極東の小さな島国、日本
第三次首都移転計画・改定案、計画予定地
第三新東京市
市長室
「市長、警視庁から室井管理官がお見えになりました」
端末から流れる報告書に目を通していた、白髪を後ろに流した男が顔を上げた。
「お通ししてくれたまえ」
「失礼します」
そこに現れた男は、オールバックで髪を固めていた。表情も固い。それは緊張によるものではなく、常に威厳を保っているからだ。濃紺の三ボタンスーツ。ネクタイは派手ではなく、かっちりと結ばれている。
「1年ぶりです。・・・・市長」
「久しぶりだな、室井君。どうやら私が頼んだ件で、君の昇進を遅れさせてしまったようだな」
座した初老が尋ねる。しかし彼は表情を崩そうとはしなかった。直立不動の姿勢のままで言う。
「気になさらないで下さい。今年中には昇進しますから」
「早く君のような人材が特捜部を仕切ってくれるとありがたいんだがな」
「市長ご在任の間に必ず」
「期待しているよ。
ところで今日は何の用件で来たんだね?」
「加持から私宛に手紙が届きました。市長へのメッセージを添えて」
封筒を差し出す室井。
「すまんね。元ネルフ職員同士の交流は手続きが面倒だからな」
「いえ。それでは仕事がありますので」
室井は会釈をし、市長室を出た。残された初老の男は手渡された封筒を手にとって、頭をよぎった差出人に向かって呟いた。
「MAGIを経由すれば事足りるであろうに。几帳面だな君は。・・・加持リョウジ君」
彼のデスクの前に置かれたネームプレートにはこう書かれている。
「三年後、そして」
便箋には、簡単に報告が書かれている。それはこの3年間驚きに満ちたものだった。
だが、今回の最後に書かれた1行は、冬月に驚きと安心を与えた。
『帰国の日取りが決まりました』
あの男とともに彼が、3年振りに帰国するのである。
便箋を封筒にしまいなおして冬月は、呟く。
「碇・・・。君の息子が帰ってくるぞ」
天高く日差しを降り注ぐ太陽が、彼女の後ろにできた影を短くさせる。
第三新東京市郊外にある、無機質な墓地に彼女は向かっていた。そこは、黒い柱が、規則正しく並ぶだけの場所。人の終着点にしてはあまりに整然としすぎている。
彼女は手に抱えた花を一本の柱の前に置くと、しゃがんで手を合わせる。
栗色の髪を、赤いゴムでポニーテールにまとめるその少女は、憂いを帯びた表情で柱に書かれた文字に目を向ける。
「レイ、久しぶりね・・・。ふふふっ。まだアタシもダメみたいね。ここに来ると悲しくなるもの・・・。だから手紙を書いたの。あれから3年間いろいろあったわ。レイに伝えたいことが・・・たくさんある・・・の」彼女の声は涙声になりながら詰まる。
「ホラ・・・言えないわ・・・。だから、手紙にしたの・・・。よんでね」
言い終わらないうちに彼女は走り去ってしまった。
残されたそこには、花と手紙。
『綾波レイへ
こうしてあなたに手紙をしたためるようになるなんて、あの頃は思いもしなかったわね。
あれから3年間、本当にいろいろあったわ。多分レイも驚くことばかりじゃないかしら?
だからあなたにそれを伝えるために今日は手紙を書くわね。
まず、碇司令。あの後、司令は逮捕されたの。でもね、副司令や加持さんの親友のおかげで、
去年、無罪で釈放されたわ。今は冬月副司令の所で働いてるの。立場が逆転したのよ、あの二人。
その副司令は、今や第三新東京市市長。何でも、ネルフに入る前は大学で助教授をしていたらしいんだけど、
そのつてでどうしてもって頼まれたらしいわ。
第三新東京市。あなたが命がけで守った街。あんなに倒壊していたのに、
3年してだいぶ復興されたわ。とても不思議ね。人の強さを改めて思わされたわ。
葛城ミサト。随分いろいろとやらされたわよね、お互い。成功するなんて思えないような
作戦を押しつけられたこともあったケド、いい姉貴よね。ミサトはね、教師になったわ。驚いたでしょ?
でも相変わらず家事はゼロ。少しは勉強してほしいわね。アタシの負担を軽くするために。
赤木リツコはね、残ったMAGIシステムを修復して第三新東京市の管理をしてるわ。
伊吹マヤ、青葉シゲル、日向マコトのオペレーターの3人もそこで働いているの。
ネルフのみんなは元気よ。ネルフ自体はもう存在しないケド。
ヒカリや鈴原・相田のことは覚えてるかしら?
今ね、アタシも含めて第壱高等学校に通っているわ。あの頃と変わらない学校生活。
違うのはもうネルフに呼び出されて、使徒と戦わなくてもよくなったことと、
あなたとシンジがいないこと。
碇シンジ。アタシ達の戦友。あいつは今、加持リョウジさんとアメリカに留学してるわ。
あなたは、あいつのことどう思ってたのかしら?やっぱり好きだったの?
アタシは今、シンジが好き。それに気が付くのに長いコト掛かっちゃったケドね。
レイはそんなアタシを応援してくれる?あいつはもう覚えていないかもしれないけど、
アタシに約束したのよ。帰ってきたら伝えられない思いを伝えるって。
もし、あいつが約束を守ってくれたら、真っ先に報告するわね。
レイ。またね。
栗色の髪の少女、惣流・アスカ・ラングレーの捧げた花が、風に揺られていた。
レイが死したことを刻みつけているその柱の前に置かれたその花は、生前の彼女の肌のように、清らかな白い色をしていた。
アスカが帰宅した頃と同時刻に、新成田空港へ国連特別機が到着した。
アメリカから2人の要人を乗せたその小型機から、まず3人のダークスーツの男が降りて、2人の男を続き、さらにその後ろにも3人の男。警護というよりは、監視・護送というようなものだ。
だが、それもこの日本の土を踏むこの瞬間までのことである。
中央にいた2人の男のうち、長髪の無精髭面の男が流暢な英語で何事かを話すと、6人の没個性な男達は小型機に戻った。
空港の外では、似たような男達が黒いベンツを待たせていた。
「お待ちしておりました。加持・・・リョウジさんですね?」
先ほどの6人よりかは、遙かに物腰が柔らかい。
「ああ」加持は固い表情を崩さないままで答える。
「お帰りなさい。市長がお待ちになっておられます」
男は2人を車内へ促す。その時、一度だけ加持の横にいた人物に視線を向けた。
その瞬間、彼はその男、いや少年の面影を残す青年に言いしれぬ恐怖を覚えた。それは同じように修羅場をくぐったものだけが共有することが許される空気である。もし青年から殺気を向けられたら、自分は冷静さを失うことなく対処できるだろうか?そんな自問に、彼はNoとしか答えられないことを理解する。
「よろしくお願いします」
その青年は少しだけ微笑み、加持の後に続いた。
傾きかけた夕日が、市庁舎最上階に位置する、市長室から眩しく見える。
広い市長室のソファーに腰掛けた冬月市長は、窓の外を見ている。
「冬月先生、どうぞ」
対面に座った顎髭を蓄えた男は、穏やかな口調で話かけてくる。
その男は、嫌な男であり冬月の親友でもあり、また助役という彼の部下でもあった。
碇ゲンドウ。
それが男の名である。
「・・・碇、それは待てんのか?」渋った表情で、冬月は尋ねた。
「時計の針は逆戻りさせることはできませんよ。この状況で事を運ぶのです、冬月先生」
ゲンドウ眉をしかめると、腕を組んでソファーに深く腰をかけ直した。
「碇・・・。君の意見はもっともだが・・・。今だけこの6、3飛車はなんとか戻せんのか?」
「冬月先生、あなたの悪い癖だ。将棋の待ったルール的には存在しても、戦争に待ったがあってないように、ないも同然です。多用はいけませんな」
2人は将棋をしていたようだ。
そこへ、秘書から連絡が入った。
「市長、加持リョウジ氏がおいでになられました」
「おお、そうか!碇助役、この勝負お預けだな」
冬月はいくらか安堵した表情でゲンドウに言った。
「逃げですね、冬月市長」
将棋勝負にはうるさいゲンドウであった。
大抵がよれよれのスーツ姿でいる加持が、今日は珍しくおろし立てのスーツを着ている。
また同様に、彼の横を歩く少年もスーツに身を包んでいる。
秘書に案内され、市長室に向かう2人。緊張や気酔いは全くない。
扉が開く。
「お久しぶりです・・・冬月市長、碇助役」
「お帰り、加持君。まずは3年間ご苦労だったな」
「いえ、それなりに楽しめましたから」
「さて、そろそろ碇を息子に対面させてやらんとな」
冬月は薄く笑うと、ゲンドウを見る。
表情はいつもと変わらないが、視線をあらぬ方向に向けるゲンドウ。
「入りなさい」
そこへ青年が入ってきた。優しげな顔立ちに、しっかりとした表情。細身だがしっかりとした体躯をしている。そしてそこには、3年前のあの辛い戦いを乗り越えて成長した、少年がいた。もちろんあのころの気弱な雰囲気はもう残ってはいないが。
「ただいま戻りました」落ち着いた声で彼は言った。
「よく頑張ったね。君もご苦労だった」
碇、君の息子が帰ってきたんだぞ」
視線が、ゲンドウに集まる。
「・・・父さん。ただいま」彼の微笑みが、父であるゲンドウに向けられる。訪れることはないと思っていた瞬間が、今訪れた。
「良く頑張ったな、シンジ」
「うん。ありがとう父さん」
お互いが、父と息子として認識している。
(ユイ、俺達の息子は立派に育っているぞ。苦労ばかりかけているがな)
「積もる親子の会話もあるだろうが、それは帰ってからゆっくりしたまえ、二人とも。
シンジ君、君は明後日から市内の第壱高等学校の2年A組へ転入しなさい。
加持君、君にはこれまで通り私の下で働いてくれ。新設する情報課課長の椅子についてくれたまえ」
「はい」
「了解しました」
「・・・さて、感動の対面に水を刺すような話で心苦しいが、君たちにまで旧ゼーレの情報を知らせておきたい。碇、頼むぞ」
「ゼーレは、3年前の崩壊から世界中に散り散りになり、その活動地域は断定できない。またこの3年、彼らは目立った動きもしていない。既に一国でのエヴァ製造は不可能であることも含めて、彼らの活動は予測不可能だ。加持君、シンジ。2人には元ネルフ主要職員の警護を頼みたい。シンジ、お前の任務は重要だ。惣流君や鈴原君、そしてチルドレン候補生だった子供達を守ってもらう」
「はい、父さん」
自信と決意がにじみ出ている。
話は続いていき、一通り終わると加持は帰った。
「碇、今日は帰って息子と過ごしたまえ」と冬月は言い笑った。
碇シンジ、17歳。
彼は日本に帰ってきた。
作者 :お帰り、と言うべきかな?シンジ君。
シンジ:はい、まあ・・ただいま・・・。
でも正直僕はアメリカで何してたのか知らないんですから。
作者 :そうだよね。少しずつ明かしていこうと思うんだけど。
唐突なんだけどさ、シンジ君はアスカとレイ、比べたらどっちが好きなのかな?
あ、レイは2人目のレイで考えて。
シンジ:僕に究極の選択を迫るんですか?どっちにしても読者さんのアスカ派かレイ派か
どちらかを敵に回すことになるんですよ?
作者 :そんな君の為に新キャラを作るんだ。テレビ版26話のレイみたいな子はどう思
うかな?
シンジ:嫌いじゃないですよ・・・。多分。
作者 :その言葉を聞いて安心したよ。じゃあ第3話「再会」をお楽しみに。
シンジ:ちょっと待ってください。これからどう展開するんですか?
作者 :そうだね、しばらくはシリアスは少なく、ラブ&コメディで進めるよ。
所でシンジ君。最近噂になってたんだけど、
セントラル・ドグマって、ゾン○ーメタルプラントなんだって?
シンジ:知りませんよ、そんなこと!