朝。
気持ちの良い朝。
昔は、こんな朝が迎えられるとは思っていなかった。
暖かい朝日が窓辺から私の頬をなでる。
背伸びをする。
もう、傷は痛まない。
一つだけ残して。
でも、いいの。
その代わりに素敵なものを手に入れたの。
私にとって大切な大切なモノ。
もうママに語りかけることはないわ。
頼れる人がいるから。
心を開いて受け止めてくれる人がいるから。
ふぁさっ――
あっ、シーツが落ちちゃった。
どこどこ?ちょっとぉ、シーツぅ。
私は今なにも着ていないんだからぁ、ちょっとぉ。
シンジが来る前に被らなきゃ恥ずかしいじゃない。
いくら私の全てを見られたからって、昨日の今日よぉ。
‥‥やだっ、思い出しちゃった‥‥
うー、私の顔が赤くなるのがわかるよぉ。
え~ん、シ~ツぅ、どこぉ~。目が見えないのを幸せなんて言うんじゃ無かったぁ~。
あっ!あったあった。
よかったぁ。
ばさっ
ふー、落ち着いた、っと。
でも‥‥優しかったな‥‥シンジ‥‥
私は思い出す――。
シンジの温もりを全身で感じられた時を。
全ての時間が止まったかに思えた出来事を。
‥‥幸せ‥‥‥
‥‥‥ずるいかな‥‥‥私だけこんな気持ちなんて‥‥‥
ううん‥‥‥きっと世界中の人が分かっているはず‥‥そしていつか分かるはず‥‥‥
そして‥‥あの言葉‥‥
‥‥‥嬉しい‥‥私、嬉しいよ‥‥‥シンジ‥‥‥
全ての事の始まりから既に3ヶ月が過ぎていた。
僕の悲観を誘ったこの出来事も過去のものとなった。
悲哀に暮れても仕方がない、前を向いて生きるんだ、体を押して行くんだと考え初めてから
全てが変わった様な気がする。
気のせいかもしれない、ただの自己満足かもしれない。
でも僕は今の自分が好きになりかかっている、なろうとしている。
ほとんど前と変わらない生活に喜びを感じている。
アスカがいるから‥‥
アスカの笑顔を見るのが嬉しいから‥‥‥
アスカと一緒に体を温め合う事が素敵なことだと分かったから‥‥‥
アスカは変わったかもしれない。
凄く可愛くなった。
カドが取れて丸くなったとトウジは言うけれど、僕は知っていたような気がする。
アスカの優しさを知っていた様な気がする。
分かんないけど‥‥‥ね。
「アスカ、食事ができたよ」
フレンチトーストと紅茶と載せたトレイを持ってアスカと僕の部屋に入る。
アスカは起きていた。何故かシーツを抱えてもぞもぞしている。
一昨日買ったばかりのダブルベットに僕は腰を下ろし、アスカに向かって微笑んだ。
「おはよう、アスカ」
「お、おはよ」
アスカの顔が真っ赤だ。
風邪でも引いたのかな?
僕はトレイをベット脇のテーブルに置いた後、アスカに近寄る。
「どうしたの?アスカ。熱でもあるの?」
「‥‥‥ばかっ‥‥鈍感っ」
「え?」
なんだかアスカがおたおたしている。
自分の体にシーツを捲こうとしているけど、どんどんシーツが離れていくような気がする。
ぱさっ
シーツが落ちた。
僕の目に初めてではないアスカの裸体が映る。
細い手足に、流れるような曲線を描く胸、そして薄紅の唇。
すべての部位に僕の自由は奪われた。
動けなかった。
‥‥‥綺麗だ‥‥‥
僕は、手探りで自分の身体を隠すものを探しているアスカの手を、アスカの右手を強く握り
しめ、自分の方に引き寄せた。
そして長いキスをした‥‥。
あれぇ?シーツがぐちゃぐちゃじゃない?
「おはよう、アスカ」
きゃーっ、シンジが帰ってきたぁぁぁ!
とりあえず返事をしておく。
やん、シーツぅ。私いったい今どんな格好をしているんだろ。
ふえぇーん、こんがらがっちゃったよぉ~。
「どうしたの?アスカ。熱でもあるの?」
ばかばかばか!鈍感!私の姿見なさいよ!ものすごく恥ずかしいんだから!
あっ、でも見ちゃダメぇ!!
私が焦れば焦るほどシーツは逃げていく。
だれよぉ、肌触りが良いからって、こんなにさらさらしたシーツ買ったのぉ。
‥‥‥わたしだった‥‥‥
‥‥‥私のばかぁ‥‥‥えーん。
私の戦いの健闘も空しく、友達になってくれなかったシーツは、又、ベットから滑り落ちた。
!!!!!!!!
硬直。
再起動。
あわてて手探りで獲物を探し始める。
が、強く握りしめようとするシンジの手が私の右手を襲った。
温かくて、優しい手。でもちょっと痛い。
痛いよシンジって言う前に私の口はシンジによって塞がれた。
そのまま倒れ込む私達を朝日が温かく見守っていた。
幸せだねって言ってくれているように。
うん、って心の中で呟きながら
私は昨日を‥‥一生忘れられない昨日の記憶を思い出した。
私は涙を流した。
シンジが、私がこの世に生を受けた時から使っていた言葉で返してくれるとは思ってなかっ
たから。
とても優しく返してくれたから。
そして嬉しかったから。
永遠の約束を交わした私たちを見守ってくれる神様がいたら、私にお願いしますと言わせて
ください。
私はこの記憶を大切にしますから。
‥‥‥シンジ‥‥‥愛しています‥‥‥
「アスカの目が治るかもしれないってホント?」
「ええ、可能性あるの」
「どうやって?」
「焦らないでミサト、今説明するわ」