次の日の朝、アスカがいったん帰宅して、シンジの水着などを用意して病院を訪れると…。
病室ではちょっとした騒ぎが持ち上がっていた。
『何?』
アスカが病室に入ると…。
「シンジ君。私がお風呂の面倒をみますから」
「あなた、今日は準夜でしょう?どうしてこんなに早く出て来るのよ。シンジ君、私と入るわよね~」
「ちょっと、今日のこのフロアの担当は私よ?勝手にしないでよ」とちょっと騒がしい。
どうやら4~5名の若い看護婦が小声ながらもやかましく?争っているらしい。
「シンジ、何の騒ぎ?」
「アスカ、助けてよ。僕のお風呂のことで揉めているんだ」
「アンタ、ちゃんと言ってなかったのね」
「違うよ。ちゃんと言って、了解をもらったよ」
「ならどうして揉めているの?」
「そんなのわかんないよ」
シンジでは話にならないと判断したアスカ、看護婦たちに話しかける。
「看護婦さん、何を討論されているのかわかりませんが、お風呂のことでしたら私がしますから」
看護婦のひとりがアスカに答える。
そこそこの美人であるが、アスカを見る視線のどこかに『ふんっ』という雰囲気がまざっている。
「当病院は完全看護です。そのようなご心配は要りません」
「あら、シンジはその完全看護の病院の方に御了解を頂いたと言っていますけど」
アスカ少しも引かない。それどころか、丁寧な口調がちょっと怖い。
「了解?引き継ぎにありましたかね。あなたは聞いた?」
最初の看護婦が他の看護婦に聞く。
「私は聞いていないわ」 「私も」
さっきまでの争いはどことやら、看護婦の共同戦線である。
「聞いていないようです。碇さんは、術後、最初の入浴ですし、傷の状態もあります。 ここは看護のプロに任せてください」
「任せられないわよっ。アンタ達は良くてもこっちは頼んでいないわ。 シンジ、誰に話したの?」
「ユキさんだよ」
「あのバカッ。また、邪魔したわね」
その時、病室の入り口で声が聞こえ、ひとりの女性が入ってきた。
「誰が邪魔したですって?」
ユキである。その姿を見て、看護婦達が慌てて病室から出て行こうとする。
「ちょっとあなた達、待ちなさい」
ユキの声に看護婦達は黙って立ち止まった。
「碇さんの入浴の件、ほんとに引き継ぎなかったの?」
「………」
「どうなの?聞こえない?私の言っていること」
迫力あるユキの貫祿にアスカも黙って成り行きを見ているしかない。
看護婦のひとりが恐る恐る口を開いた。
「あの…ありました」
「そう」
ユキは看護婦一人一人の顔を見渡す。
「あなた達のしたことは、病院の管理体制について患者さんと家族の方に不安を与えるものです。
看護婦として恥ずかしくないですか?謝りなさい」
そして、シンジとアスカを見て頭を下げた。
「この病院のスタッフが大変失礼をしました。お許しください」
ほかの看護婦も黙って頭を下げる。
シンジが慌てて言う。
「ユキさんも皆さんももういいですよ。たいしたことじゃないし」
「主任さん…」
看護婦のひとりが不安そうにユキに呼びかける。
ユキはだまってうなずくと、さらにシンジ達に頭を下げた。
「碇さん、アスカさん、このことは婦長には黙っていて欲しいのですが…」
「いいですよ。ほんとにたいした事ではないし…。アスカもいいよね」
「まぁ、いいけど」
アスカはシンジに不承不承同意した。
「ありがとうございます。ほら、あなた達、仕事が山のように待っているわよ。
それぞれの持ち場に戻りなさい」
看護婦達は出て行き、病室にはシンジとアスカとユキが残った。
「ユキさん、主任さんだったんですね?」
シンジが尋ねる。
「見えない?これでも二人の子持ちよ」
ユキがいつもの口調に戻って答える。
「「えぇ~つ」」シンジとアスカはさすがに驚いた。
ユキには、大人の女性とのイメージはあったが、さすがに子供がいるとは思わなかったようだ。
「やっぱり若く見える? ふふっ、私もまだまだイケルわね。
でも、ほんとにさっきは御免なさいね。
あの子達、悪気はなかったと思うんだけど、シンジ君が退院すると聞いたものだから、ちょっとはしゃいだみたい」
「僕退院できるのですか?」
「まだ、知らなかった? ごめんなさい。
本当はドクターから言うべきことだけど、来週に退院するかもって聞いているわ。
でも、完治したってわけじゃないのよ。あとは自宅で療養ね。うれしい?」
「はい、うれしいです。」
ユキは、シンジの言葉にうなずいたあと、今度はアスカに向かい、にんまりとして言う。
「よかったわね。アスカちゃんもうれしいでしょう」
「まぁ、もうここに来なくていいと思えばそうかもね」
「はいはい、そういうことにしておきましょう」
アスカ、ユキの言葉にかちんと来たようだ。
「ちょっと、それどーゆー意味?」
「あら、はっきり言っていいの?」
「はっきりもなにもさっき言ったとおりよ。何バカなこと言っているの」
頬を染めて抗議するアスカの姿にユキは微笑んで答えた。
「ふふっ、ごめんなさいね。
ところでアスカちゃん、シンジ君の傷口はふさがっているけど強く擦らないで。
それと腕もあまり動かさないでね。もっともそんなに動かせないと思うけど。
それと骨を固定しているボルトの端が皮膚の下にあるから気をつけてね」
「わかったわ。」
「じゃあ、お風呂は最初の時間をとっているから。あんまりゆっくりはないけど。 じゃあね」
ユキは病室を出て行った。
病室で風呂の時間を待つ間、シンジとアスカは二人の時間を過ごしていた。
「もうすぐ家に帰れるよ。アスカ、ごめん。いろいろ迷惑かけて」
「何言っているの。アンタにはいろいろ世話になっているし、その…家族だし、それに…」
「うん、ありがとう。助かったよ」
「まだよ。アンタまだすっかり治ったわけではないんだから」
「ははっ、そうだね」
「早く治すのよっ。それまでは面倒を見てあげるわ。ただし、当然これは貸しだからね」
「高そうだなぁ」
「当然でしょ。せいぜい覚悟しておくことね」
「う~ん、すこしまけてよ」
「だめ~。それともアタシ以外の誰かさんの方が良かったのかしら?」
『どうして…アタシ、こんな言い方しかできないの』
アスカは自分の言葉に少しいらだつ。
シンジは、そんなアスカに笑顔で言った。
「僕、アスカがそばにいてくれて良かったよ」
「えっ?」
シンジの言葉にアスカが少し…(ぽっ)…顔を赤らめる。
「あっ、変なこと言ってしまったかな?ごめん。久しぶりに二人だけで話したから…つい。 変な気持ちはないんだ」
『謝らないでよ、このバカ』
シンジの言葉にすこし落胆するアスカ。
「まぁ、いいわ。ところで、ほらアンタの水着」
「ありがとう。ところでアスカも水着なの?」
バシ~ン
シンジの頬に紅葉のあとのような手形がつく。
「このエッチ、何考えているのよっ。アンタ、アタシをそういう風に見ていたわけ?
アンタがそう考えているならアタシ知らない」
「ちがうよっ。誤解しないでよ。ただ、ちょっと思ったから言ってみただけだよ。変な想像なんかしていないよ」
「変な想像?ふん。アンタもやっぱり男ね」
「違うって。信じてよ」
「ど~だか。まあいいわ。シンジ、これだけは覚えておくことね。アタシに変な事したら入院生活が長くなるわよ」
「だから違うって」
「やっぱり、レイに任せなくて良かったわ」
「勘弁してよ。ほら、外国なんかではジャグジーとか、みんな水着を着て入るだろ。
それにプールなんかでもお互いいつも水着じゃないか」
どうしてプールではお互いの水着姿を見慣れているのに、
お風呂で水着といっただけで平手打ちを受けるのかわからないシンジである。
しかし、アスカもさすがに自分の行きすぎに気がついたらしい。
「そ、そういうことなら早く言いなさいよっ。アンタが、変なことを言うから」
『だから変なことなんて言っていないって。』もはやシンジは抗議をやめたらしい。
「ほら、時間だわ。わかったから一緒にお風呂に行くわよっ」
照れくさいのかアスカは元気よく立ち上がり、シンジを促した。
「うん。ありがとう」
シンジもそんなアスカを見て機嫌を直し、うなずいた。