第六話

「それで、シンジ君。どうやって会うんだい?」

 

「それなんだよね~」

 

車を運転するシンジに助手席に座るカヲルが尋ねた。

 

「考えたら母さんに会うのも気が引けるような……」

 

「ユイさん、君が生きてる事を知ってから血眼になって探してるよ。勿論、碇司令もね」

 

あの父さんがね~、とシンジは想像できそうにない光景に苦笑する。シンジは以前、ユイが喫茶・福音に来た事を話し、その時の彼女の様子を教えた。それを聞いてカヲルは会った時の事を思うと同情すると苦笑した。

 

「ところでシンジ君」

 

「ん? 何?」

 

「此処は密室。そして君と僕は2人っきりだね」

 

「うん、そうだね」

 

「まぁ僕も3年間、溜まってる訳だし……」

 

キラーンとカヲルの目が怪しく光る。

 

「惣流君やレイには悪いけど頂ま……」

 

キュイイイイインッ!!!

 

シンジに手を出そうとしたカヲルだったが、赤い壁が現れて彼の手を防いだ。

 

「エ、ATフィールド……」

 

「ATフィールドは誰もが持つ心の壁。カヲル君、変な事したらオレンジジュースに変えるよ?」

 

「フフ……純情だね、シンジ君。そんな君も好意に値するよ……好きって事さ。ところでATフィールドなんか張ってMAGIに感知されないのかい?」

 

「あ、それは大丈夫。だって僕、神様だし♪」

 

そんな理由でまかり通るのだろうかとカヲルは思ったが、敢えて突っ込まない事にした。

 

「で? どうやって会うつもりなんだい?」

 

「そうだね~……ミサトさん達は学校?」

 

「うん。それがどうかしたのかい?」

 

「じゃあさ………」

 

シンジは笑みを浮かべ、カヲルに耳打ちした。

 

 

 

「やぁ諸君、おはよう」

 

昼休み、カヲルは爽やかに教室に入って来て微笑んだ。

 

「何や渚。今日は遅刻か?」

 

「まぁね。ちょっと野暮用で……」

 

クスッとカヲルは苦笑すると、皆が集まって昼食を取ってる席に適当に椅子を置いて座る。

 

「野暮用? どっかの学校の子とデートでもしてたのか?」

 

「う~ん、微妙かな~」

 

そう言って曖昧に答えるカヲルにアスカとレイは半眼で睨み付けた。

 

「ん? 何かな、2人とも?」

 

「別に~。アンタがそういう笑みを浮かべる時は何か企んでる時だからちょっとね……」

 

胸にロザリオを揺らし、アスカは自作の弁当を突付く。レイもコクコクと頷いてパック牛乳を飲む。

 

「渚君、何で遅刻したの?」

 

「ああ、ちょっとシンジ君に会いにね」

 

「へ~、碇君に………」

 

サラッと答えるカヲルに5人は何事も無かったかのように再び朝食を取る。が、そこでピタッと動きが止まった。

 

「ちょ、ちょっと渚!! アンタ今、誰に会って来たって!?」

 

「だからシンジ君。いや~素敵な青年に成長……」

 

「ど、何処!? 何処にいたの!!?」

 

カヲルが言い切る前にアスカは身を乗り出してカヲルを締め上げた。他のクラスメイトもアスカの突然の行動に目を丸くしている。

 

「そ、惣流さん、死ぬ、死ぬってば」

 

「あんた一度、死んでるでしょうが!」

 

「アスカ、今の彼は人間よ。首を絞めただけで死ぬわ」

 

レイが横からアスカを宥め――余りフォローになってないが――、カヲルから手を離させる。が、すかさずカッターナイフを取り出して彼の首筋に当てた。

 

「碇君は何処?」

 

「夢見る乙女は強いね………僕はシンジ君から伝言を預かって来てるのさ」

 

ニコッとカヲルは微笑み、シンジからの伝言を言った。

 

 

 

 

 

「良いのかい?」

 

1人数の減ったグループの中でカヲルはレイに尋ねた。

 

「構わないわ。碇君が1番好きなのはアスカだもの」

 

トウジとケンスケ、ヒカリも行きたそうな顔をしているがカヲルとレイに牽制されていて動けなかった。特にケンスケはカメラを持って残念そうな顔をしている。

 

「随分と潔いんだね?」

 

「余裕よ。碇君は私のお兄ちゃん。アスカより長く接する時間があるもの……」

 

フッと笑ってレイはストローを吸う。それにカヲルは苦笑し――。

 

「なるほど……じゃあ僕も一緒に住んでるから問題ない訳だ。しかも男同士という訳で裸の付き合いも可能」

 

そう言うカヲルにトウジ達は距離を置いて離れる。ヒカリに至っては「不潔よ~!」などと言って叫んでいる。

 

「碇君を汚させはしないわ。私が守るもの」

 

「フフ……リリンの心は複雑だ」

 

後にトウジ達は語る。「ええ、彼らの間に火花が散りました」と……。

 

 

 

「ふぅ……こうして昼ご飯時が一番の至福の時ね~」

 

保健室では教師として勤めているネルフ職員が集まって昼食を取っていた。普通、教師が保健室で昼食を取るものだろうかと疑問に思うが、ミサトの勢いに押され誰も文句言えなかった。

 

「葛城さん、加持さんと婚約決めてからずっとお弁当ですね」

 

「きっと加持君が作ってるのね……」

 

リツコの呟きにオペレーターの3人は朝早くから調理する加持の姿が目に浮かんだ。

 

「ミサトさん、幾ら何でも家事ぐらいはしないと……」

 

その時、誰か別の声が入って来た。だが、ミサト達は気にせず会話を続ける。

 

「ムダよ、シンジ君。ミサトに家事をやらせるなんて、使徒を生身で倒す以上に不可能だわ」

 

「シンジ君も大変だったろう? 葛城さんと同居してて……」

 

「ええ、まぁ……アスカが来てから量が2倍でしたしね」

 

「エヴァのパイロットもやって主夫業をこなして……そう思うとシンジ君て立派だったわね~」

 

「アハハ……日向さんも割り切って良い相手を探してください。日向さんなら良い相手が見つかりますから」

 

「ああ、ありがとうシンジ君」

 

誰も気にせず笑顔で対応して弁当を食べる。が、一瞬時が止まり、恐る恐る振り向いた。

 

「え? シンちゃん?」

 

だが、そこには誰もおらずただ扉から流れて来る風が吹いていた。

 

 

 

――シンジがいる!――

 

アスカは廊下を全速力で駆けていた。誰かにぶつかっても気にせず、階段を駆け上がって行く。

 

『シンジ君なら屋上にいるよ。惣流君、会ってくると良い……』

 

カヲルに言われるがまま、アスカは屋上を目指した。ギュッと胸の前で揺れるロザリオを握り締める。ひょっとしたらカヲルの嘘かもしれない。そう思ったが、そう言った時のカヲルの表情は真剣なものだった。

 

彼がアレほど真剣な表情をするのはアスカは見た事が無い。だから本当だと信じてしまったのだ。

 

一歩ずつ階段を駆け上がり、扉を勢い良く開いた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

真っ先にアスカの目に飛び込んで来たのはいつもと変わらぬフェンスの向こうに広がる街の風景。だが、そこに1人の少年がいた。白髪赤眼で自分を見つめている。

 

自分と変わらなかった身長も彼の方が高くなっており、一瞬、別人の様に変わってたが、その微笑みは3年前と変わらなかった。

 

「や、アスカ。バカシンジ、ただいま帰りました」

 

そう言って手を軽く挙げるシンジ。アスカは一気に涙腺が緩み、目に涙が浮かぶ。フラフラとした足取りでシンジの方に歩み寄る。

 

やがて目の前までやって来て、ソッと頬に触れた。

 

「本当に……シンジ……?」

 

「うん。ちょっと人間じゃなくなったけど……間違いなくシンジだよ」

 

そう言ってシンジはアスカの手に自分の手を重ねる。

 

「ただいま、大好きなアスカ……」

 

アスカは目から一気に涙が溢れた。その声、その微笑、その手の温もり……自分が3年間、ずっと探していたものだった。

 

アスカは思いっ切りシンジに抱きついた。シンジの胸に顔を埋め、泣き声を殺し、バッと顔を上げた。その顔は涙でグショグショなどではなく輝かしい笑顔だった。

 

「お帰り、シンジ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

「シンちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!」

 

「ぐえ! ミ、ミサトさん死にます、死にます!」

 

シンジを探しに屋上へとやって来たミサト達によってシンジとアスカの再会は邪魔されてしまった。シンジはミサトに思いっ切り抱きつかれ顔が青くなっている。

 

「ちょっとミサト!! シンジから離れなさいよ!!」

 

「良いじゃない! 姉弟のスキンシップよ!」

 

「駄目! シンジは私のなの!」

 

「あっら~? アスカったら堂々とそんな事が言えるように成長したのね~♪」

 

「あ……(//////)」

 

アスカは顔を真っ赤にして感動の再会劇はミサトの冷やかし劇に変わるのだった。

 

そんな3人をリツコやレイ達はやれやれと言った感じで肩を竦めていた。