第九話 カタチある記憶

<2年前 第三新東京市>

<ネルフ本部>

「冬月先生……後を頼みます」

「ああわかっている…………ユイ君によろしくな」

男達は最後の挨拶を交わす

「でも! その時は人なんていなかったんですよ!?」

チュイーン!!

「馬鹿! 撃たなきゃ死ぬぞ!!」

生き方を変えれない女、叱咤する男

「あんたまだ生きてるんでしょ!

だったらしっかり生きて、それから死になさい!!」

身動きしない少年、引きずる女

「ちっ! 言わんこっちゃあない!」

「奴ら加減ってものを知らないのか!」

「ふ、無茶をしおる」

「ねぇ! どうしてそんなにエヴァが欲しいの!?」

震撼する発令所で男達と女

「死ぬのはイヤ! 死ぬのはイヤ! 死ぬのはイヤ! 死ぬのはイヤーッ!!」

それでも捨てられない生にすがる少女

「ママーッ!!」

探し求めていたものの居場所を見つけた少女

「負けてらんないのよぉ!!

あんたたちにぃ!!」

真紅の鬼神と化す少女

「いいシンジくん

ここから先はもうあなた一人よ

すべて一人で決めなさい

誰の助けもなく」

「僕はだめだ

だめなんですよ

人を傷つけてまで、殺してまでエヴァに乗るなんて、そんな資格ないんだ

僕はエヴァに乗るしかないと思ってた

でもそんなのごまかしだ

何もわかっていない僕にはエヴァに乗る価値もない

僕には人のために出来る事なんて何もないんだ!」

「アスカにひどいことしたんだ、カヲル君も殺してしまったんだ

優しさなんかかけらもない

ずるくて臆病なだけだ

僕には人を傷つけることしかできないんだ……だったら何もしない方がいい!!」

「同情なんかしないわよ

自分が傷つくのが嫌だったら何もせずに死になさい」

「うっ……」

「今、泣いたってどうにもならないわ!」

「うぅ……」

「自分が嫌いなのね

だから人を傷つける

自分が傷つくより人を傷つけた方が心が痛いことを知っているから

でもどんな想いが待っていてもそれはあなたが自分一人で決めたことだわ

価値のあることなのよシンジくん

あなた自身のことなのよ

ごまかさずに自分に出来ることを考え、償いは自分でやりなさい」

「ミサトさんだって、他人のくせに! 何もわかってないくせに!」

「他人だからどうだってのよ!?

あんたこのままやめるつもり!?

今、ここで何もしなかったらあたし許さないからね!

一生あんたを許さないからね!!」

「今の自分が絶対じゃないわ

後で間違いに気付き、後悔する

あたしはその繰り返しだった

ぬか喜びと自己嫌悪を重ねるだけ

でも、そのたびに前に進めた気がする

いいシンジくん

もう一度エヴァに乗ってけりを付けなさい

エヴァに乗っていた自分に

何のためにここにきたのか、何のためにここにいるのか

今の自分の答えを見つけなさい

そして、けりを付けたら、必ず戻ってくるのよ」

「約束よ」

「……うん」

「いってらっしゃい」

「大人のキスよ、帰ってきたら続きをしましょう……」

少年と女、戦友として家族として姉弟として恋人として、そして……

「こんなことならアスカの言うとおりカーペット替えとっきゃよかった

ね、ペンペン……」

「…………加持君、あたしこれでよかったわよね」

白き少女に看取られ女は爆風に消える

「う……ぐ…………ぐぐ…………ぐ」

手に握りしめた十字架と紅に少年は慟哭する

「お待ちしておりましたわ」

「赤木リツコ君本当に       」

「…………嘘つき」

一組の、あるいは二組の男女の終焉

「ロンギヌスの槍!?」

驚愕する少女

「エヴァ弐号機、沈黙……」

「……なにこれ? 倒したはずのエヴァシリーズが」

「エヴァシリーズ活動再開……」

「とどめをさすつもりか?」

「うっ!」

「どうした!?」

「……もう見れません! 見たくありません!」

「こ、これが、弐号機!?」

あまりの惨状に目を背ける女、それでも確認せざるをえない男

「殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル!」

溢れる殺意を口にする少女

「シンジ君! 弐号機が! アスカが! アスカが!!」

「だってエヴァに乗れないんだ、どうしようもないんだ」

悲鳴を聞きながらも何もできない無力な少年

「母さん?」

自らに力を与えてくれる存在を再び認識する少年

凄まじい爆発音と共に地面を突き破って光の羽が立つ。

その羽を広げて初号機が昇っていく。

「エヴァンゲリオン初号機!?」

「……まさに、悪魔か」

地上に姿を現す初号機。

エントリープラグの中で少年はただ外を見ていた。

「アスカ」

その目に地獄絵の様な光景が映る。

弐号機が……それはすなわち少女が

少年は断末魔の悲鳴を上げた。

「うああああああああああ!!!!!!!」

「あああああああああああ!!!!!!!」

「あああああああああああ!!!!!!!」

THANATOS -IF I CAN’T BE YOURS-


もうお別れね 言うのが怖くて

ずっと口に出さずにいたけれど

私の中で何かが起こっているの

今までと同じようには

感じることができないの

私はおびえてる

私は私じゃないかも知れない

(自分が思っていたような)

私たちって何? どう言えばいいの?

私たち二人だけが違う世界の人間なのかしら

私はいつもあなたのために息をしている

あなたがいなければ人生に立ち向かえなかった

怖くてたまらない 二人を慰めるものは何もない

もし、あなたのものに なれないのなら

私が存在する意味もない

眠れないの 何ひとつ感じることができない

感覚がすべて失われたみたい

苦しいのに泣くこともできない

一粒の涙さえ今は出てこない

わかったの

私とあなたは一心同体じゃない

悲しみが私を襲う

二人が思いを遂げることはできないのだから

(この世では)

だから私は二人の関係を終わらせる

あなたの求める存在に私はなれない

もし苦痛の果てにみちがあるのなら

私はその道を見つけたい

踏み込んでいきたい ぶつかることになっても

でもこうするしかないの 見果てぬ夢だから

もし、あなたのものに なれないのなら

私が存在する意味もない

彼女の選択


「碇君!?」

少女は目を見開く

「エヴァシリーズ、S2機関を開放!」

「次元測定値が反転! マイナスを示しています!

観測不能! 数値化できません!」

「アンチATフィールドか……」

それでも彼らは事態を見続ける

「全ての現象が15年前と酷似している……

じゃあこれってやっぱり、サードインパクトの前兆なの?」

他に為す術を持たぬが故に

「作戦は……失敗だったな」

それは彼らが軍人であるがゆえの最後の言葉

「直撃です! 地表堆積層融解!」

「第二波が本部周縁を掘削中! 外殻部が露呈していきます!」

報告を続ける男達

「まだ物理的な衝撃波だ! アブソーバを最大にすれば耐えられる!!」

たとえ無意味であっても彼らは最後まで目を見開き続ける

「人類の生命の源たるリリスの卵……黒き月

今更その殻の中へと還ることは望まぬ。

だが、それも、リリス次第か……」

男は呟く、深き思いを込めて

「なぜだ!?」

『私はあなたじゃ、ないもの』

最後の最後に少女は男を拒絶する

『駄目、碇君が呼んでる』

少女はそう答える

「ただいま……」

「おかえりなさい。」

“それ”は少女に答えた

「ターミナルドグマより正体不明の高エネルギー体が急速接近中!」

「ATフィールドを確認! 分析パターン……青!」

「まさか! 使徒!?」

「いや、違う! ヒト……人間です!」

そして彼らはそれを見る

「綾波?」

白い両手が彼に差し伸べられる

「レイ?」

赤い瞳が彼を見つめる

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『るぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!』

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『るぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!』

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『るぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!』

少年が、初号機が絶叫する

「心理グラフ、シグナルダウン!」

「デストルドーが原子化されていきます!」

「……これ以上は、パイロットの自我が持たんか……」

「もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ」

「もういいのかい?」

「!?」

白い少年が微笑む

「そこにいたの? カヲル君」

「ソレノイドグラフ反転! 自我境界が、弱体化していきます!」

「ATフィールドもパターンレッドへ!」

「……使徒の持つ生命の実と、ヒトの持つ知恵の実。その両方を手に入れたエヴァ初号機は神に等しき存在となった。そして今や、命の大河たる生命の樹へと還元している。

この先にサードインパクトの、ヒトを無から救う箱船となるか、ヒトを滅ぼす悪魔となるのか、未来は、碇の息子に委ねられられたな……」

「ねぇ、私たち正しいわよね!?」

「わかるもんか!」

「今のレイは、あなた自身の心。あなたの願いそのものよ」

少年に語りかけたのは果たして誰だったのか

「パイロットの反応が限りなくゼロに近づいていきます」

「エヴァシリーズ及びジオフロント、E層を通過。尚も上昇中」

『現在高度22万㎞、F層に突入』

「エヴァ全機健在」

「リリスよりのアンチATフィールド、更に拡大。物質化されます」

宇宙を眺めながらただ報告を聞く男

「アンチATフィールド、臨界点を突破!」

「駄目です! このままでは、個体生命の形が維持できません!」

「…………」

大きく翼を広げるリリス

「ガフの部屋が開く……世界の、始まりと終局の扉が、遂に開いてしまうか」

『世界が哀しみに満ち満ちていく』

『虚しさが人々が包み込んでいく』

『孤独はヒトの心を埋めていくの?』

そして、人類の補完が始まる。


予告

人類補完計画

それはすべてのヒトの心の補完

それは弱い者が互いの傷をなめ合う行為に過ぎないのか

それとも優しき母の癒しの心なのか

人々は自らの願いをかなえ

そして願いを失う

それが新たな願いを見いだすための通過点なのか

少年が願う世界のカタチ

それは人類を破滅に導くのか

それとも人類の新たな目覚めを促すのだろうか

次回、新世界エヴァンゲリオン

第拾話 ココロの刻印