走っていた。
終わりのない螺旋階段を。所々崩れ変えている石畳の階段。
薄暗く、青黴の臭いが鼻を突く。
どこなんだろう?
そんな疑問はもう何万回と問いかけた。だが、回答などは得られず、ただ追い立てられるようにその階段を上っている。
時に息を切らせて駆け上がり、時に一段に腰を掛け何も考えずに座り込む。そしてまた上る。
終わらないような回転の繰り返し。だが、徐々に彼の周りを光が包んでいた。
彼は再び足を早める。
出口だ。
光に満ちた世界がそこに広がっている。
そこを抜けて、彼は強張った瞼を何とか開いて、光を見上げる。
白く発光する空。それは薄い雲に覆われた真夏の青空だ。
彼はそこまで来て安心した。だがその時、空から金の銀の光が彼の目の前に降ってきた。
二つとも暖かく、彼を包んでくれる。だがどちらも弱々しい光を奥に隠している。
彼はその二つの光を手にしたいと思った。
両手をのばして捕まえようとするが、光は手をすり抜ける。そして彼の周りを周り始めた。
金と銀の光の輪が彼の目の前で速度を増して回っている。
一度引いた手を、おそるおそるまたのばす。
金か。
銀か。
そして明るさを増して・・・。
彼は瞳を上げた。
見慣れた、白い天井。
彼の部屋だ。
夢である。彼、碇シンジがこのところ毎晩みる夢。
シンジは上半身を起こすと、右目に掛かりかけた前髪を人差し指でかき上げる。
「夢・・・どうしてこんな夢ばかり見るんだろう?」
誰に対する問いかけでもない。まして自分にでもない。それこそ答えなどないはずだ。
そう、ないはずなのだ。
ふと見た時計は、まだAM5:13を指している。起床にはまだ一時間ばかり早い。
「・・・もう少し眠るか・・・」
醒めていない頭をもう少しだけ休めるために、シンジはまた布団に潜りこんだ。
夢のことを気にしながら。
「アスカ、誘拐」
朝はいつでも誰にでも、夜の後にやってくる。 それはある者にとっては希望に満ちたことで、ある者にとっては絶望の始まり。
シンジにとってそれはどちらでもなく、どちらでもあった。最近、アスカの態度が可笑しい。二人でいるときは妙に甘えた印象を受ける。またそこにマリーが加わるとなぜかよそよそしくなって、口数も少なくなる。またふっと見かける、マリーに送るアスカの視線。寂しげで物憂げで、どうも負の感情に彩られているような視線を、マリーに向けているときがある。
なぜだろう?
だが、シンジにそれを聞く勇気はなかった。
聞けばそれで万事解決する。そう思う自分の隣にいつも、すべてが崩壊するのではないかと疑う自分がいた。
そんなはっきりしない三角関係は、端から見ると泥沼化して見えるらしい。彼らの関係をあまり詳しく知らない、他のクラスの人間は、その若い巧みな想像力を使って、いろいろと下世話な状況を想像していた。
だが、当人たちはそれを全く気にしていなかったが。
一人の少年と二人の少女を包むように、ゆっくりと冬の空気が近づいていた。
シンジを挟むようにして、つかず離れずの距離を保つ、アスカとマリア。
三人にこれといった会話はない。ただ同じ歩速で、帰り道を歩いている。
「もうすぐ冬だね・・・」
大概が沈黙の重圧に耐えきれなくなったシンジが、何らかの話題を振る。
「だんだんと昼が短くなってるもの」
「寒くなりそうね」
といった具合で、どうもシンジを通して会話しているような状態だった。
シンジはアスカの変化には気がついていたが、マリアにも変化があったことに気づいたのは、つい先日のことだった。アスカの態度に感化されたというか、目には目を、の論理なのかマリアのアスカに接する態度も淡泊になっている。
バランスのよかった三角は、シンジを挟んだ両点が、どんどんと距離を離して底辺の長い二等辺三角形になりつつあった。
だが、シンジにそれを解決する手段は存在しない。
マリーにもアスカにも負い目があるシンジ。
とりわけマリーには、償いきれないかもしれない負い目があった。
アスカが好き、と踏み切れない理由もそれだ。
彼はまだ自分が何もできない子供のままであることを悔やむ。
そして低く下りてゆく夕日を見つめながら、なぜだか追い詰まっていると思わずにはいられなかった。
マリーと分かれて、アスカを家まで送り届けるとようやくシンジ一人の時間ができる。誰にも干渉されない、自分だけの時間。本を読んだりチェロをひいたり音楽を聴いたり。有意義な時間を過ごしていた。
だが、今日はどうもそうした落ち着いた割り当てにはできそうもない。
無言で家に入ると、鞄を勉強部屋へ投げだし丁寧に制服をハンガーに掛けると、ジーンズとダンガリーシャツに着替えてリビングに向かう。夕食までにはまだ時間がある。このところアスカが来ない日が多くなっているから、シンジも自分一人だけの夕食をつくるのに億劫になり、コンビニの弁当や、店屋物などで済ますことが多い。
エアコンを暖房に設定し、スイッチを入れる。
そして濃紺の空を一瞥し、カーテンを閉める。静かなリビングに、レールを滑るカーテンの音だけがやけにはっきりしていて、嫌みだった。シンジは苛立ちはじめた気持ちを押さえるため、テレビのリモコンを取った。
この時間はニュースかアニメしかやっていない。アニメはどうもこの時間帯のものは面白みに欠けた。一時期、ものすごい勢いで良質の作品が生み出されていた時期もあったが、このところは手抜き的な作品が多いらしい。そう冬月が嘆いていた。
ニュースもこれといってめぼしい話題を提供してはくれなかった。
テレビを消して、壁に寄りかかり虚ろに天井を見上げた。
変化に乏しい毎日。平和でいつまでも続くと思っていた、アスカとマリーとの関係。だがそれは所詮まやかしでしかなかったのか。
問いかけることすら無意味だった。
どうしようもないやるせなさがこみ上げたシンジは、ふと貯まっていた洗濯物のことを思いだし、走って洗濯機のところに向かう。そして洗濯を始めた。てきぱきと忙しなく動くシンジ。
そうすることで、少しはその悩みを忘れることができそうだったからだ。
逃げても辛くなるだけ。そういうことばかりではない。とりあえず立ち向かっても何もできない自分ではどう足掻いても解決にはならない。そうならば、逃げることも悪くはないのだと、シンジは学んだ。
「この時期は洗濯物の乾きが悪いから、乾燥機が重宝するんだよね」
誰にともなく呟くシンジ。 何かを忘れる為に何かに没頭する。忘却の常套手段だ。
それから一時間近く、シンジはただ洗濯に没頭しバラエティー番組を眺めながら、遅めの夕食を作り始めた。
同じ頃、マリーの暮らすアパート。
彼女の部屋には、「無駄」という言葉がいっさい感じられない。それは殺風景という意味ではなくて完璧な整理整頓が行き届いており、普段使わないようなものが表に出ていない。だが、思い出の品をすぐに割り切って捨てるような醒めた性格ではなく、彼女の部屋のクローゼットにはアメリカでの思い出が詰まっていた。
その彼女の部屋には、コルクボードがけけてある。幾枚か写真が張られているが、もちろんシンジとのツーショットが中央にあった。その周りには修学旅行での集合写真やシンジとアスカと出かけた時に撮った写真に混じって、彼女の家族の写真もあった。
体躯のいい髭面の父。すっきりとした体型の、金髪を靡かせる母。無口で甘えん坊の妹。そして自分。家の庭で撮った最後の写真だ。
マリアはその写真を眺めるとき、不安げな表情しか見せたことがない。
それはシンジぐらいしか見たことがない、彼女が隠蔽しているもう一つの顔。底抜けに明るい彼女の深い一面がそこにあった。
「お父さん・・・お母さん・・・私・・・約束守れてないね」
写真は何も答えてはくれないが、聞き役にはなってくれる。彼女はそうしゃべりながら、椅子に腰掛けた。
「レベッカ・・・ごめんね。お姉ちゃん、何やってるんだろうね?」
頭を下げて肩を震わせている。
沈黙。音のない時間が過ぎてゆく。
その静寂を破ったのは、無機質な電話の呼び出し音だった。乾いた電子音が、彼女の部屋まで響いてくる。手の甲で目元を拭って、彼女は立ち上がった。
テレビの横に置いてあるコードレスの受話器を上げると、努めて平静な声を作る。
「はい、タナーで・・・」
そこで彼女は言葉を止めた。彼女の顔から血の気が失せてゆく。
「・・・どうも。・・・はい。・・・・・・・解ってます。はい、はい。・・・・・・大丈夫です。・・・・・はい。えっ!・・・・はい。では」
苦しそうに受話器をおくと、彼女はその場にぺたりと座り込んでしまった。
「もう・・・終わりなのね。楽しかった日々も・・・」
虚空を見つめる彼女の瞳から、一滴の涙がこぼれ落ちカーペットに染みをつくる。
彼女の部屋に、嗚咽だけが響いていた。
「それじゃ、時間だからそろそろ終わろうかしら?洞木さん」
葛城ミサトは、腕時計のデジタルを確認してから、信頼のおける委員長こと洞木ヒカリに、号令を促した。
「きりーつ、礼」
不揃いなお辞儀が、教室内で展開された。
普段と何一つ変わらない光景だった。鈴原トウジが急ぎ足で部活に向かう。それをカメラで追うようにして相田ケンスケも教室を出た。
彼は今、生徒会からの依頼で、来年新入生歓迎会で使う部活や校内の紹介映像の制作をしている。その関係で、今トウジの部活を撮っているそうだ。
それを見送りながら、ヒカリは黒板を消した。
いつもなら、ここでマリアとアスカが、ヒカリに軽く挨拶して、シンジを交え帰っていくはずだが、今日マリアは欠席、シンジも体よくミサトに雑用させられている。
「なんか久しぶりねぇ、一人で帰るなんて」
右手を右肩にかけて、鞄を持って歩くアスカ。今までのことを思い返すと去年の夏、古典の補修帰り以来だな、とアスカは思う。歩きなれた道を一人静かに歩いていく。
反対車線を不規則に車が走っている。都市の中央へ入っていく車だ。
ふと、アスカはデ・ジャビュにかられた。
こんな風にして、よく歩いた道があった。
3年ほど前のことである。あの頃は何かに追いつめられて、周りに対してギスギスした印象を与えていた。そのときこんな風にして一人で歩いたことがあった。
それは、レイとシンジが機体相互テストだかなんだかで呼び出された時である。
(あの頃はホント嫌な女だったわよね。・・・って今も変わらないか・・・)
どうしてもマリアを意識してしまって、うまく接することができない。その癖シンジに対する想いは押さえきれないくらい強い。
(今マリーにしてることは、昔レイにしてたことと同じ。結局変わってないのよね、アタシって)
いつも行くコンビニや甘味処を通り過ぎ、もう2~30メートルも歩けばコンフォート17にたどり着く。
小さく息を吐いた。
「アスカ」
彼女はその耳になじんでいるソプラノ系の声に、素早く振り返った。
第三新東京市の市庁舎ビルの食堂で呼び止められた加持リョウジは、振り返った先にいた人物に眼を疑った。
「君はっ、確か高榎の・・・」
驚きを隠せなかった。本来完全なセキュリティーによって入場が制限されている市庁舎ビルにおいて、その人物がいることはありえなかった。
「はじめまして・・・と言うべきでしょうね。お話するのは初めてですから。財務省主計局総務課の千屋タカユキです」
加持にとって、彼は初対面の人間だった。何度か見かけたことはあったが、こうして話すのははじめてである。千屋は中肉中背の、特徴にかける男だ。いわゆる一番絵にしにくいタイプである。だが、一・二度見るとたいてい忘れることがない印象がある。どこが、と問われても即答するのは困難に近いが、とにかくそういう男が千屋だった。
「どうやってここに入ったんだ?」
この時間になると、ここに来る人間は限られてくる。今も二人をのぞけば閑古鳥が鳴く状態である。
「簡単なことですよ。私は地方行政体にはいろいろと顔がききますから」
建設省で彼が煙たがられた理由はここにある。本来、国家プロジェクトを初めとして建設省が関わる建設事業の企業への振り分けは、賄賂で決まっていた。それを彼が完全に止めてしまった。しかし彼はそれに飽きたらず、多大な賄賂を受け取った上層官僚を報告し、解雇に追い込んだ。後に彼がとった行動は、企業の仕事振りを調査して適正で振り分けることであった。そのやり方に関しては賛否両論だったが、若返りが謀られていた地方行政体には、ウケがよかった。
そういう若手官僚の白と黒しかつけない灰色のない行政は、灰色政治を伝統としている日本政府では受け入れられにくい。
ベテラン官僚たちが、彼を追い落とす策を練っていた矢先、高榎ミチタカが引き抜いたのである。
「なるほどな。君の知り合いがここにもいたという訳か」
「そういうことです」
カップのコーヒーを差し出すと、加持も千屋の対面に座る。
「で、どうして第三まで?」
千屋は口を付けかけたカップを戻して表情を変えた。
「先般より予定されていた高榎課長と室井監理官の辞令が、急遽本日から有効になりました」
「これはまた急だな」
「はい。 課長・・・いえ高榎局次長の思料では、これから日本政府が動きをかけてくるのでは、と」
「なるほどな。で、君は大丈夫なのか?」
「ええ。局次長が後任の課長に私を据え置くことを条件にして昇進しましたから」
「さすがは高榎だな。他に何か聴いて来なかったか?」
そう加持が顔を近づけて言うと、封筒をだしこう告げた。
「中に入っているチップに局次長のつかんだ情報が入ってます。同じものが室井課長のにも行っているそうです。・・・以上です」
「すまんな」
「いえ。高榎さんは私の生涯の上司でありますから」
彼は一礼すると、食堂を足早に出ていった。 残された加持は、目の前に差し出された薄い封筒に目をやりながら、Yシャツの胸ポケットに押し込まれていた煙草の箱を器用に取り出すと、一本抜いて火を付けた。
そして3口も吸わないうちに灰皿で揉み消すと、封筒をスラックスのポケットにねじ込み、立ち上がった。
「これで、よしっと。・・・ミサトさんもうないですか?」
「ええ。助かったわぁ、シンちゃん」
「がっ・学校でその呼び方はやめて下さいっていったじゃないですか」
「あららぁ、照れちゃって。相変わらず可愛いわね、シンちゃんは」
「まったく・・・。じゃあ、葛城先生、失礼します」
「ええ。気を付けて帰るのよ」
シンジの活躍でようやく資料の整理を終えたミサトは、シンジを送り出すと職員室に戻った。
(そう言えば、マリア今日何の連絡もなかったわねぇ。一人暮らしだし・・・。電話でも入れておきますか)
自分の机に腰をおろしながら、ミサトはそう呟いて受話器をとった。
トゥルルルルル・・・トゥルルルルル・・・・トゥルルルル・・・
3コール。6コール。9コール・・・。いつまで経っても受話器を取る雰囲気がない。38コール目で、彼女は受話器を置いた。
「おかしいわね。病院でも行ったのかしら?」
沈黙した電話を眺めながら、小首を傾げた。
「まさに監禁だな、昇進に託けた・・・」
財務省主計局局次長室。総務課からさほど離れていない所にある。無駄を省いた手頃な広さであるが、高榎自身自覚しているように、厄介者を押し込んだ格子のない牢屋だ。
「君は非常に優秀な人材だ。前代未聞の最年少次長になるが、問題はないだろう。大臣も期待している」
そう言って、辞令を手渡した事務次官は、終始高榎と目を合わそうとしなかった。
腰掛けていた背もたれの高い黒革ばりの椅子から立ち上がり、窓の近くに行く高榎。
「加持・・・急がなければ取り返しのつかない事態になりそうだぞ。はやくチップを解析してくれ。・・・ここの景色はよくないな」
彼は焦っていた。この昇進が早まったのは、おそらくは自分が入手した情報が絡んでいるだろう。不幸中の幸いに、情報は渡すべきに人間に渡った。だが、手遅れになっているかもしれない。今、自分が親友の為に動いてやれない苛立ちを、拳に込めて握りしめる。
「すまん。加持・・・」
(私はいったい何をしている?)
御所周辺を車で一通り案内され、京都府警にもどる途中、室井ケンジは視線を全く動かすことなく思索に耽った。
高榎が送ってきた情報。それを見る限り、ネルフとしての力を失った第三新東京市はかなりの危険に晒される。
その高榎もすでに動きを封じられている。自分も大した動きができるとは思えないが、まだ彼よりいくらかマシなはずである。
「何か・・・手はないのか・・・」
「課長、到着しました」
運転手をしていた彼の部下が室井に言う。
京都府警の正面玄関。後部座席から出た彼は、歩速を上げて建物の内部に入っていった。
「課長、これが御所周辺の警備網要です」
警備局特別警備本部に戻った彼を待っていたのは、膨大な警備資料だった。京都内の道路事情・各神社仏閣の配置・例年の警備体制・本年の警備人員など、とてもすべてに目を通していると4~5日はかかりそうだ。
(これが上のやり方か?)
「早急に目を通していただきたいのです。室井課長」
「・・・了解した」
立ち去った部下を見送ったあと、彼は自分のデスクを思い切り叩いた。額に血管を浮かべて、奥歯をきつく噛む。押さえられない怒りが、彼を襲った。
受話器が置かれる。
「次官、高榎・室井両名共に左遷封じに成功しました」
なで肩のその男は、革張り椅子の背中に向かって報告する。
「そうか、奴らにも知らせてやれ。これで少しは動きやすくなるだろう」
「たとえ尖鋭的官僚集団と言えども、指導者を失えば烏合の衆」
眼鏡を押し上げて男は言う。
「高榎、室井。ようやく小うるさい餓鬼共を追いやることができた。これであと一人・・・」
椅子を回転させ、次官と呼ばれた男が立ち上がる。
「元調査部の加持リョウジですね?」
「そうだ。あの男は内務省や政府のすべてを握ったヤツだ。あの男がそれを盾に強請をかけてくるような男ではないことは解っているが、前次官は加持の存在が原因で、胃ガンが発病したからな」
「奴らが消してくれることを祈るばかりですね」
皺立った顎に手を当てると、額の絵を見つめた。
それはセカンド・インパクト後に隆盛し始めた、カタストロフィとエンジェルを描いた水彩画である。
「加持よ・・・。貴様の葬儀には私が花を添えてやるからな」
「次官、大臣が次の国会での証人喚問の草稿について話したいと・・・」
その言葉で次官の白眉が曇る。
「自分の尻拭いのできない政治家か。これが日本の現状だ。行って来る」
次官は内務省事務次官執務室を出がけにそう言うと、大臣室へと向かった。
「マ・マリー・・・。風邪じゃなかったの?」
マリアとアスカ。人も車も通らなくなったその通りで、二人は向かい合っている。
「ええ。風邪じゃなかったわ」
彼女は視線をそらせて、在らぬ方向を空虚な瞳で見つめている。自分に絶望したような自嘲的な瞳に見えた。
(何か違う。いつものマリアじゃない)
とアスカは判断した。
「・・・ごめんなさい、アスカ」
アスカには聞き取れなかった。そのマリアの一言が。
「えっ?」
次の瞬間。アスカは首筋に鈍痛を覚え、視界がホワイト・アウトした。
「ご苦労だった。マリア・タナー」
彼女は、瞳を固く閉ざして、頭を落として頷いた。
どれくらいの時間が経過したのか、彼女は解っていなかった。ただ、意識が失った場所ではないこと、そして自分が監禁されているということは理解できた。
まだ視界や頭がはっきりしない。
「お目覚めのようだね。惣流・アスカ・ラングレー君」
彼女は重い頭を上げて、声の聞こえた方を見た。
そこにいたのは、年端も行かない少年だった。
灰色の肌。そして色素が全くないかのような銀髪。そして、印象的な赤い瞳。どこか綾波レイに似ていた。
「誰?」
「おっと、自己紹介がまだだったかな?ボクは渚・キール・ローレンツ。かつては人類補完委員会・ゼーレのトップだった者さ」
薄く笑みを浮かべる、渚・キール・ローレンツ。
「何か用かしら?」
「どうやら君はまだ自分の立場が理解できていないようだね。君の命はボクの手の中にあるということを」
彼女に小型銃の銃口が向けられる。
「もうしばらくここでおとなしくしていてもらおうかな。惣流・アスカ・ラングレー君」
その言葉と共に、左手がポケットから彼女に向けられ、何か吹き付けられた。それを吸い込んだアスカは一瞬の間を置いて首の力を失い同時に、深い眠りについた。
「これでしばらくはおとなしくなるね」
銃を戻して彼は囁いた。
「ここで殺さなくていいのか?」
彼女をここまで抱えてきた男が尋ねる。非常に体躯がいい。
「彼女には完全な絶望を見たあとで消えてもらうのだから・・・」
視線を鋭くして、男を見るキール。そして言葉を続けた。
「それよりどうするんだい?ボクは彼女を連れてドイツへ行くけど、君は?」
「・・・俺も行こう」
「なるほど、復讐は自らの手で。いかにもレッド・ウルフらしい思想だね。賛同するよ」
おおらかに笑うと、彼は再びアスカに視線を落とし、部屋を出た。それに男も続く。
「碇ゲンドウ・・・。君に再び死を与えてやるよ」
「それは本当なのか?青葉君!?」
かかって来た電話に、加持は声を荒げてしまった。
元セカンド・チルドレン、惣流・アスカ・ラングレー及びマリア・タナーのロスト。並びに情報課職員の殺害。
これには加持でなくとも声を荒げるだろう。
あの修学旅行の一件以来、職員の強化をはかり、規模は小さいものの旧ネルフ時代の諜報二課に匹敵するほどの人材が集まっていた。それなのにこの有様である。しかも、殺害の手口が芸術的で確実に一撃で仕留めている。
プロ中のプロ。
世界でも数が少ない、裏世界でも五指に数えられる優秀な暗殺者の手口と言ってよい。
「とりあえずシンジ君は無事なんだな?・・・そうか。解った。一度こちらに戻ってくれ」
受話器を置くのも忘れて、加持は市長室に向かった。
「一歩遅かったか。ゼーレが動き出した」
それから一時間後。シンジは部活帰りのトウジとケンスケに捕まり、お好み焼きを食べに連れてかれ、ようやく帰宅した。
玄関に入ったとき、電話が鳴っていることに気がつき、急いで靴を脱ぐとリビングに向かう。
「はい、碇ですが」
『シンジか?私だ』
「どうしたの、父さん。そんなに慌てて」
『いいかシンジ。落ち着いて聞け。アスカ君とマリア君が行方不明になった。どうやら誘拐されたらしい』
「アスカと・・・マリーが・・・誘拐・・・?」
シンジは視界が暗くなり、顔から血の気が引くのを感じた。
作者 :ようやくここまでこじつけたなぁ。はぁ。だいぶ初期設定と違うけど。
ミサト:どおすんの?最終話・・・。
作者 :あ、ミサトさん。どうも。そうですねぇ・・・。ま、細かいところまでは決まってないですけど、ワンパートで
終わろうかなぁと・・・。
ミサト:・・・そうなの?私の出番はあるワケよね、当然。
作者 :微妙ですねぇ、ミサトさんは。当然ラストの方では登場しますよ。でもこれの主役はシンジ君とアスカちゃん
ですからねぇ。
ミサト:その主役の一人が誘拐されたんでしょ?しかもドイツに行くっていってるし。
作者 :ドイツが本拠地なんですよ。彼らは。
ミサト:・・・で、渚・キール・ローレンツって何者なのよ。
作者 :それは11話で彼が語ってくれるでしょう。もう読者の方は気がついているんじゃないですかね?
ミサト:渚っていうぐらいだから、フィフスと何か関係があるのは確かなのよねぇ。
作者 :ヒントは第9話のラストにありますけど・・・。
ミサト:わかったわ。この機会に第1話から読み直してみるわ。
作者 :そうしていただけると嬉しいです。さて、次回最終話のサブタイトルは・・・
ミサト:ほおほお。
作者 :最終話「君の側に・・・」です。
ミサト:意味深ねぇ。
作者 :公開はしばらく先になりますが、どうぞお待ち下さい。
ミサト:感想も送ってやってよね。それじゃあ、次回もサービス、サァビスゥ!