこぼれてくる。
「シンジ!!」
アスカはシンジの胸に飛び込み、シンジは優しく抱きしめた。
「アスカ、ただいま」
シンジの胸で少し泣いたアスカが、話しはじめる。
「あのね。今日のことだけど…」
「加持さんから聞いたよ。マヤさんが心配していたって…」
「わたしひとりで舞いあがっていたの。みんな真剣なのに…」
「アスカ」
アスカがシンジを見る。
「アスカはもうわかったんだよね。そして、同じ失敗はしないって」
うなずくアスカ。紺碧の瞳にアスカの大好きな笑顔が写っていた。
「じゃ、家に帰ろう」
アスカはまたうなずくと、シンジの首に手を回し、キスをした。
虫たちが音を奏ではじめた。
風がアスカの髪を揺らす。
月が二人を照らしている。