「わはははは・・・・・」
大きな笑い声がシンジの部屋中に響く。
まるでこの辺一帯に響いているのでは、と思うほどその声は大きい。
シンジはにこやかにその笑顔を見詰め、対するアスカはぶすっとした表情で睨みつける。
そして当の本人のジョンは全く異なる二人の視線など気にすることなく、目の前のご馳走をがつがつと平らげている。
「毎回ながらホントにうまいな、シンジの料理は」
口と手を止めずにそれだけ言えるのはもはや才能といってもいいかもしれない。
「そういってくれると作ったかいがあったよ」
シンジはそれに笑顔で答えると自分もゆっくりと食べ物を口に運ぶ。
どうやらアスカはそのやり取りが気に入らなかったようでますます顔を不機嫌にさせると目の前のじゃがバターをフォークで勢いよく突き刺す。
「おや、アスカはご機嫌斜めだね」
アスカの不機嫌の矛先が自分に向いている事を知ってか知らずか、ジョンは笑顔でアスカの視線を受け流す。
「アンタのせいよ」
アスカは片目でジョンを睨み、再びじゃがバターにフォークを突き刺す。
若干、それには怨念がこもっているのかもしれない。
「いや、ははは・・・・」
ジョンは上機嫌だった。
今日も、おいしい夕食と、楽しい?仲間に囲まれ、最高のディナーだ。
しかもこれが格安なのだからいう事無しだ。
夕飯はシンジの作ったものに限る。
ジョンは改めてそう思った。
二人でいるために
第3話 「愛するというコト」(前編)
「いや~、食った、食ったぁ」
腹をポンポンと叩き、満足そうな顔でジョンはそう言った。
「全く、何でアンタはこう毎日毎日来るのよ」
相変わらずアスカはご機嫌斜めな様子で頬杖をついている。
不機嫌そうな顔をしながらもデザートのオレンジゼリー(もちろんシンジの手作り)をしっかりと堪能しているところはさすがと言ったところか。
「いや、はは・・・何せ、金がないもんで。
シンジが3ドル払えば一緒に夕食食べさせてくれるって言うから来ている訳よ。
外で食べるとろくに栄養が無いし、しかも高いしで、シンジの所へ来たほうが安上がりだからな。
こうして毎日来るってわけよ」
「あんた、3ドルって・・・・ちょっと、シンジ、シンジ!」
アスカが怒った顔で手を振りながら台所で後片付けをしているシンジを呼ぶ。
するとシンジはエプロンで手を拭き、パタパタと音を響かせながらアスカの傍にやってくる。
「何アスカ?」
「ちょっと、シンジ。
コイツの食事代が3ドルってどういう事よ!」
「どういう事って・・・2人分から3人分にしたら大体そんな値段だよ。
手間だってそんなにかからないから3ドルで食べさせてあげてるんだけど」
「あたしはそういう事を言ってるんじゃないの!
たった3ドルじゃこいつがつけあがるだけよ!
これからは50ドルくらい請求しなさいよ!」
「50ドルって・・・・そんなに僕の料理そんなに金かかってないよ。
それに皆で食べたほうがおいしいじゃないか」
「アタシは・・・・シンジと2人で食べたいの」
アスカは顔を赤くし、顔を若干俯かせながらそう言う。
しかし、後半のアスカの声は小さくてシンジには聞き取れなかったようだ。
「えっ?アスカ今なんて言ったの?」
「もう、シンジのバカ!知らない!」
アスカは口を尖らせ、ぷいっと横を向いてしまう。
そんなアスカを見てシンジはしょうがないなぁ、という顔をしながら頭をぽりぽりと掻く。
そしてアスカの肩に両手を置き、囁くような声で話しかける。
「ねっ?怒らないでよ。
明日、アスカの好きなハンバーグ作ってあげるから。
それで機嫌直してよ」
「フンッ、食べ物なんかにつられないわよ」
「オニオンスープとシーフードサラダもつけるから、ねっ?」
シンジのその言葉にアスカはしばらく目を漂わせて考えこむような仕草をすると
「しょうがないわね」
と、いつもよりも若干小さな声でシンジに答えた。
シンジはそれを見てよかったと笑顔を浮かべる。
「あ、あのー、そろそろいいかな?」
申し訳なさそうな声でジョンがそう言うと二人はお互いを見詰め合った後、すごい勢いでバッと体を離す。
人前でそうしてしまった事が恥ずかしいのだろう、二人はお互い顔を赤くしながら俯いてしまい、もじもじとするばかりだ。
ジョンはそれを見てやれやれという仕草をし、席を立つ。
「お邪魔みたいだから、俺帰るわ」
帰るというジョンにアスカはホッとしたがそんなアスカの気持ちを知らないシンジはぼけぼけっとした表情で
「もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」
などと言う。
アスカはそんな鈍いシンジの言葉にはあ、と大きくため息をつく。
「止めとくよ、恋人達の営みを邪魔するほど俺は無粋じゃないからな」
ジョンは苦笑いを浮かべながらそう言った。
だが二人はジョンの言葉にますます顔を赤くすると2人揃って再びもじもじモードに移行してしまう。
「営みってそんな・・・・ア、アタシたちはそんな、ねえ・・・」
アスカが顔を真っ赤にしながらそういってもシンジももじもじするばかりでアスカの声に答えない。
ジョンはしばらくぽかんとその光景を見ていたが、どうやらなんで2人がもじもじしているかという理由がわかったようだ。
・ ・
「お前ら、ひょっとしてまだなのか?」
ジョンが僅かに大きな声でそう言うと2人は揃って赤い顔を縦に振る。
ジョンはそれを見て信じられないというような表情をし、2人に詰め寄る。
「マジかよ・・・・・・・
なあ、シンジ、おまえホモか?」
「そ、そんな訳ないだろっ!」
「でもよぉ、女と一緒に何ヶ月も暮らして何もしてないって言うのはちょっと普通の男じゃないぞ。
しかもまだ、女がブスだって言うんじゃ話はわかるが、相手はアスカだろ?
普通の男だったらするのが当たり前だと思うぜ。
しかもお前ら付き合ってるんだろ?
俺にはお前らの考え理解できねえよ」
「ちょっとアンタ!
余計な事言ってないでさっさと帰りなさいよ!
ジョンの癖に人の付き合いにまで口挟むんじゃないわよ!」
「わかった、わかった。
帰るよ」
ジョンはそう言い、そのまま玄関へと向かう。
そして扉を開け、外へ出て、扉の隙間から顔をのぞかせる。
「シンジ、感謝しろよ。
俺のおかげできっかけ掴めたんだから。
あ、そうそう、明日詳しい事聞かせろよ」
「帰れー!」
アスカは怒鳴り声を上げてそばにあったクッションをドアに向かって投げつける。
クッションは閉じられたドアに命中し、軽い音を立てて玄関に落ちた。
はあはあ、と軽い息切れを起こし、アスカはその場にぺたんと座りこむ。
コチコチコチ・・・・
異様なほどに時計の針の音が大きく聞こえる。
2人ともさっきから黙ってしまって全く口を利いてない。
お互いの間には気まずい空気が流れてしまって話すに話せないでいるのだ。
(ううーっ、き、気まずい・・・・・)
(まいったなぁ、こんな時何話せばいいんだろう)
両者とも似たような事を考えながらも話し出すきっかけを作り出せないまま刻々と時間だけが無常に流れる。
しばらくすると、とうとうこの空気に我慢できなくなったのかアスカがすくっと立ち上がる。
「ア、アタシ、今日は暑かったからいっぱい汗かいちゃったぁ。
シャ、シャワーでも浴びてこようっと」
どもりながらもそう言うとアスカはすごすごとシャワールームへと退散していった。
(まったくぅ、ジョンの奴ロクなこと言わないんだから。
今度あったら絶対仕返ししてやるんだから。
逃げ出す口実見つけられたからいいもの、あのままあそこにいたら気まずさに押しつぶされていたわね、きっと。
でも、シャワー浴びにいくなら全く不自然なところはないわね。
あの場から立ち去れるし、気分転換も出来るし、体もきれいに出来るしで・・・・・・
あれ・・・ちょっとまって・・・・
あの気まずいムードの中でシャワー浴びに行くなんて・・・
まるでアタシがシンジの事誘ってるみたいじゃない!
ど、どどど、どうしよう・・・・・
シンジアタシのことなんて思うかな・・・・・いやらしい女だって思うかな?
まいったな、どういう顔で出よう・・・・・)
アスカはシャワーを浴びたままその場に立ち尽くした。
ちなみに、シンジとアスカが一緒に寝た事はまだない。
引越しの時はアスカが一緒に寝る、などと言ったが、いざ寝る時になるとシンジが頑なに抵抗し、自分はソファーで寝ると言いつづけた。
実際アスカもいきなり一緒に寝るのは恥ずかしいと、思ったらしくアスカも「しょうがないわね」と(ホッとしたような気持ちを交えながら)言ったきり、別々に寝ているのだ。
いつかは一緒に寝る時が来るだろうとアスカはシンジが自分のベッドに来ることを期待していたが、いつまでたってもシンジは自分のベッドに来なかった。
そしてそのまま時間だけが過ぎて今日まで何もなかったのだ。
元々一緒に暮らしていたからそれほど普段の生活にも緊張感はないのでいいムードになることもなく、昔のような生活をしていただけなのだ。
キスだってあの時の一回きりだ。
自分から、してとはさすが言えるはずもない。
アスカはそんな関係がもどかしいと思いながらも、ぬるま湯のような今の生活がどこか心地よいと感じるところもあり、自分から今の関係を崩すような事は言わないでいたのだ。
それが今日のジョンの一言で全てが崩れ去った。
アスカはシャワーを浴び終えるとそのままシャワールームを出る。
洗面所の鏡に自分の裸が映る。
長く伸びた紅茶色の髪。
整った顔立ち。
整ったプロポーション。
白く、シミ一つない木目細やかな肌。
平均よりも大きく、整った形の胸。
細く、くびれた腰。
形のよい尻。
すらりと長く伸びた足。
「悪くは、ないわよね・・・・・・」
アスカはポツリと誰かに訴えかけるように呟いた。
(魅力がないわけじゃないわよね。
ただ、言い出すきっかけが掴めなかっただけなのよね。
シンジだってきっと待ってる・・・・・ハズ。
それに、もうあのころの事は忘れたい。
もう思い出すののは嫌。
毎日毎日うなされるのはもう嫌。
抱かれれば、楽になれるかな・・・・・?
抱かれれば、昔の事思い出さなくて済むのかな・・・・・?
そりゃ・・・・・怖いけど。
シンジなら・・・・
シンジになら・・・・・いいと思う。
よし。
アスカ、行くわよ)
アスカは一人大きく頷くと、何も身にまとわないまま、そばにあったバスタオルを体に巻きつける。
そしてゆっくりドアを開けた。
「まいったなぁ」
一人残された部屋の中でシンジは呟いていた。
どうにもさっきから落ちつかず、おろおろするばかりだ。
「まいったなぁ、こういう場合どうすればいいんだろう?」
このような雰囲気になるのが初めてのシンジにとってこの場の雰囲気をどう消化するか、という問題はかなりの難問だった。
アスカが傍にいればまだましだったのだが肝心のアスカはシャワーを浴びに行ってしまった。
「やっぱり、そういうことかな?」
いくら鈍いシンジでもこうなってしまっては考えることは一つだ。
いままで、アスカと一緒に暮らしてきてずっと引っ掛かっていた事。
アスカと一線を超える事に対してシンジは別に恐れていた訳ではなかった。
ただ、まだ早いかな?と思っているうちにただ時間だけが過ぎてしまったという感じだ。
時々、アスカの魅力にドキッとする時はあったがそれでも必死に欲望を殺してきたのだ。
だが、今こうしてアスカと一線を超えようとしている。
「そうだよね、アスカだって待っているんだから・・・・」
シンジは再び呟くようにそう言った。
まるで自分に言い聞かせるように。
そして、フッと部屋の電気が消える。
最初停電かと思ったが外の明かりは消えてないのでそれが停電でない事がわかった。
ブレーカーでも落ちたのかとブレーカーのほうに向かおうとした時、バスルームのドアのところにアスカが立っているのが分かった。
「アスカ?」
確認するようにシンジがそう言う。
だんだん暗闇に目が慣れてくるとシンジはアスカがバスタオル一枚で立っているのが分かった。
しかし、それもいつもの事なのであまり気にせずにブレーカーのほうに向かおうとすると、アスカがシンジの腕をきゅっと軽く握った。
まるで迷子の子供のようにその手は小さく、心細く、力無いものだった。
「アタシ・・・・・シンジならいいから」
「えっ?」
「ちょっと怖いけど・・・・シンジならいいから。
それに、シンジの恋人と言う確かなものが欲しい」
少し肩を震わせながらそう言うアスカをシンジは最初困ったような表情で見つめていたが、やがて決心したように一つ頷くと自分からアスカのほうに向き合う。
「ごめんね、待たせちゃって」
シンジはそう言うとアスカを軽く自分の胸に抱き寄せる。
アスカは震えながらも張り付くようにシンジの胸に強く抱きつく。
「ううん、アタシこそ・・・・ごめんね」
「アスカ・・・・・・」
シンジはゆっくりとアスカに顔を近付け、唇を重ねる。
そして強く抱きしめあい、唇を強く求め合う。
しばらくお互いの唇を堪能した後、二人はゆっくりと顔を離す。
「ねえ、シンジ。
ベッドで・・・・」
「うん、わかった」
シンジは軽く頷くとアスカの肩を抱きながらベッドへとゆっくりと移動する。
そしてベッドの前まで来ると二人は再び見詰めあった。
「本当に、いいの?」
シンジはアスカの肩を抱きながら確認するようにアスカにそう尋ねる。
するとアスカは顔を赤らめ、俯きながらもシンジを軽く睨みつける。
「ばか、言わせないでよ」
そう言われるとシンジはふっと軽い笑みを浮かべアスカを軽く抱き寄せる。
「ごめん」
「ばか・・・・謝ってばっかり」
アスカはそう言いながらもシンジの胸に自分の身を深く沈めていった。
やがてシンジもアスカを強く抱きしめ、お互い貪るようなキスを交す。
しばらく求めあった後、シンジはアスカのバスタオルの結び目を解く。
バスタオルは軽い音を立てて床に落ち、アスカの裸体を露にする。
アスカの白い肌が月明かりに照らされ、シンジの目にはアスカがまるで妖精のように映っていた。
「きれいだ」
だからシンジは素直にその言葉が出た。
アスカはその言葉に瞳を潤ませるとシンジの胸に飛び込むようにして抱きつく。
そしてその勢いのまま二人は転がりこむようにベッドの倒れこむ。
二人は上気した顔を鼻が触れ合うくらいまで近付け、お互いの瞳を見詰め合う。
シンジの瞳に映るアスカはどこか不安げだった。
不安や恐怖めいたものをどこかに感じさせるような、そんな表情だった。
シンジはその表情を打ち消すように激しく、長いキスをアスカに求める。
アスカもそれに答え唇を、舌をシンジのそれに絡ませる。
だが、それほど激しいキスでもアスカの震えは止まる事はなかった。
その震えにシンジの頭のどこかが警鐘を鳴らす。
しかし、それもシンジの欲望の前に消え去っていった。
「ねえ、シンジも服、脱いで」
「うん」
アスカが恥ずかしそうに言うとシンジは焦るような感じで服を床に脱ぎ捨てる。
そしてお互いを覆うものが全て無くなると二人はお互いの体をまさぐるように抱きしめ合う。
暗いままの部屋に響いているのはお互いの背中をさする音と唇を重ねる音。
その音に感化されたかのように二人のキスは激しくなり、腕はさらに強くお互いを抱きしめ合う。
やがてシンジの腕がアスカの背中から胸へと移り、その手はアスカの豊な胸を包みこむように掴む。
「あっ」
アスカは驚いたような声をあげると目を閉じ、何かにじっと耐えるような表情をする。
シンジは両手をゆっくり動かし、その柔らかさを堪能するとやがてそれを口に含み始めた。
両手に力を入れ、さらに強く胸を揉む。
シンジはその胸の柔らかさに酔いしれていた。
一方、アスカは震えていた。
大好きな人に抱かれながらも心の奥から来る不安や苦しみと言った感情が湧き上がってくるのを押さえる事は出来なかった。
シンジがどんなにキスをしても、胸を触っても気持ちいいと言う事は一つもなく、ただ異様なまでの気持ち悪さがあった。
そして時折、昔の記憶がフラッシュバックする。
パッ、パッ、と昔の記憶がまるで写真のように一枚一枚浮かんでは消える。
それが現れるたびにアスカの顔はゆがみ、苦しみで心はいっぱいになる。
アスカは顔を左右に振りながらそれを頭から消そうとしたが消えるどころかますます映像の数は増える。
(やめて・・・・やめて。
もう苦しませないで。
もう思い出すのはイヤなの。
思い出したくないの。
もう忘れたいの。
なんで今ごろ出てくるの?
今になってもアタシを苦しませるの?
やめて
やめて・・・・・
助けて
助けて・・・・・)
「ママ・・・・」
苦しみが最高潮になったころ、アスカはその言葉を漏らしていた。
アスカは一筋の涙を流す。
そして体の震えも押さえられないほどになっていった。
「アスカ?」
目を開けるとそこには心配そうな顔をしたシンジが自分を覗き込んでいた。
「アスカ、アスカ!
どうしたの?」
シンジに体を揺らされ、アスカはゆっくりと目を開ける。
「シンジ・・・・」
アスカは少し驚いたような表情でシンジを見詰めると泣き出しそうな表情をし、そのままシンジに抱きついてきた。
「シンジ、お願い。
このまま抱きしめて。
何もかも忘れるくらいに・・・・・・
お願い・・・・・・」
シンジはしばらくアスカを抱きつかせたままにしていたが震えるアスカの肩をつかむとぐっと自分の胸から引き離す。
「ごめん、だめだ」
「何で、アタシそんなに魅力ない?」
そう言うアスカの顔はまるで捨てられた子犬のような表情だ。
シンジはそんなアスカに対しあくまでも微笑みを絶やさずに話し掛ける。
「そんな事ないよ。
アスカは十分魅力的だし、きれいだし。
それにアスカの事好きだし」
「だったら!」
「だからこそだよ。
大好きだから、大切だから、こんなに震えているアスカを抱くわけにはいかないよ。
アスカを傷つけてまで抱きたいとは思わないよ。
もう、イヤなんだ。
好きな人が傷つくのは」
「シンジ・・・・・」
「だから止めよう。
今日は、もう」
「わかった」
シンジはベッドから起き上がると脱ぎ捨てていた服を身につけソファーへと向かう。
そしてアスカはシンジの背中に向かって苦しそうな表情で話し掛けた。
「アタシ忘れたかった。
昔の事、日本にいた時の事。
あそこには辛い思い出しかないから。
シンジに抱いてもらえば、あの頃の事は忘れられると思った。
心が幸せでいっぱいになればきっと忘れられるってそう思ってた。
シンジの傍にいるだけであの頃の苦しみが忘れられるような気がしていた。
だから、もっと忘れられるように、もっと幸せになれるようにと思っただけなのに・・・・・・
なんで・・・・昔の事が・・・・・・」
シンジはアスカのそばまでやってくると、肩に自分の手を置き、にこりと微笑む。
「もういいよ、アスカ。
今日はもう寝よう。
僕も僕なりに僕とアスカの事、昔の事考えてみる。
だからもう、ね」
アスカは涙を指で拭きながらシンジを見上げると涙目で微笑み返した
「うん」
「じゃ、お休み」
「おやすみ、シンジ」
そしてシンジは再びソファーへと向かう。
そしてアスカはそのシンジの背中にすがるような表情で話し掛けた。
「シンジ」
「何?」
アスカが話し掛けてもシンジは振り向かずにその場で立ち止まったまま答える。
「アタシのこと好き?」
「ああ、大好きだよ」
アスカはその言葉を聞くと安心したように顔を緩ませる。
「ありがと、アタシも好きよ」
そう言うとアスカはやわらかい音と伴に二人は毛布を頭から被った。
気持ち悪い感じを引きずりながらもアスカは必死に眠ろうとした。
眠って朝になれば今までの事が夢だった、という事になっている事を願いながら。
寝苦しい夜になりそうだ
アスカは目を閉じながらそう思った。