第六話 再会

その日のアスカの第一声はそれだった。
シンジは寝ぼけ眼でアスカを見た。 ベッドから上半身だけを起こしているものの目が完全に寝ていた。 髪の毛もぼさぼさ状態であった。

「ちょっと、バカシンジ! 一体いつまで寝てるつもり?」

アスカは腰に手をあてそう言った。 すでに、制服に着替えていた。

「・・・・。 何でアスカが起こしにくるわけ・・・。 そんな、訳ないよな。 きっと夢だ・・・」

完全に寝ぼけてるシンジは状況が掴めていなかった。 また、寝ようとするシンジに対してアスカは怒りが爆発してしまった。

「か~っ。 いい加減目を覚ましなさいよね。 バカシンジ!」

以前ならそのアスカの台詞と共に平手打ちが炸裂するはずだが、シンジの頬の手前で止まっていた。

「もう、いい加減に起きないと遅刻しちゃうよ。」

そうアスカは言ってシンジの頬に手を添えてシンジの体温を感じていた。
その瞳には喜びがこもっていた。

「・・・。 あれ、アスカ・・・、夢じゃないんだ・・・て事は、今何時!!」

シンジは思わずベッドから飛び起きたその時、アスカの視線が一点に集中した。
男であるシンジが毎朝経験している生理現象だが女のアスカにとってはちょっと刺激が強すぎた。

「キャー!エッチ!バカ!ヘンタイ!! 信じらんない!!!」

結局、シンジは頬に大きな紅葉を作る羽目になった。

「大体、何でいつも早起きのシンジが寝坊するわけよ。 お陰で私まで転校初日早々遅刻じゃない。 一体、昨日の夜何してたのよ?」

遅刻寸前のアスカとシンジは通学路を全力疾走でかけていた。
アスカはシンジが寝坊した理由を問いつめていた。

「ゴメン・・・。 ちょっと、考え事してたら寝付けなくて・・・。」

シンジは息を切らしながらアスカに謝っていた。

「何を考えていたのよ。 私には言えないこと? もしかして、他に好きな子が・・・。」

アスカのそんな問い掛けにシンジは直ぐに否定していた

「違うよ。 そんな事じゃないよ。 もっと、別のことだよ。」

シンジの判り切った返事を聞いてアスカは嬉しくなっていた。 心持ち頬が紅くなっていた。
「でも、もう少し早く起きてよね。 そしたら・・・・」

アスカは其処まで言って、顔を下に向けてしまった。 もし、地面に鏡が在ったらそこには真っ赤に頬を染めた14歳の少女の顔が映っていただろう。
しかし、シンジはそんなアスカに気が付かず思わず聞き返していた。

「そしたら、なに?」

アスカは答えられなかった。 シンジも答えないアスカを変だなっと思いつつこれ以上聞かないことを決めていた。
当のアスカは心の中でシンジに答えていた。

『もう、何で聞くのよ。 恥ずかしいわね。 そうよ。 シンジがもう少し早く起きていたら腕を組んでゆっくり登校出来たのに・・・。 バカシンジ!』

沈黙を守ったまま二人は新しい中学校-第二新東京市立第一中学校に向かっていた。

「起立!礼!着席!」

委員長らしきショートカットの少女が号令し、クラスの生徒がそれに従っていた。

「はい。みんなおはよう。 今日も元気か!」

30代前半の男がそう言った。 担任の教師であろう。 ちょっと時代遅れのする熱血教師ぽかった。

「それじゃ、出席を取る前に新しいクラスメートを紹介します。 え~っと、今回は男の子と女の子が一人づつだ。」

そう、担任の教師が言ってクラスを見渡し、生徒の反応を見ていた。

「何だ、何だ。 ノーリアクションかよ。 俺達の時代だったら きゃー美男子!とか美人でっか?とか聞いたもんだぞ。 つったく、まじめなんだかどうかは知らないけど・・・。まあ、良い。 二人とも入りなさい。」

教師はそう言ってドアの前で待っている二人に入室を促した。

「今回の転校生は強者だぞ。 初日そうそう遅刻ぎりぎりでくるぐらいだからな・・・。」

その台詞を聞いてクラスメートが爆笑した。
その、爆笑の中顔を真っ赤にしたシンジとアスカが入って行った。
二人は教師の横に並び自己紹介をした。 相変わらず、教室は笑いの渦の中あった。

「あ、あの・・・。碇シンジです。 宜しく・・・。」
「惣流アスカラングレーです。 宜しく御願いします。」

二人はおきまりの挨拶をしたその時、教室の後ろの方から二人を呼ぶ声が響いた。

「シンジに惣流やないか・・・。 お前等生きとったんかいな。」

相変わらずの関西弁を話すその少年は4thチルドレンでもあり、親友の鈴原トウジであった。
シンジはトウジの姿を確認すると思わず駆け寄って、二人は抱きしめあった。

「トウジも生きていたんだ・・・。良かった・・・。 本当に・・・。足も治って・・・」

言葉の最後は涙声で聞き取れなかった。

「おかげさんでな。 気が付いたら元通りの体になってたちゅう訳や。 センセには心配かけたな。」

トウジも涙ながらに答えていた。
そして、夕日をバックに青春ドラマでもしてるかの様に二人は抱きしめあっていた。
二人の関係が判らないクラスメートはただ唖然と見つめていた。
そんな、クラスメートを余所にしてアスカはシンジとトウジを見て目頭が熱くなっていた。

『男の友情か・・・ちょっと、焼けちゃうな』

アスカは二人を見てそう心の中で呟いていた。
そして、アスカは自分に注がれる一つの視線に気が付いた。
その視線をたどっていくと其処にはアスカにとって懐かしい人物がいた。

「ヒカリ? ヒカリなの」

以前いた第三新東京市立第一中学校で委員長をしていた、そばかす少女がそこにいた。

「アスカ・・・。 やっぱりアスカなのね!!」

アスカは教壇を駆け下りヒカリの元へ行った。 アスカとヒカリは泣きながらお互いの無事を確認していた。
クラスでは感激の再会が同時に2カ所で起こったわけで、クラスの全員が事態の収集に困っていた。
実際、担任もどう話かけて良いのか、取り残された気分を味わっていた。
そんな時先ほど号令をかけていた委員長らしき女生徒の近遙トモコが事態の収集に乗り出した。

「先生! 転校生の席が決まってませんが? 何処に座らせるのですか?」

担任は助け船に乗って感激の再会中の2組に話しかけた。

「え~っと、感激の対面中に悪いんだけど。 ちょっと、良いかな? 碇君の席は近遙君の隣で、おっと、近遙君てのは今仕切ってくれてる委員長の子だ。 それと、惣流さんは洞木さんの後ろの席で良いかな? 取りあえず、ホームルーム終わりたいから、一旦座ってくれるか?」

担任は手短に座席を伝えた。

「そんじゃ、訳ありの二人が転校してきた様だから、みんな仲良くしてやってくれ。 それと、碇君と惣流くんの教科書はまだ来てないから近くの人に見せてもらってくれ。 そんじゃ、これでホームルーム終わるな。 週番はプリント配っておいてくれや。」

そう言って担任は教室をでた。
その後シンジとアスカが休み時間の度に質問責めにあったのは言うまでもない。

「さ~あて、メシやメシ。学校で唯一の楽しみやからなぁ。」

トウジはそう言ってヒカリから弁当箱を受け取った。

「もう、鈴原ったら。それしか言うことないの?」

ヒカリはトウジに手製の弁当を渡しながら言った。 昔のように照れた表情ではなく、嬉しさが満ち溢れていた。

「ほんま、ケンスケもバカなやっちゃで。 シンジと惣流が転校して来るって言うのに軍艦見に行きよってからに・・・。」

トウジは不在のもう一人の親友の動向を言った。

「其処まで言わなくてもいいよ。 僕達が転校してくること事態知らなかったんだから。 それに、こうしてまた会えた事を喜ばなくっちゃ。」

シンジはアスカから弁当箱を受け取りながら言った。 トウジとヒカリの視線が二人の自然な振る舞いとその弁当箱に集中した。

「アスカ・・・もしかして碇君にお弁当作ってあげてるの?」

ヒカリはアスカに聞いた。
トウジは信じられないと言う表情のまま固まっていた。

「えっ? あぁ、今日はシンジが寝坊して作る事出来なかったから、変わりに私が作ってあげたのよ。 まぁ、夕食は何時も私が作ってるし・・・。」

アスカが照れながらヒカリに言った。
ヒカリはシンジが寝坊をまさかするとは考えがおよばず、最初からシンジの為に作った事と思いこんでいた。
それよりも夕食をアスカがシンジの為に作ってると言う真実がヒカリには親友として嬉しく驚きでもあった。

「そうなんだ・・・。アスカも碇君に想いが通じたのね。 良かったね。」

ヒカリはそうアスカに言った。
アスカはそんなヒカリの言葉に顔を真っ赤にしてコクンと頷くだけであった。
アスカとヒカリの会話を聞いていなかったシンジとトウジはお互いの弁当の中身の話で盛り上がっていた。
そんな、シンジとトウジを見てアスカが微笑んだのは言うまでもない。
そのアスカの微笑みは雲一つ無い晴天の青空に負けていなかった。

放課後シンジとアスカは担任の所に寄って、未処理の手続きを済ませた。
そして、朝と同じ様に二人で通学路を帰って行っていた。
オレンジ色の夕日が二人を照らしだしていた。
ただ、朝と違って時間に余裕が在ったので朝に叶わなかったアスカの夢が現実のものとなっていた。
シンジの腕にアスカの腕が絡んでいた。
初めは照れくさそうにしていたシンジもアスカの暖かみを感じる心地良さに酔っていた。
アスカは幸せに満ちた表情でいた。 その顔はこの世の幸せを独り占めしているかの様な表情でもあった。

「ねぇ、シンジ。 今朝のこと怒ってる?」

アスカは少し脅えた様な声でシンジに聞いた。

「今朝? 何の事?」

シンジは何の事か判らずアスカに聞き直した。

「えっ?だから、シンジを叩いたこと・・・。」

アスカは小声で言った。 恐らく今朝の出来事を思い出しているのであろう。
顔が真っ赤になっていた。

「あ、あぁ・・・あの事。 別に気にしてないよ。 僕もちょっと慌てていたから。 あんなのいきなり見せられたら誰だって驚くよ・・・。」

そう言ってシンジはアスカをフォローしたつもりでいた。

「誰だって・・・って。バカシンジ!! 私以外の女に見せたのあんな姿!!」

どう取ったのかアスカはシンジの言ったことを思いきり誤解して受け取っていた。

「い? いや、見せたこと無いよ。 アスカ以外の子に見せた事なんて・・・」

シンジも慌てて弁解していた。 しかし、ジェラシーに狂ったアスカは聞く耳を持ってくれなかった。

「あ~っ、もう許せない。 この浮気者!! 何よ何よ。 あんなに大切にするって言ってくれたのに。 あれは嘘だったのね。 酷いわ!」

アスカはそう言って両手で顔を覆い泣き出した。
二人の側を通る人が二人の姿を見てクスクスと笑っていた。
傍目からは仲の良いカップルの痴話喧嘩にしか見えないのであろう。
一方、完全に暴走したアスカをどう止めたら良いのかシンジは困っていた。

『なんで、其処まで話が飛躍するんだ? 女の子ってここまで飛躍させちゃうのかな?』

シンジは心の中で呟きながどう言ったら良いのか悩んでいた。

「いや。だからね、アスカ。 僕はあんな姿をアスカ以外の人に見せたこと無いよ。 アスカだから見せたんだよ。 それに、浮気なんてしないよ。 僕にはアスカしか見えてないんだから・・・」

シンジは赤面しながら言った。 恥ずかしさより目の前のアスカをなんとかしたい気持ちが先行していた。

「ホント・・・?」

アスカは手の隙間から瞳を覗かせて言った。 泣いてはいなかった。
この時シンジは悟った。 
アスカはワザとあんな事言って、シンジにあんな台詞を言わせたのだ。
確かに、あんな事でもしないと鈍感なシンジは言わないだろう。

「アスカ・・・。 もしかして、ワザとあんな事言ったの?」

シンジは半目状態でアスカに問いつめた。

「えっ。 だって、幾らまってもシンジが言ってくれないから・・・。 ゴメン。」

流石に度が過ぎたのだと悟ったアスカはシンジに謝った。
本心から謝ってるのだろう、今にも泣き出しそうに肩が震えていた。
シンジはそんなアスカを見て、怒るよりも愛しさを感じた。

「もう、良いよ。 アスカ。 それより、早く帰らないとお腹ペコペコだよ。」

シンジはそう言ってアスカの手を握った。
アスカは思わず赤面した。 シンジから手を握ってくるなんて思ってもなかったからだ。

「うん・・・。」

アスカは小声で返事をして、シンジの手を握りかえした。
沈みゆく夕日の中に二人のシルエットが一つになり消えて行った。

ラブラブで帰宅したシンジ達を待っていたのは冬月からの嬉しい知らせであった。
シンジ達の経歴が綺麗に抹消されたこと。 そして、シンジ達の住居の近くに今週末にでも旧NERV職員の冬月、青葉、伊吹も引っ越して来るという事であった。
ただ、アスカは伊吹が近くに住むと聞いた瞬間に目尻が跳ね上がった。

「じゃあ、アスカ。引っ越し手伝いに行こうか?」

シンジは満面の笑みをアスカに向けた。
アスカはそんなシンジの笑みをまともに見て赤面していた。

『もう、バカシンジたら。 そんな笑みを浮かべないでよ。 照れるじゃない。 私無茶苦茶弱いんだからその笑みに・・・。 でも伊吹には要注意ね! きっとシンジにちょっかいかけてくるわね!』

アスカは心の中で呟いていた。

「どうしたの? 顔が真っ赤だよ? 熱でもあるの」

シンジが心配そうにアスカの顔をのぞき込んだ。

「えっ? 何でもないよ。 なんでも・・・あはははは・・・」

アスカは思わす笑ってごまかしていた。 いきなり現実に帰ったらシンジのアップが目の前にあったからよけいに心拍数が上がっていた。

「そう? なら良いんだけど。 本当に大丈夫?」

シンジはそう言ってアスカを見つめた。

「大丈夫よ。 それより今日のご飯どう?」

アスカは初めて作った肉じゃがの味をシンジに聞いていた。

「うん。 とっても美味しいよ。」

外は二人の温かい食卓を祝福し照らすかの様に満月が優しい輝きを放っていた。