<放課後>
「で、なんでみんなついてくるの?」
シンジはトウジ達に尋ねた。
「なんや水くさいな」
「そうだよ。それにまだ霧島と渚の引越祝いをしてないだろ?」
ケンスケはカメラのズームをチェックしている。
「そういえばそうね、マナがネルフに移籍して………ねぇマナのマンションってウチと同じでネルフの建物よね?」
ふと尋ねるアスカ。
「え、そ…そうなのかな?」
「決まってるわ…で、なんであんたネルフのマンションに住んでるの?」
ネルフのマンションということは表向きはどうあれネルフの官舎と言ってしまって問題ない。
カヲルを睨むアスカ。
「…あ」
シンジはまだ自分が大事なことを話していなかったことを思い出す。
「そういやそうやな」
「渚君もネルフの関係者なんですか?」
「ああそういえばまだ言ってなかったね」
「シンジは知ってるの?…ってそもそもあんた達どういう知り合いよ!?」
「あーそうだ私もそれを聞くの忘れてた!!」
(…どうせならそのまま忘れて欲しかった)
最近こういうパターンが多いなと分析するシンジ。
(ああ、こうやって大人になっていくのかな?)
なぜか、そこでゲンドウの顔が浮かぶ。
(うっ…)
「これはおもしろくなってきた」
ケンスケが撮影を開始する。
「ちょっとマナ、アスカ」
「言っていいのかなシンジ君?」
一応確認するカヲル。
「…このメンバーならいいと思うよ」
「では改めて。…僕の名前は渚カヲル、マルドゥーク機関の報告書によるフィフスチルドレン。つまり、エヴァンゲリオンの操縦者ってことさ」
一瞬の沈黙の後、全員が大声をあげた。
『えーっ!!』
「思い出した!フィフスってアタシの弐号機に乗った奴ね!!」
バッと離れて警戒するアスカ。
「あぁその節は申し訳なかったね。僕も心苦しかったんだけど…」
屈託の無い笑顔で答えるカヲル。
「あ、あんた確か第十七…」
「アスカ!」
慌てて遮るシンジ。
「シンジ!?」
ただ事ではない雰囲気に何事かと思うトウジ達。それでもカヲルは一人笑っている。
「アスカちょっと」
「ちょ…シンジ!?」
ぐいぐいとアスカの腕を引っ張りみんなから引き離すシンジ。
アスカは足を踏ん張ったがずるずると引きずられていく。いつもと逆である。
(…何よ、見かけだけじゃなく力まで強くなっちゃって!)
建物の壁との間にアスカを挟むとシンジはくっつくくらいまで顔を近づけた。
「…な、何よ。そ、そんなに顔を近づけたら…」
あまりに近いシンジの顔にアスカの顔に赤みが差す。が、シンジの目は真剣だった。
「アスカ、よく聞いて」
さらに小声でアスカだけに聞こえるように話すシンジ。
「何?」
「カヲル君は…確かに第十七使徒だった」
「…だった?」
シンジは過去形で話している。
「僕が殺したんだ…カヲル君を」
シンジの瞳に深い哀しみが浮かぶ。
乗り越えたと言っても心の傷は消えはしない。
たとえカヲルが生きているのだとしても。
たとえカヲルが許したとしても。
「シンジ…」
その瞳をみるとすっと怒りが冷めシンジを心配する気持ちでいっぱいになるアスカ。
「…だから使徒はもういない」
「カヲル君は…綾波にとても似てるんだ」
シンジはもう一つの秘密を打ち明ける。
「レイと?」
「うん…ダミープラグが何で出来ていたかは聞いたよね?」
「…ええ」
アスカはうなずく。
レイはサードインパクト後、赤子になっていた。
それを、はいそうですか、と信じる人間はいない。
アスカはレイの秘密を教えられた数少ない一人だった。
「アスカが戦ったエヴァシリーズにはカヲル君のダミーが搭載されていた」
「!?」
忘れかけていた恐怖が蘇り思わずシンジの腕をつかむアスカ。
「…つまりそういうことだよ。
だけどなぜカヲル君の魂が受け継がれたのかはわからない。
カヲル君は綾波の意志じゃないかと言っている。
僕もそう思っている。
綾波がカヲル君を救ってくれたんだとね」
「ファーストが何で使徒…あいつを助けたりするのよ?」
事実は把握できてきたが理由が分からない。
「それは、たぶん、自分と同じだったからじゃないかと…」
声が更に小さくなるシンジ。
「ん?…あーっ!!ファーストと同じってまさかシンジを!?」
「あーアスカそこまで!!」
(…何でこういうときだけ異常に察しがいいんだ!)
アスカの口を塞いでトウジ達を振り返るシンジ。どうやら気付かれてないらしい。
「…なるほどね」
アスカの口調が剣呑になる。
「な、なに?」
少し弱気になるシンジ。
「アタシが寝てる間にファースト以外とも浮気してたのね?」
アスカの目が怖い。
「う、浮気ってそんな…」
「言い逃れる余地はないわね。まったく、よりにもよって使徒、しかも男だなんて!!」
「アスカ、かなり誤解を招く言い方なんだけど…」
「五階も六階もないわよ!!道理であんな台詞がはけるわけよね!だって人間じゃ…」
「アスカ!!」
思わず声を大きくするシンジ。びくっとアスカが震える。
「ごめん、アスカ、でも…」
「…」
アスカも自分が何を言おうとしていたかに気付いた。
しかしわかっていても納得できない。
(…そっか、私やきもち焼いてるんだ)
そのままうつむいて黙り込むアスカ。
「アスカ」
「…」
シンジはふぅっと息をはくとアスカの顎を持ち上げた。
「えっ?…!?」
シンジは身を屈めてアスカに顔を寄せる。
思わず目を見開いた後、アスカは静かに目を閉じた。
(…あったかい、シンジの唇)
アスカの心が温かいものに満たされていった。
<外野席>
「きゃー!!」
「くー!シンジ何て真似を!!」
「シンジ大胆!」
「やるなセンセ!」
「…素敵」
驚く一同をよそにカヲルは微笑んでいた。
(…君たちの心はガラスのように繊細で本当に美しいね。僕にもそんな美しい心がいつか生まれるのかな…君のようにねリリス…そしてありがとうシンジ君)
(…そうよね、心配しなくても大丈夫。シンジはアタシを…)
唇が離れると残念な気持ちになるアスカ。
「…あ、アスカ。えーと」
自分でやっておいて顔が赤いシンジ。
「ま、まぁ謝らなかったのは合格よ」
照れくさいのをごまかすアスカ。
「アスカ…」
「な、何よ?」
「…かわいい」
ぼそりと呟くシンジ。
アスカはその言葉を理解するのにしばし時間を要した。
「な、何言ってんのよ!」
真っ赤になって慌てるアスカ。
「はははは、ごめん。アスカ」
「…わかったわよ。シンジが信じるならアタシも信じてあげる。でも、アタシの弐号機を使った借りはいずれきっちり返してもらうわよ」
「………」
(…おまけにその弐号機を僕の乗る初号機と戦わせたなんて聞いたら血の雨が降るだろうな)
シンジは流血の事態を避けるべく対応を考え始めた。
「ま、今日の所はシンジの顔を立てて見逃して上げるわ!」
アスカは腰に手を当てきっぱりと宣言した。
「それはどうも。深く感謝するよ」
「何よ、その顔は?それにみんなも」
トウジ達は赤くなった顔を見合わせた。
「あぁそれはきっと二人の愛情表現を見たためだね」
「え?」
すっかりカヲル達の存在を忘れていたがあの光景は当然見られていると気付くアスカ。
きゅーっとつま先から頭のてっぺんまで赤くなるアスカ。
「君の心はとても純粋だね、好意に値するよ」
心持ちアスカに顔を寄せるカヲル。
「は、はぁ?」
「好きってことさ。惣流アスカラングレーさん」
『どっしぇーっ!!』
カヲルがエヴァのパイロットと聞いた時以上に大声で驚く一同。
「あ、あ、あんた何言ってんのよ!」
「カヲル!あんたますます混乱させてどうすんの!?」
「不潔よ不潔!不潔だわーっ!!」
「…センセも災難やな」
「…そうでもないよ。何となくこうなるだろうと思ってたから」
「…余裕だなシンジ。やっぱり白昼堂々とキスする奴は言うことが違う」
「…ケンスケ」
「ふーふー」
(…あ、悪夢だわ。なんなのよこいつは。ファーストより始末が悪いんじゃないの?)
「ま、まぁ落ち着きましょう。ようするにシンジを好きって言うのと同じ意味よね。友情よ、友情」
とりあえず場をおさめようとするマナ。
「そうなのかいマナ?」
「あんたのことでしょ!!」
思わずカヲルを締め上げるマナ。行動がとみにアスカに似てきている。
「シンジと惣流はともかく霧島もとんだお隣さんが出来て災難やな」
「トウジはどうなんだよ?」
「ま、わしはとりあえず蚊帳の外みたいやし、仲間がふえるのは心強いわ」
<ネルフ本部 ミサトの部屋>
「ミサト!!」
ドアを開けて仁王立ちのアスカ。
「あらアスカ、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわよ!何なのよあいつは!?」
ミサトに詰め寄るアスカ。
「あいつって?」
「フィフスよフィフス!」
「あー渚君。そういやパイロットって言ってなかったわね~」
心持ち目をそらすミサト。
(…たはは、やっぱりばれたか。当然ね)
「そうじゃなくて!」
その後ろからシンジが入ってきて軽く頷いた。
「あー彼1回死んじゃった件?」
けろんとしてとんでもないことを言うミサト。
「でも、シンジ君から話聞いて納得したんでしょ?」
「シンジが信じてるって言うからよ!!」
「じゃあ何?…あ、そうか、ふーん」
ミサトが冷やかしモードに変わる。
「な、何よ?」
「シンちゃんと仲がいいのが気にくわないんだ~」
「ア、アタシは別に!!」
「大丈夫さアスカ」
「あ、加持さん」
「シンジ君に限って心配無用さ。それに、白昼堂々、天下の公道でシンジ君にキスしてもらったそうじゃないか。それでも不満なのかい?」
「あ、な…」
またしても真っ赤になるアスカ。
「へーそうなの?やるわねシンちゃん」
「…ははは」
シンジはどうしていいのかわからず頭をかく。
「よかったわねアスカ。渚君よりアスカの方がいいって行動で示してもらえて」
アスカには言い返す言葉がない。
「でもシンジくんと渚君は一緒に風呂に浸かって同じ部屋で寝たことがあるくらいだし」
「ぬわぁんですってぇー!?」
「ネルフ本部の大浴場だよ!男同士なんだから風呂ぐらい入ったって問題ないだろ!?」
「それともアスカもシンちゃんとお風呂に入りたい?」
「え?」
「一緒の部屋どころか同じベッドの中で寝ても別にOKよん。あ、その先はあたしのいない時だけにしてね」
「な、何言ってんのよミサト!」
「あーら照れなくてもいいじゃない。アスカのお願いならシンちゃんはいつでもオーケーよ、ね?」
「ですから…ね?と言われても困るんですが…」
<マナの部屋>
「いやーおいしかったよ。すまないねマナ」
カヲルは笑顔で言った。
「ぜんぜんすまなそうな顔じゃないわね」
そういいつつマナは湯飲みをテーブルに置いた。
食料その他を買い込んだもののカヲルが生まれてこのかた料理をしたことがないと判明。
やむを得ず今日の所はマナの家でごちそうになると決まったのである。
ちなみに腕を披露しようとしたシンジは、
「アタシの弁当をあげただけで十分よ!」
と言うアスカに連行されてネルフ本部へ向かった。
「しかしカヲルって本当に人騒がせね」
「そうかい?」
とりあえず手伝わせてみたところ、ただやったことがないというだけで教えればすぐに出来ると判明したので数日基本レクチャーを行うことになっている。
「とりあえずお礼を言っておくよ。いろいろありがとうマナ」
「別にいいわ。ネルフに行ってないときは割と暇だし」
シンジの場合と違ってマナは見習い中である。普通に学校に通うかたわら少しずつ勉強し大学卒業後正式に再審査を行いネルフ配属となる。そのためネルフに行くのは週に数回。学習塾と同程度である。
「そうかい。ところで一つ聞いていいかい?」
「何?」
「君もシンジ君が好きだね」
それは質問でなく確認だった。
反論しようとしたマナだが、カヲルの瞳を見ると反論する気が失せる。
(…不思議な瞳。本当に変な奴ね。いつもいつも笑ってて)
「…まあね。もっともあたしは身を引いちゃったけど。せめてもの救いは負けた相手がアスカということね」
マナは素直に言った。
「そうかい」
カヲルはそれ以上何も言わずマナを優しく見つめた。
チルドレンのお部屋 -その6-
アスカ「…………」
レイ 「……カエルみたいな顔してどうしたの?」
アスカ「あんたねぇ!!」(思わずレイの顔を左右に引き伸ばす)
レイ 「ひ、ひふぁい(痛い)」
トウジ「ま、複雑な心境なんやろ。変な奴が現れて気にくわんがおかげでシンジとも仲良う出来る」
カヲル「いや、リリンの心は本当に繊細だね」
トウジ「……渚も割と天然はいっとるな」
アスカ「ちょっとファースト! なんでひと思いに毒殺しなかったのよ!?」
レイ 「だって……」
アスカ「だって何!?」
レイ 「……碇くんが悲しむもの」
アスカ「……しょうがないわね。死なない程度に殺しましょう」
シンジ「アスカ、それ日本語になってないよ」
アスカ「シンジは黙ってなさい。とりあえずロンギヌス……の槍は殺しちゃうから駄目か」
カヲル「硬化ベークライトで固めてみるというのはどうだい?」
アスカ「いいわね、ジュラルミンケースに入れて芦ノ湖に沈めようかしら……あんたのことでしょ! あんたの!!」(カヲルを締め上げる)
カヲル「はは、そんなに首を絞めないでくれないかい。ヘヴンズドアが見えそうだよ」
トウジ「……渚の奴、なんや結構余裕あるな」
シンジ「見えない程度にATフィールドを張っているみたいだよ」
レイ 「…………」(どこからともなく黒いシマシマ模様のボールを取り出す)
シンジ「あ、綾波、それは……」
レイ 「……どいて」(ボールをカヲルの上に投げ上げる)
アスカ「ちょっ!」(あわてて逃げる)
カヲル「おや? 不思議だね、だんだん床が近づいて……」(そのまま床に消える)
シンジ&アスカ「「ディ、ディラックの海!?」」
レイ 「……これなら死なないわ」(にっこりとシンジに微笑む)
つづく
予告
上洛、東京…日本人の心に深く根付くその都の名は京都
その地に辿り着く、ただそれだけのために
人々は血を流し戦うことさえあった
シンジ達が初めて訪れた京都
そこは彼達にとっても戦いの地なのか
男達は古都に戦いしか見ることはできないのか
女達は彼らに掛ける言葉を持たないのか
シンジとアスカは二人何を思うのか
次回、新世界エヴァンゲリオン
第七話 過去の予感
次回もサービスしちゃうわよん!