MAGIの警告音が鳴り響く発令所。
コンソールの監視モニタ上の交点が移動を開始した。
リツコの表情が硬くなる。
時計は午後9時を示している。
「予定より早いわね・・・なぜ?」
一瞬の沈黙の後、無理を言って居残ってもらっているマヤに指示を出す。
「マヤ。回線B-13からB-15、お願いできる?」
「はい。先輩。回線B-13からB-15。こちらで担当します。
・・・えっ?これって何ですか?」
「青色のブリップがあなたに任せていた監視衛星のデータから判断したミサトの現在位置よ。緑色はサポートの保安諜報部の位置ね。いつもなら単なる監視役のエージェントが付くんだけど、今回はミサトが現場にいるから完全武装の3個小隊が出ているのよ。
それから黄色の印は戦自の諜報部ね。さっき連絡があってNERVの指揮下に入る用意があるって言ってたから、小火器の他に対人戦闘用の武器の携行をお願いしておいたの。おそらくうちの保安諜報部の小隊に匹敵する戦力が見込めるはずよ。
で最後の赤いのが・・・敵・・・そう、敵陸上部隊というところかしら?」
監視回線のバックアップをマヤに委ねたリツコは、淡々とした口調で現状を説明する。しかしその間もコンソールのあちこちを操作し、世界中のあらゆる監視システムを動員して現地の情報を収集し続ける。
特務権限で日本上空に展開しているあらゆる監視衛星が動員された事実は、即時世界中の軍事諜報関係者の知るところとなるであろう。
さすがにマヤも不安を感じ始める。形振りかまわぬ特務権限の使用。
NERVの最高幹部の一人であるリツコが発令所で全力を傾けていて、そのリツコのサポート対称もまた最高幹部の一人である作戦本部長のミサトだと言う。
「赤木博士。敵ってどういう事ですか?」
マヤの抱いた疑問を夜勤シフトの日向が口にした。
日向も不安を抱いていた昨夜の夜勤明けに唐突に受けたミサトからの指示。
日勤シフトのマヤに一般条項のみを引き継いだものの、引き継ぎ時刻前から発令所に姿を現したリツコに更なる不安感を抱いていたのだ。
夜勤シフトの時間になっても、リツコは発令所に残っているし、日勤のマヤまで居残っている。ただごとでない。
「特務権限第3項を適用すべき事件よ。」
リツコがさらりと返す。
だが、その言葉はマヤと日向を硬直させるに十分な威力を持っていた。
NERVの存在理由。使徒迎撃。その使命を果たすために必要な全ての特権を保証する特務権限第3項が適用された。
「ぼやぼやしている暇は無いのよ。」
「「は、はい。」」×2
「マヤ。回線D-01からD-18までの地上波監視データを、そちらで引き継いでデータを補正して。戦自のデータリンク回線だから中身は信用していいわ。」
「日向君は現地警察および消防に連絡して治安維持を確保。
最悪の場合、市街地戦となる恐れがあるから、至急付近の住人を非難させて。
それから戦自の航空に連絡。念のため戦闘ヘリ部隊の出動を要請して頂戴。」
「各方面、連絡、取れました。」
「日向君も情報収集作業に参加して。
現地周辺の全ての監視観測システムを動員して、存在する電波はすべて捉えるのよ。敵の動きを見逃すわけにはいかないわ。
マヤは周辺地域の交通監視システムに割り込んで、着目中の敵以外に不確定要素が存在しないか調査して。」
リツコの額にもうっすらと汗が滲み出してくる。
予定より早く動き出した目標。
さすがのリツコも不安を感じはじめていた。
沈黙を破ったのはミサトだった。
この子達のこととなると自分も感情が先走ってしまう。少し焦りすぎたかもしれない。深層意識に埋もれることで押さえてきたシンジの心の傷を直接露呈させてしまったのだ。
立ち直っていると思っていたシンジの心に残る傷の深さを、先の言葉のはしばしに感じ取ることができた。
「・・・シンちゃん?」
「・・・あ・・・は、はい。」
「やっと自分の気持ちに正直になれたのね。」
「・・・はい・・・」
柔和な微笑みを浮かべるミサトの前で、シンジは照れくさそうに頷いた。
先ほどまで浮かんでいた硬質な微笑みは消え、元来の表情を取り戻している。
「・・・アスカのこと、取りあえずシンちゃんの気持ちははっきりしたわね」
「はい・・・僕は・・・僕は今でも・・・アスカが好きです。
そのことだけは間違いありません。
ようやく自分の気持ちが判りました。」
「良かったわね。」
「はい」
「加持がね、言ってたの。」
「・・・?」
「あたしに幸せになって欲しいと思う気持ちと同じぐらい、アスカにも幸せになって欲しいと思っているんですって。
なんかねぇ・・・あたしって加持にとって一番じゃないのよねぇ。
アスカと同列に扱われるってわけぇ。」
くすっと笑うミサトの笑顔がまぶしくて、シンジもおもわず微笑んでしまう。
「・・・でも加持さんらしいです。」
「そうね。あいつらしいかもね。」
ミサトは再び幸せそうな柔らかい微笑みを浮かべて言葉を続けた。
「でも、人の幸せって、独りじゃ作れないのよ。
いっしょに幸せを感じてくれる人がいなければならないの。
あたしにとって、それは加持くん・・・そしてシンジ君・・・アスカ・・・
3人とも大切なの。あたしにとって加持くんが大切な人だってことは判ってもらるわよね。
でもね・・・シンジ君とアスカも、私にとっては加持くんと同じくらいに、いいえ・・・もしかしたらそれ以上に大切なのよ。
だって家族なんだもの。シンジくんは大切な弟。アスカは大切な妹。
だから、あたしは、シンジくんにもアスカにも幸せになって欲しいと思っているの。わかるでしょ?」
「・・・はい。ミサトさんの気持ち、判る気がします。」
「だったら、アスカの気持ちをもう一度考えてあげて。
アスカが日本に残っている意味。
ごく普通の日常生活を続けている意味。
あたし達の家で暮しつづけている意味。
どう?なぜだと思う?」
先ほどと同じ問い。しかし自分の気持ちを素直に認めたシンジは、ゆっくりと考えをまとめてからその問いに応える。
「・・・アスカは・・・その・・・僕のこと・・・
僕のこと・・・家族として認めてくれている・・・んですか?
あんなに酷いことをしてしまったのに・・・
あんなにアスカのこと傷つけてしまったのに・・・
あんなに僕のこと嫌っていた・・・いや、憎んでいたんですよね。
・・・それでも、僕のこと・・・許してくれたんですか?
・・・許してもらえたんでしょうか・・・
もし・・・許してもらえたのなら・・・アスカが許してくれたのなら・・・
・・・僕は・・・アスカに・・・
アスカに会いたい・・・会いにいきたいです・・・」
「あらあら・・・半分は正解だけど、半分は間違いねぇ。
こーいうとこ変ってないのね。ま、そこがシンちゃんらしいと言えばらしいんだけど。」
絞り出すように言い終えたシンジに、ミサトは笑いながら応えた。
こんだけ言ってもわっかんないなんて、ほとんど犯罪だわ。
アスカ・・・悪いっけどお姉さんお節介焼いちゃうわよ。
「シンちゃんがこれじゃ、泣きつづけたアスカが本当可哀相だわ。」
「・・・え?アスカが泣いた?」
「アスカはね・・・
シンジ君のこと嫌っているどころか、本当は大好きなのよ。
あの娘は意地っ張りだから、必死に否定してるけど・・・
もしかしたら自分自身さえ騙しているのかもしれないわ。
でも、あの娘が流した涙は絶対に本当の涙のはずよ。
2年前、シンジ君が出ていってしまった後・・・、
引き止められなかったことを本気で後悔していたわ。
『シンジのこと、好きなのかどうかはわかんない。
でも、ずっといっしょにいたかった。側にいてほしかった。』
って毎晩部屋に戻ると泣いてたのよ。
あのアスカがよ・・・信じられる?」
ミサトの言葉に知らず知らずのうちに顔が赤くなるシンジ。
「少なくとも・・・アスカは待っているわ。
シンジ君。あなたがあたし達の家に帰ってきてくれることを。
あたしもアスカとおんなじ気持ち。
シンジ君に帰ってきて欲しいと思っているの。」
「ありがとうございます。そう言ってもらってとても嬉しいです。」
頬を赤らめたままシンジが応える。
だが心なしか表情が暗い。
「でも・・・」
「でも?」
「・・・エヴァのパイロットを辞めてしまいましたから・・・
あのマンションには戻れませんよ。」
「そうよねぇ」
シンジの言葉に今度はミサトが考え込む番であった。
もちろんポーズである。心の中では、それっくらいのことを考えて無いわけ無いじゃない、とか思っているのだが、今は家族として姉としてシンジに接しているつもりなので、いっしょに悩んでいる振りをしなくてはいけない。
本当はいろんな実現可能なプランがあるのだが、ミサト自身が再びシンジといっしょに暮したいと思っているし、遠回りした2年の歳月を取り戻すためにも昔と同じ場所、つまりは今アスカと暮している部屋にシンジを引き取りたかったのだ。
「ねぇシンちゃん・・・今日はいろいろな事を話し合ったけどね。
そもそもシンちゃんが、あたしに電話してくれた原因って、まだシンちゃんが未成年だから十分な資産を持っても自由にできなくて困っているって事だったわよね。それでこの家とかの相続もできないし、独りで暮すことも許されなくって施設かどこかに入らなきゃならない。そうだったわよね?」
「・・・はい。そうですけど???」
突然話題が変ったことに怪訝そうな表情でシンジが応えた。
「あたしもそういった問題を何とかしよーと思って来たんだけどね。
そうするとあたしも調べなきゃならなかったのよ。シンちゃんの現状というか、シンちゃんを取り巻くいろいろなことを。
で調べてみてびっくりしちゃったんだけど、シンちゃんて実は大金持になっていたのよ。」
「は?」
「あなたは嫌がるかもしれないんだけど・・・碇司令・・・あなたのお父さんってものすごい資産を持っていたみたいでね、2年前に冬月司令がちゃんと相続手続きを済ませてくれていたのよ。碇司令もそれを望んでいたはずだと言って。
相続税分を差し引いても、40億円ぐらい残ったらしいわ。
普通に暮していれば・・・一生無くならないどころか勝手に増えていっちゃうぐらいの金額よ。」
「と、父さんがそんなにお金を持っていたなんて・・・
いったいどうやってそんな大金を・・・」
「それはあたしにもわかんないわ。NERV司令のお給料っていいのかもね。
あたしに判っていることは、全部あなたのもの、ということだけ。
本当は前のようにいっしょに暮せるのが一番なんだけど、シンちゃんさえその気になってくれれば、近くに部屋を借りるなり買っちゃうなり、どうにでもなると思うの。もちろん後見人でもなんでも喜んで引き受けさせてもらうわよ。」
「そうですね。どうにでもなることなんですね。
少し気持ちが楽になりました。
いっしょに暮せなくても近くで暮せるようになるだけでも嬉しいです。」
ようやくシンジの表情に明るさというか年齢相応の素直な笑顔が戻ってきた。
いろいろと片づけなきゃならないこともあるだろうけど・・・僕が望めば、またミサトさんやアスカの近くで暮せるのか。
2年前には逃げ出しちゃったけど、今度はちゃんとまっすぐ前を向いて生きていけるような気がする。
先生が亡くなって独りっきりになったからじゃない。
自分の意志で、自分がそうしたいから、第三新東京市に帰ろう。
安岡は眼前にいるこの男が嫌いだった。
男の名はスミス。ファーストネームはない。スミスと呼べと自己紹介した。
まちがいなく偽名。なにがスミスだ。凡庸な名前を選ぶことで、逆に怪しさを強調しやがって。そういう効果も当然狙っているのだろう。
目にも鮮やかな銀髪に灰色の感情が読めない冷たい瞳。
野戦服の上から見てもその肉体が極限まで鍛えぬかれていることが判る。
歩く殺戮マシーン。きっと眉一つ動かさず人の首をかっきるぐらいのことはやってのけるのだろう。
昨日は僥倖だった。ずっと狙っていた獲物に関する情報が期待していなかった所から転がり込んできた。
NERV・・・NERV、NERV、NERV、NERV!!!
どこにいっても何をするにしてもNERVが眼前に立ちふさがる。
2年前のあの日、何かがあった。あったはずだ。
信じていたものを失ってしまったあの日。
1浪して入学した第弐大。あの時ばかりは息子の自分の目からみても仲が悪かった両親が大喜びして、自分を祝ってくれた。嬉しかった。
浪人したとき一度は別れた恋人とも復縁できた。
手に入れた・・・彼は幸せだった。だがその幸せは長くは続かなかった。
あの日。政府や国連が発表したサードインパクトではない。絶対に違う。
何か別のこと。それが彼から全てを奪い去った。
彼は悲しんだ。怒った。理由が知りたかった。真実が知りたかった。
自分が信じていたことが嘘ではないと確かめたかった。
だがどこから調べ始めても、どんなつてを頼っても、結局NERVという言葉が出た時点で身動きが取れなくなった。
どんなにあがいても無駄だった。ただの学生の自分には手の届かないもの。それだけが事実として彼の手元に残った。
耐えられなかった。だからスミスの誘いにのった。
「おれたちと行動を共にするなら、お前の望むものが手にはいるだろう。
いや、おれたちだからこそ、政府の犬どもがひた隠しにしている真実を白日の元にさらし出すことができるんだ。
お前のことは以前から注目していたんだ。志は同じはずだ。
どうだ?おれたちといっしょに戦わないか?」
スミスは学生運動家だった。新日本赤軍というのがスミスの所属する組織の名前だった。陳腐な名称だ。だが名称の陳腐さとは異なり、組織の実体は多国籍にまたがる巨大な地下組織であった。
情報収集能力も戦闘能力もあった。
安岡も組織に加入してすぐに海外の戦闘訓練キャンプに参加した。
血反吐を吐くような過酷な3ヶ月の訓練が彼をさらに大きく変えた。
人を殺すことも覚えた。実際に敵対組織のメンバーを襲撃し殺害した。
信じられないことに人を殺すことに自分は罪悪感を覚えなかった。
いいんだ。失ったものの大きさに比べれば他人の命など何程のものか。
彼の中で何かが決定的に変ったのだ。
そうして変った今でも、やはりスミスが嫌いだった。
この男はおかしい。だがこいつと離れてしまったら、組織から離れてしまったら、自分の目的は達成できないのだ。
こう考えてしまうこと自体、巧みなマインドコントロールの結果なのだが、今の安岡にそれと判るはずがない。逆にそうであって欲しいと思い込んでいたからこそ、やすやすとスミスのマインドコントロールに屈したのかもしれない。
だが安岡は自分でこの道を選んだと固く信じていた。
そしてスミスを嫌いな自分に安心していた。
「ついに捕まえたぞ。見ろ。」
今朝方、アジトのベッドで眠り込んでいた安岡のところにスミスが意気揚々と現れた。めずらしく感情を表に出し満面に笑みを浮かべていた。
「なんだ?」と尋ねると一枚のメモを差出した。
そこには子供と女の電話を盗聴した会話の記録があった。
「これがどおしたんだ?」
「安岡。気付かないのか?この二人の名前を見ても?」
「ん?」
もう一度見た。子供の名は「碇シンジ」。女の名は「葛城ミサト」。
どこかで聞いた名だ。いったいどこで・・・
「・・・あっ!」
自分の顔色が変るのが判った。
そうだ。この女の名前は政府広報で見たんだ。
この女はあのNERVの作戦本部長じゃないか。
そう気付いてから、なめるようにメモを読み直す。
「わかったか?安岡。」
「ああ。こいつはラッキィだな。この女を押さえれば俺の目的も達成できるかもしれない。チャンスだ。」
「はぁ?何間抜けなこと言ってんだ。
重要なのは女の方じゃない。ガキの方だ。
わかってないな、おまえ。
このガキは例のほら、なんてったけ?
NERVのあのでっかいロボットか?あれのパイロットじゃねーか。」
「なに?」
「このガキを押さえて、おれたちの言いなりに動くように教育するんだよ。
最終的にはNERVを襲って、ロボットをいただくんだ。
くっくっくっ・・・考えただけでたまんないぜ。
そーすりゃ世界を征服できるだけの力がおれたちのものになるんだぜ。
こそこそ地下活動する必要もなくなる。
まっこうから政府の犬ども相手に戦えるようになるってもんだぜ。」
「ガキを押さえるって、どーすんだ?」
「おいおい。このメモに書いてあんだろ。がきの住所がしっかりとよ。
明日はこの女もガキんとこに行くらしいしな。」
「昼間っから襲うか?」
「それもありだが、目標はガキの方だ。
この女はNERVのお偉いさんらしいからな。きっとガードも厳重だろう。
調べてみるとガキの方にも常に監視の目が光ってるらしいからな。
だがお偉いさんが帰るとなればガードの注意もそっちに集中するはずだ。
そこが狙い目よ。
すぐに集められるだけ人数と武器を集めて、昼間のうちの移動するぞ。
決行は今夜だ。ガードが緩んだ隙に一気にやる。
陽動部隊を使ってガードを女の方に引き付けるんだ。
で突入部隊がガキをかっさらうって寸法よ。」
「イタリヤ支部でよく使う手だな。」
スミスの集合に応じて80人余りのコマンドが集まった。
4台のトラックに武器弾薬とともに分乗して目的に向かった。
そして今、長野県内の某市を望む山の中腹に陣取っている。
裾野から広がる住宅街の一角が目標だ。
今俺達が陣取っているポイントから、10名ずつの小隊8つに分ける。
5つは陽動部隊だ。市内に潜入して警察署などを襲撃して注意を引きつける。
当初の計画では女が帰路につくのを待って、3台のトラックで追跡。
波状攻撃でガードの注意を引きつけておく間に、残る1台のトラックを目標住居に横付けし、一気にガキをさらう予定だった。
だが一向に女が帰る気配は無い。斥候に出たメンバーの報告では、どうやら宿泊する可能性が高いらしい。
となればガードを外すためにも近すぎず遠すぎない距離で騒動を起こして、女が動かざるを得ない情況を作り出してやるまでだ。
騒ぎに気付いた女が撤収するのにあわせて、2台のトラックに小隊を1つづつ乗せて追尾襲撃させる。これも陽動だ。
ガードが女に集中する間に、市内に展開した陽動部隊をトラックで回収する。
同時に残る1台のトラックに突撃部隊をのせ目標住居を強襲。目標を拉致する。
やつらが事の真相に気付くころには、おれたちはガキを押さえてさっさと逃げ出してることだろう。
第二作戦を選択することになりそうだが、あまり深夜に行動を起こすと撤収時に検問に引っ掛かりやすくなる。
ある程度の交通量があって、かつ脱出のためのルートを確保できる程度に交通負荷が分散した時間帯。それが作戦を決行する時間となる。
どうやらこの街はずいぶんと田舎町らしい。
午後9時だというのに市内の交通量も予想以上に減ってきている。
そろそろ頃合いか・・・
「・・・スミス。いけるんじゃないか?」
「そうだな。頃合いだ。AからEは行動開始。FとGも襲撃ポイントへ移動しろ。
おれたちHは目標突入にそなえる。いけ!」
人気の絶えた山の中で殺気をあらわにした男達の集団が動きはじめた。
徒歩で山を下りるもの達は拳銃と手榴弾を懐に忍ばせている。
トラックで移動するものたちには自動小銃と小型ロケットランチャーが用意されていた。陽動には充分すぎる武器だ。
スミスと安岡が率いるトラックには、さらに催涙ガスが用意されている。
さぁ軽く一仕事だ。ガキをさらうだけの作戦に、大袈裟なような気もするが、相手がNERVとなれば用心に超したことはない。
初陣に近い興奮が有る。新日本赤軍が誇る最強メンバーの総力戦だ。
これだけの規模の恣意行動はここ10年来、世界中の地下組織でも類を見ないはずだ。明日の朝にはおれたちの声明が世界中を騒がせるに違いない。
「・・・くくくっ。楽しいな。安岡。」
「ああ、わくわくするぜ。」
この時安岡の中にあったスミスへの嫌悪感は霧散し獣性にも似た高揚感が彼の全身を支配した。
これから始まる大騒動を考えるだけで心が弾む。
おれから全てを奪ったやつらに戦いを挑むのだ。
今までの戦いとは違う。はじめて憎むべきNERVと直接対決するのだ。
これが興奮せずにいられるものか!
こんなに嬉しいことはない。今夜は最高のパーティだ!