ケーキが切り分けられ、料理に舌鼓を打つ一同。
相変わらずの美味しい料理に食べることに没頭したくなるのだが、とりあえずミサト達が酔っぱって収拾がつかなくなる前にとプレゼント攻勢が始まる。
一番手 鈴原トウジ&洞木ヒカリペア
「おめでとさんシンジ」
「おめでとう碇君」
「ありがとうトウジ、委員長」
「なーに気にすん…わかっとるがな。せかすな委員長」
ヒカリに肘でつつかれトウジは手に持った紙袋から厚い本を取り出す。
「わいと委員長からのプレゼントや」
「何?」
「壱中の卒業アルバムよ」
「え!?」
「時間はえろうかかったんやがなんとか中学の内に学校が再開したけんな、卒業アルバムもあるんや。けどセンセは途中でおらんなってしもたからもらえんかったやろ」
「一人一冊だからね」
「でも、これは委員長かトウジの…」
「だからわいらからのプレゼントや。わいは見たくなったら委員長の所に行くよって」
「二人で決めたの。碇君もアスカに見せてもらえばいいのかも知れないけど、また急にアメリカに行くようなことがあるかも知れないしね」
「…うん、わかった。ありがたくもらうよ。二人ともありがとう」
二番手 相田ケンスケ
「おめでとうシンジ、これは俺からのささやかな贈り物だ」
大きなブリーフケースを手渡すケンスケ。
カサカサ音がする所からして何か入っているようだ。
「ありがとうケンスケ、中を見てもいい?」
「ああもちろんだ、くくく」
ケンスケの不気味な笑いを気にしつつもケースを開けるシンジ。
中からは大量の写真が出てくる。
「!?」
一目見て素早く中身を戻すシンジ。
「なぜ隠すんだい?」
加持が尋ねる。
「え、えっとそれは…あっ!」
加持に気を取られている隙に絶妙のコンビネーションでケースを奪うミサト。
そのままとっとと中身をぶちまける。
「あ、ミサトさん!」
「あらあら」
そういいつつミサトは写真を広げる。
「ちょ、ミサト!!」
アスカも慌てて写真を隠しにかかる。
写真にはシンジとアスカが二人で写っていた。
ただ普通に写っていたのではなく腕を組んだり、抱き合ったり、キスしたり…
「ケンスケ!」
「秘蔵品だ、大事にしてくれよ」
ケンスケの眼鏡が怪しく光を放った。
三番手 霧島マナ
「はい、シンジ。あたしのプレゼントはこれよ。大事にしてね(はあと)」
「あ、この帽子…」
マナの差し出した白い帽子を見て思い出すシンジ。
「ちゃんと覚えててくれたんだ~」
満面の笑顔を浮かべるマナ。
「う、うん」
「そーよね。あたしがシンジと初デートしたときの帽子だもんね~」
そういいつつアスカの方を見て、その姿勢のままで言葉を続ける。
「あの頃はまだアスカと付き合ってなかったはずだからシンジも初デートの相手はあたしよね~?」
ぷるぷるぷるとアスカが震えている。
握りしめた拳からして懸命に怒りを堪えているらしい。
「…やるわね霧島さん」
「なるほどただでは引き下がらないというわけね。
撤退するにしても弾は全部使い切って敵をさんざんたたいておくタイプか。
リツコ、こっちの方に譲る気ない?」
「あらこちらにも新しい風を入れなきゃね」
「ありがとうマナ、大切にするよ」
「うん」
と、帽子を置いた瞬間シンジはがっし、と襟首をつかまれる。
「ア、アスカ!?」
そのままシンジはアスカに連行されていった。
「お大事に~」
マナはひらひらと手を振って二人を見送った。
四番手 山岸マユミ
「はい、碇君。お誕生日おめでとう」
そういってマユミは紙袋を手渡した。
「ありがとう山岸さん。何が入ってるのか聞いてもいい?」
山岸さんなら安心だ、そう思ってのんきに尋ねるシンジ。
「ええ、もちろん。アスカさんとおそろいのエプロンよ」
「エ、エプロン!?」
おもわずひきつるシンジ。
「ア、アタシとおそろい?」
こちらは赤い顔で何を考えているのかわからないアスカ。
「ええ、二人で仲良く台所に立って料理をして…」
どこか遠い目になるマユミ。
「あ、あの山岸さん?」
「マユミ?」
「…ちょっとごめんなさい」
マユミの目にペンライトの光を当ててのぞき込むリツコ。
「…駄目ね」
五番手 日向マコト
「よし、俺は隠し芸を披露しよう」
そういっておもむろに上着のボタンに手を掛ける日向。顔はかなり赤い。
『きゃー!!』
女性陣が一斉に悲鳴を上げる。まぁ当然だろう。
「よっぱらってんじゃないわよこの馬鹿!!」
人のことは言えないミサトの裏拳炸裂。
誤解を解く間もなく日向は床に沈んだ。
(…あぁ俺の腹芸が)
諸般の事情により中止。
六番手 青葉シゲル
「とりあえず、俺からは一曲プレゼントしよう」
青葉はおもむろにギターを取り出すと歌い出した。
「あら、結構やるじゃない」
アスカが言った。
思ったよりもうまい。オリジナルにしては歌も悪くない。
演奏が終わると皆から拍手が送られる。
パチパチパチパチ
「い、生きてて良かった…」
七番手 ネルフ技術部師弟ペア
「これは私と先輩からよ」
そういってマヤはノートパソコンを出した。
学校で使っている物と外見上の違いはない。
そう、あくまで外見上は。
もっとも学校のノートパソコンですら既にリツコの手が多分に入っているのだが…
「あの…リツコさん?」
「ふふふふふ。シンジくん、今回のはいい出来よ。マヤのおかげで発想の転換も出来たしこれだけのノートパソコンは世界中のどこを探しても存在しないわ」
「私と先輩の努力の結晶ですもんね」
「あ、ありがとうございます」
(…このノートパソコン一つで松代くらいはクラックできるんだろうなあ)
八番手 加持リョウジ
「シンジくん。俺からのプレゼントだが…」
喧噪の隅をついてそっと話しかける加持。
「すみません加持さん」
答えるシンジも小声で、その視線は加持の方には向けていない。
二人が会話していることに気付く者は誰一人いない。
数々の窮地を絶妙のコンビネーションでくぐり抜けてきた二人ならではだが、こんなときまでやるなという意見もまた存在する。
「いやなに、実はまだ君に教えていないことがある。
後でこっそり教えてあげるからそれでプレゼントに変えよう」
「教えていないこと?」
「そうだ。男として学んで置くべき事柄だ。もっともシンジくんにはもう必要ないかもしれないがな」
にやりと笑う加持。
「…なにかよからぬことを考えていません?」
「人聞きが悪いなあ。ま、みんなが酔いつぶれたらおいおい話してあげよう」
繰り返すが誰一人気付いていない。
九番手 渚カヲル
「おめでとうシンジ君」
「ありがとうカヲル君」
(…もう何でもこいだ!)
そろそろ諦めがついてヤケになりつつあるシンジ。
「僕からは熱い抱擁…」
ドゲシッ!!
予想通りの展開はマナの右ストレートによって中断された。
「あんたの冗談はシャレになんないのよ!!」
「マ、マナ、僕は本…」
グシャッ
アスカが倒れたままのカヲルを踏みつけた。
「あんたはもういっぺん死んできなさい!!」
ゲシゲシ
そのまま蹴りを入れるアスカとマナ。
「ひ、人の歴史は哀しみで綴られているね…」
「「わけわかんないこと言ってんじゃないわよ!!」」
彼の名誉を守るために言っておくが、彼は断じてホモではない。
だが、二人の少女にとってはどちらであろうと同じ事であるのも間違いない。
それを後目にミサトがシンジに近寄っていく。
プレゼント後半戦へ
十番手 葛城ミサトあるいは碇レイ
「うふふ、シンちゃーん」
「な、なんですかミサトさん?」
ミサトの口調に警戒するシンジ。
酔ってはいないようだがその方が余計危険なことをシンジは身をもって知っている。
「あたしからだったらいいわよね~?」
そういってシンジの首に手を回す。
「な、何がです?」
後ずさる背中に壁が当たり失敗したことを悟るシンジ。
「ほら、あの時言ったでしょ? 『帰ってきたら続きをしましょう』って」
「あ、あれはその…そ、それにミサトさんには加持さんが」
「あら加持、姉と弟の愛情確認だものかまわないわよね~?」
「ま、特に反対する理由はないな」
加持もうなづく。
「そ、そんな加持さん!」
「約束はちゃんと守らないとなあ葛城」
「やっぱりそうよね~。じゃ目をつぶって…」
そういって顔を近づけるミサト。
「あ、ミ、ミサトさん…」
スパーン!
ゴン!
「ぐ!?」
「あ痛っ!」
後頭部を叩かれたミサトは勢い余ってシンジに頭突きした。
「ちょっとアスカ! なんでハリセンなんか持ってんのよ!?」
「ふーん。これってハリセンっていうのか…じゃないわよ!!」
「リツコさんですか?」
シンジはリツコが出したのかと尋ねる。
「ああ、あれ? レイが作ったのよ」
見るとレイがハリセンをもう一つ差し出している。プレゼントのつもりらしい。
「あ、ありがとうレイ。うれしいよ」
シンジが礼をいうとレイも嬉しそうに笑った。
(…でもなんでハリセンなんだいレイ?)
考えてはいけないと思いつつも考えずにはいられないシンジだった。
「あんた何するつもりだったのよ!?」
「ちょっちシンちゃんにキスしようってしただけじゃない!」
「なんでミサトがシンジにキスするのよ!?」
「誕生日プレゼントよ!」
「そんなもの却下よ却下!!」
「何よ! 前にシンちゃんに大人のキスをしてあげたときに『続きをしましょうね』って約束したから守ろうとしただけじゃない!」
『オ・ト・ナのキス~?』
「ミ、ミサトさん…」
「ちょっとどういうことよシンジ!? 説明しなさい!!」
素早く首を絞めるアスカ。
「く、くるじいあひゅか…」
「不潔よ! 不潔よ! 碇君!」
「アスカってものがありながらー!!」
「こ、こんの裏切りもん!!」
「シンジお前という奴は!!」
「ミサト先生…うーん、ちょっと違いますね」
「シンジ君見損なったぞ!」
「シンジ君がそんな子だとは思わなかったわ!」
「へぇそうだったのか知らなかったな」
「ほほう」
「クエッ?」
「?」
めいめいに反応する一同。
「はははは、みんなその辺にしてやれ」
加持が笑って言った。
「そうよ。シンジくんが自分からそんなことするわけないじゃない。第一、シンジくんのまわりにはアスカもレイもいて可愛い女の子には困ってなかったんだから」
リツコが説明する。
「そ、それはそれでちょっと違う…」
「…ということは」
アスカが再びミサトを睨む。一同の視線もミサトに集中する。
「え? あ、いや、その、確かにしたのはあたしの方からだけど…そ、その、あれはその最後の戦いの前にシンジくんを元気付けようと…そのあたしも撃たれて死にそうだったし…」
ゴゴゴゴゴと音を立ててアスカの後ろに怒りのオーラが立ち上る。
「おや、まるでATフィールドのようだね」
復活したカヲルが呟く。
「ア、アスカ落ち着いて!!」
「問答無用!!」
「ひえええええーっ!!」
十一番手(あるいは前一番手) 碇ゲンドウ&冬月コウゾウ
「そういえば司令と副司令は何をくれたの?」
「そういやまだ開けてないや。よろしいですか?」
アスカに言われてシンジは冬月に了承を求めた。うなずいて答える冬月。
「演奏会のチケット?」
「チェロとバイオリンだ…」
茶封筒からはペアのチケットが出てきた。
「今度第3新東京市でコンサートがあると聞いてな。ささやかだがアスカ君とでも行って来たまえ」
冬月は優しく笑った。
「…ありがとうございます」
「で、で、碇司令は?」
ミサトがもう待てないと言った風情で聞く。
「落ち着きなさいミサト」
「だってー気になるじゃない」
「はいはい、えーと何かのリストですね」
「リスト~?」
しばらくリストを見ていたシンジが涙ぐむ。
「どうしたのシンジ?」
アスカがリストをのぞき込む。
「チェロの教室、演奏家の連絡先に楽器屋やチェロの職人のリスト…」
「シンジくんがチェロを弾くって知ってたのね」
ミサトもまじめな顔で言った。
「エヴァのパイロットなんかやってはいるが普通の生活でもできることはやらしてやろうってことだな」
加持が言った。
(…ネルフの司令なんてものをやることになっても自分の趣味ぐらいは続けてさせたいっていう親心か)
シンジもそれを理解したのか泣いていた。
(…父さんも副司令もちゃんと僕のことを考えてくれている。)
「ほら」
アスカがハンカチを差し出す。
「うん、ありがとう」
「いいのよ。でも今度から泣くときはアタシと二人っきりの時にしてね?」
「アスカ…」
締め 惣流アスカラングレー
「で、アスカのプレゼントは何だい」
「あ、そういやそうねえ」
「え」
一同の視線がアスカに集中する。シンジも顔を上げた。
「え、えーとその」
赤くなるアスカ。
「なに赤くなってんのよ。あたしには駄目って言っておいてキスする気なんじゃないでしょうね?」
「あらミサト、いつもキスしてるんですものそれじゃプレゼントとは言えないわ」
「それもそーね」
そう言いながらケンスケの持ってきた写真をシャッフルするミサト。
「ちょっ…もうしょうがないわね。…シ、シンジ」
さすがにおさまりそうにないと悟りアスカは口を開く。
「な、なにアスカ」
「そ、その…後であげるわ、それでいいでしょ?」
「う、うん。ありがとうアスカ」
『あーとーでー?』
「後でっちゅう事はもしかすると…」
「ちょっと鈴原何考えてんのよ!」
「まーまー委員長。ここは見逃してやろうよ」
「そうね誕生日だもの…っていいわけあるか!」
「も、もしかして…」
「仲良きことは美しきかな、だね」
「ひょっとしてひょっとするんでしょうか日向さん?」
「あ、ああそのようだな青葉君」
「二人とも何考えてるんですか!」
「なんだか孫を嫁に出すような気分だな」
「あらあら冬月先生、まだ早いですわ」
「ウギョッウギョッ」
「キャッキャッ」
「しょうがないわね。加持今晩泊めてくれる?」
「仕方ないな。ま、二人のためだし」
「ちょっとみんな何想像してんのよ!?」
アスカが叫んだ。
「何って…」
「…ねぇ」
リツコとミサトの言葉に一同かくかくとうなずく。
「まったく…私のプレゼントはこれよ」
そういって一枚の封筒を取り出す。
「ありゃ、また封筒? いまさらラブレターじゃないわよね?」
「当たり前でしょ! はい、シンジお誕生日おめでとう」
そういいながらもなぜか震える手で手渡すアスカ。
「あ、ありがとうアスカ」
「う、うん。その…えーと…寝る前まで開けないで欲しいの…」
小声で言うアスカ。なぜか全身真っ赤である。
「わ、わかったよ」
良く分からないけど重要なことなんだろうとシンジは封筒をポケットにしまう。
「えー今見せてよ!」
「駄目です!」
きっぱり拒絶するシンジ。
「えー!? いーじゃない!! 見られて困る物じゃないでしょ!!」
そういってアスカを見る。
「あ、明日の朝になったら見せてあげるわよ」
「明日の朝~?」
「シンジくんもとーとーじゅうはちかぁ。あたしが無理矢理引き取ったときはまだじゅうよんだったのにねぇ~」
ミサトもそこそこ酔っていた。
みんな既にかなり酔いが回っている。
ケーキも料理もとうに無くなりアスカやヒカリが即興でつまみを作って場をしのいでいる。
「そうですね。思い返せば弱虫で臆病で後ろ向きで、いいところなしの子供でしたね。ま、今もあんまり変わりませんけど」
そう言いながらミサトのコップにビールを注ぐ。
「そんなことないわよ。昔と違ってこんなに強いじゃない」
ミサトの顔は赤いがシンジの顔色は全く変わっていない。
「放って置いても体の方は大人になりますから」
話す二人の前には1ダース近い空ビール瓶が並んでいる。
「あーもしもし、ビール2ケース配達頼めるかな? 場所はコンフォートマンションの…」
電話で加持が酒屋に追加注文をしている。
二人と一緒に飲んでいるのにこちらもいたって素面である。
意地を張って頑張っていたアスカはしばらく前にトイレに消えた。
「みんなももーすぐじゅうはちねー」
そう言って教え子たちを見渡す。おもわずひくトウジ達。下手に捕まるとつぶされるのは目に見えていたのでミサトの近くから逃げていたのだ。
オペレータ組は3人でちびちびとやっている。何だかんだ言っても仲の良い3人組である
リツコはレイがペンペンと寝て手が空いたので冬月と飲んでいた。
「ちょーどいい機会だから聞いておきましょー。みんな自分の進路は決めた?」
思わず顔を見合わせてからミサトを見返す子供達。
ミサトは酔ったふりをしてるがまだまだ素面なのだとわかる。そして、酒に任せたふりをして実は真剣に聞いているのだと。
そのくらいは分かるくらいに彼らもミサトを知っていた。
少し考えた後ケンスケが口を開く。
「俺は卒業したら第二東京の防衛大に進もうと思っています」
「ぼーえーだい?」
「てことは戦自かい?」
加持が確認する。
「はい。士官として戦略自衛隊に入隊するつもりです」
「ケンスケらしいな、やっぱ軍人か」
トウジがうなずく。
「最初はたんなる趣味だったけどね。シンジ達と知り合ってネルフのことを知ることが出来て、本当の戦いっていうのはどういうことなのか考えさせられた。でも、俺にそれを語ることは出来ない、本当に戦ったことのない俺にはね。だから俺は一度軍隊の中に身を置いて戦いってものがどういうものなのか身をもって味わってから判断を下したいんだ。
本当はネルフに入れればいいんだけど今の俺じゃ無理だからね。まずは戦自で自分を試してみようと思うんだ」
「…そう、がんばんなさい」
ミサトは真剣な顔でそして少し微笑んで言った。
「はい!」
「私は医大に行こうと思っています」
次に話したのはマユミだった。
「看護学校…じゃないのね?」
「はい。以前ほんの少しですけどこの第三新東京市にいたとき、使徒の攻撃でたくさんの人が死んだり怪我したり…あ、みなさんのせいじゃないですよ! みなさんが頑張ってくれたからあれだけの被害で済んだんですから!!」
ネルフ首脳部一同及びパイロット達の顔が暗くなるのを見て慌てて言葉を続けるマユミ。
「ありがとう山岸さん、続けて」
「はい。…その時の私はシェルターにただ隠れていることしかできませんでした。それは仕方のないことです。戦いの間私にできることなんてないですから。でもシェルターから出た後も私には何もできなかった。それがずっと心残りだったんです。だけどあの生徒会の立候補の時の碇君の演説を聞いて思ったんです、それでくじけるんじゃなくて自分に出来ることを探してみようって」
「それでお医者さん?」
「はい。私は戦うことなんてできませんし、みんなを守ることもできません。ですけど怪我や病気になった人を助けることぐらいはしたいって…今の私の成績じゃ厳しいかも知れないけどやってみようって思います」
「大丈夫よ、やる気さえあればね。それにあなたには一流の教師とタメをはれる教師みたいな友達が二人もついてるからね」
そういってミサトはウィンクした。
「ミサト先生も入れて3人ですよ」
そう言ってマユミは微笑んだ。
「私はみんなみたいに凄いことは考えていないんですけど…調理師の免許を取るために専門学校に行こうと思っています」
「あら洞木さんらしいじゃない」
「やっぱり好きなことっていつまでも続けていけると思うんです。だから私の好きな料理を一生懸命勉強していつかこの街にお店を開きたいなって…」
「ふーん。いいわね、そういうの。普通の女の子って感じ。私たちはそういうのと無縁な生活を送って来ちゃったから…あ、嫌味じゃないのよ」
慌てて言うミサト。ヒカリはうなずき、
「ええ、わかってます。だから私もそんな皆さんに料理を食べてもらえるような…私のお店でならみんなも普通の人としてのんびりできるようなそんな場所を作って、いつか違う立場や遠い人になってもみんなが会えるような場所にして、いつまでもみんなと一緒にいられたらなって思うんです」
「………ありがとう洞木さん。でも、ちゃーんと自分のこと考えてる?」
「自分のこと?」
「そ~、たとえば一緒にいたいのは誰かな~とか?」
「ミ、ミサト先生!」
「あたしは第二新東京の大学に進学して勉強して勉強して勉強して………」
「ちょ、ちょっと霧島さん?」
ミサトが心配して声をかける。
「はっ! あたし何を!?
…え、えーとそれでうまくいけばネルフに就職して技術者としてやっていきたいと思っています」
「待ってるわよ、霧島さん」
リツコが微笑む。
「は、はい」
「しっかり自分の力を付けておかないと後が苦しいわよ。うちは人使いが荒いから」
「わかりました!」
「ねぇマナ」
シンジがぼそりと言った。
「なにシンジ?」
「本当にネルフに入りたい?」
「い、いきなり何!?」
「僕たちはエヴァのパイロットだから今後もネルフに所属する必要がある。
でも、マナは委員長や山岸さんと同じように普通の女の子として生きれるんだよ?」
加持もミサトもリツコも冬月もオペレータ3人も真剣な目でシンジを見た。
ネルフに所属するということがどういうことか彼らは知っている。そしてどんな経緯があれ選んだのは彼ら自身なのだ。最後には自分の意志で決めたとはいえエヴァに乗ることを最初から決められていたシンジ達とは違う。
「………シンジがどういう意味で聞いているのかはわかっているつもりよ。私だって似たような所にいたんだものね。でも、だからこそ考えたいの。なんで私達みたいな子達が必要になったのか? なぜ予定された戦争なんて物があるのか? それはこの世界に生きていかなければ分からない事よ。さっき相田君が言っていた事と似てるわね。そしてネルフで私が成果を上げれば私にもそれなりの力が出来る。そうすれば私が調べたいことも調べられる。それに…」
「…それに?」
「予定された戦争なんてネルフだったら簡単につぶせるでしょ?」
そういってマナは笑った。シンジもふっと表情をゆるめた。
…自分で考え自分で決める、マナもそうしているんだ。
「わいは一応、今後もエヴァのパイロットとして雇うてもらえるんでしょか?」
心配そうにトウジが言った。
答えようとした冬月を遮ってミサトが口を開く。教師としてこの話を始めたのは自分だ。最後まで自分で始末する。
「というより、あなたを手放す気はないわね。ひどいことを言うようだけど」
「そうでしょな。エヴァのパイロットが放し飼いになったら、余所からさらっていく奴もおるやろし…」
「そのとおりよ」
「そうは言うても、給料はたっぷりもらえるんですよね?」
そこでトウジがにやっと笑った。
「へ?」
「だってわいらしか動かせへんのやったらわいらの要求はそれなりに通るわけでしょ?
労働条件の改善を訴えてもばちはあたらんと思いますけど」
実際問題シンジ達には相当な金額の給料と危険手当が支払われている。
「そーねー。あたしらと違って替えがきかないものね~。危険手当も半端じゃないし」
「そうだな、俺達もそこそこ高給だがパイロットともなるとな」
「サラリーマンの年収なんか目じゃないよね」
「芸能人でも無理じゃないかな」
「い~な~私たちって公務員だから組合ないんですよね」
「…コホン」
冬月の咳払いで静まる一同。
「とりあえずそんなら妹にも楽させてやれます。今のところはわしもなにも考えれません。
でも就職先がきまっとるんなら取り合えず心配いらんよってじっくり考えますわ。
ネルフなら少なくともこの街におれますしな」
「そう。でも妹さんだけじゃなくて将来の家族も楽させてあげなきゃね~」
「な、なんのことで?」
うろたえるトウジ
「ほほぉ、先生に隠し事とはいい度胸ね」
そのままビール片手にミサトは追求に移った。
それを見ながらシンジはカヲルに聞いた。
「カヲル君は?」
「え?」
「カヲル君は何か将来のこと考えてないの?」
「うーん…」
シンジに言われて考え込むカヲル。
ちなみに相当量飲んだ筈だがシンジと同じで顔色一つ変わっていない。
「…考えたことがなかったね。ま、いいさ」
そういってシンジに笑い掛ける。
「カ、カヲル君?」
「僕はシンジ君さえいてくれれば…ぐっ!!」
アッパーカットを喰らって壁に叩きつけられるカヲル。
「だからあんたはいいかげんにしろっていってるでしょ!!」
「あ、アスカ大丈夫?」
…ていうかカヲル君の方が心配だな
「今ので醒めたわ」
肩で息をしながらアスカは答えた。手に皿を持っているところを見ると今ので駄目なら皿を投げつけるつもりだったようだ。
「ねぇアスカは何か考えている? やっぱりシンちゃんのお嫁さんかな?」
「ミ、ミサトさん」
「何言ってんのよこの酔っぱらい。アタシはあんたの作戦部に就職、いずれあんたをお払い箱にして作戦部長に就任するのよ」
「「はぁ?」」
ハモるミサトとシンジ。
「あれ? ミサト聞いてないの?」
かくかくと首を振るミサト。
「副司令、今のは本当ですか?」
「ああ、いずれアスカ君は君の下につける予定だが…碇から聞いていないのかね?」
「全然聞いてません」
「加持君とリツコ君は?」
「あの人を問いつめて白状させました」
「勝手に調べました」
「…碇め、面倒を押しつけおって」
「へーアスカちゃんがウチに来るのか」
「頼もしいですね」
「そうだね、葛城さんが二人いるみたいだ」
めいめい感想を述べるオペレータ達。
「ちょっマジ? アスカ?」
「冗談だったらもっとすごいこと言うわよ、たとえばネルフの総司令になるとかね」
そういってシンジをちらっと見る。
「あの、アスカ?」
「なあにシンジ。アタシに愛の告白? 駄目よ、みんなの前じゃ」
二人はアスカが知っていることを悟った。
「そう、アスカがそう決めたならあたし達が口出しする事じゃないわね。
でも…このあたしがお払い箱ですってぇ!?」
「何よ! ビールを飲むだけの給料泥棒のくせに! アタシが作戦部長になった方が世のため人のため税金の為よ!」
「この言わせておけば!!」
「何よ! やろうっての!!」
「やるなら相手になるわよ!!」
今日も今日とて葛城家の姉妹喧嘩のはじまりである。
「あ、あの碇君。放って置いていいの?」
マユミが心配そうに言った。すでにとっくみあいの喧嘩に発展している。
「気にしなくていいよ。あの程度じゃ怪我しないから」
「そ、そう?」
「そういやさっきの話、シンジはどないするんや?」
「僕? …僕もトウジやアスカと同じ様なものだよ。どこに入るとかは決まってないけどネルフに就職だろうね」
「そっか」
「ということは希望通りになってもまだまだみんな一緒だな」
ケンスケが言った。
「第二東京なんてすぐそこだろ。俺と山岸さん以外はここに残るわけだし」
「せやな」
「そうだね」
「じゃ、みんな一緒でいられるように」
「乾杯しよっか」
そういっみんなコップを持つ。
「アスカ!」
…シンジが自分を呼んでいる
気付くとミサトは一人で転がっていた。
「…あり?」
そんなミサトを余所にシンジ達はコップを合わせる。
『かんぱーい!!』
一同が解散してしばらく後。
「ふあ~あ。さすがに眠いや」
シンジはあくびをするとパジャマに着替えた。
数日は睡眠無しに動けるシンジであっても眠いものは眠い。
服をハンガーに掛ける。そこでポケットから覗く封筒に気付いた。
『その…えーと…寝る前まで開けないで欲しいの…』
「忘れるところだった…えーと、中には…」
折り畳んだ紙が一枚出てくる。
それを開けるシンジ。
………30秒経過。
………60秒経過。
………180秒経過。
「アスカ!?」
チルドレンのお部屋 -その15-
アスカ「なんて言うか久しぶりにFLY ME TO THE MOONでも歌いたい気分ね」
シンジ「まあ小説だから読者の方にバックでかけてもらうとか」
アスカ「それはスタンダードバージョンだけでしょ? アタシが歌ったりメロディーだけの時もあったでしょ」
シンジ「作者は買ってないけど大量にあるCDアルバムに入ってるんじゃないかな?」
アスカ「なるほどね」
レイ 「……なら残酷な天使のテーゼも」
シンジ「イメージからするとミサトさんかな?」
アスカ「多少不満があるわね……」(なんでミサト?)
カヲル「歌はいいね。心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう感じないか? 碇シンジ君」
シンジ「あ、カヲル君」
トウジ「なんでわざわざ石の上に座ってるんや?」
カヲル「この台詞は初めてシンジ君に言った台詞だからね。場所も初めて会った場所に合わせたまでさ」
シンジ「……そういう問題なのかな?」
カヲル「そうそう、確か零号機が自爆して出来た湖の上、僕は弐号機に乗るために……!?」
(美少女二人の連携攻撃炸裂。レイにATフィールドを中和されアスカの攻撃で沈む)
トウジ「口は災いの元っちゅうことやな」
シンジ「あ、光の十字架が立ってる」
つづく
予告
アスカの誕生日プレゼントは何だったのか?
慌てふためくシンジ
真紅にそまるアスカ
ミサトのマンションは大混乱と化す
混乱の渦中に巻き込まれたミサトと加持は
どう切り抜けるのか?
そして混乱は学校へネルフへ波及するのか?
次回、新世界エヴァンゲリオン
第拾六話 絆
この次もサービスサービスぅ!