「ふーっ、少し冷えるわね」
お手洗いから出たアスカは軽く身震いした。
「うん?」
視界の先にシンジがいた。アスカに気付かず歩いていく。男子と女子は別フロアのはずだ。
何でシンジが…?
そう思い後を追いかける。
「シンジ」
「わっ…なんだアスカか」
いきなり呼ばれて慌てたがアスカとわかりほっとするシンジ。他の女子に見つかったら何を言われるやら。それにしてもアスカの気配に気付かなかったのは2度目だ。好きな女の子の気配なら逆に普通よりも敏感なはずなのに気づけないのはなぜだろう?
「なんだじゃないわよ。なんであんたが女子のフロアをうろついてるの?」
「えーと…入ったら説明してあげるよ」
「…?ミサトとマヤの部屋じゃない」
「…なるほどね」
アスカは部屋に入るなり言った。
ミサトはビール瓶片手にはだけた浴衣姿で床の上に大の字になって寝ている。
ミサトを抱えて奥の布団に寝かせるシンジ。
仕方がないので後片づけを始めるアスカ。
(…私もシンジに行動パターンが似てきたわね)
それはそれで嬉しいような悲しいようなアスカ。
シンジが余っている布団を運んできた。
奥の二人に気を使って入り口の方で掛け布団にくるまって寝るつもりらしい。
「とはいえさすがに目がさえちゃったな…あ、アスカありがとう。明日も早いから早く寝た方がいいよ」
シンジの言葉を聞いて考え込むアスカ。意を決してシンジの隣に座る。
「アスカ?」
「寝付けないんでしょ?しょうがないからしばらく付き合ってあげるわ」
「………」
「何よ?」
「ううん。なんでもない」
そういって布団を肩に掛けて座った後、片側を持ち上げた。
「?何やってんの?」
「だって冷えるだろ?」
一緒に布団にくるまろう、そうシンジは言っている。
「そ、そんなの…」
「おいで、アスカ」
シンジが照れくさそうに言った。
…なんでシンジの言うことに素直にしたがっちゃうんだろう?
…そっかアタシはシンジの前では素直になるって決めたんだったよね
…シンジ、あったかい。
「…カ、アスカ?」
「な、何?」
「いくら呼んでも返事しないからもう寝たのかと思った」
「…ど、どうでもいいでしょ。さ、何か話しなさいよ」
「何かってなに?」
「な、何でもいいわよ、シンジの話したいことで」
「わかったよ」
シンジは他愛もない話を始めた。
ただの世間話のようなものだ。
アスカは何もいわずに聞いている。
やがてアスカはシンジの声に耳を傾けながら眠りについた。
「葛城さん!葛城さん!」
「うーん…アスカお願い、後5分だけ…」
寝ぼけているミサト。
「葛城一佐!起きて下さい!」
「あ、なんだマヤちゃんか。なーに?まだ暗いじゃない…」
「ですからその!」
マヤの指さす先を見て一瞬で目が覚めるミサト。
もっとも、慌てふためいたマヤと違いすぐに優しい表情に変わる。
視線の先では一つのふとんにくるまったシンジとアスカがすやすやと眠っていた。
シンジの肩に頭をのせて眠っているアスカの寝顔はとても安らかだった。
「ま、いいんじゃない?」
「で、でも一応二人は未成年ですし!」
「別に変なことはしてないでしょ?たまたま同じ布団で寝てるだけよ」
「たまたまって…」
「どうせ後何年かすりゃこれが当たり前になるわよ」
「そ、それもちょっと…」
「それより他の子にばれないうちにシンジくんを起こしましょう」
ゆさゆさとシンジをゆさぶるミサト。
「…シンジくん、シンジくん」
「…起きませんね」
シンジは反応しない。
「…そういえば私もアスカも毎日起こしてもらってたけどシンジくんを起こしたことはなかったわね」
「葛城さん…」
マヤの目が呆れている。
「しょうがないわね」
そういってミサトは自分のバッグをごそごそ始めた。
「何かお探しですか…え!?」
ミサトが取り出したのはオートマチックの拳銃だった。
「ど、どうするんですそんな物持ち出して、こんな所で発砲したらシンジくん一人の騒ぎじゃすみませんよ!」
「別に撃ったりしないわよ。ま、見てなさいって」
カートリッジを引いて弾倉に弾丸を送り込む。そのとき、カチャリと小さな音がした。
「!!」
シンジの目がかっと開かれ瞬時に立ち上がるとアスカを背後にかばった。
「あれ?あ…ミサトさん、マヤさんおはようございます」
マヤは唖然としている。
ミサトは銃をしまいながら、
「うーんやってみるもんね。本当に起きるとは思わなかったわ」
「何のことですか?」
シンジはアスカを仰向けに寝かせながら尋ねた。
「いーのいーの。それよりばれないうちに部屋へ帰るといいわ。今なら、後の二人も寝てるでしょう」
「そうですね。あ、アスカはどうしましょう?」
「寝かせとけばいいわ。別にアスカならここで寝てたって問題ないでしょう」
「それもそうですね、じゃまた後で」
「ほーい」
シンジが出ていくとミサトは再び寝床に戻る。
「あ、あの葛城さん」
「なーにマヤちゃん」
「…鍵はどうするんです?」
本当はシンジの寝起きについて尋ねたかったのだがなぜか別のことを聞いてしまうマヤ。
「…シンちゃんならどうにかするでしょ、じゃあたし寝るから、朝御飯の前になったら起こしてね~」
ひらひら手をふると頭まで布団をかぶる。
「………」
マヤは朝食前まで呆然としていた。
ちなみに
「おはようシンジ君。ところでどうやって帰ってきたんだい?」
ドアの前でいびきをかいている二人を後目にカヲルが尋ねたところ
「窓から」
といういたってシンプルな回答が帰ってきたそうである。
チルドレンのお部屋 -その7(京都出張編)-
カヲル「やあみんな、渚カヲルです。元気だったかい?」
アスカ「……なにさわやかな挨拶をしてるのよ?」
カヲル「あいさつする友、フレンドがいるということは幸せにつながる。いいことだよ」
アスカ「……あんた最近ますます暴走気味ね。そのうち使徒を食べたりするんじゃない?」
シンジ「残念だったね。綾波は旅行に行けなくて」
レイ 「…………」(ズーンと暗くなる。言われるまで気付かなかったらしい)
シンジ「(慌てて)で、でもおみやげ買って帰るから! ね?」
レイ 「……(コクリ)」(パーッと明るくなり、顔に心持ち赤みが差す)
シンジ(ほっ、よかった)
カヲル「……家で待つ妹、リトルシスターがいるということも幸せにつながるようだね」
アスカ「うるさいわね。だいたいあんた前回、ディラックの海に沈んだんじゃなかったの」
カヲル「世界は奇跡に満ちているってことさ」
アスカ「……うさんくさい台詞ね」
カヲル「君の心は実に繊細だね。照れくさいのはわかるけどシ……」
アスカ「わーわー!」(慌てて大声を出す)
カヲル「おまけに一緒に……」
アスカ「わーわーわー!!」(更に大声を出す)
シンジ「八つ橋とかだったら今の綾波でも大丈夫だね。あとはそうだな……」
レイ 「…………」(一見無表情。実はシンジの話を聞いているだけで幸せ)
カヲル「そうそうリリ……」
アスカ「わーわーわーわー!!!」
シンジ「飲んだらまずいものとかないかな、リツコさんに聞いてみないと……」
レイ 「…………」
つづく
予告
綾波レイ
人々の心に思い出を残し彼女は消えた
彼女の声を聞きアスカは何を想うのか
レイは彼女に何を望むのか
一方シンジは戦場に身を置いていた
帰国しても戦いから遠ざかることはない
むしろ戦わざるをえない現状
シンジの選んだ道に大人達は何も言うことはできない
彼らの願いを背負いシンジは戦う
次回、新世界エヴァンゲリオン
第八話 いざなえるモノ
この次もお楽しみに!