第八話 いざなえるモノ

「私が何を願うか?」

そういってアスカは腕を組んだ。

「そうねぇ…」

脳裏に少年の笑顔が浮かぶ。

「考えるだけ無駄ね。私の願いはシンジがずっとそばにいて私を一人にしないこと、決まってるじゃない」

『………』

「何よ、言ったわよ?」

無言のレイに不安になるアスカ。

…でもこいつがしゃべらないのはいつものことか

『…そう。あなたはそう願うの』

「そんなのはじめからわかってるでしょ?」

『いいえ。わからないわ』

「何でよ?」

『あなたの口から聞くまでは、それは私の推測にすぎない』

「…ま、それはそうかもしれないけどさ」

…いちいち当たり前の事を言う奴ね~

『あなたの願いはわかったわ。でも、それは碇くんの願いなの?』

「え?」

『あなたは碇くんにそばにいて欲しい。そして今は碇くんが側にいる。でも、碇くんはいつまでもあなたのそばにいてくれるの?』

「い、いてくれるわよ」

『どうしてそう言えるの』

「あ、あいつがいったからよ。アタシのそばにいたいって」

『それは本心なのかしら』

「本心に決まってるじゃない!!」

『どうして』

「だって、だって!」

『あなたは碇くんの側にいるために何かした?』

「………」

『碇くんのためになにかしてあげた?』

「………」

…料理、掃除、洗濯。そんなことはみんな昔あいつがしてくれたこと。あいつは馬鹿だから何の打算もなくやってくれてた。

『それで本当に碇くんがそばにいてくれると思うの?』

「うるさい! うるさい! うるさい! 何でそんなこと言うのよ!! アタシはあいつが好きであいつはアタシの事が好きで…」

『本当に?』

「!?」

アスカは膝をつき自分の体を抱きしめた。

ふるえが止まらない。

…あいつはアタシが好き。あいつはアタシのそばにいてくれる。アタシを一人にしない

…でも、本当に?

忘れていた震え

一人のさみしさ

独りの恐怖…

『本当のことは誰にもわからない。そう、碇くんにも…』


<京都郊外山中>

「はんっ! ネルフに喧嘩を売ったらどうなるか教えてやるわ!」

マガジンの弾丸を確認しながらミサトが言った。

「そうだな。とりあえず当分馬鹿なことをしないようにしつけてやらないとな」

ライフルを背負う加持。シンジは拳銃の弾を交換している。全員、防弾ジャケットをつけ臨戦態勢である。

京都郊外山中の谷間。川岸に偽装して待機させたヘリにアスカを乗せ換えるつもりらしい。周囲にも小部隊がいくつか確認されているが…

(しかし妙だな…)
加持はどうにも引っ掛かっていた。

何はともあれ市街地を離れてやっと本領発揮を許された戦自特殊部隊が強襲する予定だ。シンジ達はそれにあわせて本隊を襲撃しアスカを取り返す。後は行き当たりばったり、もとい臨機応変に対応する。シンジと加持にとってはさほど難しい仕事ではない。

「低空飛行でレーダーをかわして海まで直行。日本海か太平洋で潜水艦にでも乗り換えって所かしら」

ミサトがざっと敵の計画を推察する。

「それはそれはご苦労なことだな。ところでシンジくん、その弾丸は?」

「あ、これですか?」

弾丸を一個手渡すシンジ。

「おっと」

見かけによらず重い。薬夾には赤い木がペイントされている。

「ひょ…ひょっとして赤い木で赤木って意味?」

「…らしいな」

<ネルフ本部 発令所>

「くしゅん!」

「風邪ですか?」

日向がキーを叩く手はそのままに聞いた。

「誰か噂でもしてるのかしら? まあいいわ。次、ヨーロッパ方面の回線いくわよ!」

いくつものサブモニター上で次々と敵コンピューターが制圧されていく様子が表示されている。

「リツコさん特製の対装甲目標弾だそうです。軽装甲車までなら一発だって言ってました。ヘリを撃とうかと思って」

「拳銃弾で装甲車? 調子に乗ってほらふいてんじゃない?」

「いや、赤木ならやりかねん。しかし反動もかなりあるんじゃないか?」

「ええ、常人が撃ったら肩が砕けるからやめておけって言ってました」

「相変わらず何考えてんのかわかんないわね…」

「まぁいい、分かれるぞ。正面は俺が行く。シンジくんはヘリのある右側から、葛城は反対の左側面から援護を頼む。シンジくんがヘリを吹っ飛ばしたら突入だ」

「OK」

「わかりました」

ミサトは騒々しくシンジは無音で茂みの中に消えていく。

対照的な二人に思わず笑みをこぼす加持。

「…まったく変わった姉弟だな」

呟くと加持は歩き出した。行く手には何も存在しないかのように飄々と。


『碇くんはあなたのことが嫌いかもしれない』

「いや、聞きたくない!」

『碇くんはあなたがどんな目にあっても構わないかもしれない』

「いや、聞きたくない!」

『碇くんはあなたを置いていなくなるかもしれない』

「いやーっ! 聞きたくない!!」

沈黙…

『碇くんはあなたが呼んでも来てくれないかもしれない』

「………違う」

『碇くんはあなたの身が危なくても助けてくれないかもしれない』

「………違う」

『碇くんはあなたのことが必要でないかもしれない』

「………違う!!」

沈黙…

『どうしてそんなことが言えるの?』

「…どうして? 決まってるじゃない」

『………』

「アタシが! シンジを!! 信じてるからよ!!!」

『………』

「あんたの言うとおり本当の事なんて誰にもわからない!

わかるわけないのよ!!

だけどアタシはなにがあろうとシンジを信じてる!!

あいつは絶対アタシを助けに来てくれる!!

アタシは信じてる!!」


<京都郊外山中>

爆発音と爆風が静かな山中を震わせた。

「あいたたた…」

念のために樹を背中にしてよかったと思うシンジ。

発砲直後の反動でシンジはまっすぐ樹に叩きつけられた。

それでも素早く立ち上がり銃を構え直す。

「…やっぱりリツコさんの言うことを信じないで試し撃ちしとくんだった」

そう苦笑混じりに呟いた顔が厳しく変わると黒煙を上げて燃えるヘリの方向へと身を躍らせた。

「………リツコは拳銃にミサイルでも詰めてんの?」

相変わらず無茶な物を作る親友の顔を思いつつ中腰で走るミサト。

樹々が開けると、前方に人影が見えた。

ヘリの方に向かって銃を構えている。

少女の姿は…無い!

「おんどりゃあああ!!!」

腰だめにライフルを一斉射。叫ぶ必要はまったくないし、むしろまずいのだが…

(要は気合よ!)

数人をなぎ倒しすぐに林に隠れる。

こっちに注意を向けた男達が今度は別方向から掃討される。

「アスカはまだ車の中、ね」

確認すると再びライフルを構えた。

タイミングを合わせてトリガーを引き絞ると小気味いい音と共に弾丸が放たれた。

「敵は二手だ!」

「少人数だ! 近くの部隊を呼べ!」

車の中に叫ぶ。

「とっくにやっている!! だが、応答がないんだ!!」

直後、離れた山中でいくつもの爆発が起こる。

「ちっ!」

ようやく事情を悟り舌打ちする男。

一人が車の後ろに回ってサブマシンガンを構える。すでに車外には二人しか残っていない。

「一人ずつ各方向を牽制しろ! 俺は人質を出す」

そういってアスカの方へ向き直ろうとした男の耳にターン、ターンと軽快な音が聞こえた。

「なっ!?」

外にいた二人が宙を舞い車のドアに叩きつけられた。

割れたガラスが男に降りかかる。

「新手か!?」

拳銃を構えて運転手が助手席の方を伺う。

ターン!

男の目の前で運転手の首から上が見えない拳に殴られたかのように水平に横ずれした。

そのまま運転手は運転席側の窓に叩きつけられガラスを突き破る。

残るは自分一人。

外をうかがうとライフルを構えた人影が別々の場所に二人確認できた。

距離があるし木陰のため拳銃で狙撃するのは難しい。

もう一方、ヘリの燃える助手席側はわからない。だが、運転手は助手席側から撃ち抜かれたのだ。

(わざと姿を現しているところをみると二人は囮か?)

身を低くしてゆっくりと後部座席のドアをあける。

(このまま、外に這い出て娘を引きずり出し盾にする。後は奴らの車を奪うなりなんなりすればいい)

そう考えながら男はドアの外に身を乗り出した。

そっと辺りをうかがう。

敵の気配はない。

一瞬気がゆるむ。

「!?」

男が反応するより早くその身体は車の天井に叩きつけられる。

わずかに遅れて骨が粉々に砕かれる音がする。

ドサッ

空中で絶命した男の身体はそのまま重力に引かれ落下した。

「ふぅ」

シンジは掌底を振り抜いた体勢のままで地面に横たわった身体を起こすと加持とミサトに手を振って合図した。

何のことはない。ドアの陰になって見えないであろう地面の上を凄まじい速度で這い進んで男がドアを開けるのを待っていただけだ。

男の死体をどけて後部座席をのぞき込む。

アスカは反対側のドアにもたれてすやすやと眠っていた。

「…よかった」


レイは微笑んだ。

それはシンジにしか見せたことの無い笑顔。

アスカはなぜか心が安らぐのを感じた。

「…ファースト?」

『そう、忘れないで』

「………」

『あなたにこの世界を見せたのは思い出してもらうため。

サードインパクトの時の事を全部覚えているのは碇くんだけ。

他の人はぼんやりとしか覚えていない。

だけど、あなたにも思い出して欲しかった』

…あなたと、そして碇くんのために

「ファースト…あんた」

『夢から覚めたらあなたが覚えているかどうか私にもわからない。でも…』

「…馬鹿ね。私は惣流アスカラングレーよ。覚えてるに決まっているでしょ」

レイを遮ってアスカが言った。

『…ありがとう』

「…あんたに礼を言われるとどうも背中がかゆいわね」

本当に背中をかくアスカ。

『…そろそろ起きる時間よ。

忘れないで碇くんを信じるということを。

そして碇くんもあなたを信じているということを…』

「ちょっと待ちなさい! …一つ忘れてるわよ、レイ」

アスカがレイをレイと呼んだ。

『…?』

「アタシはあんたのことも信じてるし、あんたもアタシのことを信じてる。そうでしょ?」

『…』

レイは一層幸せそうに微笑んだ。

「ま、シンジがあんたをどう考えてるかは本人に聞いてちょうだい」

『…ありがとうアスカ』

レイもアスカをアスカと呼んだ。

「…ふん」

照れ隠しに鼻を鳴らすアスカ。

『…もう一つ、いずれあなたと碇くんに危険が迫るわ』

「だからわざわざ出張してきたわけ?余計な心配よ。アタシとシンジなら何があっても大丈夫に決まってるでしょ!」

胸を張りあふれんばかりの自信をもって答えるアスカ。

『…そうね』

「そうよ」

二人は顔を見合わせるとクスリと笑った。

アスカは急に眠くなってきた。徹夜続きで緊張が解けた途端に眠くなったような感じだ。

「ふ…ふぁ。夢の中で眠くなるなんて変な話ね…」

『眠ったら夢を見るのだから、夢の中で眠れば起きるのは自然でしょう?』

「そう、かな? ま、いいわ。眠たいから寝る、わ…」

そういうと目を閉じる。

『………』

「暖かい…」

シンジがそばにいるときとは別の暖かさだ。

弐号機に乗ってママに抱かれたときのような。

レイ…綾波レイ…リリス…全ての母…

『さ…』

さよなら、と言いかけたレイは言い直した。

『じゃ、また。アスカ…』

「またねレイ…」


「アスカ…アスカ」

「うるさいわね、もう起きるわよ…」

目を開けるとシンジの顔が目の前にあった。

「ほら、言ったとおりでしょ」

「え、何が?」

「何でもないって…シンジ?」

「え…あ、ごっごめん!」

アスカはシンジにしっかりと抱きかかえられていた。

慌てて離れようとするシンジの背中に手を回す。

「アスカ?」

怪訝そうなシンジ。

「いいから」

しばしの間アスカはその感触を楽しんだ。

「おやおや、山中で抱き合うとはロマンチックだねぇ」

「炎上するヘリをバックにロマンチックもないでしょ?」

加持とミサトの声が耳に入ってもシンジを離さないアスカ。

とりあえず気が済むまでシンジに抱きついてそれからアスカはシンジを解放した。

「ふわぁぁぁ。何がどうなってんのよ?」

と、顔を上げると目の前でヘリが炎上していた。

辺りを見回すと何人もの人間が倒れている。たぶん…死んでいると思う。

「!?」

思わずシンジに抱きつき直すアスカ。

<京都郊外山中戦闘跡>

「眠ってた所を見ると催眠ガスを吸わされたんだな」

「みんなで迎えに来たのよ」

そういう二人の姿はどこから見ても兵隊である。見るとシンジも同じように…

「ちょっ、ちょっとシンジ!あんた何危ないことやってんのよ!」

「え、だって」

「だってもくそもないわよ!! こんなことプロに任せなさいよ! 気持ちは嬉しいけどシンジに何かあったら…」

「アスカ」

真摯な瞳に黙るアスカ。

「な、なに?」

「僕はアスカを置いて死んだりしない。アスカを一人にしたりしない、そうだろ?」

「………」

「ね?」

「………うん」

(…ほらね、やっぱりこういう馬鹿なのよこいつは)

アスカは心の中で呟いた。

肩をすくめる加持とミサト。

4人の背後でゆっくりと拳銃をもった腕が上がっていく。

加持とシンジ、乱戦であっても確実に相手を即死させる二人に比べると白兵戦経験に乏しいミサト。そのミサトに撃たれた男がまだ生きていたのだ。

パン!

ミサトは反応できなかった。

シンジはアスカに抱きつかれていたため対応が遅れた。

加持は咄嗟にナイフを放った。そのナイフは確実に男の喉を貫くだろうが、既に発射された弾丸を止めることは出来なかった。

弾丸はスローモーションのようにゆっくりとアスカの背中に迫る。

シンジはアスカをかばおうと弾丸の軌跡に身体を割り込ませた。

アスカは唱えるように祈った。

(シンジはアタシを置いて死んだりしない! アタシもシンジを置いて死んだりしない!)

弾丸はゆっくりとシンジの背中に吸い込まれ、そして…

キーン!!

突如方向を変えると空に消えた。

『ATフィールド!?』

4人は目を疑った。

だが、弾丸を弾いた赤い発光現象は紛れもないATフィールドだった。

<京都市内ホテルの一室>

「やれやれ、思ったよりも“ヒト”使いが荒いんだね…」

そう呟くとカヲルはゆっくり前のめりに倒れる。

「ちょっと!?」

慌ててジャネットが受け止める。

「大丈夫!? ねぇ!?」

既に暗い闇の底へと意識を追いやったカヲルは答えない。

気絶したカヲルを手近な場所に寝かせる一同。

彼らは気づいていなかった。

倒れる直前にカヲルの瞳が赤く輝いたことを。

ミサトはアスカとカヲル、二人の寝顔を確認すると中のシンジにうなずいて部屋を出た。

「悪かったわね、みんな。せっかくの修学旅行なのに巻き込んじゃって」

輪になって座っているトウジ達に謝った。

「何言うとんですか、ミサトさんのせいとちゃいます」

「そうです。悪いのはアスカをさらおうとした人たちです」

トウジとヒカリが言った。

「ありがとう、鈴原君、洞木さん。…でも今の発言、息がぴったりあってたわね~」

そういってニンマリ笑う。

「「そ、そんな…」」

ハモって答える二人に一同から笑いが起きる。

トウジとヒカリもミサトがいつものミサトに戻ったことを悟ると、視線を交わしてから笑いに加わった。

「…笑いは人の心を癒してくれる。そう感じないかシンジ君?」

「カヲル君…大丈夫?」

「ああ、心配をかけてしまったね」

カヲルはゆっくりと上半身を起こした。

隣の布団に眠っているアスカを見る。

少し疲労の兆候が出ているがその美しさにはかげりがみじんも感じられない。

「…彼女も無事のようだね」

「…うん」

<ネルフ本部総司令執務室>

「…結果、23211個の侵入ルート全ての相手をデストラクト。現状から推測される敵の正体は1302件の候補が上がっています」

「それでは意味がないな」

「はい。ですが、本件終了後に行ったMAGIによる再計算の結果がこちらになります」

リツコは計算結果をデスクに並べた。

「………」

「…なるほどな」

冬月も渋い顔でうなずく。

「加持君に連絡しておいてくれ」

「はい。…葛城一佐とシンジくんには?」

「本部への帰還後でかまわん」

(…せっかくの修学旅行だもの、残りの時間くらい楽しませてあげろってことね)

「わかりました、では失礼いたします」

「うむ、ご苦労だった」

リツコが出て行き扉がしまると冬月は視線をゲンドウに向けた。

「……碇」

「ああ、わかっている」

「やぁみんなおはよう」

「あ、渚君大丈夫なの?」

髪を指ですきながら現れるカヲル。

「ええ、おかげさまでね」

「男のくせに貧血なんて情けないわね、ほら」

「マナ、何だいこれは?」

マナからコップを受け取ったカヲルが聞く。

「見てわからない? トマトジュースよ。しっかり鉄分を補給しなさい」

「赤いね………まるで血の赤だ」

遠い目をしてつぶやくカヲル。

どこか現実離れした雰囲気に沈黙の帳が降りる。

「何、寝言言ってんの。まったくただでさえ大変なときにぶったおれて、おまけに栄養失調の気もあるだなんて。あんた京都に来てから何食べてたわけ?」

アスカは部屋に入ってくるなり自分のことは棚に上げ文句を並べ立てた。

「栄養失調…ああそういえば何となくお腹も空いてきたね」

とりあえず手に持ったトマトジュースを飲むカヲル。

「渚、ダイエットでもしてるのか?」

「でも、渚さん、昨日も一昨日もとってもたくさん食べてた気がしましたけど」

「ま、晩飯にはちと早いからな。菓子でも食うとけや」

「はい、渚君」

「ありがとう」

そう言って出された袋菓子を手に取るカヲル。

どう見てものんびりと食べている様に見えるのだがあっという間に袋はからになった。

「おや? もうなくなってしまった」

「あんたどういう胃袋してんのよ?」

(…相変わらず変な子ね~)

いつものように騒ぎ始めた子供達を見ながらミサトはドアを開ける。

「どう?」

ドアのすぐ横の壁に背中を預けた加持に尋ねる。

ジョニーとジャネットは少し離れたところで警戒を続行している。ホテル内部にはネルフ保安部の生き残り要員が、ホテルの周囲には日本政府の手配した警備部隊が配置されている。

「すまん、ちょっと待ってくれ。ああ、葛城だ」

加持は携帯を耳に当てたままで答える。

「だいたい片付いた。戦自の部隊も撤収中。旅行も続けて構わんそうだ」

「…そういう気分じゃないんだけどね」

子供達の前では隠していたげっそりした表情を浮かべるミサト。

「まがりなりにも教師をやってるんだ。職務をまっとうするんだな」

「何なら変わってあげましょうか?」

「謹んで遠慮しとくよ」

「あ、そ」

そういうとミサトは舌を出しながら中に消えた。

加持は再び携帯に注意を戻す。

「…悪かった。で、それは間違いなんだな?」

電話の向こうのリツコに問い返す。

『残念ながら、ね。こっちに帰ってくるまで二人には内緒にしておく様にとのことよ』

「ああ、わかってる。じゃ」

携帯を切るとポケットにしまう。

会話中ずっと持ったままだった缶コーヒーの缶を無意識に握りしめる。

「四対四、決闘か…」

ブシュッ

あふれたコーヒーが手をぬらした。


チルドレンのお部屋 -その8(京都別荘編?)-

アスカ「ほら、もっと身だしなみに気を使いなさいって言ってるでしょ」(喋りながらレイの髪にブラシを入れている)

レイ 「…………」(されるがまま。わずかに微笑んでいる)

トウジ「……なんやえらい仲良さそうやな。なんかあったんかシンジ?」

シンジ「それが僕にもわからないんだ。僕が来た時にはもう和気あいあいと話してたし」

アスカ「じゃ口紅塗ってあげるからこっち向きなさい」

レイ 「口紅?」

アスカ「そう。まあ、レイの方向性とはちょっと違うかもしれないけど……でもシンジが喜ぶことは請け合いね」

レイ 「碇くんが喜んでくれるの? ……お願い」

アスカ「任せといて。でも、何色がいいかしらね?」

トウジ「…………(夢でもみとんのやろか?)」(信じられないという顔)

シンジ「…………(綾波とアスカが仲良くしてる。よかった)」(対照的ににこにこ顔)

カヲル「仲良きことは美しきかな、だね。もっともあの二人は最初から綺麗だけど」

シンジ「カヲル君は何か知ってるの」

カヲル「ああ、エヴァのDVDは全7巻ってことぐらいなら……ってこれは連載当時の話だったね。いまやバージョンは数知れず、困ったものだね」

シンジ「…………」(さすがにこめかみを押さえる)

トウジ「渚……お前、実はわいと生まれ一緒やろ?」

アスカ「カ・ン・ペ・キ。さぁシンジを落としにいくわよ、えいえいおーっ! ……ほら、あんたもやるのよ」

レイ 「腕を突き出せばいいのね?」

アスカ「そう、行くわよ、えいえい……」

アスカ&レイ「「おーっ!!」」

つづく

予告

西暦2000年セカンドインパクト

西暦2016年サードインパクト

二つの事件に深く関わり

二つの事件の現場に居合わせながら

生き残った唯一の女性葛城ミサト

彼女は二つの事件の記録を手記に記す

セカンドインパクトに消えた父への想い

サードインパクトを起こした少年への想い

記されていく物語は新たな物語の呼び水となるのであろうか

次回、新世界エヴァンゲリオン

第九話 カタチある記憶

お楽しみに