其ノ弐拾弐:ホウコウ

母さん・・・・・・・・・・・母さんっ!

・・・・・・・

どうして・・・・・どうしてだよっ!
どうして僕を拒むんだよ!
時間がないんだ・・・・早くしなきゃ、アスカが・・・・レイがぁっ!!!

・・・・・・・

黙ってないでよっ!
ねぇっ!!

・・・・・・・

僕がやらなきゃいけないんだっ!
僕が・・・・・・・・でなきゃ、みんな死んでしまうかもしれないんだよっ!?
・・・・・・・・お願いだから、ねぇ・・・・・・・・母さんっ!

・・・・・・・

答えてよぉっ!!

・・・・・・・

ぐっ・・・・・・ひっ・・・・・・っくぅっ・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・嫌なんだよ・・・・・・大切な人達を傷つくのを見るのも・・・・・・・失うのも・・・・・・・
もう嫌なんだよ・・・・・・・

・・・・・・・

だから・・・・・決心したんだ・・・・・
たとえ僕がヒトじゃなくなっても・・・・・護るって!!!

・・・・・・・

僕以外の誰にもできない事・・・・・・なんだよ・・・・・・

・・・・・・・

お願いだから・・・・・・ねぇ、母さんっ!
心を開いてよぉ!
僕を受け容れてよぉっ!
僕を・・・・・・・・・・ぼく・・・・を・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・シンジ・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・ごめんなさい

か・・・・あさ・・・・・・ん・・・・・・・?

あなたをこれ以上・・・・・・・EVAに近づけるわけにはいかないの

でも・・・・・・でも、でも、でもっ!!!

シンジ、お願い・・・・・わかってちょうだい・・・・・・

わからないよっ!
どうしてだよぉ!!!

・・・・・あなたも永遠の命を持つ事になるのよ?

それがどうしたって言うのさ!?
構わないよ!!
みんながそれで助かるのなら!!!
みんなが苦しみから解放されるのなら!!!

あなたは孤独になるのよ?

それくらい、耐えてみせるよっ!!!

・・・・・・シンジ

母さんっ!
早くしてよっ!!!

シンジ、話を聞きなさい

そんな暇はないよっ!

シンジ!!!

・・・・・っ!!!

あなたが永遠の命・・・・・S2機関を取り込んだらどうなるか、わかる?

・・・・・・・

この先何十年、何百年・・・・・・・いえ、この地球が滅び・・・・・・太陽系が消滅しても・・・・・・・
あなたは生き長らえる事になるのよ?
私は良いの・・・・・・・・EVAの中で・・・・・誰とも接する事なく・・・・・・見守るだけ・・・・・・

・・・・・・・

でもね?あなたは違う
あなたはヒトでありながらヒトではなくなる
ヒトではないのにヒトとして生きていくのよ?
それが・・・どういう事なのか、本当に理解しているの?

・・・・・・・

ヒトはひとりでは生きていけないわ
必ず他人と接し、関係を持ち、家庭を作り・・・・やがて死ぬのよ

そんなの・・・・わかってる・・・・

ヒトの一生はせいぜい100年が限度・・・・
たった100年の間でも、出逢いと別れは数多く存在するわ
そしてその数以上に、喜びや哀しみがあるの

・・・・・・・

今のあなたにとって大切な人達も、いずれは死を迎えるわ
ヒトは限られた時間の中で自身を輝かせ、生きていくのだから

・・・・・・・

耐えられるの?

・・・・・・・

老いもせず、死に至る事なく・・・・・・
出逢いと別れを永遠に繰り返し
・・・・・行き着くところは、孤独

・・・・・・・

耐えられる?

・・・・耐えてみせるさ・・・・

無理よ

どうしてさ?
なんでそう言い切れるのさ!?
母さんが僕の何を知っているって言うのさ!!?
僕の未来を知っているとでも言うの!?

そうね
あなたは私ではないわ
だから全てを知っているわけではないわね
ましてや、未来なんて知る由もない

なら、どうして!

私が、あなたの母親だからよ

・・・・・・!?

あなたは私がお腹を痛めて産んだ息子
私とゲンドウさんの・・・・・愛の結晶なの
私の分身といっても良いわ
だから・・・・・わかるのよ

・・・・・・・

ヒトの心はとても脆いもの
あなたもその目で見たのでしょう?
ヒトの心が壊れていくさまを
そのヒトがどうなっていったかを

・・・アスカの・・・・こと?

・・・そうよ
そしてそれは・・・・あなた自身の事

僕・・・・・・自身・・・・・

自分自身が気付いているわけじゃないわ
そうでしょう?
自身の心が壊れている・・・・・それを感じる事が出来るの?
既に自身を見失っているのに・・・・・冷静に顧みる事が出来る?

・・・・わからないよ・・・・・・僕には・・・・わからない・・・・

あなたは全てを失ったわ
そして全てを呪った
自分を見てくれなかった他人を
自分を壊してしまった他人を
自分を否定した世界を
自分を必要としなかった世界を
何より、自分自身を

・・・・・・!

・・・・繰り返したいの?

・・・・・・・

命ある限り・・・・・永遠に・・・・・・繰り返したいと願う?

・・・・・いやだ・・・・・

私もあなたに・・・・そんな辛い思いをして欲しくはないわ

でも、でも、でも!!!
どうすれば良いって言うのさ!?
僕はどうすれば良いのさ!!!

あなたはあなた自身でいなければ駄目なのよ
「碇シンジ」でなければ・・・・・

僕は、僕だ!
たとえ・・・・・シトになったとしても・・・・・

・・・・・・・まだ理解していないのね

・・・・?

あなたはヒトなの
シトである「碇シンジ」は、あなたではないわ・・・・
ヒトであるあなたこそ、唯一の「碇シンジ」なのだから

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・僕は・・・・どうすれば良いの?
どうすればアスカを救えるの?
どうすればレイを救えるの?
どうすれば・・・・・・わからないよ・・・・・・

・・・・・シンジ

・・・・・なに?

私は今から「力」を解放するわ
そうすれば、目の前の使徒もきっと倒す事が出来るでしょう
・・・・・あなたが成すべき事はただ一つよ

・・・・・・・

あなたは・・・・自分自身を保ちなさい
たとえ何が起ころうとも
たとえどんな苦痛が訪れようとも
私を・・・・・暴走したEVAを制御できるのは・・・・・・あなただけなの

・・・・・・・

それができなければ、人類は滅びるわ

・・・・やるよ・・・・・

本当ね?

・・・・・・うん

目を逸らさずに・・・・全てを見ていられる?

母さん・・・・・・・
僕はヒトでなきゃ駄目なんでしょ?
シトになったら、僕は僕でなくなるんでしょ?
僕がやらなきゃ・・・・・
ううん、僕にしか出来ない事なら、何でもやる・・・・・・成し遂げてみせる

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

シンジ・・・・・・・・ごめんなさい
本当ならあなたを巻き込みたくなかった
あなたには普通の子供として生きていて欲しかった・・・・・
全ての元凶は私・・・・なのにね・・・・
母親失格・・・なのに・・・・

母さん・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

母さん

・・・・・・・

僕は母さんの・・・・父さんの息子で良かったよ

・・・・・・・

だって・・・・・そうだろ?
父さんがいなかったら、母さんがいなかったら・・・・・・僕は生まれてこなかった
アスカにも逢えなかった
レイにも逢えなかった
ミサトさんにも、リツコさんにも
トウジ、ケンスケ、洞木さん・・・・・
他にも大事な人は沢山いるよ
そんな人達と・・・・出逢う事はなかったんだ

・・・・・・・

ありがとう、母さん
僕は間違っていたんだよね?
母さんはそれを教えてくれたんだよね?
僕が、僕でなきゃいけないんだ、って・・・・・・・・教えてくれたんだよね?

シンジ・・・・・

僕・・・・頑張るよ
だから・・・・・・・行こう

・・・・・・シンジ・・・・・・・

僕は・・・・・・僕のままで、みんなのところに帰れば良いんだ・・・・・そうだよね?

そうね・・・・・・行きましょう、シンジ
そして、お帰りなさい・・・・あなたの大切な人達の元へ

母さん

シンジ・・・・・・

 


 

 

誰ひとり、言葉を発する者はいなかった。

マヤは床に蹲りながら必死に嘔吐感を耐えていた。

青葉、日向両名はただ呆然とモニタを見つめるだけ。

リツコは未知のモノに対する恐怖、そしてそれ以上の喪失感に膝が震えるのを隠しながら。

ミサトは己の無力さに、唇を噛み締めながら。

冬月、ゲンドウの両司令は感情を消し去ったまま。

じっとモニタを見つめていた。

顎部ジョイントを引き千切り、咆哮を上げた初号機。
その勢いに、一瞬ゼルエルの動きが止まった。
その隙を逃さなかった初号機は、さながら獣のようにゼルエルへと襲い掛かった。
ブレードを掴むと、力任せに引き千切る。
ゼルエルの返り血に全身を染めたまま、飛翔する初号機。
のた打ち回るゼルエルを強引に地上へと押し付け、馬乗りのまま殴り続ける。
何十発となくパンチを見舞うと、やがてゼルエルは沈黙した。
それでも止まらぬ初号機。
腹を引き裂き、頭を潰し・・・・・・・徐にその口を裂けた腹部へと潜り込ませる。
咀嚼音。
突如膨れ上がる機体。
拘束具代わりの装甲が弾け飛び、筋肉が盛り上がる。

そして
最後の雄叫びを上げた後
初号機は静かにその動きを止めた。

福音ヲ伝エシモノ    

其ノ弐拾弐:ホウコウ