「あ~、ところでそろそろいいかしら?」
<発令所>
カメラの向こうでばっとシンジから離れるアスカ。シンジも真っ赤な顔のまま取り繕う。しかし、無意識にお互いを見てしまい、視線が合った二人は更に真っ赤になってうつむく。
「…まったくお見合いやってんじゃないのよ」
ミサトは呆れて言った。
もっともミサトの顔もかなりゆるんでいたりする。
時間はしばらくさかのぼる。
「う…うぅ」
「どうしたの鈴原君?」
「わしこういう場面に弱いんです、うぅ…」
もらい泣きしているトウジ。
発令所の面々は微笑ましく二人を見守っている。
しっかり二人の後からやってきたマヤも自分の席でハンカチを手にうるうると泣いていた。
「本当によかったわね二人とも…グス」
メインスクリーン上でシンジがアスカを抱きしめている。
アスカはあふれる涙をこらえることもせず大声で泣き続けている。
「…リツコ」
ミサトは小声でリツコに話しかけた。
「大丈夫よミサト。既に松代にもバックアップを行っているわ」
得意げにリツコが言った。
「さすがは赤木博士。たよりになるわ」
ぐっと親指を立てるミサト。珍しいことだがリツコも親指を立てて応えた。
「ま、当然ね」
二人の背後でゆっくりと司令席が下がっていく。
「碇司令?」
ミサトが気づいたときにはゲンドウは消えていた。
「さすがに皆の前では醜態をさらしたくないのだろう」
冬月が苦笑して言った。
二人の告白がすむと発令所の面々はほーっとためていた息をはきだした。まさに文字通り息をのんでみていたのである。
「う、う、う…」
マヤは感動のあまり涙が止まらないのか両手で顔を覆っている。
「生きててよかった!この仕事続けて良かった!俺は本当にそう思うよ青葉君!」
「そうっすね!なんか頑張ろうって気になりますね日向さん!」
なにやら両手を握り合っている二人。
「うっうっ本当によかったなぁ二人とも」
トウジはひたすら二人の幸せを喜んで泣いていた。
「さて、と」
マイクを取るリツコ。
「リツコ?」
「…ずっとあのままにもしておくわけにもいかないでしょ」
「それはそうね~野暮は百も承知だけど、いいかげん当てられてこっちまでのぼせそうだわ」
「そう、じゃお姉さんにお願いするわ」
「…あんた母親でしょ?」
「シンジくんのね。まだアスカの母親にはなってないわ」
「…ずるいわよリツコ」
そして再びケイジ。
『とりあえず発令所に戻ってきて。そのままどこかに行ったりしないでね~』
「ミサト!謀ったわね~!!」
拳を握りしめ、肩をふるわせアスカは叫んだ。
『別にあたしだけの陰謀じゃないわよ』
「みんな同罪よ…って、あーまさか発令所で!!」
『そ、メインスクリーンで実況生中継。映画館で見るより迫力あったわよ』
「あな、あな、あな」
怒り心頭のアスカ。頭に血が上って言いいたいことが言えないらしい。
そのときふっとシンジが後ろからアスカを抱きしめた。
「シ、シンジ!?」
別の感情で頭に血が上るアスカ。
「僕がさっき言ったこと、アスカは嘘だと思う?」
首をぶんぶんと左右に振って否定するアスカ。
(…たとえ嘘でも、嘘だと思いたくない)
「僕もアスカの返事は嘘じゃないと信じてる。
ただ、僕が言いたいのはその…みんな…心配してくれてたんだってこと。
だから…」
シンジはそこで言葉を切った、アスカはわかってくれると思って。
アスカは目でシンジに答えた。
シンジは微笑むとアスカの手を取って出口に向かう。
そのままシンジに誘われケイジを出ていくアスカ。
「なんやシンジの奴、しばらく見ん間にええ男になったな」
トウジが一同を代弁して言った。
(…一回りも二回りも大きくなって帰ってきよった。わいも負けてられへんなぁ)
ミサトも同感だった。
(…シンジくんもアスカも幸せそうね。しっかりやんなさいよ。あんた達はこれからもっともっと幸せになんなきゃいけないんだから)
リツコは司令塔にもたれて目を閉じた。
(…私なんかがあんなに立派な息子をもっていいのかしらね?おまけにあんなにかわいらしい娘までもらって)
冬月は床に消えたゲンドウの席を見下ろす。
(…ふふ、これではしばらく碇は帰って来れんな。ユイ君、見ているか。君の息子はこんなにも成長したぞ)
シンジに手をつながれて発令所まで来たアスカはすでに思考が停止していた。
感じるのはシンジの手の感触のみ、脳裏に浮かぶのはシンジのことばかり。
(…私ってこんなにシンジのことが好きだったんだ)
発令所に入った二人は口笛と歓声、即席の紙吹雪に迎えられた。
シンジは照れくさそうにしながらもアスカを連れてミサト達の所に向かう。
アスカは真っ赤な顔のままシンジについていった。
「あらあら、まるで結婚式ね」
「まぁいいでしょ。どうせ本番も時間の問題だし」
ミサトもリツコも幸せそうにその光景を見ていた。
「シンジ!!」
トウジはシンジが来るのを待って声を掛けた。
「久しぶりだねトウジ」
そう言って微笑む。
「ほんまやな」
そう言ってトウジも笑った。
(…シンジ、ほんまに大きなったな。昔のシンジやったらわしの足のこととかつまらんことをうじうじ言うてわしが怒鳴りとばすところや)
ちなみにトウジの足はサードインパクトの際に元通りになっていた。
トウジに限ったことではないがそれはまた別の話だ。
トウジが手を差し出すとシンジがその手をつかみ強く握った。
「今までどおりわしらは親友や」
「うん」
シンジも変わらぬトウジの言葉が嬉しかった。
「…にしても惣流はいってしもとるの」
「そ、そう?」
トウジは今にも天井を突き破り空に舞い上がりそうなアスカを見る。
「センセも惣流を泣かせるなんてやるようになったな」
「そ、そんなことないよ」
何だかんだと言ってもやっぱり恥ずかしいシンジだった。
「あーシンちゃんアスカと同じくらい真っ赤っか」
「あら本当ね」
「ミサトさん!リツコさん!」
「ふふふふ照れない照れない。さーみんなお祭りはここまでよ!後は本番まで我慢して仕事に戻って!」
ミサトの言葉に部下達は渋々仕事に戻っていく。が、それでも彼らの顔は笑っていた。
二人の再会を演出するついでにスタッフの精神休養、士気向上を図るというミサトの作戦はうまくいったようだ。たとえ名目上であってもそういう理由がなければここまで大々的に行う許可は下りないのは当たり前だ。
「二人ともご苦労様、送って行くからちょっち待っててね」
「へ、テストはどないするんです?」
「特定の状況に置ける心拍数や脳波の変化を計測しつつパイロットの状況を観察する。
…何か問題あったかしら鈴原君?」
リツコがしらっと言った。
「あ、なるほど」
ようやく納得がいったトウジ
「…ネルフって結構お茶目な組織やったんやな」
ぼそっとシンジに言う。
「首脳部に問題があるからね」
シンジがしみじみと言った。とりあえず自分はまだ首脳部ではないつもりらしい。
「あぁわしも最近そう思うわ」
「何か言ったかしら?」
「「いえ何も」」
「そーそーアスカ聞こえてないでしょうけどシンジくんは今日からまたあたし達と一緒に暮らすことになったから。よかったわね~」
「ミサトがでしょ」
冷静に突っ込むリツコ。
「そーよ。うらやましいでしょ~」
「…まぁね」
「あら…正直ね」
「…たまにはね」
ミサトは無言でリツコの肩に手を回した。リツコも素直に身を委ねる。
一方、
「何!?またかいな!うらやましいぞシンジ!」
率直にうらやましがるトウジ。
「え?」
ふっと顔を上げるアスカ
「一緒に暮らしてもいいかなアスカ?」
照れたままシンジが言った。
「…うん…」
つぶやいてまたうつむくアスカ。
「ちなみにアスカと鈴原君のクラスに転入することも決まったからね~」
「そりゃほんまでっか?」
ぱっと明るくなるトウジ。
「本当だよ、これからもよろしくねトウジ」
「何や水臭い、こっちこそよろしくたのむわ」
「ちなみに明日みんなを驚かせるまで、ネルフのトップシークレット。他言無用よ」
「まかといてください。こんなおもろいこと、やなかった大事なこと、口が裂けてもいいません」
次にアスカの正気が戻ったのはシンジの手料理が葛城家の食卓に並び終わった後だった。
その夜、宴は大いに盛り上がり、幸せのあまりビールを飲み過ぎたミサトは数年ぶりに酔いつぶれることとなった。