日曜日の当直はあまり嬉しくないのだが、マヤはご機嫌だった。
夜勤あけの日向と引継ぎするとき、赤木リツコの姿があったからだ。
先輩・・・今日はずっとここにいるって言ってた。うれしい。
リツコがいる理由は判らない。でも居てくれる。それでいい。
マヤにとってリツコはあこがれの存在である。
MAGIに精通し、その卓越した知性と冷静な魂の存在がきらめいて見える。
この人に認められる人材になりたい。それがわたしの一番の望み。
最近はオペレート作業も無い。発令所に詰めてはいても、単なるモニタ監視だけが任務だ。
シンクロテストや起動試験も平和となった今では月に一度しかない。
命令によってアスカの高校の数学教師を兼務しているが、実際、教師としての労働の割合の方がはるかに高くなっている。
リツコも時折同じ高校の保健医といて勤務しているが、保健室にいるリツコに会いにいく理由も無く足繁く通うわけにもいかなかった。
だから自分の隣の席に腰を下ろしたリツコが、まるで使徒との戦いのさなかのようにコンソールやノートPCを操る姿を見られるだけで、幸せを感じていた。
「マヤ・・・そろそろ監視衛星の死角に入るわ。
さっきお願いしたとおりMAGIでデータを補完して戦自のMAGIクローンにデータを流してやって。あくまで悟られないようにね。」
「はい。先輩。」
なぜ必要なのか判らないが、リツコの指示に素直に従うマヤであった。
一応理由は聞いてみたが「大切な仕事なのよ」と笑うリツコに、それ以上問いを重ねることができないマヤだった。
「大丈夫です。葛城さん、先ほどから移動していませんから。
補正するまでもなく過去のデータを転送するだけでOKです。」
「そう。それは好都合よね。」
「はい。」
今日の当直がマヤであったことはリツコにとっても幸いだった。
少々マヤの自分に対する関心が特化していることも知っていたし、それは自分の趣味ではないのだが、こと実務面において、既にマヤの実力はリツコにとって充分満足できるレベルに至っている。後継者の筆頭候補と言っても差し支えない。
ミサトの立案した計画。自分に想像できる限りの提案は組み込んだものの、はっきり言って即興に近い計画だ。
一歩間違えば・・・文字どおり取り返しの付かないことにもなりかねない。
今のところ計画通りに進行している。
マヤに任せたラインとは別に複数のラインを使ってミサトの周囲の状況を細かく監視し、状況に応じて適切な措置を取らねばならない。
必要な戦力のお膳立ては整っている。
冬月司令からもミサトとの打ち合わせ通りに進言し全権を任されている。
ほぼ予定通りに状況は推移しているが、一瞬たりとも気を抜くことはできない。
ミサトも面倒を押し付けてくれるわ・・・
ミサトがポジションに着いてそろそろ2時間。
その周囲をカバーするように展開した諜報部のエージェント達。
予定していた通り戦自の部隊も展開している。
あとはタイミング。
そこそこの知能を感じさせる集団を選んだつもりだが、推定より賢くても愚かでも困るのだ。適切なタイミングを正しく認識できる能力を期待したい。
「先輩・・・アスカから電話なんですけど、どうします?」
さすがアスカね。何か感づいたのかしら?
「いいわ。つないで頂戴。」
通話用ヘッドセットを手に取ってリツコが応えた。
クッションを抱きしめてリビングに座るアスカの表情は暗かった。
不安な気持ちを拭い切れない。
何か変よ。絶対に納得できない。
ミサトの残したメッセージから感じた違和感がアスカの心を逆なでしている。
「リツコに聞いてみたら、何か判るのかな・・・」
自分の携帯電話を使って本部に電話する。
当直のオペレータに尋ねればリツコの所在は判るはずだった。
『なに?アスカ。』
意外にもリツコは本部に居た。日曜なのに。どうして?
「・・・あのね、ミサトのことなんだけど・・・」
『ミサトがどうかした?』
「うん。二~三日出かけるってメモがあったんだけど・・・何か聞いてない?」
『・・・特に聞いてないわ。マヤ、何か聞いてる?』
電話の向こうでマヤの声。
『いいえ、特に何もうかがってませんけど・・・』
『・・・だそうよ。何か急用だったらMAGIに連絡取らせるけど。』
「ううん。別に用事は無いからいいんだけど・・・」
『そう・・・役にたてなかったわね。ごめんなさいね。じゃ』
切れた電話を握り締めてアスカは固まっていた。
嘘・・・リツコ、嘘ついてる。
どうしてリツコまでアタシに謝るわけ?
いったい何を隠しているの?
いったい何がおこっているの?
アタシに関係あることなの?
わかんない。いったい何・・・誰か教えて・・・???
「失敗したかしら・・・」
取りあえず無難に切り抜けようとしたつもりだったが、はたしてうまくいった
ものだかリツコにも判断しかねていた。
ずいぶんと弱々しい声だったわ。アスカ・・・何か感じてるのね。
この2年で一番変わったのはあの子かも知れない。
外見以上に心の成長が著しいのね。
ミサト・・・あなたには保護者失格なんて勝手な事言ってたけど合格よ。
あのアスカがこんなにあなたの事を心配している。
何を書いて残したのか判らないけど、わずかな文面からでもあなたの心が平常ではないことを感じ取ったのね。
あなた無事で帰ってこないと駄目よ。こんなに心配してくれる家族がいるんだから・・・うらやましいぐらいね。
リツコは小さなため息をついてヘッドセットをコンソールに戻した。
そのコンソールには動かない長野県内の某市を上空から捕らえた映像をデータ処理したワイヤフレームが表示されていた。
青い点がひとつ。緑の点が3つ。黄色の点が4つ。そして赤い点が5つ・・・
それぞれの点は本来は命を持つものを示しているのだが、そのモニター上の光点は単なる図式でありゲームのコマにすぎないように見えてしまう。
リツコは自分のその考え方を嫌悪した。
わたしも変わったかもしれない。昔なら冷徹に見守ることができたのに・・・
その頃シンジは台所に立って料理を作っていた。
「シンちゃん。今夜泊めてもらっていいわよね。」
「泊まっていって大丈夫なんですか?仕事忙しいって・・・」
「いいのよ。ちゃんと言ってきてあるんだから。」
「最初からそのつもりだったんですか?」
「もっちろん。
せっかくのチャンスよ。2年ぶりにシンちゃんの手料理が食べられるだもん。
最初っから予定にいれてたよのぉ。」
「・・・くくくっ・・・ミサトさん。変わんないですねぇ。
わかりました。腕によりをかけて作りますから楽しみにしていてください。」
「きゃ~~。嬉しい!」
先ほどの会話を思い出しながら、キッチンのテーブルに頬杖をついてシンジの後姿を見つめるミサト。
なっつかしいわねぇ・・・こうしてシンジ君の料理する姿を見るの。
今ではアスカがやってんのよぉ。全部。信じられないでしょう?
って結局アスカの名前、一言も出なかったわねぇ。
どうしようかなぁ。やっぱりわたしの方から切り出すべきなのかしら。
お昼に再開してお茶を楽しんだ後、おそらくシンジが知りたがるであろうことをミサトは語って聞かせていた。
第三新東京市の復興の様子。2年を経た今ではシンジが初めて第三新東京市を訪れた頃より発展していること。
兵装ビルが無くなり緑豊かな都市公園が整備され、近代的でありながら自然との調和を目指した都市作りが進んでいること。
デパートやスーパーも再建され生活も豊かになってきたこと。
懐かしいシンジの級友達の消息。
ケンスケは佐世保に疎開。戻ってきてからますますミリタリーマニア度が高まり、第三新東京市に戻ってからは航空大学目指して頑張っていること。
トウジは大阪に疎開。心配した左足はNERVの持つオーバーテクノロジーを応用した人工義足によって、日常生活はおろか水泳以外のスポーツなら充分に楽しめる体に戻っていること。
辛い記憶であろうにシンジはまっすぐにミサトの目をみつめ真摯に聞いていた。
その黒い瞳はゆらぐことなく一言一言ミサトの言葉を受け止めていた。
疎開している間もその後第三新東京市に戻ってからもトウジの側に桐木ヒカリが寄り添っていることを知らせると、心底安心したように微笑んでも見せた。
これならば・・・と思いNERVの状況もシンジに話して聞かせた。
サードインパクト直後からのNERVの行動。
MAGIオリジナルによる情報世界の掌握と、起動不能となり放置されていた量産型エヴァの回収と修理によって、今やNERVは世界最大の武力と経済影響力を手中にしていること。
混乱しかけた世界の中でNERVが抑止力として機能しはじめたこと。
現在でもNERVは国連直属の特務機関であり、今後も戦争抑止力とオーバーテクノロジーの拡散防止の任に着くため、特務機関で有り続けるであろうこと。
話すことはそれこそ山のようにあった。
慎重に・・・慎重にアスカの名前を避けても、話題は尽きなかった。
折りに触れアスカの存在そのものを確信させる話であっても、ミサトはアスカという固有名詞を使わなかったし、シンジの口からアスカという固有名詞が語られることはなかった。
が、話題がアスカの現状に近づこうとするたびに、シンジの瞳がかすかにゆらめいてしまうことを、ミサトの目は見逃してはいなかった。
だからシンジがときおり自分の左手に輝る指輪に視線を送っても、わざと話題をそらせて加持の名を口にするのを避けとおした。
シンジにとって加持の名前も特別の意味を持つはずだから。
加持の名前を出すときには、アスカの名前もいっしょに出す。
それはミサトの決意の一つだった。
「さぁ、どうぞ。今日の料理は自信あるんです。」
そう言ってシンジがテーブルに並べた料理は豪華なものだった。
「いっぱいありますから、どんどん食べてくださいね。」
変わらぬ笑顔。変わらぬ言葉。一瞬、昔に戻ったように感じてしまう。
「おいしそう!ますます腕があがったんじゃない?」
「そういうのは食べてから言ってくださいね。」
顔を見合わせて微笑みあう。
「「いっただきまーす」」X2
「ほんと美味しいわ。」
「そうですか?ありがとうございます。」
「どれもこれも最っ高に美味しいわよ。」
「いっぱい食べてくださいね。」
嬉しそうに舌鼓を打つミサトに、その姿を嬉しそうに見つめるシンジ。
なごやかな雰囲気のうちに、またたくまに料理が消えてゆく。
「ぷっはぁぁぁぁ。幸せぇ~~。お腹いっぱいだわぁ。」
ミサトの言葉にさりげなくお茶を入れて差し出すシンジ。
「ありがとー。シンちゃん。ごちそう様でした。」
「お粗末様です。」
再びリビングに移動してソファで向かいあう。
満腹感にひたりながら無言でお茶をすする二人。
静かな時が流れてゆく。
「・・・ミサトさん、あのぉ・・・」
しばらくしてシンジが口を開いた。
「あぁに?」
行儀が悪いと知りつつもソファの背にもたれかかって上を向いているミサト。
どうやら少々食べ過ぎてお腹が苦しいらしい。
「その指輪・・・婚約指輪ですよね。おめでとうございます。」
「ありがと・・・」
姿勢をそのままにミサトは応える。
ここが肝心よね。表情の変化を悟られないように一気にいかなくちゃ。
「もう長かったわよぉ。もうすぐ32歳になっちゃうのよねぇ。
待ちくたびれちゃったわよ。
ほんと勝手なんだから、加持君たら」
「えっ・・・?!!!」
「あら、言ってなかったっけ?加持のやつ生きてたのよぉ。
あいつの形見だと思って一生懸命すいか畑守ってたのにね。
いきなり帰ってきたの。びっくりしちゃったわ。」
そこまで言ってミサトはソファの上で姿勢を正した。
正面からシンジの顔を見詰める。
シンジはまだ呆然とした顔で固まっている。
「か、加持さん生きていたんですか?」
呆然とした表情のまま固まっていたシンジの目から涙がこぼれおちた。
そのままくしゃくしゃに顔を歪めて大粒の涙をぼろぼろと流す。
「・・・よかった・・・よかった・・・
・・・加持さん生きてたんだ・・・
あは・・・あははははは・・・生きてたんですね。
よかった。ほんとよかった。」
「ありがとう。加持のことそんなに思っていてくれて」
「ミサトさん、本当におめでとうございます。」
「喜ぶのはまだ早いけどねぇ。加持のやつ当分忙しいみたいだからいつ結婚できるか判んない状態なのよ」
「そ、そうなんですか?まだ加持さん・・・ああいう仕事続けてるんですか?」
泣き止んだかと思うと少し暗い表情で問い掛けるシンジ。
心底加持のやつが好きなのね、シンジ君って。
うれしいけど・・・ちょっと心配。
シンジ君にはあーいう大人にはなって欲しくないなぁ。
加持の良いところだけ真似てくれればいいんだけど、根本的に性格が違うんだから無理して真似ることも無いんだけどねぇ。
「うーん・・・ああいう仕事といえばああいう仕事よねぇ。」
苦笑しながらミサトが続ける。
「でも大丈夫よ。今はNERVの専属だから。冬月司令の片腕ってとこね。」
「そうですか。少し安心しました。」
「その少しってのが気になるけど・・・シンちゃん本当に加持が好きなのね。」
「はい。」
嬉しそうに応えるシンジ。
「加持さんは、僕にとって信頼できる数少ない大人の人の一人です。
ミサトさんと同じぐらい僕は加持さんが好きです。
だからミサトさんと加持さんには幸せになって欲しいんです。」
あららぁ・・・聞いてるこっちが照れちゃうほど素直ねぇ。
昔は他人のこと好きとか嫌いってはっきり言えなかったのに。
やっぱり成長してるわね。
「ありがとう。シンちゃんの気持ち、とっても嬉しいわ。
加持にも伝えるわね。」
「はい。お願いします。」
「わたしはとっても幸せよ。加持にプロポーズしてもらったし、
シンちゃんともこうして昔のように話し合えるようになったし・・・
でもね、シンちゃん。あなた、いま、幸せ?」
ここよね。ここでいかなくちゃ・・・
「・・・僕も幸せです。こうしてミサトさんに良くしてもらって、
加持さんが生きていることが判って・・・
トウジのこともずっと気になってたけど長野に帰ってきてしまってやっぱり勇気がなくって尋ねてゆけなくて・・・元どおりの生活ができるようになったとミサトさんが教えてくれて、僕は救われた思いです。
今は充分に幸せです。」
「・・・ほんとに・・・?」
「ほんとですよ。こんなこと嘘言ってどうするんですか?」
晴れ晴れとした笑みを浮かべて応えるシンジ。
その表情からは本当に幸せそうにみえる。みえるけど、それは嘘。
ミサトには判る。だから正面からシンジを見つめて尋ねる。
「・・・アスカのこと、どうするの?」
「えっ」
「目をそらさないで!ちゃんとわたしの目を見て!そして応えて!」
ここで逃げ道を与えてはいけない。
ミサトは瞳に力を込めてシンジを見つめて問い続ける。
「いい?シンジくん。
アスカは今もわたしといっしょに暮らしているわ。
昔のシンジくんのように、何から何まで家のことやってくれてる。
そして高校に通っているわ。ドイツでも最高の大学をとっくに卒業しちゃってるのにね。義務教育でもない高校に通っているのよ。
ドイツに帰れば・・・いいえ、ドイツに帰らなくたって、アスカほどの能力があれば日本のどこの研究所だって採用してくれるわ。
正直言ってNERVの技術部に欲しいぐらいの人材よ。
そんなアスカがなぜ日本の高校に通っていると思う?
どうしてだと思う?」
逃がさない。その決意を秘めたまなざしをシンジは受け止めざるを得ない。
真剣なミサトの表情にみるみる苦渋の色をにじませるシンジ。
「・・・わ・・・わかりません・・・」
「ほんっとうに判らないの?」
「・・・僕には・・・アスカの気持ちは・・・」
「じゃぁ、聞き方を変えましょう。
シンジ君。あなたはアスカのこと、どう思っているの?」
時が固まって止まってしまったかのような沈黙が二人を包む。
目線をそらすことを許さないミサトの視線に、ありったけの勇気を絞り出すかのように、ゆっくりと言葉を捜すシンジ。
「・・・ぼ、僕は・・・
・・・僕は・・・あ、アスカが・・・
・・・アスカのことが・・・
・・・アスカ・・・アスカが・・・好きです
・・・大好きです・・・」
ついに言わせた。自分の心を。本当の心を。ついにシンジの口から語らせた。
ようやく、ミサトの表情が柔らかくなる。
シンジはその変化にも気づかないほどミサトの目をみつめながら続ける。
「・・・そう・・・はじめて会ったときから・・・
オーバーザレインボウの甲板で会ったときから、
僕はアスカのことを目で追っていたんだと思います。
でも、あの頃は自分で自分の気持ちに気づいていませんでした。
綾波のことが好きなんだと信じてました。
でも・・・綾波への感情は・・・僕にとって「好き」という感情には違い無いのだけど・・・それは異性に対する感情というより肉親に対する感情に近かったように今では思えます。
僕は綾波の中にお母さんを感じていました。だから惹かれたんだと思います。
そしてそれは間違いじゃなかった。
綾波は・・・綾波の心はあくまで綾波の心だったんだけど、母さんの遺伝子情報を元に生まれて・・・そう、妹だったんですよね。」
再びシンジの頬を涙が流れはじめた。
「綾波を助けたかった。僕の妹だったのに。助けてあげられなかった。
綾波・・・生きていて欲しかった。幸せになって欲しかった。」
「そうね・・・レイはとってもかわいそうな娘だったわ。
わたしもレイのこと後悔している。
もっと早く気づいてあげていれば・・・助けてあげられたかもとも思う。
けどね、シンジくん。レイは幸せだったと思うわ。」
「・・・なぜ?あんな死に方をしてしまったのに・・・」
「何言ってるの!レイはシンジくんを愛して、人を愛することを知って、だから碇司令じゃなく碇シンジという人を選んでわたし達を救ってくれたんじゃない。
レイは最後まで幸せだったはずだわ。
シンジ君の思いを受け止めることができたんだもの。
愛する人の望みをかなえることができたんだもの。
絶対に幸せだったわよ。」
「・・・ミサトさん・・・」
「いいの。もういいのよ。レイは幸せだったわ。
そして今でもシンジ君の心の中に生きているのだから。
レイはあのとき泣いていた?ちがうでしょ?笑っていたのでしょう?
だからシンジ君も笑顔のレイを覚えておいてあげなさい。
レイだって、きっとそれを望んでいる。
泣き顔なんて、悲しい顔なんて、好きな人に覚えていて欲しいわけが無いわ。」
「・・・ううっ・・・ミ、ミサトさん・・・ぼ、僕は・・・」
「ね、いいのよ。もう・・・」
静かな空間の中でシンジの鳴咽とミサトの許しの声だけが続いた。
そしてシンジがようやく落ち着いて、再びアスカへの思いを語りはじめた。
「・・・ユニゾンの特訓の頃からいっしょに暮らしはじめて、
僕はいろんなアスカを知ることができたと思います。
いつもアスカを見ていたんだと今更に思います。
でも・・・僕はアスカも傷つけてしまったんです。
苦しむアスカを助けることができなかった。
使徒に心を犯されてるときにも助けてあげられなかった。
助けるどころか、助けにゆくことすらできなったんです。
やろうと思えばできたはずなのに。
拘束具なんか簡単に引き千切る力があったのに。
好きだったのに・・・大好きだったのに・・・
僕はアスカを助けにいくことすら出来なかった。
ミサトさん・・・僕って最低な男です・・・
アスカが僕を嫌っていること知っています。
憎まれていることも知っています。
最後の戦いの後、僕がアスカを看病し続けたのは、それでもまだアスカに甘えていたから、誰も僕の側にいなくなってしまって・・・身動きできないアスカだけしか僕にはいなかったから、アスカに甘えて、アスカに縋ってしまったんです。
何のことはない・・・自分のためにアスカに縋っていただけなんです。
だからアスカが元気を取り戻して、笑顔を取り戻して、自分の足でまた動けるようになったら・・・僕はもういらないんです。
アスカが好きです。今ならはっきり言えます。
だから・・・もうアスカの視線に耐えられなかったんです。
嫌われている。憎まれている。もうアスカの顔を見るのも、声を聞くのも辛くて、苦しくて・・・耐えられなかったんです。」
思いを全て吐き出したシンジは穏やかな表情をしていた。
心が痛くて、辛すぎて、苦しすぎて・・・他にどんな表情をして良いのかも判らない。ミサトにはそう感じられた。
見ている方が切なくて、聞いているほうが悲しくて、居たたまれなくなる。
だけどわたしはここで逃げることは許されない。
シンジ君を追い込んだのはわたし。
アスカのために、シンジ君のために、そしてわたし自身のためにも、この子達に互いの思いを伝えてあげなければいけない。
あまりにも愛情に飢えていて、あまりにも不器用なこの子達。わたしと同じ。
だからこそ、わたしは逃げてはいけない。