襲撃事件の在った翌日の昼過ぎにシンジは病院をでた。
一晩経過を観察した結果問題なしと医師が判断したからだ。
それでも、歩くと右足には痛みが走るのでちょっと不便さを感じていた。
シンジはてっきりアスカが迎えにきてくれるものと思っていた。
自惚れと判っていてもこういう時は恋人に一番に会いたいものだ。
「ちぇ。 アスカひどいよ。 迎えにきてくれてもいいのに・・・。」
シンジにしては珍しく愚痴をこぼしていた。 が、すぐに心配顕わな顔になった。
「何か在ったのかな?」
そんな、ことを考えながら国連軍の用意した車に乗った。
「碇シンジさんですね。 ご自宅までお送りいたします。」
ドライバーはシンジに行き先を告げ、護衛のMPが乗車し、先導の車が発進したことを確認した後に車をだした。
シンジは車中から外の景色を眺めていた。
しかし、その心の中は姿見えぬアスカのことで一杯だった。
シンジは判っていた。
アスカの心はまだ傷つき壊れやすい状態であることに。
そして、自分が唯一壊れやすいアスカの心をまもれる唯一の存在だと言うことも・・・。
だから、独りにしてはいけないことも・・・・。
30分程走りシンジとアスカの住む家に一行は到着した。
すでにシンジ達の家の周囲には武装したMPの乗る車が数台警備に当たっていた。
恐らく周囲には色々な警備システムが張り巡らされている事だろう。
「ありがとうございました」
シンジはドライバー達に礼を言って車を降りた。
そして、鞄から鍵を出して玄関に向かった。
その時シンジは郵便受けに朝刊が入ったままなのを見た。
「何で朝刊が入ったままなんだ? アスカどうしたんだろ?」
シンジは何とも言えない不安感に駆られドアを開けた。
そして、足下を見るとアスカの靴が1組たりないのに気が付いた。
「学校?」
シンジは靴を脱ぎながらごく当たり前の事を考えていた。
確かにこの時間帯だとそう考えるのが当然だろう。
朝刊も遅配で入ったままかアスカの事だから寝坊して遅刻しそうになって・・・。
学校なら病院にもこれないしなっと。
シンジはできるだけ都合のいいように考えていた。 いや、考える様にした。
「ただいま・・・。」
シンジは無駄とわかっていても声をかけた。 心の片隅にある不安がそうさせたのだろう。
返って来るはずもない返事を期待していた。
「いないの?」
シンジはそのままリビングへと向かった。
カチャ
廊下とリビングを隔てるドアを開け、リビングに入ったシンジは食卓の上を見た。
そこには前日シンジ達が家を出た時のままであった。
キッチンを見てもアスカが料理をしたようには見えなかった。
「アスカ・・・」
シンジは自分の不安が的中したことを恨んだ。
小走りにアスカの部屋に向かった。
シンジはいつもなら一声かけてから入っているのに今回は声もかけずに入った。
「アスカ!!」
シンジの目にアスカの首を吊った姿が入った。
「アスカ!」
しかし、それはシンジの不安が作り出した幻想だった。
一瞬安堵の表情になったシンジではあったがすぐに自分の部屋に向かった。
もし不安感に取り付かれたアスカならまた自分のベッドで寝てるはずだと。
しかし、そこにもアスカの影すら見えなかった。
「どこに行ったんだアスカ・・・。」
シンジは何とも表現のしようのない不安感にとらわれていた。
もう一度リビングに戻り周囲を見渡した。
何でもいいからアスカにつながるものを探すためだ。
「どうして・・・」
シンジは思い当たるふしがなくて途方に暮れていた。
「考えていても仕方がない。 取りあえず、事情を知ってそうな人に聞いて!」
シンジは携帯電話を取り出しヒカリの携帯電話にかけた。
今のシンジにとって相手が授業中だろうと何だろうと関係なかった。
彼の頭の中にはアスカのことしかなかった。
プルルル・・・ピッ
「一体誰よ! 今授業中でしょ!!」
受話器の向こうから怒ったヒカリの声が聞こえてきた。
「ゴメン・・・。 碇だけどアスカ知らない? 家にいないんだ・・・」
シンジは申し訳なさそうに言った。
ヒカリも相手がシンジとわかり少しは機嫌が良くなったようだ。
「あぁ、碇君。 授業中にどうしたの? それにアスカ知らないかって、碇君一緒じゃないの?」
ヒカリがアスカの事でシンジに聞き返していた。 口調からもアスカの事が判らないらしい。
「実は家に帰ったらアスカがいないんだ。 だから、学校かなって・・・。」
シンジは不安を隠しきれないでいた。
「アスカ学校に来ていないよ。 ねぇ、碇君一体アス・・・・」
そこで電話が切れた。 いや、シンジが切ったのだ。
「学校にもいない・・・。」
シンジの不安がますます大きくなっていった。
そして、二人の後見人の冬月に連絡を取ることにした。
シンジは直通の秘守回線にかけた。
プルルル・・・ピッ
「ハイ、冬月です。」
シンジは相手が冬月であることを確認してから話始めた。
「冬月先生ですか。 碇シンジです。」
「おお、シンジ君か。 昨日は災難だったね。 もう、良いのか?」
冬月は相手がシンジとわかりシンジの怪我の具合を聞き返していた。
「アスカがいないんです。 家にも学校にも・・・。 何処にもいないんです!」
シンジは叫んでいた。 まるで一番大切なものを失った恐怖を隠すために。
「どういう事だシンジ君。 落ち着いて経過をはなしてくれ。 惣流君がどうしたって。」
冬月は落ち着いた口調でシンジに経過の報告を促した。
「今日、僕が退院してきたら家にも学校にもアスカがいないんです。 何処にもいないんです。 家の中にはアスカが帰ってきた様子はないし・・・。 もしかしたら昨日の奴らが!」
最後の方は憎悪に満ちあふれていた。
「兎に角シンジ君落ち着いて。 だいたいの状況は判った。 とにかくシンジ君は心あたりを探してくれ。 こちらでも探すから。 それと安心したまえ、昨日の連中の関与はあり得ないだろう。 アジトごとこの地上から抹消したからな。」
冬月はそうシンジに言った。
テロの心配がなくなったシンジは平静を取り戻しつつ冬月の言う事に従った。
「判りました。 取りあえず、心あたり探します。」
「とにかく連絡だけは定期的に入れてくれ。 それと、携帯の電源は入れたままにしておいてくれ。 衛星を使って君の所在をトレースするから。」
冬月はそう言って電話を切った。
シンジも電源を入れたままのを携帯電話ポケットに入れた。
そして、着替えようと自分の部屋に入りかけた時アスカが大事にしていた鏡台に何かかかれていることに気が付いた。
「何だろう?」
シンジは鏡台に近づいた。 そして、鏡に赤いルージュで文字が書かれていることが判った。
サヨナラ シンジ
「馬鹿野郎!」
シンジはそのメッセージを見てそう呟いた。
そして、シンジは着替えもせずそのまま、心あたりの場所へと向かった。
その頃アスカは何処とはなく彷徨い歩いていた。
人通りも車も通らない人里離れた道をただ何かに取り付かれた様に歩いていた。
昨晩は一度家に帰ったものの居場所がないように思えてシンジに別れのメッセージを残してそのまま飛び出したのだ。 最初はヒカリの家にでも厄介になるつもりでいたが、もしアスカがヒカリの家に居ることでヒカリに魔の手が伸びたらと思い辞めたのだ。
「行くところなんて・・・。 私もバカだ。 あんなメッセージを残して。 そんなにシンジに追っかけて来てもらいたいのかな・・・。 でもそれでシンジが死んだら私・・・。 やっぱり私は人殺しなんだ・・・。」
アスカは憔悴しきった声で呟いた。
それでも歩いていた。 何かから逃げ出す様に。
「でも、やっぱり私は存在自体が迷惑なんだ・・・いらない人間なんだ。」
そう言ってアスカは足を止めた。
目の前に湖が広がっていた。 しばらくアスカは湖から流れてくる風に体をさらしていた。
「気持ちいい風・・・」
素直に感想を言ったアスカの表情に少しは安らぎがよぎった。
「こんな私にも気持ちいい風が吹いてくれるのね・・・。」
アスカは何かを見つけたかの様に湖に向かって歩きだしていた。
ただ、瞳には未だに輝きが戻っていなかった。
その頃シンジは傷ついた体でアスカを捜していた。
まず休日よく遊びに行った繁華街、夕焼けを見ながら過ごした丘の上の公園、二人にとって大事な家族のミサトの墓・・・。
シンジは思いつく所すべてを探していた。
その場所に着く度に振り返るアスカの幻想を見ていた。
「ちくしょう!」
シンジは焦っていた。 アスカが居ない事がこれほどまでに自分を追いつめるとは思っていなかったからだ。
いつも側にいてくれた人が急にいなくなる恐怖・・・、それをシンジは今痛感していた。
「一体何処に行ったんだ・・・。」
シンジはそう呟きながら次の心あたりへと向かった。
そこは嘗て第三新東京市が見渡せた丘の上の公園。
昔アスカと綾波レイとシンジの3人で星空を見たあの公園・・・。
そこが今のシンジに思いつく最後の心あたりであった。
シンジはそこへ向かう事を冬月に告げた。
「シンジ君か。 大丈夫かね。 君の右足は・・・。」
「ハイ。これから第三新東京市が見渡せた丘の上の公園に向かいます。 そこから、もう一度連絡いれます。」
そして、切ろうとしたシンジに冬月が言った。
「シンジ君。 さっき、鈴原君から連絡があったよ。 君のクラスメートの近遙さんと言う生徒が何か知っているらしいと言ってきたよ。 とにかく一度近遙さんに連絡を取ってみてはどうかね? それじゃ、また連・・・」
シンジは回線を切り直ぐ近遙に電話した。
「ハイ。 近遙です。」
受話器からいつも聞き慣れた声が聞こえてきた。
「碇だけど。 近遙トモコさん?」
シンジは出た相手を確認した。
「えぇ! 碇君。 どうしたの? いきなり電話してきて・・・。」
近遙の声は色めきたっていた。
「あのさ、昨日アスカに何か言った?」
「あっ・・・。 言ったけど冗談よ。 もしかして惣流さんが本気にして何か碇君に言ったの?」
「いや・・・何もアスカは言ってないよ。」
「じゃ、なんで電話してきたの? もしかして、惣流さんに愛想がつきて私に乗り換えてくれるの?」
受話器の向こう側の近遙は無神経な程無邪気に言った。
そんな近遙の言い方にシンジは何かが切れた。
「近遙さん・・・昨日アスカに何を言ったかは知らないけど、アスカに万が一の事があったらただじゃおかないよ。 君にとって冗談でもアスカにとっては冗談じゃないこともあるんだ。 アスカを傷付けた報いは必ず受けてもらうから・・・。 君の様に他人を傷付けてまで・・・殺してまで幸せをつかもうと考える人間の存在を認める訳にはいかないからね。 それじゃ・・・。」
シンジはそう言って回線を切った。
そして、受話器の向こう側で近遙が泣き崩れた事をシンジは知らなかった。
シンジはしびれた右足をかばいながら焦心に駆られ第三新東京市が見渡せた丘の上の公園へと向かった。
シンジが第三新東京市が見渡せた丘の上の公園に向かっている頃アスカは湖畔で水面を眺めていた。
「どうして私生きてるんだろ?」
さっきからアスカは自問自答していた。 そして、答えを見つけようとして無限ループに陥り自我崩壊しかけていた。
「近遙さんの言うとおり私が生きていたらシンジを傷つけてしまう殺してしまう。 あの時みたいに・・・。」
アスカはそう言ってL・C・Lの海の中でシンジの心とリンクした時のことを思いだしていた。
ミサトと住んでいたマンションのリビングでアスカはテーブルに座って俯いていた。
表情は伺え知れないがその姿からかなり苛立っていることは判った。
「何か役に立ちたいんだ。 ずっと一緒にいたいんだよ!」
そう言ってシンジが足早に近づいてアスカの肩にふれようとした。
「じゃあ、何もしないで。 もう側に来ないで。 あんた、私を傷つけるだけだもの。 何も判ってないくせに、私の側に来ないで!」
アスカはそう言った。
怖くて近づけないシンジは言った。
「判ってるよ」
アスカは更にきつい視線をシンジに向けた。
「判ってないわよ、バカ! あんた私のこと、判ってるつもりなの!? 救ってやれると思ってんの?」
シンジの目には救済を求める光がやどり、アスカの目には憎しみが宿った。
「それこそ傲慢な思い上がりよ!!」
シンジはアスカの予想外の言葉に引いてしまった。
「助けてよ。 アスカ」
シンジはアスカにすがりつく様に言った。
「ねぇ! アスカじゃなきゃダメなんだ。」
その表情は真剣そのものだった。
「ウソね・・・」
アスカはそう呟いた。 そんなアスカの言葉を聞いてシンジはギックとなった。
そんなシンジをアスカは蔑んだ目で見た。
「あんた、誰でもいいんでしょ」
立ち上がりシンジに迫るアスカに怯えてシンジは後ずさってしまった。
「ミサトもファーストも怖いから・・・」
アスカはそう言ってシンジを襖まで追いつめ、尚も言い続けた。
「お父さんもお母さんも怖いから・・・」
後ろに逃げれなくなったシンジは左方向に避け始めた。
「アスカ・・・」
そんなシンジをアスカは逃げる方向に更に追い詰めた。
「私に逃げてるだけじゃないの。」
シンジは逃げ場を更に求めながら言った。
「アスカ助けてよ」
シンジは怯えて更に横へ横へと逃げて行く。 そんなシンジをアスカは更に追い詰めて行った。
「それが一番楽で、傷つかないもの」
足が縺れてテーブルにもたれかかるシンジはアスカに助けを求めた。
「ねぇ、僕を助けてよ アスカ」
そんなシンジにアスカは追い打ちをかけるかの様に強い口調で言った。
「本当に人を好きになったことないのよ!」
アスカはシンジを力任せに突き飛ばした。シンジは弾けるように倒れた。 その時、コーヒーメーカーも一緒に倒してしまい、床には熱いコーヒーが散乱した。
こぼれたコーヒーからは白い湯気が立ち上っていた。
「自分しかここにいないのよ!」
アスカは倒れたシンジに向かってそう言った。
こぼれたコーヒーがホットプレートの部分に当たりジューと熱そうな音を立てた。
「その自分も好きだって感じたことないのよ!」
そう言ったアスカの表情には蔑み、冷たさ、嫌悪、軽蔑が顕わでまるで汚物を見るかの様にシンジを見ていた。
「哀れね・・・」
シンジはコーヒーの上に倒れ込んでいた。 そんなシンジを見てアスカは呟いた。
シンジは体を起こし、コーヒーで濡れた袖を気にせずアスカに話しかけた。
「たすけてよ・・・・ねぇ、誰か僕を・・・・・お願いだから僕を助けてよ・・・・。」
そう言ってシンジは立ち上がった。 そして、突然テーブルをひっくりかえした。
さらに、近くにあったイスを手に取り力任せに振り回した。
「一人にしないで!」
シンジは荒れ狂った。 イスでイスをなぎ倒し叫んでいた。
「僕を見捨てないで!」
そんなシンジを見てもアスカは一向に動じなかった。
シンジはイスを床に叩き付けた。
「僕を殺さないで!!」
粉々になるイス。 その破片がアスカの足下に飛散した。
うなだれるシンジを冷たい目で見るアスカ。
そして、アスカの口からは冷たく、当然のごとく拒絶の言葉が出てきた。
「・・・・・イヤ・・・」
シンジはアスカの首に手を伸ばした。 そんなシンジの表情は笑ってる様で悪意がみちみちていた。
アスカがそんなシンジを見るのは初めてだった。
追い詰めたアスカと追い詰められたシンジ。
あふれるシンジの想い。 受け入れられないアスカ。
それが言葉としてアスカの口から出ていた。
「嫌い。 あんたのこと好きになるハズないじゃない。 さよなら。 もう手紙も電話してこないで。 しつこいわね。 よりをもどすつもりは更々ないの。 ごめんなさい。 今更やり直せるわけないでしょ。 バぁ~カ、本当にやってんじゃないわよ。 ひょっとして、その気になってた? 身の程、考えなさいよ。 やっぱり友達以上に思えないの。 あんたなんか生まれてこなきゃよかったのよ! あんたがいるだけで空気がばい菌だらけになちゃうのよ。 バイバイ もう さっさと死んじゃえばぁ? ゴミ。 あんたさえいなけりゃいいのに。 目障りなのよ。 あんたなんていてもいなくても同じじゃない。 ハッキリ言って迷惑なの。 クズ。 これ以上付きまとわないで。 正直、苦手と言うより一番嫌いなタイプなのよ、あなたって。 勘違いしないで。 だぁれがあんたなんかと。 もうあっちに行ってて。 私の人生に何の関係もないわ。 大っ嫌い。 あんた、いらないもの、だから死んでちょうだい。」
それはシンジへ向けたアスカの心の叫びでもあった。
アスカは湖畔の砂浜に座り込み、抱え込んだ膝に顔を埋めて泣いていた。
すべてを思い出したからだ。 心の奥底にしまい込み封印していた忌まわしい過去の心を。
そんな自分を隠してシンジの側にいた事を。
近遙の言うとおりシンジの死を望んでいた自分・・・。
そんな傷心がアスカを襲った。
第三新東京市が見渡せた丘の上の公園に行ったシンジはそこでもアスカを見つけることはできなかった。
右足はすでに限界を超えており痺れるどころか感覚さえも麻痺していた。
それでもシンジはアスカの姿を追い求めた。
アスカが何故傷ついたのか知っていたから。
人類補完計画で心の壁が無くなった時に知ってしまったお互いの傷心を。
そして、それが今のアスカの心には致命傷になることもシンジは知っていた。
だから一刻も早くアスカを見つけだす必要があった。
「見つけだして・・・どうしたら良いんだ。 僕に何ができるんだ。」
シンジも困っていた。 実際、傷ついたアスカに会って何を話したら良いのだろうと思い悩んでいた。 諦めと言う言葉がシンジの心の中にふとわき起こった。
が、その時何処からとなくカヲルの声が聞こえてきた。
『怖いのかい? アスカと触れ合うのが。 彼女を知らなければ裏切られることも、互いに傷付くこともない。 でも寂しさを忘れる事もないよ。 君は寂しさを永遠になくす事はできない。 君達は独りだからね。 ただ、忘れる事ができるから生きていけるのさ。 常に君達は心に痛みを感じている。 心が痛がりだから生きてるのも辛いとかんじる。 だから痛みを癒そうと他人を求めるのさ。 その君の心の痛みをいやせるのはアスカだけだ。 だから失ってはいけないよシンジ君。 君にとっての希望を。』
それはカヲルがシンジに残した遺言だった。
「そうさ、アスカだって辛いんだ。 寂しいんだ。 だから、アスカは心を許し合えるヒトを、他人との距離を見つけようとしてるんだ。 それを僕は判ってやれなかった。 守るって決めたのに・・・。」
そんな時自分の中の真実に近づくために自らの命までも犠牲にした加持の言葉がシンジの心の中にこだました。
『君には君にしかできない、君にならできることがあるはずだ。 自分が今何をすべきなのかを自分で考え自分で決めろ。 誰も君に強要はしない。 後悔のないようにな。』
『いい、シンちゃん。 何の為に此処まで来たのか、何の為に此処にいるのか、今の自分の答を見つけなさい。 シンジ君自身の事でもあるのよ。 ごまかさずに自分でできることを考えてしなさい。 お姉さんは何時でもシンちゃんのみかただからね。』
加持の言葉の後にミサトの声も聞こえてきた。
シンジは悩む事を辞めた。 今は悩むより先にすることがあるからだ。 それも、自分自身の手でしなければならないことが。
「絶対見つけなくちゃいけないんだ。 何もできないかもしれないけど・・・、だからといって何もしないよりはましだ。 これ以上大切なモノを失いたくないから。」
シンジはそう自分に言い聞かせて最後の望みを託してある場所に向けて走りだした。
動かなくなった右足を引きずりながらシンジは向かった。
二人がL・C・Lから再び人の形、心の形を取り戻して巡り逢えたその場所に。