エピローグ

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戻れない日々   エピローグ   赤い羽

2006/05/12 初稿
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かつて、世界は同じ様な戦いを経験していた。

当時、自らの正義を信じて戦った彼ら双方には、情報操作による欺瞞と非情な命令しか与えられず、後には
周りへの不審と自ら行った行為への後悔しか残らなかった。

それでも、多くの人たちが、奇跡と言う福音のおかげで良心の罪人にならずに済んだ。

あれから5年、立ち直りつつあった彼らに、世界は再び戦うことを強制する。

敵味方と分かれて己の望むものの為に、世界の未来を賭けて。

地上からの攻撃しか予想していなかった守備隊は、本拠地中央に突然現れたミサト達に指揮系統を分断され、
効果的反攻が出来ず、短時間で壊滅した。

一時期、守備隊の挟撃を受け膠着状態に陥ったミサト達だったが、刻一刻と増強されて行く物量を盾に、
突撃隊を編成して敵司令部への突入を敢行する。

突入した攻撃隊と銃撃戦の最中、指令席で指揮していたマヤは、グレネードランチャーの砲撃を受けて、
跡形もなく吹っ飛んでいた。

後には、白衣の切れ端と猫のマスコットが残っていただけだった。

司令中枢を失った防衛側は、次第に散発的な攻撃になり、UN突入部隊に制圧されていった。

途中、降伏が何回も勧告されたが、彼らは決して応じず最後の一人まで戦いつづけた。

また、拠点防御の定石に反して、司令部でメインコンピュータの設備や記録を破壊消去しようとした形跡は、
まるで無かった。

彼らにとって、今の世界は価値の無い場所で、利用しようと近づいてきた連中のことなど、
どうでもよかったのだろう。

この後、UNでは、内部の反逆分子やスパイ、テロ行為を支援する国家、政治家の名前、テロ活動の拠点など、
かなりの情報を手に入れることができ、歴史的にはわずかな期間ではあるが、世界の治安を守る正義の
組織として活躍することとなる。

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あたしはミサトと一緒に、一足先にUNの前線基地へ帰ってきた。

全てを信じてもらえるか自信はなかったけど、ミサトにだけは話さなければならなかった。

あそこで知ったルイスの死、絶望したマヤの変貌、シンジの葛藤と苦悩の告白。

そして、あたしの投げた炸裂弾が、シンジを死に至らしめ、復活したレイとカヲルがシンジと共に
旅立っていった事。

それらを、あたしが理解できた範囲でミサトに伝えた。

一連の経緯を話すと、再び感情が高ぶってきて何も言えなくなってしまった。

そんなあたしを、ミサトは子供をあやすように、そっと抱きしめてくれた。

「そっか。シンちゃんも逝っちゃった・・・か」

ぽつりとミサトがつぶやく声が聞こえた。

何かを思い出しているような横顔に涙は無かったけれど、

きっと、ミサトは心の中で泣いているのだろう。

エヴァに関わって、父を亡くし、恋人を亡くし、友を、そして今、

弟を亡くしたのだから。

・・・ほんとうに、あたし達そっくりね。なにもこんなこと似なくていいのに。・・・

あたしは、ミサトの大きな胸に頭をうずめて、去っていった人たちとの日々に思いを馳せていた。

「さて、アスカ、それじゃ一仕事終わったし、今夜は朝まで飲み明かしますか」

しばらくあたしを抱いていたミサトは、隊員たちが帰ってきたのに気が付くと、立ち上がって
出迎えのため、ドアの方へ歩きかけた。

・・・そうだよね、今夜はルイスやマヤ、シンジ達の通夜なんだから・・・

あたしは、再び、にじんでくる涙を振り払って、入り口へ歩いてゆくミサトの背中を見ていた。

肉親の縁が薄いミサト、あたしも同じだ。

血のつながりは無いけれど、シンジがミサトの弟なら、あたしもミサトの妹だ。

そう思ったら、何も考えずにあたしは叫んでいた。

「ミサト!、あんたが結婚しないなら、あたしはずっとず~と、一生あんたの傍にいて、・・面倒みるから!」

あたしの言葉にピクと反応して、立ち止まったミサトは、一瞬の間を置いて、肩越しに振り返るとにやりと笑った。

「ほ~、どういう風の吹き回しかな。結婚しないならってとこが気になるけど、アスカもいずれ
似たようなもんだから、勘弁しとくわ。」

「しかし一生ねえ。ひっじょ~にうれしいんだけど、今夜の飲み代をもってくれると、も~っと、うれしいかな。
と、いう訳で、今夜はアスカのおごりに決定。よろしくねぇ」

・・・な、なんですって。あたしの一生に一度の告白を飲み代に替えるですって!・・・

帰還した隊員達にミサトは、”今夜はアスカのおごりよ。みんな心置きなく飲んでね”などと告げている。

むさくるしい野郎どもが、ウオ~と歓声を上げている中、あたしは、うっかり感情のまま叫んでしまった
自分の間抜けさを後悔すると共に、フツフツと湧き上がる怒りに身を震わせていた。

「コラ~、ミサト、いいかげんにしろ!」

部屋を出て逃げて行くミサトを、あたしは帰還してきた仲間達が声を掛ける中、顔を真っ赤にして追いかけて
行った。

Fin.