外伝1  雨上がりの後に(後編)

「多分碇からお前宛に電話がはいるやろ。 そんときにお前が惣流に言った事を全部話しいや。 冗談やろ。 冗談やったら碇にも話せるはずや。 我がしゃべらんでもワイらがしゃべる。 それにな彼奴等に何かあった時には許さんからな。 友達を傷つけられて黙ってる様な人間とちゃうからな。 覚えとれ、このボケが!!!」

そうトウジが近遥に言ってから3日が経った。
あれからと言うもの近遥はふさぎ込んでいた。
険悪なムードがここ数日教室に立ちこめていた。
近遥を責めるもの、トウジを責めるものが半々いた。
トウジはそれ程気にしてはいなかったが、近遥の方はそうはいかなかった。
やはり内容が内容だけに取り巻きの末尾以外は彼女を避ける様になっていた。
鈍感なトウジですらそのムードから自分が言い過ぎたとしきりに謝っていた。
しかし、近遥は真っ赤に充血した瞳でトウジを見つめ、力なさげに首を横に振るだけであった。
トウジはそんな近遥を見かねて何かにつけて声をかけていた。
「飯くったか?」「このパン美味いで」「便所行くか?」「鞄もとか」・・・・。
当然、ケンスケやヒカリもトウジの後について近遥に話しかけていた。
しかし、近遥から帰ってくる言葉はただ一つだけだった。

「ごめん・・・・」

そして今日も朝からふさぎ込んでいる近遥にトウジは学校に来るなり話しかけていた。

「おはようさん。 朝飯食ってきたか?」

相変わらず不器用な話しかけ方だった。
しかし、いたわりと言う気持ちは十分伝わって来るものだった。
そして、トウジは近遥が一番元気になると思われる話しを持ち出した。

「昨日の晩になシンジから電話があってな。」

トウジの口からシンジの名が出た途端、近遥はパッと顔を上げトウジを見つめた。
懇願するかの様な瞳にトウジは話しを急いだ。

「惣流は無事やって。 良かったな。 まあ、何時来るかはわからんけど・・・兎に角友達やったら一言わびいれときや。 そん時はわいらもついといてやるさかいに・・・。」

トウジはそう近遥に話した。
近遥はシンジとアスカが元気と言うだけで満足だった。
例え今回の事でシンジやアスカに嫌われてもかまわないと思っていた。
それだけの事をしてしまったと自覚していた。
それを認めるのに数日かかったが・・・。
そして、近遥は兎に角アスカとシンジに謝ろうと心に決めていた。
そんな近遥の姿は思い込んで何かをしでかしそうな危なっかしい姿に映った。
トウジはそんな雰因気を察したトウジはその場を和ませ様と何か笑いをとろうと必死に考えた、そして出た言葉が・・・。

「われ、もしかしてあの日か?」

バキィ!!

思わずオオボケ!!と言われそうな事を言ってしまったトウジの頭に鞄が炸裂していた。
それも踵落し並の破壊力を持った鞄落しだった。

「あんたの頭の中にはデリカシーって単語入ってないの。 この万年ジャージ男が!!」

トウジは頭を抑えながら声の主の方に向って振り向きながら怒鳴った。

「われ何しかますんじゃ! いたいや・・・な、い、け、って。 惣流やんけ。」

トウジは面前にアスカの姿を見て唖然となっていた。
何とトウジの頭をはたいたのはアスカだった。

「お、おまえ・・・。」
「アスカ!!」
「惣流」

ケンスケもヒカリもアスカに気がつき側に寄っていった。

「心配してたのよ。」
「心配してたんやで。」
「思ったより元気そうじゃないか。」

3人は思い思いの言葉を発していた。
そんな友達に嬉しくなったアスカはつい照れ隠しにいつもの口調で話していた。

「ちょ、ちょっと何よ。 そんなに驚くことないでしょ。 たかが2,3日学校休んだくらいで。 シンジの付添してただけよ。 何心配してるのよ。 私よりシンジの方が重症なんだから! ほんとバカシンジって私がいないと何もできないんだから。」

ただ、近遥だけはアスカの声にビックとして下を向いてしまった。
謝ると決心したものの、どう話しを切り出したら良いのか判らず固まっていた。
そんな近遥を見てアスカは意を決して話しかけた。

「あんたもあんたよ。 何でこんなバカジャージに好き勝手言わせてるのよ。 私がいない間にふ抜けになったの?」

そんなアスカの言葉に近遥は顔を上げた。
アスカは近遥の顔を見てニッコリ微笑んで言葉を続けた。

「大体あなたって頭良いけど何処か抜けてるのよね。 ほんと学校のお勉強ばかりしてるから脳みそ腐っちゃたかな?」
「なっ!?」

アスカの言葉に近遥は反応していた。
ヒカリ達はアスカと近遥の衝突を恐れて止めに入ろうとしていた。
それをアスカに遅れて教室に入ってきたシンジが目で止めた。

「だってシンジは私のモノって決まってるのに・・・。それが理解できないなんておバカさんよね。 教科書ばっかり読んでるからそうなるのよね。」
「誰がバカですって!」

さっきまでふさぎ込んでいた近遥が思わず大声を出していた。

「だってそうじゃない。 私とシンジを見れば相思相愛、今世紀最初で最後の超ベストカップルって世界中の誰もが認めるわよ。 判ってないのはあなただけよ。 それにこの天才美少女の私に勝とうなんざ10年早いわよ。」

アスカは腰に手をやっていつもの決まりポーズで近遥に言った。

「あなた見たいなガサツな人とは碇くんは合わないわ。 それが貴方には判らないの! それに私が貴方に負けてるのは身長とバストだけでしょ! 貴方こそ栄養が脳みそに行かず胸にばっかり行ってるからそんな事すら判らないんじゃないの!!」

近遥も思わず言っていた。

「やろうっての!」
「やってやろうじゃないの!」

二人はにらみ合っていた。
これはまずいと思ったトウジは決死の覚悟で止めに入ろうとしていた。

「なあ、惣流の近遥もやめんか? お互い病み上がりやろ。 せやから・・・・」
「「うるさいわね! 万年ジャージ男が!!」」

バキッ×2

アスカの右ストレートと近遥の左ストレートが見事なユニゾンでトウジの顔面にヒットし、トウジは撃沈されていた。
この瞬間トウジは触らぬ神に祟り無しと言う言葉を学習した。
そしてトウジが沈むのをゴングにアスカと近遥の取っ組み合いが始まった。

「辞めなさいよ、二人と・・・」

ヒカリがそう言いかけた時シンジがヒカリを止めた。

「良いんだよ。 これで。」

シンジはそう言って微笑んだ。
不安を隠しきれないヒカリはシンジに話しかけた。

「でも・・・」
「大丈夫だよアスカは。 心配いらないさ。 あの二人はね。 お互い素直になれないから・・・。」

シンジの言葉には何か余裕があった。
そして、シンジは二人を見ていた。
アスカと近遥はぜーぜーと肩で息をしながら取っ組みあっていた。

「あんたやるわね。 伊達に私のシンジに色目使うだけの事はあるわ。」
「アスカこそこの私にたてつくなんてやるじゃない。」

そんな二人の姿を見てケンスケが一言つぶやいてしまった。

「結局あの二人って似たものってや・・・。」
「「誰も似てないわよ!!」」

ドゲシッ×2

ケンスケの顔面にアスカの右足と近遥の左足のケリが見事にヒットしていた。
そして、トウジの後を追うかの様に床に沈んだ。
彼はこの瞬間口は災いの元と言う言葉を覚えた。
それを見たヒカリとシンジが言わなくて良かったと心の中で呟いていた。
二人の表情から険が取れてきた。
そして、

フフフフフ・・・・・

二人は同時に笑いだした。

「本当にトモコもやるわね。」
「アスカこそ。」

二人は向き合ったまま床に座り込んでいた。

「ゴメンね・・・。」

近遥はその言葉を言った。

「えっ、何が?」

アスカは判っていたけどおとぼけをした。

「だから・・・その・・・酷い事言って・・・それで大変な目に合わせて・・・。」

近遥は瞳に涙をためながら言った。
アスカはその涙を自分のハンカチでふき取った。

「別に気にしてないわよ。 偶々あの時急にお腹が痛くなっただけよ。 あとはシンジが勝手に思い違いして話しを大きくしただけよ。」

アスカはそう言ってハンカチをポケットにしまった。

「でも・・・。」

近遥は半べそかいた顔でアスカを見つめた。

「本当に気にしてないわよ。 それに・・・。」

其所までアスカは言って思わず頬を真っ赤に染めた。
そして下を向いて何やらモジモジしていた。
何を思い出したかをそれを見ていたシンジも思い出してこちらも頬を真っ赤にした。
そんな二人を見てその場にいた人間は何か在ったと確信していた。

「ちょ、ちょっと! 何真っ赤になってるのよ!」

近遥の突っ込みにアスカは動揺を隠せずしどろもどろの返答を返していた。

「な、何も無いわよ。 あるわけないでしょ。 本当に鈍感シンジに期待できると思う? 本当に何も無いわよ。」

そんなアスカの動揺ぶりを見てヒカリ達は

「「「怪しい(わね)」」」

と言った。
そんな時復活したケンスケがシンジに突っ込みを入れていた。

「碇、その首筋の?」
「えっ!?」

それを聞いたシンジが思わず首筋を隠すようにしてしまった。

「あのバカ!」

アスカはケンスケの誘導に引っ掛かったシンジを見てそう呟いた。

「「この裏切りもん!!」」

それはトウジとケンスケの叫びでもあった。
そして、その追及先がシンジに言った。
向こうでワイワイガヤガヤをトウジ達がシンジを追及していた。
そんな光景をアスカと近遥は見ていた。

「本当にゴメン・・・。」

近遥はつぶやく様に言った。
アスカはそれを聞いてやれやれと言った感じで言った。

「もういいって。 別に大した事じゃないし。 それに友達でしょ。 一度謝ればそれで十分よ。」

そう言ってアスカはスカートについた誇りをパンパンとはらいおとしながら立ち上がった。
そしてまだ床に座り込んでる近遥に右手を差し出した。

「えっ?」

近遥はその右手の意味が判らなかった。

「あっ、その別に仲直りの握手じゃなくて・・・立ち上がるのに手助けしてやろうと思って・・・。」

照れ隠しとハッキリわかる口調でそうアスカは言った。
心なしか頬が赤くなっていた。
そんなアスカの心使いに近遥は嬉しくなっていた。
ここ数日なくしていた笑顔がそこにはあった。

「ありがとう」

近遥はそう言ってアスカの右手をしっかり握って立ち上がった。
そして立ち上がった後もしっかり握りあっていた。

「「そして、これからも宜しく」」