40,000 Hit記念 プロミス ファーストサイド(仮公開)

就寝前はいつもリビングのソファが定位置だ。宿題も終え入浴を済ませた後のこの時間はのんびりした気分でTVを眺めたり、雑誌や本を読んだりする。当番の日はややこの時間も短くなるのは仕方がないのだが、それでも1時間ぐらいは夜のこの時間を楽しむようにしている。
今日はアスカが当番の日。そのアスカも既に家事から開放されバスルームで一日の疲れをさっぱり洗い流しているところだ。
やがてボイラーの音が静まり、ユーティリティのアコーディオンカーテンがさっと開かれて、ピンク色のパジャマに着替えたアスカがぬれた髪をタオルで拭きながら冷蔵庫のドアを空けてシンジに呼びかけた。

「ねぇシンジ・・・何飲んでいるの?おかわりする?」

「麦茶だよ。いいね。お願いしようかな。」

「じゃアタシも麦茶にしよっと。今いくね。」

冷蔵庫で冷やされたピッチャーは、リビングのテーブルに置かれたときには、既に無数の水滴をまとって、いかにも涼しげな風情だった。
半分ほどへったシンジのグラスを取ってアスカがピッチャーから冷たい麦茶を注ぎ足した。

「あれ?アスカも麦茶にするって・・・アスカのグラスは?」

「いいよ。アタシもシンジのグラスで飲むから。」

にっこりと笑ってアスカがグラスに口をつけ、ごくっと一口麦茶を飲み込んだ。

「はい。どうぞ。」

「あ、ありがとう。」

差し出されたグラスを受け取るシンジの顔はすでに照れて真っ赤になっている。
これならうまくいくな。アスカは内心にやりと笑っていた。

「ねぇシンジ・・・」

「なに?」

「あのね。今年は何買ってくれるの?もう決めた?」

ああ、そうか・・・もうすぐアスカの誕生日だよね。ようやくシンジも気がついた。

「えっと・・・まだ決めてないんだけど・・・」

「そう・・・なら今年はおねだりさせて欲しいな。駄目かな?」

「構わないよ。アスカが喜んでくれるなら僕も嬉しいしね。」

「ありがと、シンジ。」

 

楽しかった時間は瞬く間に過ぎ去り、そして心地良い雰囲気の残り香を微かに伝える穏やかな時の流れがキッチンに立つ二人を包んでいる。
流水の音。シンジが手際良く大量の食器を洗い、アスカがナプキンできれいに水気を取り除いてシンクの脇に重ねてゆく。

「結局アスカにも手伝わせちゃったね。」

「・・・二人でやっつけちゃえば早く終わるでしょ。」

「・・・でも」

「いいの。アタシがやりたいって言ってるんだから。」

お祝いにきてくれた彼ら二人の共通の友人達は帰っていったし、保護者である葛城ミサトも婚約者の加持リョウジと連れ立って飲みにいってしまった。
パーティがはじまるのを待たずに呑み始めていたくせに、まったくアルコールに関しては底無しのミサトであるから、今夜もパーティが終わるやいなや友人の赤城リツコ博士を電話で呼び出して、意気揚揚と夜の街に出撃していった。
加持さんも大変ですね。そう二人が話し掛けると、いつものように小さく肩をすくめてみせたけど、やはり加持も楽しそうに出かけていったから、彼にとってこれぐらいのことは苦労でも何でもないらしい。
シンジはそんな加持リョウジの気持ちが、なんとなく理解できるような気がしていた。
自分の隣に立つ少女の香り立つような微笑を見ると彼は強い幸福感を感じる。彼女が笑っていると嬉しくて、自然と自分の頬も緩んでしまう。
少年が男くさい加持の微笑みを思い浮かべると、やはりその隣には微笑みを浮かべた葛城ミサトの姿を思い浮かべることができた。きっと同じなんだ。少年はそう思っていた。

赤いVネックのセーターに映える彼女の白い胸元で、シンジが贈った小さなペンダントトップがゆれている。
ティアドロップ形の白銀のベースに、小さな6つのダイヤの石で囲まれた大粒のサファイヤの石。その色は彼女の瞳と同じ色。鮮やかな明るい碧。
ベースの部分と同じプラチナのチェーンと組み合わせて、彼女の16歳の誕生日プレゼントとして今夜彼女にプレゼントした。

「ありがとう・・・シンジ・・・」

「気に入ってくれた?」

「うん。とっても。」

「付けてみてくれる?」

「今?」

「うん。」

「じゃ、ちょっと待ってね・・・どう?」

思ったとおりに良く似合う。ペンダントトップのプラチナベースも無垢の塊ではなく透かし彫りを施され、見かけほどの重さは無い。だから彼女が動くたびに小さく軽やかに彼女の胸元で踊るように揺れ動く。そうして揺れ動くたびに、周囲を飾る小粒のダイヤと供に光をキラキラ反射してとても美しい。

集まった友人達もミサトも加持も、微笑ましそうに二人を見ていた。
考えてみれば二人が出会ってから三度目の彼女の誕生日であるのに、二人にとっては始めて祝う彼女の誕生日である。

一昨年の彼女の誕生日の前後の彼らの生活は、平和で穏やかな今とはかけ離れた過酷な日常の中にあった。思い出にすることすらまだ適わない辛く苦しい日々が、いつ果てるとも判らず続く毎日だった。傷つき壊れかけた少年と少女を助けるべき大人もまた、彼ら自身の問題に深く囚われていて、そこに悲しみだけが存在していたように思える。
そして去年の彼女の誕生日の頃には彼らは離れ離れで暮らしていた。少女はこの街で復興しつつある街で帰ってくる友人達との再会を喜び、初めて知り得た穏やかで平和な日々の中で、癒された心にかすかな思いを積み重ねながら暮らしていたし、身寄りを無くした少年は幼少の頃から身を寄せていた町に戻って、ようやく自分の心と向き合う静かなる戦いに打ち勝とうかとしている頃だった。

二人の少女と少年にも増して、彼らを知る友人達と大人達にとっても、今日のこの日は、初めて二人が笑顔で迎えることができた、惣流・アスカ・ラングレーの誕生日は、大きな喜びと感慨に胸が膨らむ特別な一日だったのである。

 

きれいに片付けられたリビングのテーブルに、温かいココアを入れたマグカップが二つ並べられた。いつもはソファに並んで腰を下ろすのだが、今日はTVを背にするようにテーブルの側の絨毯に二人で座る。

ソファの背もたれに置かれているベーシックな赤を基調としたスーツは葛城ミサトからのプレゼント。

「ほら。こういう暗めの色合いも、アスカならばっちり似合うと思ったのよねぇ」

渡されたプレゼントを早速身に付けてみせたアスカを見てミサトは嬉しそうだった。
満面の笑みを浮かべてビールをくいっとあおって喜ぶ。

そして示し合わせたのだろう加持リョウジからのプレゼントは、ローヒールのスタイリッシュな明るい茶色のロングブーツ。

「サイズはどうだい?」

「ありがとう、加持さん。ちょうど良いわ。ぴったりよ。」

アスカの親友、洞木ヒカリは彼女と同様に招かれているシンジの親友である鈴原トウジと相田ケンスケと共同で、大きなテティベアのぬいぐるみをプレゼントしてくれた。

「ちょっと子供っぽいかなって思ったんだけど・・・」

「ううん。ヒカリ、ありがと。とってもかわいいね。」

「気に入ってくれた?良かった。」

「ちょっとちょっと、俺達も忘れないでくれよ。」

「そうや。わしら三人からのプレゼントやからな。」

「そうなのよ、アスカ。これは私達三人からのお誕生日祝いなの。」

「探すの大変だったんだぜ。本当に本当の本物のテディベアなんだ。」

「なんやちょこっとしか輸入されてへんのやて。苦労したわぁ。」

「はいはい。相田も鈴原もありがとね。」

「なんや軽い思わんか?」

「ちょっと差がありすぎるよな。」

「い、良いじゃないの、二人とも。アスカだって喜んでくれてるんだし。」

「でもさ、委員長。委員長はまだしも、俺達二人って・・・」

「うっさいわね。男はいちいち細かいことは気にしないの。」

パーティといってもあくまで家庭でくつろぎながらの宴会なので、アスカは再び赤いセーターと黒のスパッツに着替えて、贈られたプレゼントは部屋の片隅のよく見える場所に並べて飾っておいた。
実際予備のテーブルも並べてあるのに、テーブルの上はほとんど隙間無く食べ物や飲み物で埋め尽くされ、こっそりアルコールに手を伸ばしていたトウジとケンスケは、いまや堂々とミサトからビールの酌を受けて大騒ぎしている。
もはや葛城家のリビングルームはパーティ会場というより宴会場と呼ぶに相応しい状況になっていた。

「ミサトさん、駄目ですって。」

「今更何を言ってんのよ。相変わらず往生際が悪いわねぇ。」

「そんなこと言ったって・・・ちょっと・・・」

彼女が席を外してあいだにシンジがミサトに捕まっていて、加持は酔って泣き上戸になったケンスケの話をうなづきながら聞いている。ヒカリはトウジの側で嬉しそうにしているし、こちらもすっかり酔っているトウジは信じられない健啖振りを示して、ヒカリが取り分けて渡す皿の料理をを片っ端から胃袋の中に納めてゆく。

「要領が悪いところも変わってないんだから。ほら、シンジ、ずれてよ。」

「ちょっとぉ。アスカ、なんで邪魔するのよぉ。」

ミサトの抗議の声を無視して、アスカは当然の権利とシンジとミサトの間に割り込むように腰を下ろしながらヒカリに注意する。

「まったく、どこにそんなに入るのよ。ヒカリ、あんたが気をつけてやらないと、この男、胃が破裂するまで食べつづけるんじゃないの?」

「やぁねぇ。大丈夫よ。鈴原はこれぐらいじゃ全然平気だから。」

「ワイの胃袋は鋼鉄製や。ど~んとこい!わっはっはっはっ。」

「・・・二人そろっていっちゃってんのね。はいはい。わかりました。」

見るとヒカリの手にもつグラスにもなみなみとローズワインが注がれていた。
ほんのりとばら色に頬を染めた様子からヒカリも完全に酔っ払っているようだ。

「ミサトね。ヒカリにまで呑ませたのね。」

まだぐちぐちと愚痴をこぼし続けているミサトを睨みつける。

「な、なんのことかしら?」

突然矛先を向けられたミサトは視線をそらせてとぼけようとした。

「だいたいアンタ、教師のくせして全っ然自覚が無いんだから!」

「なによぉ」

「どこの世界に担任してるクラスの生徒にお酒を呑ませる教師がいるのよ。」

「えっと・・・こ、ここに若干1名いると・・・思うん・・だけど・・・」

「そーいうとこが自覚に欠けてるってことでしょうが!」

「う・・・」

形勢は不利だし助け舟を求めようにも、あいにく自分の婚約者はにわか少年相談室の相談員になってしまって、飄々と『俺の青春時代はな・・・』と一説ぶちかまし始めて、当の少年から潤んだ瞳で尊敬のまなざしで見つめられて、ますますあることないこと語りはじめてすっかり気合入っているし、普段ならおよそ中立の立場で仲介役を務めてくれる少年はこの場合最初から目の前の金髪碧眼の少女の味方につくことは明白だし、そもそもが自分が件の少年に無理やり酒を飲ませようとしたところを見咎められたのが発端だし、これはもう三十六計謝っちゃうしか他に手は無いわね。

「ま、今夜はこのアタシの誕生パーティだし、少々のことは大目に見てあげてもいいんだけどね。」

「いや~~あははは。ほんと、ごめん。悪かったわ。」

ここは平謝りの一手に限る。そう思って手に持つビール缶を下げた頭の前に捧げたミサトの耳元にアスカが顔を寄せて囁いた。

「悪いと思う?本当に?」

「うんうん。本気で反省してます。」

「そう・・・じゃお願い聞いてよ。」

「へ?」

思わずあげた視線の先には顔を真っ赤に染めた少女の恥ずかしげな碧い瞳があった。

「お願い。ちょっとだけ・・・少しだけでいいの。シンジと二人っきりにさせて。」

元々日系ドイツ人のクォーターであるアスカの肌は抜けるように白い。大半の女性が嫉妬してしまうことに、日本人の肌質をも受け継いでいる少女はアングロサクソン系の女性に多く見うけられる肌のきめの荒さも無く、つややかでしっとりしとした美肌の持ち主である。
そのアスカの白い肌が頬だけではなく、Vネックのセーターから覗く胸元から耳の先にいたるまで、それはもう見事なサクラ色に染まっていて、いかに勇気を持って先のセリフを言葉にしたか、その決意の程がありありと伺えるようだった。

「二人っきりって・・・あんたまさか・・・」

「ば、馬鹿。違うわよ。そんなことじゃないのよ。」

「あっらぁ。そんなことって、お姉さん、まだ何にも言っていないわよぉ。」

ここで形勢は見事に逆転した。にやにやと笑いながらミサトはそれを確信した。

「う、う、うるさいわね。いいじゃないの。そんなこと。そ、それより、どうなのよ。アタシのお願い、聞いてくれるの?聞いてくれないの?」

既に言葉からは強い調子は失われて、合わせた膝はテーブルの下でもじもじと動き、可愛い唇は彼女の心の動揺を表すかのように、固く尖っているようだった。
なにより横にいる少年の耳に入れたくない話なのだろう。少年は先ほどから脅威の健啖ぶりを示す友人の胃袋を心配する役目を少女から受け取って、向かいに座るカップルとなにやかにやと会話することに熱中しているから、こうして額を寄せ合って声を潜めた会話の内容を聞き取れるはずもないのだが、恋する乙女の心境ではやはり気がやきもきしても当然なのかもしれない。

まったく可愛いんだから。この娘もすっかり変わったわよね。こういうこと、見ているほうが歯がゆいぐらいに意地っ張りで、いつもいつも自分の心をもてあまして、やることなすこと裏目にばっかりでてたのに。
たった半年ぐらいでこんなに変わるんだ。本当に素直になって。恋をすると女の子は変るっていうけど、見事なぐらいに変ったわよね。
まだあたし達大人の都合で縛ってしまっているのに。こんなあたし達大人の都合がなければこの娘だって、もっともっと子供らしく楽しく過ごせたきたのよね。
この姿がこの娘の本当の姿なんだわ。あたし達の都合で捻じ曲げて抑えつけてきた素直な心が、シンジくんや日本で始めて得た同年代の友人達との生活の中で、ようやく本来の姿を取り戻しはじめているのかもしれないわね。

「本当にそーいうこと、し・な・い・わ・よ・ね?」

「あったりまえでしょ!だいたいアタシが誘ったってシンジは全然気付かないんだから・・・」

「いいわ。」

濁りつつ小声になった語尾には気付かないふりをしてあげましょう。ミサトは口にくわえたビール缶を上下に振りながら、目線だけは真剣にアスカに応えた。

「もう少しして洞木さん達が帰る頃にアタシも加持を連れて飲みに出てあげる。」

「ほんと?」

アスカの瞳に強い喜びの色が浮かんでいた。

「本当にそうしてあげる。」

「ありがと・・・ミサト。」

「くすっ・・・甘えたいだけなんでしょ。」

「・・・うん。」

「いいわ。今夜は少し遅くまで加持に付き合ってもらうから。しっかり甘えなさい。」

「うん。」

「せっかくのお誕生日なんだしね。協力してあげる。」

「うん。」

「でも、ほんとーーーに、そーいうのはだけはまだ駄目だからね。」

「ば、馬鹿・・・」

「はぁ~~~」

「なによぉ。変なため息ついちゃって。」

「ん~・・・べっつにぃ。」

「なによぉ。」

「なんでもないわよ。」

「なんか気になるよ。」

「気にしない気にしない。」

「だって・・・」

2017年12月4日の月曜の夜。こうして惣流・アスカ・ラングレーは16歳の誕生日の夜、愛しい少年との二人だけの時間を幾ばくか確保することに成功した。

 

「日曜日、街にいこ!ね?」

髪はまだ生乾きだけど構わない。薄手のピンク色のパジャマの効果を充分に意識しながら、アスカは両腕で彼の左腕に抱きつくように身を寄せた。
もちろん風呂上りでパジャマの下には何も身に着けていない。ここ数年でほぼ自分の希望通りに成長したバストを押し付けるようにして甘えてみせる。
嬉しさ半分恥ずかしさ半分。人と触れ合うことに不慣れな少年としては、積極的に身を寄せてくる彼女の気持ちが嬉しくもあり、暖かくて柔らかなアスカを腕に感じて知らず心臓の鼓動が高鳴ってしまう。でもそれはむしろ心地よい緊張で、片手に握ったグラスからもう一口だけ麦茶を喉に注ぎ込むと、彼はグラスをテーブルに置いて空けたその手を彼女の頭に添えて、ぐっと自分の胸元に彼女を抱き寄せた。

「いいよ。」

「じゃ朝ご飯食べたら出かけましょ。」

「うん。」

「早起きしなくちゃ。」

「そうだね。何時頃にしようか?」

「センター街に10時過ぎには着きたいな。」

「それじゃ9時半には出かけないとならないね。」

「うん。」

「朝ご飯、8時頃に食べないと間に合わないよ。」

「そうね。ちょっと早すぎる?」

「ううん。僕は大丈夫だけど・・・」

「なぁに?」

ソファの上でぴったりと身体を寄せ合っているから、互いの顔は見えていない。しかし、ささやくほどの声の大きさでも触れ合う身体を通して微妙なニュアンスが伝わってくる。
ふいに彼の呼吸がわずかに乱れた。
抱き寄せられて彼の肩に預けていた顔を名残惜しそうに上げてゆくと、彼の視線はテーブルを挟んだ向かい側に向けられている。

「僕らは早い時間でも大丈夫だけどさ。」

「あ。あたしのことは気にしなくていいわよん。」

どっかりと絨毯に胡座をかきテーブルに頬杖をついたミサトが、片手にもったビール缶をプラプラと振りながらシンジに応えた。

「ひっさびさの完全OFFだしねぇ。お昼過ぎまでゆっくり寝てっから。」

「な、な、なんでアンタがそこにいるのよ!」

「なんでって言われても・・・あたし最初からここにいたんだけど。」

はじかれたようにソファに座りなおすアスカを見てミサトは呆れたように声をかけた。

「もしかしなくても全然気づいていなかったわけ?」

「・・・・・・」

にやにや笑うミサトの視線にアスカは全身真っ赤になって硬直している。ここで下手に口を挟むと、ますますミサトにからかわれることが判っているだけに、シンジも赤い顔のまま口をつぐむしかない。
しかしミサトにはそんな二人の反応だけで十分だった。二人の仲が親密さを増していることは先刻承知しているし、立場上自分が仕事等で不在のときに二人が間違いを犯さぬよう注意することも、野暮なことだと思いつつも忘れずに念を押している。
だが彼女がいるところでは、せいぜい腕を組んだり手をつないだりするぐらいで、時に見詰め合って照れて赤くなるシーンですら初々しく、まだまだ子供よね、と歯痒さを感じることも、しばしばのことであった。
なるほど。この子達はこういう風に互いを確かめ合ってんのね。

「ふ~ん・・・そうなんだぁ。」

「な、なによ。」

「あたしがいないときのアスカって、こ~んなふうに甘えてるんだぁ。」

「・・・・・・」

既に真っ赤なアスカの頬がさらに赤みを増したようだ。

「お姉さん、おっどろいちゃったなぁ。」

「・・・・・・」

ミサトがにやにやと言葉を続けると、さらにアスカの頬の赤みが増した。

「アスカがねぇ~~~こ~んなふうにねぇ~~~~」

「べ、別にいいじゃないの・・・あ、アタシもう寝る。」

恥ずかしさに耐え切れなくなったアスカがついに逃げ出した。

「アスカ!」

「おやすみ、シンジ!」

「ちょっと待って・・・」

引き止める間もなく立ちあがったアスカは身を翻して自分の部屋に駆け込んでいった。
ドアが勢いよく音を立てて、立ちあがったままのシンジは半身になって彼女を見送るしかなかった。

「いやぁ。熱々ねぇ。喉かわいちゃったなぁ。」

缶の底に残った液体をぐいっと飲み干すと、ミサトは空になったビール缶を左右に振りながら、恨めしそうな表情のシンジにウィンクする。

「おかわり頂戴(はぁと)」

「今日は駄目です。」

「ええ~っ!まだ5本しか飲んでないのにぃ!」

「5本も飲めば十分です。もう2リットル近く飲んだ計算になるじゃないですか。」

「いやぁねぇ。シンちゃんこそ酔っ払ってるんじゃないのぉ。まだ1.75リットルしか飲んでないわよぉ。だから。ねっ?」

「駄目です。」

「う~~~差別してる。シンちゃんたらひどい!」

「なにがひどいんですか。僕は差別なんかしていません!」

「アスカが『ね?』って言ったら何でも聞いてあげるくせに・・・」

「あっ・・・」

マッチにまとめて炎を付けたような音が聞こえたかと錯覚するほど、ミサトの言葉はカウンター気味にシンジの顔色を赤く染め上げた。

「これって差別よねぇ~~。」

「・・・・・・」

「あたしは駄目で、アスカはOKだなんて、ずっるいんなぁ~~~」

「・・・ミサトさん。」

「あ~あ。うっらやましいなぁ。アスカちゃんばっかりやさしくしてもらって。」

「・・・ミサトさん。」

「そうよねぇ。シンちゃんラブラブなんだもんねぇ。」

「・・・ミサトさん。」

「むぎ茶だって、ひとっつのコップでいっしょに飲んでたしねぇ。」

「・・・ミサトさん。」

「ほ~んと、うっらやまし~な~~・・・・・・・・・」

今夜はミサトの粘り勝ち。次々と投げられる冷やかしの言葉に、ついにシンジが折れてビールの追加を2本勝ち取ることに成功した。
冷蔵庫から取り出したビールをテーブルに置いたシンジは、真っ赤な顔のまま「もう寝ます」と言って自分の部屋に逃げ込んでいった。

プシュっと音を立てて引きあけられるプルトップから、本物の麦芽だけを使った本物のビールの芳香が湧き出してきて、ミサトは目を細めて嬉しそうに喉を潤す。

「ぷはぁ~・・・う~んまい!」

二人の子供達の部屋の方をみながら、ぐびぐびと缶の中身を空けてゆく。

「むわったく本気でうらやましいわよね。な~んだかねぇ、この歳になっちゃうとさぁ、恋人に甘えるったって限度があんのよねぇ。」

左手の薬指のキラキラ輝く石を抱いた指輪をみて、ミサトは少し寂しそうに独りごちた。

「あったし達だって学生の頃はも~ちょっと・・・だったんだけどねぇ。」

しばらく回想にふけるミサトの顔は酔った赤みとは別の赤みに色を変えていった。
ぶんぶんと音が聞こえるほど首を左右に振って手にした缶を飲み干すと、さらにビールの最後の一本も勢いよく飲み干した。

「だぁ~~~気っ持ち悪~~~。やっぱ駄目だわ。加持に甘えるとこ想像してみたあたしが馬鹿だったわね。やなもん想像しちゃったわ。寝よ寝よっと・・・。」

 

 


夜雷です。

40,000ヒット記念&アスカ誕生日記念「プロミス ファーストサイド」を暫定公開しました。
ごめんなさい、どうしても間に合いませんでした。そして書ききれませんでした。
セカンドサイドに続きます・・・た、多分・・・(^^;)

ご感想やご意見ご指導などいただけましたら幸いです。