第拾八話 黒と白

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ここはどこ?

 

 

暗い水面。

映る満月。

 

 

…LCL? エヴァの心の中? それとも夢?

 

 

だが、量産機たるエヴァシリーズに人の魂は込められてはいない。

エヴァの精神もシンジの精神にここまで干渉するには至らないだろう。

 

 

…トウジも同じなのかな?

 

 

周囲を探るが何もない。

ただ、満月が映る水面が続くのみだ。

自分が水の上にいるのか水の中にいるのかそれさえもわからない。

 

 

…水、みず、ミズ、water

…血の臭いのしないただの水

 

 

ピチャン

水滴の落ちる音

 

 

…綾波!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン

カンカンカンカンカン

窓からは夕暮れの赤い日差しのみが注ぎ、外をうかがい知ることは出来ない。

左右に座席がならんでいるのみでがらんとした車内。

乗客は一人。

学生服に身を包んだ自分だけ。

 

 

 

…またこの電車、か

 

 

シンジは苦笑すると座席を立った。

以前はただ座っているだけだったのに、我ながら大した進歩だ。

少し大人になったということかな?

 

 

「綾波! いるんだろ? 綾波!」

 

 

そう呼びかけてみる。

同じ車両には誰も見あたらない。

 

 

…とりあえずは目的地を確認、かな?

 

 

進行方向と思われる側の扉に向かう。

 

 

 

「ちょっとバカシンジ! 何こんな所で油売ってんのよ!!」

 

 

「アスカ!?」

 

 

慌てて振り返る。

しかしアスカの姿はない。

 

 

…これがぼくの精神世界だとすると、それだけアスカに会いたがってるって事かな?

 

 

冷静に分析しながらもつい笑いのこぼれるシンジ。

 

 

…だとすれば綾波に会えたとしてもそれも僕の願望に過ぎないのかな?

 

 

「相変わらず後ろ向きなんだね」

 

 

子供の声がした。

シンジは振り返らない。

 

 

「かもしれないね…そんなに簡単には変われないから。

でも無理して変わることもないと思うんだ。

たぶん、それでいいんじゃないかな?」

 

 

「………」

 

 

返答はなかったが微かに雰囲気が和らぎ、そして消えた。

 

 

 

シンジもそれなりに心理学に通じている。

これが夢だとして、どういう分析結果になるのかおもしろくなってきた。

身体の向きを変えると扉を開き足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「おうシンジ!」

 

トウジ

 

「ようシンジ」

 

ケンスケ

 

「いーかーりー君」

 

委員長

 

「シーンジ!」

 

マナ

 

「碇君」

 

山岸さん

 

「碇シンジ君」

 

カヲル君

 

「どうしたのシンジ君」

 

マヤさん

 

「シンジ君じゃないか」

 

日向さん

 

「やぁシンジ君」

 

青葉さん

 

「おやシンジ君」

 

副司令

 

「あらシンジくん」

 

リツコさん

 

「よっシンジくん」

 

加持さん

 

「…シンジ」

 

父さん

 

「シンちゃ~ん」

 

ミサトさん

 

「バカシンジ!」

 

アスカ

 

 

 

 

「クス」

 

シンジは笑った。

 

「出ておいでよ綾波」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…碇くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??パートへ


プラグスーツ姿の二人は静かに満月を見上げていた。

レイは何も言わなかった。

シンジも何も聞かなかった。

たぶんそれでいいのだろう。

 

 

 

「時間よ」

 

 

 

レイがエントリープラグに向かう。

シンジはレイが続きを言うより先に言った。

 

 

 

「じゃ、またね綾波」

「!?」

 

 

レイがはっと振り返る。

シンジは優しい微笑みを浮かべると繰り返した。

 

 

「じゃ、また会おうね綾波」

「…………………」

 

 

シンジはレイが消えるまで待っていた。

 

 

 

「………………………………………………………………………………………じゃ、また」

 

 

レイはそう言うとかすかに赤くなってうつむく。

それを優しく見守るシンジ。

しばらくして顔を上げたレイは微笑んでいた。

そのままゆっくりと消えていく。

シンジは最後まで見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ありがとう」

 

 

 

 

 

 

Fly me to the moon


Fly me to the moon

And let me play among the stars

Let me see what Spring is like

On Jupiter and Mars

In other words, hold my hand!

In other words, darling, kiss me!

Fill my heart with song

And let me sing forevermore

You are all I long for

All I worship and adore

In other words, please be true!

In other words, I love you!


「目標を確認、これより回収作業に入ります」

既に通信は届かないのだがカヲルは気にせず報告した。

視界に映る細長い物体。

それはゆっくり回転しながら虚空を漂っていた。

「もはやリリスがいないとはいえこれを再び用いるなんて、つくづく物騒な人達だね」

そうつぶやくカヲルの顔はどこか楽しげであった。

八号機の両手ががっしりと柄をつかむ。

二つに分かれた穂先が太陽の光を受けて鈍く輝いていた。


チルドレンのお部屋 -その18-

 

 

トウジ「………」

アスカ「………」

シンジ「………」

トウジ「……なんちゅうか」

カヲル「不思議な雰囲気の話だったね」

アスカ「相変わらずレイが出てくると独特の雰囲気をかもしだすわね」

シンジ「そうだね」

トウジ「おかげで話の内容まで気が回らんかったわ」

カヲル「別にシンジ君の出番は減らなかったね」

アスカ「レイが出張っているなら当然の結果よ」

カヲル「かわりにアスカ君の出番がなかったようだね」

アスカ「うるさいわね! ほっといてよ!」

シンジ「まぁまぁアスカ」

トウジ「しかしほんまにようわからん話やったな」

カヲル「原作の特徴だよ。とりあえず謎をばらまく。しかも必ずしも謎を全て解く必要はない……おや噂をすれば」

レイ 「…………」

シンジ「……や、やぁ綾波」

レイ 「…………碇くん」

シンジ「……な、何?」

レイ 「…………何でもない。ただなんとなく碇くんの名前を呼びたくなっただけ」

シンジ「……そ、そう」

レイ 「…………」

シンジ「…………」

アスカ「………………」(おもしろくなさそうに足踏みしている)

トウジ「惣流、やせ我慢は体に毒やで」

アスカ「うるさいわね!!」

トウジ「……わいにあたらんでもええやろ」

カヲル「そのとおりだね」

アスカ「……アタシは公明正大をモットーにしてるのよ。ヒロインの座をもらった以上たまにはレイにもシンジを貸してあげないとフェアじゃないでしょ……」

トウジ「難儀なやっちゃな」

カヲル「君の心はガラスのように繊細で美しいね。好意に値するよ」

シンジ「アスカ」

アスカ「な、なに?」

シンジ「綾波が3人で遊園地に行きたいって」

アスカ「さ、3人で……(そ、それならいいかも……って駄目駄目!)ア、アタシは遠慮……?」

レイ 「…………」(アスカの服の裾を引っ張ってプルプルと首を振る)

アスカ「…………」

レイ 「…………」

シンジ「アスカ?」

アスカ「しょ、しょうがないわね! あんた達だけじゃ心配だから保護者としてついてってあげるわ!」(結構うれしそう)

シンジ「うん、ありがとうアスカ」

レイ 「…………」(にっこりと微笑む)

 

 

つづく

 

 

予告

そこはいつか訪れるべき場所だった

それは終わるために始まった

ネルフ

それは人類の最後の砦

ゼーレ

それは人類の過去の影

次回、新世界エヴァンゲリオン

第拾九話 薫風

お楽しみに