第3話「再会」

PM7:04。

第三新東京市市庁舎から1台の車が出てきた。

ハンドルを握るのは、ゲンドウ。助手席にはシンジ。

ゲンドウは、訪れることがないと考えていたこの瞬間を、ユイに感謝した。

「本当にご苦労だったな、シンジ」

とても穏やかな声だった。それは宇宙から落下してきた使徒を倒したことを誉めてくれた時の声に似ていた。これがゲンドウの、シンジに初めて見せる父親としての姿だった。

シンジは、目頭が熱くなるのをなんとか押さえて、

「うん。ありがとう・・・父さん」

と言った。

やがて車は、ゲンドウのマンションに着こうとしていた。

 

 

 

 

新世紀
 
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第3話

「再会」

 

 

 

 

エレベーターが上がる浮遊感の中、シンジとゲンドウは無言で会話をしているかのようで、とても静まっていた。

「ここだ、シンジ」

最上階の一室の前で、ゲンドウは停止しカードキーを差し込んだ。

自動でドアが開く。

「お帰りなさい。あら・・・シンジ君も一緒だったのね。お帰りなさい」

「リ・リ・リ・リ・リっ」

「どうした?シンジ。壊れたのか?」

真顔でつっこむゲンドウ。だが、どことなく勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

「ゲンドウさん、まだ話してらっしゃらなかったの?」

そこに居たのは紛れもなく元E計画責任者、赤木リツコだった。

白いエプロンを付けて、薄化粧をしているので、一瞬本人か見間違うほどだ。

それよりなにより、その発言の一部がシンジを吹っ飛ばすほどの驚きがあった。

「ゲンドウさん?!」

唖然として立ちすくんだままでいるシンジを無視して 、ゲンドウは靴を脱ぎ、シンジのカバンを置く。

「どうした?電池でもきれたのか、シンジ」

真顔でジョークを言うゲンドウにはもう驚けなかった。次のゲンドウの発言で、シンジの電池は本格的に切れた。いや、ショートしたと言った方がよいだろうか。

「リツコ、取り敢えず日本茶を入れてくれ。その方がシンジも落ち着くだろうから」

「リツコ?!」

さすがのシンジも、この時ばかりは意識が遠のくのを止められなかった。

 

 

しばらくして、回復したシンジは、その経緯を2人から聞くことになった。

「そうならそうと初めから言ってよ、父さん」

「ふっ。問題ない」

「ゲンドウさん・・・」

「兎に角。結婚するの?2人は」

シンジは落ち着いた口調で聞く。もうどんな答えが帰ってきても驚かないだろう。

赤面してリツコは俯いてしまった。

可愛げなところもあるんだな、と密かに思うシンジ。

「ああ。そのつもりだ。シンジ、お前はどう思う?」

ゲンドウは少し申し訳なさそうな顔をした。

「僕は構わないよ。それは父さんとリツコさんが決めるコトだし。

・・・でもそうすると、ここに一緒に暮らすのは・・・」

「あら、私は構わないわよ。シンジ君」

「そうだ、シンジ。今まで父親らしいことは何一つしてやれなかった。

息子孝行させてくれ」

どうでもいいが、『息子孝行』という日本語は正確ではない。

「2人が良くても僕が気にするよ。全く・・・」

「シンジ・・・。悲しいぞ・・・」

目頭を押さえるゲンドウ。シンジは一瞬、これは父ではないと思ってしまった。

これが、碇ゲンドウ、自分の父親の本性なのだ、と納得するまで3日ほど掛かるが、それは別の話である。

何とか渋る2人を説得し、この部屋の階下に一人暮らしすることになった。

「それじゃ、あんまり変わりないじゃないか。むしろそっちの方が辛いよぉ・・・」

とシンジ。留学して何があったかは知れないが、彼も17歳の多感な少年であった。

 

 

同じ頃、コンフォート17マンションの一室では、ささやかな夕食がとられていた。

今日の当番(と言っても当番は便宜上のもので、ほとんど彼女が作っているが)アスカの手料理が、葛城家の食卓を彩った。

「今日はカルボナーラとサラダね。アスカ~、ビール取って」

ラフな格好に着替えた葛城ミサトは、至福の笑みで言った。

「ミサト、このごろまたお酒の量増えたんじゃないのぉ?そんなんじゃ加持さんに嫌われるわよ」

いかにもアスカらしい、赤いエプロンを揺らせてミサトを睨む。

「いいじゃないの、少しぐらい!」

ミサトは拗ねてしまった。

「ミサト、ご飯いらないみたいね」

今度は冷ややかな視線をミサトに向ける。

「わ、悪かったわよ~。ね、アスカちゃん機嫌なおしてぇ」

猫なで声で謝る。アスカは短くため息をついて、エプロンをはずした。

「食べましょ、ミサト」

「「いただきまぁーす」」

夕食が終わると、ミサトはリビングを占拠しトレンディードラマに釘付けになる。

特別用事がなければ、いつもこうである。その様子を横目で見ながら、アスカは洗い物を済ませる。その時、ミサトの部屋で音がなっていることに気が付いた。

「ミサトー!携帯鳴ってるわよ」

手がはなせないアスカは、半身で叫んだ。

「もう、いいところなのにぃ」未練がましくテレビを見ながら部屋へ向かうミサト。どこにもぶつからないのは不思議だ。

部屋へ入ったミサトの声が、しめられた襖の隙間からとぎれとぎれに漏れてくる。

「はーい、もしもしぃ。・・・・嘘・・・・ええ・・・・かったわ。・・・すぐ行く」

その後どたばたと音を立てるミサトに、アスカは同居人の常識のなさに頭を痛めた。

「もう、夜なんだから静かにしてよ。下の人に迷惑、ええっ?!

襖を開けて出てきたミサトは、妙にめかし込んでいた。

「どうしたの?」

アスカは目を丸くしている。

「ちょ・ちょっちね。あーの、学校の先生と飲んでくるわ」

何か怪しい、と思うアスカ。だが、それ以上追求することはしなかった。

「分かったわ。でも明日から二学期なんだから、それを忘れないでよ」

「ええ。じゃあ行ってきます」

そう言うと走って家を出るミサト。アスカの頭の上で疑問符がたくさん浮いていた。

 

 

第三新東京市の景色を一望できる、まさに中央にそびえるホテルのラウンジに、ミサトは駆け込んだ。少しだけ息を弾ませて。

視線を巡らせて、一人の人物を探した。

「おーい、葛城!こっちだ」

声の方を向くと、夜景を背に変わることのない笑顔を称えた加持が、手を振っていた。

「加持ぃ。あんた、いつ帰ったのよ」

小走りで近づいて、加持の正面に座った。ウェイターが来たので、取り敢えずモスコミュールを注文する。

「今朝、特別機でね。半分護送みたいな扱いだったがな」

表情を変えずに、加持は自分のグラスに手を伸ばした。ロックでウイスキーを呷る。

「・・・連絡ぐらいよこしなさいよ。シンジ君も何も言ってこないし。

最初の2ヶ月のアスカ、見てるこっちの方が辛かったわ」

そう言って加持の視線をかわす。その時に、モスコミュールが置かれた。

「シンジ君との約束でね。緊急以外は必要最小限でしか、日本と連絡を取らないって」

「勝手ね、男って。自分の都合でしかものを考えないんだもの。

待たされてる女の身のもなりなさよ!」

そこまで言って、モスコミュールを半分ほど飲み干した。

「悪かった。・・・だがな、それほどシンジ君は必死だったよ」

加持は思い出しながら真剣な表情を作った。

「で、シンジ君は?」

「司令の所さ。多分今頃リッちゃんが居ることに驚いてるんじゃないか」

「何よ、シンジ君だけ知らなかったの」

「仕方ないだろ。司令から・・・いや今は助役か・・・口止めされてたんだからさ」

軽く笑い合う。だんだん2人のペースを取り戻していた。

「で、シンジ君はどうなの?」

ミサトはまたモスコに口を付けて聴く。

「たくましくなったよ。ぱっと見ではわかりにくいが、相当なもんだよ。SP達が冷や汗掻くほどな。

正直、今は恐ろしいな。彼の強さは」

加持は本音で言った。ミサトもそれが分かったので、話題を変えることをした。

「・・・アスカのことはどうなの?

アメリカでもずっと・・・」

「その事なんだが・・・実に興味深い事態になった」

ミサトは遠回しな彼の口振りに苛立った。

「何があったのよ?まさかあんた、シンちゃんに妙なこと吹き込んだんじゃないでしょうねっ!」

「おい、落ち着けよ葛城。俺だってアスカの辛い時期を見てる。彼女には幸せな恋愛をしてほしい。

だが、これは当人達の問題だ。俺達がとやかく言っても無駄だろ?

それにこの件に関して俺はなるべく助言も控えたよ。

すべてシンジ君、本人の判断だ」

「・・・だからなんなのよ?」

「まあ、そう焦るなって。

続きは・・・そう、

ベッドの上でな」

頬杖をついて、加持はミサトに笑いかけた。

「ばっ、バカ!」

 

 

セカンド・インパクト以降、変化に乏しかった日本の季節は、少しずつ四季を取り戻していた。

永遠に思われた夏は、落葉の秋の到来と共に終わりを告げたのだ。

今、季節は本当の四季の『夏の終わり』が訪れようとしていた。

アスカを初めとする、セカンド・インパクト後世代にとっての3度目になる『秋』がやってきた。

彼女は普段通りに目をさました。

今日も、文句ない快晴だ。

机上の写真立ての前に立つと、女神のような微笑みを浮かべて囁く。

「おはよう、シンジ」と。

それが彼女の3年間続けている日課だった。

写真にはシンジとアスカが写っている。それはシンジがアメリカに持っていったものと同じだった。

彼女は、その後、いつもと変わらない慌ただしい朝にスイッチする。これも変わっていない。

朝ご飯を作り、同居人をたたき起こし、シャワーを浴び、着替えをすませ、朝ご飯を食べ、学校に出かける。

始めたばかりの頃は、慣れない作業で学校では眠りこけてしまっていたが、今では慣れたもので、テキパキと動いて余裕の登校をしている。

たまに同居人の寝起きが悪いと、ぎりぎりになることはあったが。

「ミサト・・・帰ってないわね・・・。

浮気よねぇ、これは。加持さんが帰ってきたら言いつけてやるわ」

と呟きながら、彼女はバスルームに消えた。

 

 

「それじゃ、父さん、リツコさん。行ってきます」

「シンジ・・・まだリツコを『お母様』とは呼んでくれんのか・・・」

ネクタイを結びながら、ゲンドウは明らかに落ち込んだ。

「父さんがきちんと結婚式を上げたらね。

全く、どうして母さんもリツコさんもこんな人選んだの?」

「あら、こんな所が可愛いんじゃない」

笑顔でリツコ。シンジは惚気られた、と思った。

「はい、そうですか。分かりました。じゃあ行って来ます」

「「行ってらっしゃい」」

疲れる、早く別居したい。とシンジは真剣に悩み出した。

 

 

第壱高等学校、略して壱高は、シンジの住むマンションから10分ほど歩いた距離の所にある。昨日は夜だったので気が付かなかったが、ここはコンフォート17にほど近い所だった。地図で確認した様子では、多分ここがアスカの登校経路だろう。

「元気にしてるのかなぁ、アスカ」

シンジは日本へ帰って初めてゆっくりと考える時間ができ、最初に彼女のことを思い浮かべた。だが、その表情には恋人を想う喜びの色は薄く、何か複雑な色が出ていた。

(このまま、僕はアスカと付き合うことができるのだろうか?

アスカのことは3年間忘れたことなどなかった。

けど・・・けど・・・)

いろいろ悩んだシンジだが、壱高の前に着いた所でシンジは思考を停止した。

 

 

AM8:15。

この時間帯になって、壱高付近は慌ただしくなる。一番登校者が多い時間帯だ。

アスカはゆっくりと歩きながら、知り合いと挨拶を交わす。

「おはよ、アスカ。久しぶりね」

「おはよう。ヒカリー。元気だった?」

アスカの横から顔を出したのは、中学時代からの親友、洞木ヒカリだった。一時は長野の方へ待避したままだったが、高校進学と同時に第三新東京市へ戻ってきた。

「あれ?今日は鈴原とは一緒じゃないんだ」

アスカはさりげなく、だが確実にヒカリの痛い所を突いた。

「あ、そのね。バイクの免許取ったばっかりだからツーリングに行っちゃったままなの。昨日帰って来たんだけど、疲れて寝てるみたいだったから・・・」

「また泊まったの?鈴原の家に」

誘導尋問である。アスカは高等心理術的に、巧みな口振りをした。

「うん・・・。じゃないわ!ハルミちゃんに呼ばれたのよ!

一緒に夕飯食べようって」

かかった!と意気込むアスカ。

「で、泊まったんでしょ?」

「うん・・・。ち・違うわよ、アスカ!ハルミちゃんと話し込んじゃって遅くなったからね・・・」

ヒカリは一人暮らしをしている。姉のコダマと妹のノゾミを説得して、一人で第三新東京市に戻ってきたのだ。友達がいるし、あっちの高校で勉強したいからとあれこれ理由を付けていたが、おそらく鈴原トウジの為だろうな、とアスカは一人で納得している。

「そういうことにしておきましょうか」

アスカは微笑んでヒカリを見る。

彼女は顔を赤くしてそっぽを向いていた。

アスカはまた笑った。

 

 

それから少し経った、壱高職員室。

応接室で待たされていたシンジだったが、一向に担任が現れなかった。

来ていた教頭は青筋を浮かべて言う。

「いやあ、済まないね碇シンジ君。君が入る二年壱組の担任は、遅刻の常習犯でね。

私もほとほと困っているんだよ。

これでは生徒達に示しが付かなくて」

話す教頭の額の青筋はさらに目立ってきた。

「いえ。いいんですよ。それくらい砕けた人の方が、付き合いやすいでしょうから」

 

 

チャイムが鳴る。ぎりぎりで登校してきた面々も、教室に入った。

「ふう、まだセンセは来とらんようやな。セーフセーフ」

髪の短い、背の高い少年が教室に走り込んできた。

「トウジ、二学期早々ぎりぎりか?」

窓際のにもたれて、カメラのレンズを磨いていた少年が眼鏡を押し上げて、その少年に言った。

「うるさいのう、ケンスケは。しょうがないやろ。昨日12時過ぎに帰って来たんやから」

昔、ジャージメンとまで呼ばれた、ジャージに魂を捧げた鈴原トウジは、今ではそのポリシーを捨て、制服を着て登校している。

だが、眼鏡の少年の魂は、いまだカメラとミリタリーに捧げられたままだ。彼、相田ケンスケの夢はフリージャナリストになることである。

「おはよう、鈴原」

ヒカリが声をかけた。すると、トウジはヒカリに耳うちする。

「なんで起こしてくれぇへんかったんや?危うく遅刻するところやったわ」

「疲れてたみたいだからよ。ハルミちゃんも起こさなくていいって」

「ハルミのヤツ、出かける寸前になってオーディオの音量最大にしてワイを起こしよってん。鼓膜破れるかと思うたわ」

「おはよう。3バカマイナス1」

アスカが3人の所によってきた。

「おっす、惣流」

「なあ惣流、その呼び方そろそろやめてくれないか?」

「そうね、アンタ達がバカじゃなくなったらやめてあげるわ」

 

 

廊下を、一人の女性と、制服を着た少年が歩いていく。

そして二-壱で止まった。

彼女は扉に手をかけて止まり、振り返らずに言う。

「シンジ君。覚悟はいい?」

「はい」

「じゃあ私が呼ぶまでここで待っててくれる?」

「いいですよ」

 

ガラッ

 

「おはよう!みんな、今日も気持ちのいい朝ね」

 

 

 

 

つづく


ド突かん漫才、でもない(あとがきか?)

ケンスケ:トウジやシンジから聴いてたけど、まさかここまで非道いとはね。
作者  :君は・・・広報局局長、相田剣介・・・ゼロだね?生きていたんだ。
ケンスケ:誰だよ?それは!俺は相田ケンスケ、エヴァのキャラだろ?!
作者  :あ、あの目立たないエヴァのメガネーズの片割れか。
ケンスケ:こっ・殺ッッス!
作者  :落ち着きなよ、ケンスケ君。もう一方の方は「D」では出番がないかも
知れないんだから。流星機に至っては絶望的だし。
ケンスケ:そう・・・だよな。出してもらえるだけマシか。
     それより、物語の方向性が変わってないか、これ?
作者  :そうだね。どうもコメディに走り過ぎた。でもこれもありっ。
ケンスケ:伏線は、はってあるみたいだ。・・・見え見えだけどさ・・・。
作者  :シンジ君悩んでるもんねぇ。そう簡単にLASできると思ったら
大間違いってもんよ。
ケンスケ:早くくっつければいいじゃないか。その方が・・・俺は幸せじゃないけど。
作者  :これだから恋愛ドラマの機微を知らないヤツは・・・。1クールはやるんだから、
しばらく引っ張らないと。
ケンスケ:シンジはどうなってたんだよ?
作者  :いろいろあったんだよ、彼にも。まあゆっくり明かしていくから。
前回のあとがきで言ったことも絡めて。
ケンスケ:じゃあ、取り敢えず次回か・・・。
作者  :次回、第4話「ケンスケ、死す」。
ケンスケ:嘘だろ!
作者  :嘘だよ。第4話「告白できない理由」。お楽しみに。
ケンスケ:・・・やっぱ殺ス!