第拾話 ココロの刻印

<ネルフ本部 第二発令所>

 

 

 

日向はゆっくりと身体を起こした。

頭を振って意識をはっきりさせる。

「なんだったんだ、今のは?」

隣をみると青葉とマヤも同じように不思議そうな顔をしてる。

「なんだったんだ一体?」

「なんだったのかしら?」

期せずして同じ台詞を吐く一同。

 

「補完、か…」

人々が目覚めていくのを眺めつつ冬月は呟いた。

「これが碇の息子が選んだ結末ということか…」

 

「副司令、ご無事ですか!?」

日向は冬月の姿を見てほっとした。

「ああ。君たちも帰って来れたようだな。早速だが報告を頼む」

「はい!」

3人が作業に移ると、他のオペレータ達も徐々に復帰してきた。

「MAGIのプロテクトが解かれています!」

「通常状態で稼働中、問題ありません」

「かまわん、外部との回線を開け」

「はい!」

 

次々にシステムが回復しいくつものモニターの表示が回復していく。

「これは!?」

「どうした?」

「ジオフロントが元の位置に戻っています!! 本部直上…装甲板各層及び第三新東京市跡を確認!」

「そんな!? 弾道弾を食らって大穴が空いたはずだぞ!!」

「ジオフロント内にエヴァ初号機並びに弐号機を確認! 損傷まったくありません」

「エヴァシリーズはどうなった?」

「反応ありま…いえ、ジオフロント内に2体、第三新東京市周辺に2体確認。いずれも大破。S2機関反応無し、完全に沈黙しています」

そのときハッチが開きミサトが入ってきた。

「葛城さん!!」

「ごめんなさい、遅くなったわ」

「いいえとんでもない!」

ミサトは司令塔を仰ぎ見ると冬月に敬礼した。

「君も無事だったか」

「はい、副司令もご無事で何よりです」

「なに年寄りはしぶといものだ」

「ご謙遜を」

笑みを交わすミサトと冬月。

ミサトは顔を引き締めると言った。

「只今をもって指揮に復帰いたします」

「うむ、頼む」

 

「状況は?」

「初号機と弐号機の無事を確認したところです」

「無事?」

「ええ、初号機はともかく弐号機は完全に破壊されたはずなのに…」

「…考えるのは後にしましょう。パイロットは?」

「確認できません。あ、いえ、初号機エントリープラグ内に微弱な心音確認。

…変ですね。シンジ君にしては各数値のデータが小さすぎます。質量その他のデータを見る限り赤ん坊くらい?

…パーソナルパターン照合…レイ!?」

「レイが!?」

「本当にレイだというなら問題ない。エントリープラグ内なら好都合だ、他のパイロットの捜索を優先しろ」

冬月はそう言ったものの思考に没頭する。

…レイが存在するということは補完が失敗したということなのか?いや、しかし…

「…わかりました。シンジくんとアスカの捜索、急いで!」

「はい!」

「セントラルドグマへの隔壁を全て閉鎖。同時にジオフロントから地上への出口は全て開放して」

「どういうことです?」

「あれを見て」

そういってミサトは主スクリーンを示す。

本部内のあちこちで惚けたような戦自隊員とネルフ職員が座り込んでいる。

慌てて発令所の周囲を見ると先刻までここを攻撃していた戦自の兵士達が座り込んで何が起こったのかという顔をしている。どうやら戦意はないらしい。

「とりあえず閉じこめてもいいんだけど閉所恐怖症の人がいたらかわいそうでしょ?」

そういってミサトは微笑んだ。

「変です。ベークライトを注入したエリアにまったくベークライトの反応ありません。

それに…」

「それに?」

「本部内の生命反応が異常です。半数以上の職員が死亡したはずなのに、戦自の部隊がいることを抜きにしても職員の2/3近い数の生命反応があります」

「ま、そうでしょうね」

撃たれた痛みと血が流れ出す感触を思い出す。

あれは決して幻覚などでは無かったはずだ。

「さっきも言ったけど謎解きは後でいいわ、とりあえずはパイロットの捜索よ。まだ、敵が来ないとも限らないからね」

「ターミナルドグマに生命反応!」

「!?」

「これは…碇司令と先輩です!」

「………副司令」

ミサトの目から何かを感じ取ったのだろう冬月はうなずいて返した。

「ありがとうございます…日向君ごめん、しばらくおねがい」

「わかっています」

「シンジくん達が見つかったらすぐに連絡して」

 

 

 

 

 

 

<ターミナルドグマ>

 

ゲンドウはターミナルドグマのLCLの海を見つめていた。

なにをするでもなくただ眺めていた。

「………赤木君か」

「はい…」

リツコはゲンドウの少し後ろに立った。ゲンドウは振り返りもしない。

(…この人は…)

「撃たないのかね?私を憎んでいるのだろう?」

「………」

確かに自分はそうするつもりだった。そして…

ゲンドウがゆっくりと振り返った。

だが、その視線はリツコの背後に注がれている。

視線の先を追うリツコ。

「………ミサト」

ミサトは険しい顔でゲンドウに拳銃の狙いを定めていた。

この距離なら外すことはない。

「どうした葛城君。引き金を引くなら早くしたまえ」

ゲンドウの表情に変化は見られない。

「………」

ミサトは引き金にかかった指に力を込めた。

パン!

「!」

リツコはゲンドウを振り返った。

頬を銃弾がかすめたにもかかわらずゲンドウは微動だにしていなかった。

「ミサト…もうやめて」

リツコがゲンドウの前に立ってかばう。

ミサトの顔が更に険しくなる。

だが、ゲンドウはリツコを横に押しのけた。

「碇司令?」

「狙うなら頭か心臓にしたまえ」

ギリギリと音を立てて歯を食いしばるミサト。そして…

「碇ゲンドウ!!」

パン! パン! パン! パン! パン!

ターミナルドグマに銃声が反響した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミサトは深く息を吐き出すと銃を下ろした。

銃弾は全てミサトの頭上に向かって放たれていた。

「ミサト…」

ミサトは銃をしまうと姿勢を正し敬礼した。

「ジオフロント内及び第三新東京市に確認されている敵エヴァシリーズは計4体。いずれも完全に沈黙しています。初号機並びに弐号機は健在。現在パイロットを捜索中。発見次第回収します」

ゲンドウは指で眼鏡を押し上げると一言、

「頼む」

「はっ」

再敬礼の後ミサトは立ち去った。

 

「お怪我は?」

ミサトの姿が消えるとリツコが言った。

「問題ない」

「………」

リツコは銃弾がかすめて血のにじむ頬をハンカチで拭く。

無言のリツコにゲンドウが尋ねる。

「…なぜ私をかばった?」

(…本当にこの人は…)

リツコはハンカチをしまうと顔を伏せて言った。

「…あなたを、愛しているから…」

「………そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること数時間前、しかし少年にとっては……


「もういいのね?」

「…………………幸せがどこにあるのか………まだわからない

だけど、ここにいて…生まれてきてどうだったのか、これからも考え続ける

だけど、それも当たり前のことに何度も気付くだけなんだ

自分が自分でいるために」

 

 

「でも母さんは………母さんはどうするの?」

 

 

 

「人が、神に似せてエヴァを造った。これが真の目的かね?」

「はい、人はこの星でしか生きられません

でも、エヴァは無限に生きていられます。その中に宿る人の心と共に

たとえ50億年経って、この地球も、月も、太陽すら無くしても残りますわ

たった一人でも生きていけたら…

とても寂しいけど…

生きていけるなら…」

「人の生きた証は、永遠に残るか…」

 

 

 

「さよなら…母さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ぼくたちは生きていく


<ジオフロント>

「ここは…」

空を見上げるとビルが突き出た天井が見える。見慣れたジオフロントの景色。

そして、初号機と弐号機が見守るように片膝をついていた。

弐号機の足下には見慣れた赤いプラグスーツ。

「…アスカ!!」

 

アスカの頭を抱き上げ懸命に名前を呼ぶ。

「アスカ! アスカ! アスカ! アスカ! アスカ!!」

わずかに身じろぎするアスカ。

(…生きてる!)

「アスカ! ねえ起きてよアスカ! 目を覚ましてよ!」

「………もう、うるっさいわねぇ」

かすかに瞼を開くとアスカが言った。

「…アスカ」

「ちょっちょっと!」

意識が戻った途端泣き出したシンジに慌てるアスカ。

「良かった…本当に良かった…」

「………………………………………しょうのない奴ね」

アスカは手を伸ばしてシンジの頬に触れた。

そしてそのままゆっくりと…

ギャギャギャギャギャ!!

けたたましい音を立ててジープが急停止する。

「シンジくん! アスカ!!」

止まったジープの助手席からミサトが二人に飛びついた。

そのまま二人を抱きしめる。

「ミっミサトさん!?」

「ちょっちょっとミサト! 怪我人はもっと大事に!」

「ふぇぇぇぇん、シンジくんアスカよかったよぉ~」

二人を抱いたまま泣き出したミサト。

シンジとアスカは顔を見合わせると肩をすくめた。

「ちょっとミサト、言うことがあるでしょ?」

「へ?」

アスカが照れくさそうにそっぽを向く。

ミサトは泣き笑いの笑顔を浮かべると、

「………お帰りなさい」

「………た、ただいま」

「…ただいまミサトさん」

ミサトは一層強く二人を抱きしめた。

子供達は目を閉じるとされるがままになった。

せめてもう少しの間だけでもこのぬくもりを感じ合うために…

 

 

 

 

 

 

 

<発令所>

 

三人を映し出すサブスクリーンを一瞥する冬月。

「ひとまずはあれでいいだろう。それより………碇」

「先輩!!」

ゲンドウとリツコが発令所に姿を見せた。

「…終わったのか?」

「はい、冬月先生」

「そうか…」

男二人の間にしばし沈黙の帳が下りた。

 

「直ちに日本政府に停戦勧告。続いてMAGIで全世界の情報ネットワークに干渉開始」

何事もなかったかのように命令を下すゲンドウ。冬月はいつものようにその横に立つ。

「了解しました。直ちに通達します」

「マヤ、MAGIは?」

「問題ありません。但し、Bダナン型防壁は解除されています」

「それでいいわ、すぐに情報発信の準備を進めて。送信するファイルはBの572からHの973番までよ」

いつものように淀みないリツコの指示。

マヤは泣きそうになりながらも元気良く答えた。

「はい!」

 

 

「……私だ」

「ご無事でしたか………いや、何よりです」

「君もしぶとく生き残っているようだな」

「往生際は悪い方でして」

相手の口調にいつもの調子が戻ってくる。

「お互いにな……これから攻勢に出る。君の助けが必要だ。やってくれるか?」

「…承知しました。それでは」

ゲンドウが受話器を置くと冬月が言った。

「始めるのか、碇?」

「はい、老人達はおそらく生き残ってはいないでしょうが」

「…生き残った者のつとめは果たさなくてはな。前回も今回も」

「…おっしゃるとおりです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Go to 2 years after


<2年後、すなわち現在>

 

 

 

「……ふぅ」

一区切りつけるとテキストを保存する。

ミサトはコーヒーを一口飲むと再びキーボードに手を伸ばした。

カタカタカタカタカタ


予告

惣流アスカラングレー 16歳

人類を守るエースパイロット

旧エヴァンゲリオン弐号機専属操縦者

セカンド・チルドレン

すべてにおいてパーフェクトな彼女が選んだ相手は

さえない少年だった

碇シンジ 17歳

旧エヴァンゲリオン初号機専属操縦者

サード・チルドレン

内罰的で弱気だった彼は

彼女を遙かに上回る実力をつけて帰国した

その実力を目の当たりにし

彼女には言うべき言葉がなかった

彼女が選んだ少年は彼女のプライドを再び打ち砕くのか

次回、新世界エヴァンゲリオン

第拾壱話 流れのままに

さぁて次回もサービスサービスぅ!