其ノ八:ユイ

シンジが自力でサルヴェージを果たしてから、一週間後。

シンジはゲンドウの執務室の扉の前に立っていた。

傍らには、蒼髪の少女。

「・・・・行きましょう、シンジ」

「・・・・うん」

シンジは少女に頷くと、扉の脇にあるインターフォンのボタンを、押した。

「・・・・誰かね?」

「あの・・・・碇シンジです」

「・・・・ああ、連絡は受けているよ・・・入り給え」

微かなエアの音と共に開く扉。

シンジと少女は、ゆっくりとした足取りで中へと入った。

 


 

薄暗い、広大な空間。

見る者を威圧する、不気味な文様。

その部屋の中に置かれた、巨大な机。

その向こう側に、冬月とゲンドウがいた。
机の前に歩み寄ったシンジに、ゲンドウは感情のこもっていない声を掛けた。

「・・・・何の用だ、シンジ・・・・・・・レイを連れて来るとは聞いておらんが?」

「僕はただ、彼女を父さんに引き合わせたかっただけだよ。
それに・・・・彼女は綾波じゃない」

「レイではない、だと?
・・・・下らん冗談に付き合う暇は無い。
話はそれだけか?ならば・・・・」

「・・・・待て、碇」

冬月はゲンドウの言葉を遮った。

彼は目の前に立つ二人に、奇妙な違和感を感じ取ったのだ。

父親を嫌い恐れているはずのシンジが、真っ直ぐにゲンドウを見ている。

そして感情を表に出さないはずのレイが、微笑を浮かべているのだ。

冬月はゲンドウを敢えて無視し、シンジに問い掛ける。

「シンジ君、君の横にいるのはレイではないと言ったが・・・どういう事なのかね?」

「・・・そのままの意味ですよ。ね?母さん・・・」

ピクッ。

シンジの一言に反応するゲンドウ。

「・・・・・何だと?」

「だから、綾波じゃないって言ったでしょう?父さん。
体組織までは再生できないらしいから、綾波の素体を借りているけど・・・魂は、中にいるのは母さんだよ。
僕がエヴァから戻って来る時に一緒に出て来てもらったんだ」

「「・・・・な・・・・・・」」

「・・・・お久し振り・・・・ゲンドウさん、そして冬月先生。
私がエヴァに取り込まれて以来ですわね・・・・お元気そうで何よりです」

ガタン!!!

ゲンドウが勢い良く立ち上がった拍子に、椅子が大きな音を立てて倒れる。

「・・・・バカな・・・・・・そんな馬鹿なっ!!!」

ワナワナと震える肩。

紅いサングラスの下で見開かれた瞳。

シンジは自分の父親が、ここまで感情を露わにする姿を生まれて初めて見た。

「・・・・いきなり『信じろ』って言うのは無理な話でしょうけど・・・私は碇ゲンドウの妻・・・そしてシンジの母、碇ユイです」

ゲンドウと冬月は、言葉を失った。

まるで時が止まってしまったかのように、暫くの間二人は動けなかった。

福音ヲ伝エシモノ    

其ノ八:ユイ    

 

「・・・・・信じられん・・・・」

長い沈黙の後、ようやく冬月が言葉を発した。 その表情には、困惑の色がありありと見える。

「そうでしょうね、何せ私はレイちゃんの『身体』を間借りしているだけですし・・・・・・・
なら、彼女の所在を確認してみては如何ですか?
ちょうど今はテスト中の筈ですから」

「・・・・わかった、確認してみよう」

冬月は震える手で受話器を取ると、リツコの元に連絡を取った。

数度のコール音の後、電話が繋がる。

『・・・はい、赤木です』

「冬月だ。
ファースト・・・・レイはそこにいるかね?」

『レイはハーモニクステストの最中ですが・・・・どうかなさいましたか?』

「・・・いや、所在が確認できればそれで良い。
テストの邪魔をして済まなかった」

『・・・・失礼します』

受話器を置いた冬月は、二人に向き直る。

「・・・君の言う通り、レイはハーモニクステスト中だそうだ。
少なくとも、君とレイとは別人だという事はわかったが・・・しかし・・・・」

「何でしたら、思い出話でもしましょうか?
例えば、私と冬月先生が出会った頃の話とか・・・・」

「いや・・・・遠慮しておこう」

「あら、宜しいんですの?」

その場の雰囲気にはそぐわない笑顔を見せるユイ。

ゲンドウと冬月は、その笑顔に懐かしいモノを感じた・・・・・それは、かつてユイが見せた笑顔そのものなのだから。
その時だった。

それまで動きを見せなかったゲンドウが、フラフラとした足取りでユイに近づこうとした。

     まるで笑顔に引き寄せられるかのように。

「・・・・ユイ・・・・本当にユイなのか・・・・?」

「・・・・近寄らないで!!!」

拒絶の言葉に、目を見開いたまま立ち竦むゲンドウ。

全身を射抜くような、ユイの厳しい視線。

先程までの柔らかな雰囲気は消え、その瞳には怒りと悲しみの色が見て取れる。

「・・・・・それ以上こちらには近寄らないで下さい」

「・・・・・・ユイ・・・・・・・」

「・・・・・私はあなたに一言申し上げたくて、こうして出て来たんです・・・・別に再会を喜んでるわけじゃないわ。
それに・・・・・今のあなたに触れられて欲しくないんです」

「どういう意味だ、ユイ!?」

「・・・あなた方が何をしているか、ご自身の胸に聞いてみたらどうです?!
ゲンドウさん・・・・・そして冬月先生・・・あなた方二人は、過った補完計画を遂行しようとしている・・・・・違いますか?」

「「な・・・・・・・・」」

「その目的も・・・エヴァに沈んだ私に再会する為なんて。
そんなくだらない事でNERVを動かし、人を操り・・・・一体何を考えてらっしゃるんですか!?
私達、人類は自らの手で禁断の扉を開き・・・・・アダム、そしてリリスを手に入れました。
セカンド・インパクトを引き起こし、葛城教授を初めとした数多くの人命を奪ってまで・・・・・・
でも、それはサード・インパクトを未然に防ぐ為ではないのですか?
迫り来る使徒を殲滅する為に、エヴァを産み出したのではないのですか?」

「・・・違う、ユイ!私はただ・・・・・・」

「・・・・言い訳をしたって無駄よ、あなた・・・・・・私はシンジから全てを聞きました。
あなたが何をしようとしているか、そしてその結果がどうなったかを」

「・・・何・・・・・・・・・・・シンジから、だと?」

「ええ・・・」

「・・・馬鹿を言うな。
お前は私より、こんな子供の戯言を信じるのか?」

「当たり前でしょう?
シンジは私の・・・・私がお腹を痛めて産んだ、たった一人の息子ですよ?
親が自分の子供を信じなくて、どうするんですか!?」

「いくら親子だと言っても、所詮は他人に過ぎん・・・・そして、お前は私の言う事さえ信じていれば良いのだ。
目を覚ませ、ユイ・・・・・・」

「目を覚ます必要があるのはあなたの方でしょう、ゲンドウさん!!」

「・・・・な・・・・・・」

ゲンドウはその光景が信じられなかった。

長年追い求めていた妻が、自分を愛してくれた唯一の人間が自分を否定する、その姿が。

「・・・あなたが不器用な人だと言う事は、この私が一番良く知っているつもりです。
あなたは他人に心を開こうとはしなかった・・・いえ、出来なかった・・・・・何故なら、その術を知らなかったのだから。
そんなあなたが、私だけに心を開いてくれたのよ・・・そして私達は愛し合い、シンジが産まれた。
この子が産まれた日の事を覚えていますか?
あなたがシンジを抱き上げた時・・・・・とてもぎこちない抱き方だったけれど、あなたは笑っていたわ。
喜びに満ちたあなたの瞳を見て・・・この子を産んで良かった、って心から思ったのよ。
あの日の事を思い出して頂戴、あなた・・・・そして目を覚まして。
こんな・・・馬鹿げた真似はすぐに止めてください」

ユイの言葉に、何も返す事が出来ないゲンドウ。

ユイは真っ直ぐにゲンドウの瞳を見つめたまま。

そんな二人のやり取りを見つめていた冬月が、静かに口を開いた。

「・・・・ユイ君、君は我々の愚行を止める為に戻って来た、とでも言いたいのかね?」

「・・・そうですわ、冬月先生。
私にも責任がありますから・・・黙って見ているわけにはいきませんもの」

「しかし・・・・死海文書に記されている通り、使徒は必ず出現する。
そして、エヴァなくして人類の未来はない。
コアから君がサルヴェージされた以上、魂のない初号機が起動するとは考えられんが・・・・どう対処するつもりなのかね?」

「簡単な事です・・・・私がもう一度コアに入ります」

「何だって!?」

「今、エヴァのコアは空の状態・・・以前と同様に起動実験を行えば、コアに取り込まれる事は確実です。
私は既に『死んだ』身ですし、問題はないはずですわ」

「・・・・しかし・・・・」

「駄目だっ!!!!」

ゲンドウの肩が震えていた。固く握り締められたその拳に、爪が食い込んでいる。

「・・・・こうして再会できたと言うのに、お前はまた私の前から消えてしまうつもりなのか!?
私は・・・・また君を失う悲しみを味合わねばならんと言うのか!?
許さん・・・・・そんな事は断じて許さん!!!」

「なら、他にどんな方法があると言うのですか!?
他の誰かを私の身代わりにして、犠牲者を増やすとでも!?
そんな事、私が認めるわけがないでしょう!!」

「・・・・黙れ!!!!
私は・・・・私は君さえ傍に居てくれれば良いのだ!他の事などどうでも良い!!
どうして私の気持ちを汲んではくれぬ!?何故だ・・・・何故だ、ユイ!!」

「・・・・あなたこそ、私の・・・・シンジの気持ちを考えてはいないじゃないですか!!
何故シンジが自らの命を危険に晒しながら、使徒と戦っているのかご存知なんですか!?
あなたに命令されたからじゃない!自分の意思で戦っているんですよ、この子は!
使徒から、私利私欲に塗れた補完計画から人類を守る為に!!」

ゲンドウはシンジを睨み付けた。

それでも、シンジは目を逸らさなかった。

その瞳に、悲しみの色を湛えたまま。

「何を・・・・貴様、ユイに何を吹き込んだ!?言え、シンジ!!」

「あなた!!まだ・・「いいよ、母さん」」

シンジの手が、ユイを制する。

その瞳に、ある決意を篭めて。

「・・・・シンジ・・・・・・」

「僕が知っている事、思っている事を父さんに伝えなきゃ駄目なんだ・・・・僕の言葉で」

「・・・・・そう」

シンジは手をゆっくり下ろすと、ゲンドウに向き直った。

敵愾心を露わにしたままのゲンドウにも怯む様子もない。

「・・・今一度問う。
シンジ、貴様が何を知ると言うのだ?」

「全てじゃない・・・・・けど、父さんがやろうとしている事は知ってるよ」

「馬鹿なことを言うな!!
お前ごときが・・・・・パイロットとして呼ばれただけのお前が何も知るはずがない!!!」

「・・・・・ヘヴンズ・ドアの向こうに眠るアダム・・・・いや、リリス。
リリスより生み出されしエヴァ・・・・・そして、綾波。
ロンギヌスの槍。
ダミープラグ。
ガフの部屋。
まだ他にもあるけど・・・・・こんな単語の羅列なんて、意味無いよね・・・・父さん?」

ゲンドウは驚愕の余り、声を震わせた。

最早いつもの冷静沈着な姿など、どこにもない。

「・・・・・・何故だ!?何故お前がそこまで・・・・・」

「・・・・僕は、僕とアスカはサード・インパクトを生き残り・・・・そして、この世界に戻ってきたんだよ。
僕が経験してきた事・・・・これから起こり得る『未来』を話すから、黙って聞いててくれる?」

無言のままのゲンドウを、肯定とみなしたシンジ。

小さく息を吸うと、感情を押し殺した静かな口調で話し始めた。

「サード・インパクトを人為的に起こし、全人類を・・・生きとし生けるもの全てをひとつの『完全体』として融合する・・・それが、人類補完計画と呼ばれるモノ。
SEELEは新たに選ばれた人類のみを誕生させるという目的を以って。
そして父さんは、エヴァに取り込まれた母さんと再会したいが為に・・・この計画に着手したんだ。
迫り来る使徒を殲滅するためにエヴァを創り出し、僕達チルドレンを戦場へ無理矢理送り出した。
僕達は苦しみ、傷つきながらも全ての使徒を・・・・倒した。
・・・その後、父さんとSEELEは、お互い異なる方法でサード・インパクトを引き起こそうとしたんだ。
最初の人間であるアダム、そしてリリスの分身たる綾波レイ。
父さんはこの禁断の融合からサード・インパクトを発動させようとした。
だけど、それは実現しなかった。
綾波はパーツじゃない、モノでもない、ヒトだったから・・・・・・・・そして拒否したんだ・・・・・父さんを。
SEELEは・・・・・もっと残酷な手口だったよ。
初号機を憑代にする為、パイロットである僕の精神を破壊する為に・・・・僕に関係する全てを・・・破壊し尽くしたんだ。
戦自一個師団による、NERV本部の接収・・・・いや、NERVに関連する全ての人に対する虐殺。
そして・・・・カヲル君のダミープラグを搭載した・・・・九体の量産機による襲撃。
・・・父さん達は人の命をまるで玩具のように弄んで・・・・全てを奪っていった!!

友達も!

家族も!

平和な、楽しかった時間も・・・・・みんな、みんな、みんな!!!!」

シンジの脳裏に、思い出したくもない光景が浮かんでは消えていく。

両目から涙が溢れ、堪えようのない怒りで声が震えた。

ずっと抑えつづけていた感情が、一気に噴出した。

だが、シンジは続けた。

ゲンドウから視線を逸らす事無く。

「・・・・・思惑通り、サード・インパクトは起きたよ。
全ての人間は、生物はATフィールドを失い・・・・・・・・L.C.Lの中に溶けてしまった。
僕が気付いた時、傍にいたのは綾波だけだった。
彼女も、僕に同化する寸前だった・・・・・そして言ったんだ。
これが僕の望んだ世界なんだ、って。
他人から傷つけられる事も、疎まれる事も、他人を傷つける事もない・・・・・何の恐怖もない世界だ、って。
そして、僕の望みが世界を作り出すって・・・・・
だから、僕は全てを元に戻すことを望んだ。
他人の存在を望んだ。
ATフィールドが・・・心の壁がすべての人々を引き離す事を。
例え他人との恐怖があっても、誤解から自分を傷つける存在が居たとしても、自分自身の存在を否定されたとしても・・・・・

その後の事は良く覚えていない。
気付いた時、そこにいたのは僕とアスカだけだった。
アスカは・・・やり直そうって言ってくれたんだ。
僕を赦してくれた。
僕を認めてくれた。
僕がココに居ても良いって・・・・教えてくれたんだ。
だから・・・・・戻ってきた。
もう一度、全てをやり直すために。
二度と・・・・・・あんな思いは・・・・・・したくないから・・・・・・」

 


 

シンジは俯き歯を食い縛りながら、嗚咽を漏らしていた。

ユイはシンジをその胸の中に抱き締め、まるで諭すように話し始めた。

「・・・・・この子がエヴァの中に・・・・・・コアにいた私に接触を図ってきた時、本当に驚いたわ。
その時、話してくれたの・・・・・・いえ、私がシンジの心を読み取ったのね。
シンジが歩んできた道、この15年間に感じたり、考えたり、出会ったり・・・・・・・様々な事を。
私はこの子に人類の未来は明るい、と言う事を見せたい、伝えたいと思い、被験者として試験に臨んだ。
・・・・思えば、それがそもそもの原因だったわ。
あの事故は幼いシンジから母親を奪い、あなたからは妻を奪い・・・・・・・私はエヴァに取り込まれた。
私は親として、シンジに何も教える事ができなかった・・・・・・それはあなたも同じなんですよ、ゲンドウさん。
・・・まだ、今ならやり直しが効くんです、事態を正しい方向へ戻す事が。
あなた・・・・目を覚まして。
そしてシンジを助けてあげて頂戴・・・・・私はエヴァとひとつになり、シンジを守るわ。
親として、私達に出来る事をしましょう?
全てを終える事が出来たら・・・・その時は・・・・・・」

ユイはそこで口を噤んだ。

その先の言葉を、シンジの目の前で言うわけにはいかなかったのだ。

冬月はその言葉の裏に何かを感じ取ったのか、やれやれといった表情を見せる。

「・・・・君が口にした事を簡単に曲げない人間だと言う事は良く知っているよ、ユイ君。
私に出来る事は限られている、だが・・・・・最後まで見届ける事を約束しよう。
それで良いかね?」

「・・・・ありがとうございます、冬月先生」

「まったく・・・・君達はいつも面倒事を押し付けてくれるものだな・・・・・私にも責任はあるから、致し方ない事だがね。
碇・・・・・は何を言っても無駄のようだな・・・・・・・」

ゲンドウは魂が抜け出てしまったかのように、放心したまま立ち尽くしていた。

ユイは冬月に頭を下げた。

「面倒掛けてばかりで申し訳ありませんが、シンジの事・・・そしてこの人の事、宜しくお願いします」

「ああ・・・わかった。
もう行き給え・・・・此処に居る必要もあるまい?」

「それでは、失礼します」

「ああ、出来る事なら・・・また会おう」

ユイは小さく会釈すると、それに答える事無く執務室を退出した。

未だ動かぬゲンドウを一瞥した後、冬月は小さな溜息を吐いた。

「・・・・最早我々の、そして老人達のシナリオは崩れた・・・・・か。
全ての鍵を握るのがたった14歳の少年とはな・・・・・
狂い始めた歴史の歯車・・・・・・か」

冬月は窓を見つめた。

その瞳に何が映っているのか、知るものはいない。

 


 

その日の深夜、誰にも知られる事なく初号機の起動実験が執り行われた。

被験者は、蒼髪の少女を仮初めの身体とした、碇ユイ。

そして、実験は『成功』した。

エントリープラグ内を写したモニタ上に、彼女の姿は無かった。

 


 

暗闇の中に浮かび上がる、十二体のモノリス。

そして声だけが、自らの所在を主張するかのように響き渡る。

「アダム、エヴァ、そしてロンギヌスの槍・・・・・それら全てが碇の手に渡った・・・」

「アレは危険な存在だ・・・・早急に対策を講じねばならんのではないか?」

「しかし、迂闊に手を出すわけにも行くまい」

「奴は我々に服従しているように見せかけているだけだ。
今頃は手駒が揃ったとほくそ笑んでいる事だろう」

「碇には鈴をつけたのではないか?」

「あの鈴も信用ならん。
情報操作などお手のものだろう、報告を鵜呑みにはできぬ」

「日本政府も小賢しい真似をしてくれたものだ・・・・お陰で防衛が強化された」

「議長・・・・碇の代わりなどいくらでも居る。
そろそろ切るべきではないか?」

「・・・・性急に事を構える必要はない。
イレギュラーは発生しているが、まだシナリオから逸脱してはおらんからな」

「しかし、事が起きてからでは遅すぎるのだぞ?」

「左様、危険分子の排除は早急に行うべきだ」

「事は単純なものではない。
何しろ奴は知り過ぎているのだ・・・・慎重にならざるを得ん」

「・・・・・しかし・・・・・」

「この件に関しては議長である私に一任して貰おう。
いくら議論を交わしたとしても、回答はまだ出せぬからな」

「・・・・・・」

「今回はこれで終了する、良いな?」

「やれやれ・・・・・」

「時間の無駄遣いだったな、今日は・・・・・」

議長を皮切りに、次々と消えていくモノリス。

最後のひとつが消えると、完全な暗闇となった。

まるで、最初から何も存在しないかのように。

彼らはまだ気付いていない。

文書に記された『歴史』が変えられつつあるのを。

その中心に、憑代として選び出された少年の強い意志がある事を。

彼らがその事を後悔するのは、まだ先の話である。