アスカからのカードをじっと見ていたシンジは、電話がなっている事に気づいた。
コードレスホンをとり、英語で話す。
「はい 碇です」
「お兄ちゃん家にいたんだ。レイです。お誕生日おめでとう」
レイからの国際電話であった。
久しぶりにレイの声を聞いて少しホッとするシンジ。すぐ日本語で話しだす。
「ありがとう。プレゼント届いたよ。あのカップすごく気に入ったよ」
「この間、藤崎神社の境内であったガレージセールに行ったの。
そ こでかわいいおばあさんが店を出しててね、そこで手に入れたもの。
色々話し込んでいるうちに仲良くなって、お値段もお友達価格にしてくれたわ。ところで」
とレイが少し調子を変えて話を続ける。
「そっちでは誰も誕生日を祝ってくれないの」
「誰もいないよ。僕も今日カレンダーを見て自分の誕生日に気づいたんだ」
「ペアのカップは、そっちのガールフレンドがお兄ちゃんの家に遊びに来たときに
お兄ちゃんが恥をかかないようにと思って贈ったのになぁ。
今日は友達が来るんでしょう。
来る人が女性でもアスカには黙っているから教えて。
そっちでもお兄ちゃんにちゃんと友達ができているか心配なの」
少し甘えた声でレイが聞く。
「今日はたぶん誰もこないよ。けど、男の友達はいるから心配しなくていいよ」
「じゃ、このあとガールフレンドと外で食事するとか」
「ガールフレンドなんていないよ! なに言いだすんだよ」
「よかったぁ。アスカ、おにいちゃん大丈夫だよ」
「当たり前じゃない」
どうやらレイとアスカが一緒にいるらしい。
ハンズフリーで話しているらしく、二人の声が一緒に聞こえてくる。
「お兄ちゃん怒らないで。アスカはお兄ちゃんのことが心配だったの。
だって2年近く会っていないのだし…。わかってあげて」
「だれもバカシンジのことなんか心配していないわよ」
「あれ~、アスカ、さっきと言うことが違うわね。」とレイがアスカをからかう。
シンジは苦笑いを浮かべる。
「そんなに信用がないのかなぁ」
レイが言い返す。
「だって、高校の時でもこっちの大学のときでも……モグモグ」
どうやらアスカが口を押さえたらしい。
「シンジの影に女あり。」
相田ケンスケが言った言葉である。
シンジ本人はまったく意識がないのだが、必ずシンジを慕う美女が出てくるのである。
そのたびにアスカが排除するという図式が見られたのだが、さすがに太平洋を挟んではリサーチすら難しい。
心配したアスカをレイが見かねて、さぐりを入れたようだ。
アスカが話しをはじめる。
「シンジ元気そうね。私のプレゼント気に入った?」
「えーと、まだ見ていないんだけど」
「どうしてレイのは見て、アタシのは見ていないのよっ!」
怒りだすアスカ。
「アスカのを見ようとした時に電話がかかってきたから…、ほら、大好きなものは後に残すたちだから」
シンジは、言い訳しながら小さな包みを開けていく。
「お兄ちゃんひど~い。かわいい妹は大好きじゃないの?」
シンジ墓穴掘るである。
「いや、そういうわけじゃなくて…」といいつつ、シンジはアスカからのプレゼントを箱から出し、手にとってみる。
「「どういうことなの!!」」アスカとレイの声。
プレゼントを見とれていたシンジは、ぼんやりと答えた。
「先に箱から出したものがレイからのものだったから…。
すごいや。アスカからのプレゼントはすごくきれいな万年筆だね。書きやすそうだ。大切に使うよ」
アスカからのプレゼントは、長い歴史を誇る有名メーカー製の太軸の万年筆である。
しかも、それは、ジャパネスクモデルとして限定生産され、螺鈿の技法で飾られているもので、
ペン先も日本人好みにチューンされている逸品であった。
現在はコレクターアイテムとなっており、手に入れることが難しいものである。
「気に入ってもらえればいいのよ。使いはじめはわかっているでしょうね」 とアスカは機嫌を直したようである。
「えっ、なに?」シンジなにもわかっていない。
「これだから今でもボケボケッとしていると言われるのよ」 またアスカがご機嫌ななめになる。
「何言っているのかわからないよ」
「そのペンを最初に使うのは、アスカへのラブレターよ。お兄ちゃん。
そういえばアスカからのバースディカード読んだ?」
横からレイが言う。
「アスカね、お兄ちゃんあてのカードを書くのに6回も書き直したんだよ。それは6枚目。
私には見せてもらえなかったから、なにが書いているのか知らないけれど、アスカの心のこもった言葉ね」
「レイ、それは言ったらだめって言ったでしょ」あわててアスカが遮る。
「だってほんとのことじゃない」
いたずらっぽくなっていくレイの口調が冴えわたる。
「それと、この間はね、アスカと買い物に行ったけど、
アスカったらすっごくセクシーな下着を買ったんだよ。誰のためだと思う?」
「レイ!!」
本気でアスカが怒ったようだ。
レイはあわてて
「お兄ちゃん、私帰るから。元気でね。カップはすぐに必要になるわ。
じゃあね。ほら、アスカ 怒っていないでお兄ちゃんと話をしないと時間はすぐに経っちゃうよ」
と言葉を残して、ばたばたと帰ったようだ。
「はぁ~」とシンジとアスカどちらともなくため息ひとつを漏らし、
『『 綾波 すっかり変ってしまったなぁ』』
とシンジとアスカは心のユニゾンを奏でるのであった。