新横須賀沖を進む、国連太平洋艦隊。
旗艦オーバー・ザ・レインボウの指令室内に非常事態を示すサイレンが鳴り響く。
「テンペスト、沈黙!」
「リンデンバウム、大破!乗員は脱出!」
「状況報告はどうなってる!!」
「ダメです!敵生体を捉えられません!」
「何故だ!?何故沈まん!?
魚雷を何発受けていると思っているんだ!!」
怒号が飛び、半ば悲鳴と化している声。
次々と爆発、炎上を起こす僚艦。手に持つ双眼鏡がブレる。
混乱の最中、一際通る声が指令室内に響く。
「アレは使徒よ!通常兵器では何の役にも立たないわ!!」
声の主に集まる視線。
その先に立っているのは、泣く子も黙るNERV作戦部長・葛城ミサトであった。
其ノ壱ノ参:ニジノムコウニ(参)
「至急攻撃を中止、以降の攻撃に対する指揮権限をNERVに委譲するよう要請します!!」
「何をバカな!!今は搬送中なんだぞ!?
君達はあくまで我々の指揮下にあることを忘れるな!!!」
「しかし!!相手は使徒なのよ!?」
睨み合う艦長とミサト。どちらも全く譲る気配がない。
「オスローより入電!エヴァンゲリオン弐号機、起動!!」
「何だとぉ!?」
「ナ~イス、アスカ!」
オペレータからの報告に、ニヤリと笑うミサト。
艦長は顔を真っ赤にしながら怒鳴りつけた。
「勝手な行動は許さんと言ったはずだぞぉ!?」
「あ~ら、そうでしたかしらぁ?
オペレ-タ!通信回線開いて!!」
「は・・・・・はいっ!」
ミサトの凛とした声に思わず反応してしまうオペレータ、素早く弐号機との回線を開く。
「アスカ!聞こえる?」
『ハイ、ミサト!』
『ミサトさん!加持さんはそこにいますか!?』
「え・・・・シンジ君も一緒にいるの!?」
『詳しい話は後で!』
「ええ・・っと・・・・加持はココにはいないわ!?」
『呼んだかい、シンジ君?』
突然割り込んできた加持からの通信。ミサトは驚きのあまり声が大きくなる。
「加持ぃ!?アンタ一体ドコに・・・!?」
『葛城、話は後だ!
注文の品はアンビリカブルケーブル脇に用意してあるよ、おふたりさん。
指示をくれれば、こちらでリモート爆破する!』
『りょ~~かいっ!!アスカ、行っきま~~~す!!』
輸送船オスローの甲板に立ち上がった弐号機は、軽やかに宙に舞った。
が、目の前は海。
その跳躍の高さは、オーバー・ザ・レインボウに届くまでには至らない。
それを見ていたミサトは気が気ではない。
「・・・って、アスカ!海よ、海!!!」
エントリープラグ内の二人は、そんなミサトの慌て振りを気にも留めていなかった。
「タイミング良くね、アスカ!」
「まっかせなさいっ!
eins・・・zwei・・・drei!!」
まさに弐号機が着水する瞬間・・・・足元に広がる、オレンジ色の八角形。
艦船の被害を最小限に食い止めようというシンジの発案から出た、ATフィールドの応用。
弐号機は、まるで三段跳びの選手のように水面を跳んだ。
「スゴイわ、アスカ・・・・・・はっ!
総員、対ショック防御!衝撃に備えて!!」
茫然自失状態の艦長を余所に、乗組員へ命令を下すミサト。
その場にいた者全てが素早く反応し、各自衝撃に備えた。
『ターーーーッチ・ダウーーーーーンっ!!!』
最後の跳躍を終えた弐号機は、オーバー・ザ・レインボウの甲板に対し着艦体勢を整えた。
直前、足元にATフィールドを展開、慣性モーメントを吸収する弐号機。
ふわり、といった感じで甲板に着地した機体、ほとんど衝撃を感じない艦橋。
アンビリカルケーブルを素早く装着し、外部電源に切り替えるアスカ。
加持の用意したN2機雷を掴むと、戦闘態勢に入った。
その間、僅かに30秒足らず。
『加持さん!準備はいい!?』
『ああ・・・いつでもOKだ!』
『じゃ・・・3カウントで起爆!』
『了解、アスカ!』
『・・・来る!3時方向!!』
アスカが機体を向けると同時に、跳躍してくる使徒。
その大きさは弐号機を遥かに凌駕していた。
大口を開けて襲い来る使徒をがっちりと組み止め、甲板を蹴る弐号機。
両者は揉み合うような形で水中に没した。
「アスカ!シンジ君!!」
艦橋内にミサトの悲痛な叫びが木霊した。
エントリープラグ内、アスカ。
操縦桿を持つ手に、力が篭る。
『心を開く』ことを教えられたアスカのシンクロ率は、通常を遥かに超えていた。
しかし、使徒からのプレッシャーはそれ以上に強力だった。
「くっ・・・・・流石に・・・・・強い!!」
「サポートするよ、アスカ!」
左手でシートを掴み、右手をアスカの手に添えたシンジ。
お互いを『守りたい』という気持ちが、二人の心をシンクロさせた。
シンクロ率が急激に跳ね上がり、メーターは一気にレッドゾーンに飛び込む。
弐号機の4つの瞳が、更に輝きを増した。
完全に指揮権を掌握したミサトは、オペレータに対し矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「現在位置の報告!」
「敵生体及び弐号機、秒速20mで沈降中!現在深度、480m!!」
「アンビリカルケーブルの残量は!?」
「あと480mです!時間にして16秒!!」
「アスカ!シンジ君!!
ケーブルはあと15秒くらいしか保たないわ!!!」
ミサトからの報告を受けた二人は、顔を見合わせて頷いた。
「加持さん、行くわよ!カウント!!」
「「3!」」
使徒の下顎に右足を掛け、口を開けたまま固定。
「「2!!」」
自由になった右手で、N2機雷の束を握り直す。
「「1!!」」
使徒の口中に機雷を投げ込むと同時に右足を離し、使徒の口を力任せに閉じる。
「「GO!!!」」
合図と同時に、起爆スイッチを押す加持。
使徒の腹部が数倍に膨れ上がり、口の脇から気泡が溢れ出す。
口内で爆発したN2機雷は、光球はもとより体内機関の全てをズタズタに切り裂いた。
弐号機が手を離すと、その巨体は力なく海底へと沈んでいった。
二度と浮き上がることのない、深い海の底へ。
「敵生体沈降・・・・・生体反応見られません!!完全に沈黙!!!」
モニタを凝視していたオペレータが、声高に報告する。
湧き上がる艦橋内。
歓喜の渦の中、釈然としない表情でいるのが一人。
葛城ミサトである。
過去三度の使徒襲来。
いづれも迎撃までに時間の余裕があった。
だからこそ有効な作戦を立てることができたし、それを実行できた。
だが、今回は状況が異なる。
予想だにしなかった使徒の急襲。
何もできなかった自分。
まるで使徒が襲来することを知っていたような、三人の行動。
何故、加持はN2機雷を用意していたのか?
何故、シンジとアスカは迷うことなく弐号機に搭乗し、出撃したのか?
何故、あれほど息の合った作戦を ?
事前に打ち合わせずに取れる行動ではない。
だとすれば、誰が ?
『・・・ミサト!ちょっと、聞いてんのぉ!?』
アスカからの通信が、思考の海に沈むミサトを現実に引き戻した。
「・・・あ、ゴメン。
何?アスカ・・・・」
『何ボケボケっとしてるのよ!?
作戦終了でしょぉ?早く引き上げてよね・・・・・』
「あ・・・・すぐに引き上げるわ。
二人とも・・・・お疲れ様」
『・・・・ったくもう・・・・・』
「・・・・着替えが済んだら私のところまで来て頂戴、ふたりともよ?」
『わかったわ』
通信を切った後、ミサトは弐号機の回収、及び戦闘記録の接収をオペレータに命じた。
『・・・・シンジ君・・・・アスカ・・・・・・アンタ達、一体・・・・』
ミサトの表情は、まるで戦闘中のように険しいままだった。
弐号機の回収、及び脱出した乗組員の救助活動を終え、新横須賀港への航行を再度開始した太平洋艦隊。
ミサトと加持は、加持の私室でシンジ達の支度が終わるのを待っていた。。
「・・・・納得の行く説明をしてもらいましょうか?」
絶対零度、とでも言うべき冷たい視線を加持に向けるミサト。
明らかに機嫌が悪い。
そんなミサトに慣れているのか、加持は飄々とした態度を崩さない。
「まぁま・・・そんなにいきり立ちなさんなって。
全てはシンジ君が話してくれるよ」
「シンジ君?関係ないでしょ?私はアンタに聞いてるの」
「関係なくはないよ、彼は。
・・・・・今日のことに関しては、ね・・・・・」
「どういう意味よ?」
「・・・・葛城」
突然、真剣な表情になる加持。
「・・・・実はな、俺にも判断できていないんだ・・・・彼らが・・・・・何者なのか・・・・・・」
「・・・な・・・・・何バカなこと言い出すのよ?」
「薄々感づいているはずだろ、お前も?
二人が・・・・・どこか違うことに・・・・・・」
「・・・・・・」
ミサトは加持の言葉を否定できなかった。
自分の考えと加持のそれが、全く同じなのだから。
「・・・俺はアスカのガードを何年もやってきた。
全てというわけじゃないが、彼女のことは誰よりも理解しているつもりだ。
あの娘は攻撃的だよ・・・自分に対し、また他人に対してもだ。
自分の脆さや弱さを他人に見せようとしない。
まだ幼いが故に、己のアイデンティティを確立する方法をそれ以外に知らないからな。
・・・・お前も知っているだろ?」
「・・・・ん・・・・・」
「そんなアスカの前に現れたのがシンジ君だ。
彼は否応なくエヴァに乗せられ、使徒に直面してきた。
何の訓練もせずにエヴァとシンクロし、人類として初めて使徒を倒した。
既に三体の使徒を倒した実績を持つ、名実共にエースパイロットなんだよ、彼は」
「・・・・・・・」
「自分の立場を脅かす者が現れたとしたら、誰だって平常ではいられないはずだ。
ましてやアスカの事だ・・・・・簡単には受け入れるわけがない。
違うか?」
ミサトは首を横に振るしかなかった。
アスカの事を知っている人間ならば、誰しもそう考えるからだ。
「シンジ君についてはお前のほうがよく知っているだろ・・・・・・・
俺は彼の事を報告書でしか知らない。
内向的だとか、人付き合いに乏しいとか、内罰的だとか・・・お世辞にもいい事は書いていなかったよな」
「・・・・否定はしないわ。
シンジ君は・・・・自分を表に出さず、自分の殻に篭って、他人の顔色を覗って・・・
他人との接し方を知らないのよ・・・・・それを教えるべき両親がいなかったから・・・・
精神的に脆い、可哀想な子・・・・・」
「・・・・でなきゃお前は自分のところに引き取るなんて言わないさ。
たとえ子供達に対して自責の念があったとしても・・・・な」
項垂れるミサト。
加持の言葉が、心に突き刺さる。
加持はミサトの肩を抱いた。
「・・・お前を責めるつもりではないさ。俺だって同じ立場だからな・・・・・・
誰が好んで年端も行かない子供達を戦場に送り出すなんて言うんだ?」
「・・・・わかってる・・・・・」
「・・・・話を戻すが・・・・そんな彼とアスカが出会った。
お前ならどうなると思ってた?」
「・・・衝突は避けられない・・・・」
「だろ?だが現実はどうだ?」
「・・・・そんな感じは全然なかったわ。
今日が初対面のはずなのに、まるでお互いを良く知っているような・・・・・
私達を置き去りにして、二人で行動してたし」
「俺は昼食の前に、二人を見掛けた。
仲睦まじく歩いていたよ・・・手を繋いでね」
「嘘・・・・・」
「冗談なんかじゃないさ。
その後、俺は二人と話をした。
内容は・・・・今日の事だ。
それについては、この後シンジ君から聞いたほうがいいだろう。
ほとんど俺とシンジ君だけで話を進めた。
アスカはほとんど・・・・・・・・・・無口だったよ」
「信じられない・・・・シンジ君が?」
「ああ・・・・俺の目の前にいた二人は、お互いを完全に理解していたようにしか見えなかった。
アスカはシンジ君が話を進めるのが妥当だと考えていたし、シンジ君もそうだったはずだ。
信用とか信頼とか・・・・そんな言葉では言い尽くせない『何か』を感じたよ」
「・・・・・」
「なぁ、葛城・・・・彼らは本当にあの二人なのか?」
「・・・バカな事言わないで!」
ミサトは加持の手を振り払い、勢い良く立ち上がるとキッ、と加持を睨んだ。
「あの子達は私達の、いえ人類の為に命を掛けてくれてるのよ!?
あの小さな手で、身体で・・・・幼い心を傷つけてまでも!!
そんな二人を疑うっての、アンタは!!!」
大声が響く中、ドアが小さくノックされたと同時に音もなく開いた。
ミサトの剣幕に一瞬立ち尽くすシンジとアスカ。
だが、先に立ち直ったアスカはシンジの背を押して部屋の中へと入ってきた。
「なぁにぃ?こんなトコでも痴話ゲンカなワケぇ?」
「な・・・・違うわよ、アスカ!」
呆れたような表情のアスカと、真っ赤になって否定するミサト。
やれやれといった感じで、シンジがアスカを止める。
「やめなよ、アスカ・・・・わかってるくせに・・・・」
「・・・・いーじゃない・・・・なんかギスギスしてるからさ、ちょっと場を和ませようと・・・」
「仕方ないよ・・・・僕達の事を話していたんですよね、ミサトさん?」
「・・・・う・・・・・」
「ああ、そうだ」
答えを言い澱むミサトを無視して、加持は簡潔に答えた。
加持を睨みつけるミサト。
「・・・・ま、確かにね・・・・疑われたってしょうがないもんね」
「・・・・アスカ・・・・?」
「とにかく座ってくれ、話はそれからだ」
加持はミサトに椅子を勧め、自身は机の縁に腰掛けた。
アスカとシンジがベッドに腰を落ち着かせたところで、加持が切り出す。
「さて・・・・話してもらおうか。
君達が何を知っているのか、何を・・・教えてくれるのかをね」
シンジは小さく頷くと、静かに話し始めた。
いつものオドオドとした様子など微塵もない。
「・・・誤解されているかもしれないので初めに言っておきますけど、僕は碇シンジであり、彼女は惣流・アスカ・ラングレー本人です。
これに間違いはありません。
ただ、違うのは・・・・僕達は昨日までの・・・・加持さんやミサトさんが知っている僕達ではない事なんです。
僕とアスカは・・・・未来を変えるために『戻って』来ました。
サード・インパクトの起きた、『あの日』から・・・・・」
「・・・な・・・・・・」
驚きの余り目を見張るミサト。
加持は腕で言葉を制した。
「・・・とにかく、僕達の話を聞いてくれますか?」
黙って頷く二人。
シンジは小さく深呼吸した後、ゆっくりと話し始めた。
第七使徒・イスラフェル。
第八使徒・サンダルフォン。
第九使徒・マトリエル。
第壱拾使徒・サハクイエル。
第壱拾壱使徒・イロウル。
第壱拾弐使徒・レリエル。
第壱拾参使徒・バルディエル。
第壱拾四使徒・ゼルエル。
第壱拾五使徒・アラエル。
第壱拾六使徒・アルミサエル。
第壱拾七使徒・ダブリス。
戦自によるNERV本部襲撃。
そして サード・インパクト。
たっぷり一時間は掛かっただろうか。
『今日』から『未来』 シンジ達には過去だが の話を終えたシンジ。
トウジやカヲルなどが絡む部分では感情が昂ぶる事もあったが、アスカのフォローにより全てを話し終えた。
そのアスカも、アラエル・アルミサエルの話題の際、小さく肩を震わせていたが。
ミサトは驚愕の表情のまま、身動ぎすらしない。
自分の知っている情報がいかに少なく、隠蔽されている事柄が多いという事実。
何より、シンジとアスカが熾烈な日々を過ごしてきた その『事実』がミサトの心に重く圧し掛かっていた。
そんなミサトを見かねてか、アスカが呟いた。
「・・・・ま、いきなりこんな話信じろって言っても無理よね。
なんてったって当事者のアタシ達が一番信じられなかったもの。
どうやって戻ってきたか、何がどうなっているのかなんてわからないし。
証明しろって言われても・・・証拠なんてないわ。
DNA鑑定したって本人以外の答えは出ないだろうし。
だいいち、精神だけ、記憶だけが戻ったのか、それとも身体ごとなのか・・・・それすらもわからないもの。
・・・・でも、シンジが、そしてアタシが話した事は全て事実。
自分の目で見て、体験してきた事。
信じる、信じないはミサトが決める事よ。
アタシは・・・いえ、アタシ達は『信じて』としか言えない・・・・」
「・・・・アスカ・・・・・」
ミサトは二人を見た。
二人の瞳の中に、信頼と不安が入り混じっている。
静かに目を閉じ、そして開く。
「・・・・ねぇ、シンジ君・・・私達は家族よね?
そして・・・今日からまた一人・・・・・家族が増える、ただそれだけの事ね?」
シンジはしっかりと頷いた。
ミサトは満足そうな笑顔を二人に返すと、加持に向き直った。
「・・・・加持君、あなたがどう考えるかは私にはわからない。
けれど・・・私は信じるわ、例え世界中の全てを敵に回したとしても。
この二人は・・・私の大事な弟と妹だから」
「・・・誰も信じない、とは言ってないんだがなぁ・・・・・・・」
真剣な表情を崩し、いつもの飄々とした姿に戻った加持。
頭をポリポリと掻きながら話を続ける。
「俺はただ真実が知りたかっただけさ。
・・・・確かに、君達に疑惑の目を向けていた事は否定しない。
それについては謝る。
だがね、二人は信用するに値するよ。
俺の目の前で、自らの言葉通りに使徒を倒したし。
何より・・・・二人の目だな。
『目は口ほどにものを言う』って諺があるだろ?
二人の真剣な目を見て・・・・・その言葉を信じないヤツはいないさ」
「加持君・・・・」
「・・・・どっちにしても、俺達はもう逃げられない。
知りすぎてしまったからな・・・・・・
だが、何もせず手を拱いているわけにはいかない。
SEELE、そして碇司令のシナリオ通りに事は進めさせんさ・・・・」
「SEELE?」
「・・・そうか、葛城には話してなかったな。
古より世界を裏で動かす権力者の集団・・・・それがSEELEだ。
そして、NERVのスポンサーだよ。
・・・彼らは『死海文書』という書物を所有している。
それは一種の予言書のようなもので、全ての事が記されているそうだ・・・・過去から、未来まで。
そしてSEELEは『死海文書』に記された事柄に基づいてある計画を立てた。
それが『人類補完計画』であり、その中核を成す『E計画』なんだよ。
恐らく・・・・シンジ君やアスカが経験してきた事は、全て記されているんだろう。
残念ながら実物を見た事がないから・・・・あくまで想像でしかないがね」
「・・・・・・」
黙り込む4人。
だが、シンジは静かに、力強く言い放つ。
「・・・僕達は未来を変えるために戻って来たんです。
父さんやSEELEの人達にだけ都合の良い結末にだけは・・・・・させません」
「シンジ君・・・・・・」
「ま、とにかく・・・・だ。
今後は行動を慎まないとな・・・・・下手な詮索だけはさせないようにしないと」
全員が加持の言葉に頷く。
「・・・今日はこれくらいにしておくか・・・もうすぐ入港時間だろ」
「そうね・・・・リツコが迎えに来てる筈だわ」
早くも次の行動に気持ちを切り替える加持、そしてミサト。
シンジとアスカはお互いの目を見て頷きあった・・・・・笑顔で。
そんな二人を見ていた加持が、ニヤリと笑った。
「・・・・ま、仲良き事は・・・なんて言うけど、程々にしといたほうが無難だな」
「「え?」」
「・・・・な~るほどぉ・・・・・」
加持の言葉にニヤニヤと笑うミサト。
伊達に付き合いが長いわけではない。
「だぁってぇ~、見せ付けてくれるんだもん♪」
「な・・・・何バカな事言ってんのよ!?
一度にいろんな情報を詰め込んだもんだから、頭がオーバーフローしたんじゃない?」
「あらあら・・・・幸せ過ぎて状況が把握できてないのはアスカのほうじゃなぁい?」
「どっからそんな話がでてくんのよっ!!」
勢い良くベッドから立ち上がろうとしたアスカだが、いきなり手を引っ張られる。
実際は、ずっと手を繋いでいる事に気付いていなかったのだ。
瞬間湯沸機のように真っ赤になる二人。
「こ・・・・・これはっ!
シ、シンジが不安そうな顔してたから・・・・・そうよっ、仕方なくなのっ!」
「あ~らぁ・・・・・その割には手を離そうともしないじゃない?
まったく・・・・素直じゃないんだから♪」
「う゛・・・・・・」
完全に形勢不利なアスカ、優位に立つミサト。
そんな状況を変えたのは、シンジの一言だった。
「ミサトさん・・・・・・禁酒にしますよ?」
「う゛・・・・・・・」
「ぶっ・・・・・・あっはっはっはっはっはっは!」
笑い出す加持、そしてそれに全員がつられた。
部屋の中には笑顔が4つ。
アスカとシンジにとって、久し振りに訪れた安らぎの時だった。
それは、二人にとって新しい『未来』の始まりでもあった。
余談:
使徒からの攻撃が始まった後、安全の為に船室へ逃げ込んだトウジとケンスケは、完全にその存在を忘れ去られていた。
「ワシらって・・・・・一体・・・・・」
「言うなよ・・・・・ワキ役はこんなもんさ・・・・・・・」
新横須賀港に入港後、ようやく船室から救助された二人はさめざめと涙していたという(笑)