「未練がましい奴」
「う……」
マエカは半眼で睨み付けられている。日付は12月4日を示していた。
「大体だな~、捨てたとか言っておきながら誕生日プレゼントを渡すか?」
「あはは……」
「しかも、それじゃあ生きてるってバレるじゃないか?」
「まぁ分かっても見つからないと思いますし……」
必死になって弁解するシンジにマエカは溜め息を吐いた。シンジの手には小さな包装された箱があった。
「お前なぁ……」
「と、いう訳で今日の夜ぐらいに行こうかと思います」
「勝手にしろ。お前が困るだけだ」
「たはは……」
シンジは苦笑いを浮かべながら、小箱を見つめる。それには1枚のカードが添えられていた。
『誕生日おめでと~!』
「………おめでと」
約1名ワンテンポ遅れ、クラッカーが鳴った。今日、惣流家ではアスカの誕生日パーティーが開かれていた。
レイ、カヲル、ヒカリ、トウジ、ケンスケといった学友を始め、ミサト、リツコ、マヤ、マコト、シゲル、加持といった面々も揃っていた。
「ありがとう、皆」
アスカはニコッと笑って礼を言う。目の前には彼女の母キョウコが作ったご馳走が沢山、並んでいた。
「アスカもとうとう17か~」
「何よ、ミサト。随分と老け込んでるじゃない?」
「うっさい!」
感慨深げに呟くミサトにアスカが突っ込む。アスカは皆が騒ぐ中、小さく息を吐いた。毎年、この中に1人いないだけで大きく違う。
存在感なんてまるで無かったのに、今では皆の心の中に大きな存在として残っている。誰もが思ってるだろう。彼のいない虚無感を。それを忘れようとドンチャン騒ぎをしているのだ。
「うらぁ~! アスカ~! 何、主役がボーっとしてんのよ~?」
そんな事を思ってると、いきなり顔を真っ赤にしたミサトが肩に手を回して来た。
「ぷはっ!! ミ、ミサト! あんたもう酔っ払ってんの!?」
「ほれ! 17歳になったんだからアンタも飲みなさい!」
「まだ未成年だって~の! 教師が生徒に酒を勧めるな! 加持さんもリツコも何とか言ってよ!」
アスカは静かにビールを飲んでる加持とリツコに助けを求める。
「悪いな、アスカ」
「そうなったミサトを止めるのは不可能よ」
「役立たず~!」
大声で怒鳴るアスカを始め、マコト、シゲル、トウジ、ケンスケはご馳走の取り合いになり、レイ、カヲル、ヒカリ、マヤはその隙に欲しい物を食べたりしていた。
「あらあら……」
それを見てキョウコは微笑を浮かべていた。
ピンポーン!
その時、家のチャイムが鳴った。
「あら、誰かしら?」
キョウコは「は~い!」と言って玄関へ向かう。
「はい、どちら様……あら?」
だが、玄関を開けたら誰もおらず、門の所に小さな箱が置いてあった。
「何かしら?」
キョウコは箱を取ると、添えられていたカードに『惣流・アスカ・ラングレー様へ』と描かれているのを見て笑った。
「あらあら、随分と照れ屋さんなのね」
キョウコは自分の娘がモテる事を知っている。きっと、そんなファンの中の1人なのだろうと思い、苦笑し家に入った。
「アスカちゃ~ん。貴方宛てにプレゼントよ~」
「お~! 流石はアスカ! モテモテね~ん♪」
「うっさいわよ、ミサト!」
からかうミサトを振り解き、アスカは鬱陶しげにプレゼントを受け取った。目を細めてカードを見て、それを開く。
そしてアスカは大きく目を見開いた。
「え……?」
思わずアスカは小箱を落とした。その反応に皆は騒ぎを止め、アスカに注目した。
『誕生日おめであとう、アスカ。綾波やカヲル君達と仲良くしなきゃ駄目だよ。
3番目の子供より』
「嘘……シンジ?」
ポツリとしたアスカの呟きに皆は目を見開き、一斉にカードを覗き込んだ。真っ先に覗き込んだのは意外にもレイでカードを見て呟く。
「碇君の字……」
アスカは硬直が解けたと同時に、落ちていた小箱を開けた。その中には銀のロザリオが入っており、裏に文字が彫られていた。
『For Beloved You Forever』
「シンジ………シンジぃ~……」
アスカはロザリオを強く握り締めると、膝を突いて泣き出した。
「キョウコ博士! これを送ってきた人は!?」
逸早く冷静さを取り戻したリツコは血相を変えてキョウコに問い詰めた。
「そ、それが分からないの。外に出たら、それだけが置いてあって……」
「加持君! 碇司令とユイ博士に連絡を!」
「もうしてるよ」
ミサトに言われると同時に加持は携帯のボタンを押していた。
「碇の奴……生きとんのか……」
「ああ……」
トウジの呟きにケンスケが静かに頷く。
「シンジ君……何故、姿を見せてくれないんだい……」
「碇君……」
レイとカヲルは泣きじゃくるアスカを見て、姿を現さないシンジに疑念を抱いた。
「キョウコ!」
そこに隣の家に住んでるユイがゲンドウと共に駆け込んで来た。加持から連絡を受けてすぐに来たのか、ユイはエプロンをしたままだった。
「シンジが……シンジが来たの!?」
「え、ええ。多分……」
肩を掴まれ、震える声で訊いて来るユイにキョウコは戸惑いながらも頷いた。ユイは膝を突き、「シンジ、シンジ」とアスカと同じように嗚咽を漏らしていた。
「加持君、君は早速シンジの調査を始めてくれ。赤木君も本部に戻れ」
『分かりました』
ゲンドウの指示に加持とリツコは頷くと揃って惣流家から出て行った。
「さて……じゃあ僕はシンジ君を探すとするか。鈴原君も手伝ってくれ」
「よっしゃ! 任しときぃ!」
カヲルとトウジはバイクの免許証を持っていた。カヲルは碇家に居候してるのでバイクはすぐそこ、トウジもヒカリを乗せてバイクで来たのだ。
もし、シンジが本当に来たならバイクで探し出す事が可能かもしれないと考えた。
トウジはヘルメットを持ってカヲルと共に飛び出して行った。
「マコト、俺達も車で探すぞ!」
「ああ!」
車で来ていたマコトとシゲルもシンジを探す為に飛び出して行った。部屋には嗚咽を上げるアスカとユイの泣き声が静かに響いていた。
「流石に騒ぎになってるだろうな~」
シンジは車を運転しながら呟いた。
「急いで帰ろ………ん?」
ふとバックミラーに物凄いスピードで2台のバイクが突っ走って来た。別にそれだけなら大した事無いが、それに乗ってる人物が問題だった。
――カヲル君にトウジ……――
それがかつての親友達である事が分かり、シンジはサングラスの奥の目を細めた。きっと自分を追って来たのだろうが、今の自分の容姿で気付かれる心配は無い。
しかも車を運転してるなんて誰が思うだろうか?
案の定、カヲルとトウジは自分には気付かず横を通り過ぎて行った。
「ゴメンね、カヲル君、トウジ……」
小さく謝罪の言葉を口にし、シンジはアクセルを強く踏み込んだ。