「アスカ、じゃ。また明日来るよ。」
うん、待ってる
声にはならずとも、アスカの瞳はシンジにそう伝えていた。
面会時間が終わる、
そして、シンジとアスカはまた別々の夜を過ごす。
「リツコ、ホントにアスカの声と足どうにもならないの?。
あのままじゃシンジ君過労でいつか倒れるわよ。」
その病院のある一室、そこには、シンジの様子を心配してかけつけた
シンジの元上司である葛城ミサトと、その親友であり、今はこの病院の
院長を務めているリツコの二人の姿があった。
シンジはアスカの意識が戻ってからと言うもの毎日のように病院に通い、
アスカの為に尽くしていた。
だが、シンジの生活はというと、家に帰ってもアスカのいない悲しみのためか、
掃除も・・・食事でさえここ一週間、まともにとってはいなかった。
コトッ
リツコはネコのロゴの入ったコーヒーカップを置くと、
その口を静かに開いた。
「残念だけど今の医学じゃアスカを直すことは無理よ。」
「なんでよ。鈴原君の時は簡単に直せたじゃない。」
「あの時は単純に足だけに問題があったからよ。
今回はアスカの脳にまでダメージが行ってるわ。状況がまるっきり違うのよ。」
「だからって、あんな状態が続けばシンジ君がいつか倒れるのは目に見えてるわ。」
「そんなこと分かってるわ。でもわかってミサト、今の私たちの力じゃ無理なのよ。」
そういうリツコの目は悲しみに満ちていた。
それを見たミサトはリツコへと詰め寄る。
まるで、食いつかんばかりにリツコの両肩を掴み、揺すりながら、
「でも、何か方法があるはずよ。リツコ、あんたエヴァを作ったんじゃない。
人間の1人ぐらい、あんたなんとかしなさいよ。」
そう言うミサトの声はすでに叫び声に近いモノであった。
その目には涙が浮かんでいた。
不意に、そんなミサトに顔を背けていたリツコがポツリとこぼした。
「そう・・エヴァなら。」
「え!?。」
そんなリツコの顔をミサトはマジマジと見つめた。
「何?リツコ。」
だが、リツコはそれ以上何もミサトに語ろうとはしない。
「なんなのよリツコ。エヴァって。ねぇ、エヴァを使えばアスカは
元に戻るっていうの?。」
業を煮やしたミサトはリツコの体を揺すり始める。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ!。答えてリツコ。
どうすればいいの?どうすればアスカの怪我を治すことが出来るのよ!。」
「あくまで空想上の話よ。」
執拗なミサトの問いかけにリツコは諦めたかのように
口を再び開いた。
「あなたシンジ君のデビュー戦覚えてる?。」
ミサトはゆっくりと頷く。
「あの時初号機は驚くべき回復力で怪我を治したわ。
ゼルエルの時だってそう、初号機は失われた左手をいとも簡単に
再生した。」
「まさか・・。」
ミサトの顔が青ざめる。
「エヴァの治癒力とでもいうのかしら、それは人間よりも遙かに優れたものよ。
ならば、そのエヴァの治癒力を利用すれば・・・。」
「・・エヴァにアスカをとりこませる・・ってことね。」
「そう、あとはサルベージさせればアスカは元の健康な状態にもどるってわけ。
でもダメよ、これはあくまでも理想論。もし可能だとしても危険のが大きすぎるわ。」
言葉を無くし、うつむいているミサトを一瞥してから。
リツコはコーヒーを飲もうとコーヒーカップに手を伸ばす。
だが、
その時、
ゴトッ
リツコの背後で物音が、
あわてて振り返るとそこには、
「アスカ・・・あなた。」
車椅子に乗ったアスカの姿があった。
リツコの言葉を聞いてミサトも顔をあげ、そこにいるアスカを驚いた顔で見つめる。
「アスカ・・もしかして今の話聞いてた?。」
コクン
ゆっくりとアスカは頷いた。
アスカは病室にいたのだが、ミサトの叫び声に反応して
病室から車椅子に乗ってここまでやってきたのだった。
「そう。」
リツコは諦めたように。
「でも、アスカ。今の話は忘れなさい。」
アスカはそれに対し、首をブンブンと振り回して、
反発する。
「ダメなのよ。アスカ、この方法は危険すぎるのよ。」
尚も説得を続けるリツコ。
だが、アスカは首を振るのをやめようとはしない。
「お願いアスカ、諦めて!。」
アスカに対し、説得を続けるリツコ。
だが、その瞳には次第に涙が浮かんで来ていた。
アスカも首を横に振りながら、その目に涙を浮かばせていた。
あふれ出る涙で、声が出なくなってしまったため
リツコの説得が止まる。
アスカは涙を流しながら・・ずっと首を横に振っていた。
ミサトは、二人のやりとりをジッと見ていた。
何とかアスカに思いとどまらせようと説得を続けるリツコ。
何とかしてこの怪我を治したい一心で首を振り続けるアスカ。
私は・・・・・
どうすればいいの?
誰か教えて
教えて
・・・・ねぇ、
加持。
『お前はお前のやりたいようにやればいいさ。』
今は亡き、ミサトの恋人加持リョウジの言葉が頭に浮かぶ。
私は・・
アスカの・・・・・
「分かったわアスカ。」
二人の会話が止まると、
不意に涙を拭うと、ミサトはまるで何かを決心したような顔つきにり、アスカにそう伝えた。
アスカはそれに反応し、同じく涙で濡らした顔で、
ミサトを見つめる。
「あなたの望む通りにしてあげる。」
「待ちなさい!ミサト。この方法が危険すぎるのはあなたも承知のはずよ。
それに反発するリツコ、
だが、ミサトは引こうとはしない。
「そんなこと分かってるわ。もしかしたらアスカはもう二度と
シンジ君に会えないかもしれない。でもアスカだってそれぐらいのこと
分かってるはずよ。」
それに対しアスカは「分かってる」の意思表示として、
首を縦に振る。
「私はアスカの家族。ならばアスカの希望を出来るだけ叶えてやるのが
私の役目。」
そう言ってからミサトとリツコは真っ向からにらみ合う。
だが、そのにらみ合いも長くは続かず、あっさりと
リツコの敗北で終わる。
「理屈じゃないのね。」
ポツリとリツコはそう呟いた。
「いいわ。でも、ちゃんとシンジ君の
承諾も得ること。これがエヴァの封印をといてあげる条件よ。」
「シンジ君の?。」
「当たり前でしょ。アスカも、それでいいわね?。」
リツコの問いかけにアスカはゆっくりと頷く。
「ダメだ!そんなこと絶対認めない。」
案の定、次の日計画をうち明けられたシンジはそれを受け入れようとはしなかった。
おねがい、シンジ。
そんなシンジにはアスカの無言の訴えも届いてはいなかった。
「シンジ君、もう一度よく考えて。このままじゃ貴方の体のほうが
いつか壊れてしまうわ。」
ミサトはシンジに優しく言い聞かせる。
だが、
「とにかく、僕はアスカにもう二度と、そんな危険な目にあってほしくないんだ。」
何を言っても無駄か・・・
興奮している状態のシンジに何を言っても無駄、ミサトはそう思うと。
シンジの落ち着いたときに出直そうと、その場を立ち去るべく
立ち上がろうとした。
だが、それはアスカに服を掴まれ果たされることはなかった。
シンジ、おねがい。
アスカはもう一度、シンジの瞳に訴えかける。
シンジの足手まといにはなりたくないの
おねがい、シンジ。
おねがい。
目に涙を潤ませながら懇願しつづけるアスカ。
シンジにばっか苦労させるはいや。
シンジと一緒に苦労したいの。
それに段々窶れてくシンジも、もう見たくない。
シンジお願い。
私にエヴァに乗らせて
足手まといはイヤなの
二人で歩いていきたいの
お願い、シンジ。
お願い
「アスカ・・・・。」
アスカの涙ながらの訴えに胸を打たれるシンジ。
「でも・・・僕は・・・・。」
アスカを失いたくはない。
「シンジ君、アスカの気持ちも分かってあげて。」
さきほどから自分の膝を見つめ動こうとはしないシンジに
ミサトは声をかけた。
すると、シンジが動きだした。
「わかりました。」
ゆっくりと、静かにシンジは口を開いた。
「アスカがエヴァに乗ることに了解します・・。
でも・・・・・・。」
一瞬言葉に詰まるシンジ。
「でも、もし、アスカのサルベージに失敗したときは。
僕もエヴァに取り込ませてください。」
「シンジ君・・・。」
「そうすればアスカと離れることは、もう絶対にないでしょ。」
無理矢理笑顔を作ろうとしているのが
ミサトの目にもハッキリと分かった。
それだけにミサトは胸が引き裂かれるような思いであった。
「わかったわ。シンジ君・・。」
声を震わせながらゆっくりとミサトは口を開いた。
「シンジ君の望むとおりにしてあげる。」
「ありがとうございます。ミサトさん。」
ミサトに対し、シンジも声を震わせながら
軽く会釈をする。
そして、その6日後。
5年ぶりにエヴァの封印が解かれる日がやってきた。
「アスカ、じゃあ又ね。」
シンジ・・またね。
封印の解かれたエヴァ弐号機の前でシンジとアスカは口づけを交わす。
「先輩、絶対に成功させましょうね。」
その様子をガラス越しに上から見ていたマヤがリツコにそうこぼす。
マヤは現在、とある保育園で保母をしていた。
「あたりまえでしょ。日向君も、青葉君もいい?」
「わかってますよ。」
「シンジ君とアスカのためでしょ。」
手を挙げそれに答える日向マコトと、青葉シゲル。
日向は現在F1レーサー、
青葉シゲルは世間をにぎわすミュージシャンとして活躍している。
「まさかワシまでかりだされるとは。」
白髪の一層濃くなった冬月コウゾウがそうぼやく。
冬月は現在、とある小学校の校長を務めていた。
「誘われなければ怒るくせに。」ボソッ
ミサトはそう軽くつっこみを入れていた。
そうそう、ミサトは冬月の学校で教師を務めていた。
こう見えても小学生には結構もてる。<バコッ(殴)「うっさいわね。」
シンジの父、碇ゲンドウはすでに最終決戦のとき他界していた。
「さて、遊びの時間は終わりよ。
これからはあの時よりも精密なオペレーションが必要になるわ。」
リツコは真剣な表情になると、
目の前のエヴァ弐号機を見つめる。
「わかってます。」
皆口々にそういうと、
リツコと同じく、目の前の弐号機を見つめた。
その場にはアスカの元から戻ってきた碇シンジの姿もあった。
「それでは、開始!。」
リツコの号令と共に、
5年ぶりに弐号機に電源が供給されて行く。
それを操作する3人のオペレーター、
マヤ、マコト、シゲル、
5年のブランクがあるとはいえ、この3人は現在でも全く衰えてはいなかった。
「弐号機、シンクロ開始しました。」
マヤの声が響く。
「強制シンクロ装置、始動!。」
今度はマコトの番であった。
ちなみに強制シンクロ装置とは、
リツコがこの一週間で作り出したシンクロ率を強制的に上昇させる装置であった。
ダミープラグの技術の応用が使われていた。
「弐号機、シンクロ率100%を突破。尚も上昇中。」
シゲルが叫ぶ。
そして・・
シゲル「行きました!シンクロ率400%です。」
リツコ「強制シンクロ装置解除!。」
マコト「はい、・・・強制シンクロ装置解除しました。」
400%、つまり中のパイロットがエヴァに取り込まれるまでシンクロ率が
上昇した。
あとは、中のパイロットをサルベージするだけである。
だが、これが一番困難なことであった。
碇シンジは、手に汗握りながらその様子をただ、見つめていた。
「では、次、サルベージ計画へ移行。」
リツコが静かに指令を下す。
「はい。」
と、マヤ。
踊るように指がキーボードの上を滑っていく。
「アスカの魂を確認。」
「では。計画をレベル2へ。」
マヤの報告を受け、リツコが次の指令を下す。
「はい、レベル2へ移行。実行します。」
再び指がキーボードの上を滑っていく。
サルベージ計画には全部で15の行程が用意されていた。
そして、あと一つで計画が成功するかに見えたとき・・
それは起こった・・・
そう、あの時と同じように・・
「エントリープラグ制御出来ません。」
「何とかならないの。」
「こちらの信号が届きません!。」
マヤ、マコト、シゲル、そしてリツコの見当虚しく、
ゼルエル戦で取り込まれたシンジのサルベージが失敗したように、
今、再びエントリープラグが強制的に開かれようとしていた。
「アスカ!。」
その様子をジッと見ていたシンジは一目散にその場を飛び出した。
弐号機の・・・アスカの元へ行くために
全速力でアスカの元へ向かうシンジ。
途中よろめきながらもなんとかシンジは弐号機の元へとたどり着いた。
だが、今まさにシンジの目の前でエントリープラグは開かれそうになっていた。
「アスカ!。」
シンジは弐号機に向かって、アスカの名を呼ぶ。
「アスカ!お願い僕の所へ戻ってきて。そして、一緒に暮らそう。」
「戻って来るって約束したろ。アスカ、もう僕を1人にしないで、お願いだよ。」
シンジは涙を流しながらアスカの名を呼び続けた。
「アスカ!」
だが、
「ダメです!エントリープラグ開かれます!。」
マヤの叫びと共に、
シンジの目の前で弐号機のエントリープラグが無情にも開かれた。
「アスカ・・・・。」
その場に倒れ込むシンジ・・
だが、奇跡は起こっていた。
「「おお!。」」
エントリープラグから出てきたその女性の裸にマコトとシゲルが思わず感嘆の声を上げる。
バコッ!!
「「グオッ!!。」」
だが、マヤとリツコの一撃を受け、あえなく沈黙した。
「「男は見るな!。」」
その後ろでは
あの~ワシも男なんだけど・・
と言いたげな冬月が自分を指さしていた。
「シンジ・・。」
「え!?。」
シンジは自分を呼ぶ声にはたと顔を上げる。
そこにはLSLを滴らせた裸の女性が両足で立っていた。
「・・・・・・・・。」
シンジはその女性から目が離せないばかりか、一言も口に出すことが出来なかった。
「シンジ・・。」
再度、その女性がシンジの名を呼ぶ。
そこでやっとシンジはその口を開き、
自分の求める女性の名を口にした。
「あ、アスカ?。」
「そうよ。シンジ。」
そう言うなり金髪の女性、すなわちアスカは今まで押さえていたモノを
一気に晴らすかのようにシンジに抱きついた。
そのまま二人は強く、強く、抱きしめあう。
「ただいま、シンジ。」
「お帰り、アスカ。」
二人は涙を流しながらお互いの感触に酔いしれる。
そう・・・・これからは
ずっとあなたと・・・
後日、
アスカとシンジの結婚式が
盛大に行われた。
「アスカ?。」
「何シンジ。」
「愛してるよ。」
「私も愛してる、シンジ!。」
沢山の友人に祝福されながら二人は今一度、口づけを交わした。
あとがき
この作品はTODOさんの作品「eye’s」の続編として、
私、ベファナが書いてみました。
TODOさん、こんな作品しか書けなくてすみません。
ホントはもっと感動的に仕上げたかったのですが、なにしろ実力不足で・・
感想なんかいただけると大変嬉しいです。
それではこれにて失礼します。