第7話「シンジ、悩みの向こうに」

第三新東京市を象徴するかのようにそびえる、市庁舎ビル。
数年後、日本の頭脳中枢をなすであろう『MAGIオリジナルversion2.0』を中心に、職員90名で
運営されている、市の行政機関である。
少年は、夕刻、正面の階段を上り受付へ向かった。
少年の名は、碇シンジ。
市長補佐たる助役・碇ゲンドウの息子である。
受付の認識システムの前に立ち、彼は『COLL』ボタンに触れた。

『いらっしゃいませ。住民カード、もしくはパスポートカードをスリットに挿入して下さい』
シンジは指示通りにカードを挿入した。

『第三新東京市在住・碇シンジ、17歳。確認いたします』
正面のカメラが微妙に動く。

『確認終了。ご用件をお申しつけ下さい』

「情報課課長の加持リョウジさんに会いたいのですが」

『分かりました。ただいまお繋ぎ致しますので、しばらくお待ち下さい』
待機音楽が流れる。

しばらくして、
『繋がりました。情報課課長・加持リョウジです』
と声がし、モニタに加持が写った。

『よ。シンジ君。どうしたんだい?』

「すいません、加持さん。少し厄介な事態が起こったんです。・・・ちょっとここでは話辛いんで・・・」

『分かった。4階の俺の部屋に来てくれ。今入れるようにする』
奥の扉が開いて、エレベーターが見えた。
シンジはそれに乗り込み、4階の情報課室へ向かった。

 

 

 

新世紀
 
EVANGELION
 
Destiny
第七話

「シンジ、悩みの向こうに」

 

第三新東京市情報課。日本政府に強引に認めさせた、市長・助役から直結する機関である。
表向きは、MAGIによる市管理の問題調査及び市長庶務となっているが、その目的は補完委員会・ゼーレ残党の動きの監視である。
MAGIシステム技術部部長・赤木リツコの元にいることとなっている青葉シゲルは、実の所、この情報課
課長補佐であり、技術部との情報交換役をしている。
所属員は加持・青葉を含め、七人で残り五人も厳しい審査で選ばれた者である。

「で、その厄介な事態ってのはなんだい?」
加持はコーヒーをシンジにすすめて、椅子に腰をかけた。

「はい、昨日、レッド・ウルフに雇われた素人工作員が僕の命を狙って来ました」
レッド・ウルフという単語で、加持の目の色が変化する。

「レッド・ウルフか。まさかまだ燻っていたとはな」

「でも考えられなかった事態ではありませんよ。あいつらはゴキブリみたいな連中でしたから」
シンジの表情は険しい。彼にとってレッド・ウルフはゼーレと同じほど忌むべき存在である。
「奴らが日本に入り込んでいるとしたら、かなり厄介ですよ」

「・・・そうだな、アメリカでも・・・おっとこれは禁句だったな」
シンジの表情が曇る。
加持は自分の口の軽さを呪った。

「で、シンジ君はどう思う?」
シンジも加持と同じように、すぐに気持ちを切り替えた。

「・・・多分、アスカを狙って来るでしょうね。僕にとって今の最大の強みであり弱点はアスカですから」
淀みないく一気に言った。シンジの言葉に嘘はない。

「で、今彼女は?」

「ミサトさんと一緒です」

「そうか、それなら安心だ。腐っても元ネルフの作戦部長殿だからな。奴らについてはこっちでも手を打っておく。シンジ君はアスカのことを頼む」

「分かってます」

「所でシンジ君、まだあのことは吹っ切れないかい?」
沈んで行く顔を隠せないシンジ。

「はい。でも、前進はしてると思います」

「そうかい。それを聞いて安心したよ」

「それじゃあ、帰ります。・・・あ、それから加持さん、たまにはミサトさん早めに返して上げて下さいよ。毎朝遅刻してますから」
加持は肩を竦めた。

「分かった。だが、俺ばかりの所為じゃないんだぞ」

「そうですね。では失礼します」
そう言い、一礼するとシンジは情報課室を出た。

加持は一息つくと、携帯を取り出し登録されている番号の一つを選択した。

「室井か?俺だ。早急に手に入れてもらいたいものがあるんだが・・・」

外に出るとすぐ、シンジの携帯が鳴った。

「はい、もしもし?」

『シンジ?アタシよ。今どこに居るのよ』
言わずと知れたアスカである。

「市庁舎の前だけど・・・」

『じゃあそこで待ってて。ミサトが夕飯外で食べようって。車でそっち行くから、動くんじゃないわよ!いいわね?』

「う、うん。分かった」
そういうと、唐突に電話は切れた。
シンジは曇りかけた夕空を閉じかかった目で見る。
ゆっくりと、朱に染まった雲が流れていく。雲のように自分の思いもゆっくりと流れているのだろうか。そう思いながら、目を閉じる。
さっきまでうるさく聞こえていた都会の雑音がフェードアウトしていく。
広い暗闇の中に、自分だけが取り残されて行くような気がした。とてつもなく広大な闇。そう、たとえるならあのディラックの海だ。今、引きずり込まれるような恐怖はない。心地よい脱力感が彼の心を包んでいった。

 

 

シン、私はあなたを恨んでないわ。でも・・・

・・・・・でも、何なんだよ

あなたは私のコト、どう思ってる?

・・・・・好きだよ

それは友達として?恋人として?

・・・・・

答えられないのね。でも私の気持ちは変わらない

マリー、僕は、僕は!

キスして。お願い・・・

 

 

・・・!・・ジ!・ンジ!・シンジ!バカシンジ!!
そんな聞き慣れた声が、シンジを闇から引き上げた。
目を開いたが、急に入ってきた朱い光に強張った。視線を下に移す。
夕暮れの景色にとけ込んでしまうかのような鮮やかなオレンジが、シンジの目に飛び込んできた。
それは、彼を心配げに見つめる、アスカの髪だった。

「アスカ・・・」

「どうしたの?気分でも悪いの?」

「いや、大丈夫・・・」
シンジは言葉を濁した。

「し、心配させんじゃないわよ、まったく。さ、ミサトが待ってるから行きましょ」
と、アスカは路上駐車されたルノーを指して言った。

「あ、うん」

・・・・・・マリー・・・

シンジはその少女の名を、声い出さないで呟いた。いつもどこか悲しげに見えたその少女、そして紅い瞳の少女に似たその顔を思い描きながら。

日本に帰って来たことで、シンジの過去がセピア色に染まっていく訳ではなかった。彼が日本の生活に慣れれば慣れるほど、その色は鮮やかさを増してしまう。

マリーという少女への罪悪感。
アスカへの恋心。
シンジは今、まさにその二つの感情の間を揺らいでいた。

シンジの苦しみは見えない所で進んでいた。学校やアスカの前にいる時は決して悩む姿を見せない。
一人でいる時だけだ。しかしそれは終わらない孤独なロールプレイでしかなかった。

平凡な毎日だった。朝起きて、学校に行き、加持の所でレッド・ウルフの情報を聞き、アスカと夕食をとりそして悩みながら眠る。そんな日々の繰り返しだった。
だが、その日々が破られる日が、唐突に訪れた。

「シンジ、おはようさーん」
今日もトウジがぎりぎりで登校し、二-壱に生徒が揃う。

「トウジ、もう少し早く起きれないのか?」
ケンスケが言った。

「しょうがないやろ。昨日もバイト、夜勤やったんやから」

「ふうん。カウンターに肘ついて船漕いでるのが夜勤なの?」
シンジは少しいやらしく聞いた。トウジの顔色が変わる。

「セ、センセそれは言わん約束やろうが!」

「すぅずはらぁっ!」

「かーっ。ヒカリ、タンマやタンマ!」
トウジは学校外では洞木ヒカリのことを『いいんちょ』とは呼ばず、『ヒカリ』と呼んでいる。意識して付き合っていることを隠しての策だが、実はもう周知の事実だ。それに加えて、トウジは意識していないと、どうしても『ヒカリ』と言ってしまうので、意味を持たない。

「問答無用よ!コンビニ強盗でも入ったらどうするつもりよっ!」

「きっ、昨日だけや!昨日はたまたまうとうとーっときてもうたんや!」
命乞いでもするかのような態度で、トウジはヒカリから逃げようとする。

「聞く耳持ちません!」

「う、恨むでーシンジっ!」

「やるじゃない、シンジ」
アスカが親指を立ててウィンクする。

「偶然、トウジのサボリを発見できたのが幸いしたね。からかわれてばかりも癪だし」
横で聞いていたケンスケは「もうからかうのはよそう」と心の中で呟くと、空を見上げた。今日は快晴だ。

エーゲ海を思わせる蒼の空が、頭上を埋め尽くしていた。彼女はしっとりとした金髪を風になびくのに任せた。心地よい風が、彼女の右頬を撫でる。
大きく深呼吸してみた。アメリカの空気とどことなく違う。微量の水気を帯びたよな落ち着いた空気。これが鮮やか四季を持った国の空気なのだろうか。
彼女は、この地を踏ませる決意をさせた男に、密かに感謝した。

「悪くないトコロ。シン、私、日本で暮らすわ。これから」
眩しい笑顔で、思い描いた彼のいるであろう教室を見上げて、彼女は言った。
そんな彼女の長閑な感情をうち砕くかのように、チャイムが鳴り響いた。

「ああああっ!チコクになっちゃう!初日からチコクなんて、恥ずかし過ぎよぉ~」
手に持っていた3WAYバックを振り回しながら、勢い良く走りだした。先ほどまでの避暑地の少女的な印象は、もう遠い過去である・・・。

「で、道が分からなくて、初日から遅刻寸前ってワケ?」
長くのびた足を組んで、ミサトは今日初登校の少女を見る。

「すみませーん」
少女も反省しているようだ。

「今後は気を付けてね、えっと・・・マリアさん」

「君もだよ、葛城君!!」
驚いてゆっくりと振り返ると、そこには青筋の張った額に引きつった笑みを浮かべた教頭が腕組みして仁王立ちしていた。ミサトも職員会議を欠席したのだ。

本日、ミサトは自分の帰宅が予定より二時間遅れることを覚悟したのは、言うまでもない。

お説教を確約されたからといって、落ち込んでいる暇はない。ミサトはその少女を連れると、二-壱へ向かった。

「へえ。そうすると、シンジ君とはアメリカで一緒だったのね?」

「はい。同じジュニア・ハイスクールに通ってました」
ミサトはその横顔が、彼女の良く知る誰かに似ていることに、その時気が付いた。まだ誰だか見当も付かないが・・・。

「二人は付き合ってたの?」
井戸端会議中のおばさんよろしく、ミサトは嬉々満面で訊いた。こうなってはもう否定しようがない「おばさん」だ。

「付き合っていたってゆーか、その、なんてゆーか・・・」
頬を染めてモジモジし出た。

「いいわねぇ。ぅ若ぁいって言うのは」
葛城ミサト、32歳。この年でもうおばさん化した彼女に、結婚の道はあるのか?
「さ、ここがあなたのクラスよ。あー、自己紹介が遅れたけど、私は担任の葛城ミサトよ。ミサト先生でいいわ。じゃあ、私が呼ぶまでここで待っててね」

「はい」
彼女は短くはっきりと答えた。

「いい返事よ」
そう言って扉を開けたミサトは、開口一番こう叫んだ。

「おはよーっ、みんな。久っしぶりの快晴ね!」

教卓に立つと、ミサトは片腕ついて教卓に乗りだし言う。

「喜べ男子ぃ!今日は抜き打ち転校生を紹介するぅ。さ、入って!」
ゆっくりと教卓の前に進む、透きとおった印象のある少女。微かに濡れているかのようなしなやかさを持った金髪。そして、何かを虚空の中に見つめるアスカと微妙に違う、マリンブルーの瞳。

シンジは、そこに存在する少女が幻ではないかと思った。
彼女の顔を見た瞬間、アメリカでの出来事が恐ろしい早さで思い出されていった。
彼女は、全体に屈託のない笑みを浮かべ、シンジを見つけてさらに微笑んだ。

アスカの眉が一瞬動く。

「マリア・タナーです。よろしく!」
クラス中の男が歓喜の声を上げた。

「マリアさんは、アメリカで碇君と同じ学校に通ってたわ」

「ええええっ!」
「まさか、アメリカから追いかけて来たとか?」
「なんだよ、惣流だけじゃないのかよ。碇」
「碇君かっこいいもんねぇ」
「ってことは、碇争奪戦争勃発ってか?」
「でも、碇と惣流ってすでにデキてんだろ?」
などと、クラスの面々は勝手な憶測で盛り上がっていた。

「そろそろやばいんじゃないですか、鈴原さん」

「そうでんなぁ。今日はワイが一回いいんちょ怒らせとるからのぉ。避難しまひょか相田はん」

「しっ、しっ静かにしなさーい!みんなうるさすぎよっ!!
ヒカリが立ち上がって、キレた。こうなると、もう水をうったように静まらなければヒカリは止まらない。一応、彼らにも学習能力はある。嵐の終焉は一瞬だった。

その騒ぎの中、渦中の人・碇シンジは複雑な表情でマリアを見つめていた。それは傷つけてしまった昔の恋人に逢ってしまったようなものであった。

そしてアスカは、そのシンジをまっすぐに見つめていた。

漠然とした、不安。

彼女の胸に去来する思いである。彼女はその思いに完全に支配されてしまっていた。そして彼女に向けられた、刺すような視線に気付かない。

マリア・タナーは一目でその少女が惣流・アスカ・ラングレーであることが分かった。
それは研ぎ澄まされた、女の勘というものである。

そこに、奇妙な運命トライアングルが、今初めて成り立った。


マリアを見つめる、シンジの複雑な色の視線。
シンジを見つめる、アスカの彼を想う視線。
アスカを見つめる、マリアのいい意味で敵対心剥き出しの視線。

そこにただならぬものを感じたのは、ミサト一人だった。

「じゃ、じゃあマリアさんの席は・・・惣流さんの隣ね・・・」
彼女はそこにマリアを置くことを、一瞬躊躇した。まさに火に油である。

「よろしくね、惣流さん」
マリアの笑顔がどことなく挑戦的に見える。
「日本語うまいのね。アタシのことはアスカでいいわ、タナーさん」
「日本語はシンに習ったのよ。それと私もマリーって呼んで。向こうではそう呼ばれていたし」
二人とも明らかに火花を散らしている。

「シンってダレよ?」
「あら分からない?あなたの後ろに座ってるシンジのことよ」
勝ち誇っている。だが、アスカとて負けていない。

「マリー。あ・あなたはアメリカでのシンジを知っているかもしれないケド、それまでア、アタシはこいつと同居してたのよ」
「ええええええっ!」
クラスのシンジをよくしらない人間には、衝撃の新事実である。
二人が同居していたのを知るのは、ケンスケ・トウジ・ヒカリと当事者二人であった。もう一人知っているはずの女性は、これ以上関わり巻き込まれるのを恐れて、早々に職員室に避難してしまった。葛城ミサト・32歳。彼女の逃げ足は、脱兎も顔を青ざめる。
だが、彼女は重大な愚を犯した。本来ならば、この朝の時間で話さなければならないはずのことを話さずにもどってしまった。後に彼女は、これが原因で、生徒達から大ブーイングとヒカリからお叱りを受けるのだが。

閑話休題。

「知ってるわ。でもただの同居人だったんでしょ?私はシンと付き合ってたの!」
「ぬわにぃ?」
この日、碇シンジは、スケコマシもしくは二股男のレッテルを貼られることになる。

「ふ・二人とも、そろそろやめてくれよ」
シンジはほんとうに身の危険を感じた。背中に刺さる視線が殺気を帯びている。刺客や敵ならば全力で倒すこともできるが、いかんせん彼らは守るべきクラスメートである。

「「シン(ジ)は黙ってて!」」
「はい・・・」

「マリー、アタシ、シンジとはキ・キスしたわ」

「!!だからなのね・・・。シンが私のキスを拒んだの・・・。過去の女が触れたクチビルに触れさせないために・・・。いいのよシン。私は気にしないもの」
そう言いながら、彼女はシンジの頬を指で撫でた。

「くっ!宣戦布告よっ!アンタにシンジは渡さないっ!!」
アスカが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「上等よ。受けて立ってあげるわ。取れるものなら取ってみなさいよ」
シンジの首に絡みついて、ふふんと笑うマリア。

「は、離れてよマリー。みんな見てる・・・」
その光景にアスカの怒りが頂点に達した。

「鼻の下伸ばしてデレーッとしてんじゃないわよぉっ!」

バキッ

「何で僕が・・・」
シンジはモロにアスカのパンチを受けた。普段のシンジならこのぐらい寝ててもかわせるが、これで二人の争いが収まるかと思い、まともに頂いたのである。 しかしそのパンチがシンジを昏倒へと誘ってしまった。

「よーし、授業を始めるか!」
ある意味タイミングよく、そして不幸な少年にとってはタイミング悪く、若い数学の教師が入ってきて、事態は収まった。
「何だ、碇は寝てるのか・・・」

哀れ、シンジはこの日ミサトと共に帰りが遅くなった。

加持は、第二東京へ向かう列車の中で、極度の緊張を覚えていた。
彼は、先日まで死んでいたことになっていた。しかも内閣調査室からは命を狙われていた。だが、加持を始末しようとした官僚・政治家は、軒並み表舞台から消えている。これは高榎が持つテクノクラート・政治家のネットワークからのプレッシャーによるところが大きい。加持の命を救うことは、同時に腐った日本の膿を少しでも排除することに繋がる。一のことから三・四引き出そうとするのが、官僚・高榎ミチタカである。

しかし、彼は第三新東京市にいるから安全なのである。
今ここに来ることは危険を犯すことである。だが、それを差し引いても、室井ケンジから、頼んだものを受け取ることは価値あることだ。

第二東京についた彼は、迷わず待ち合わせ場所にした閑静な公園に向かう。

ベンチで煙草に火を付ける。
「待ったか、加持」
「いや」
「これでいいのか?」
「すまないな」
加持には茶封筒を渡された。

「所で、妙な話を聞いた」
加持はそう言う室井に煙草を差し出したが、手を振って受け取らなかった。
「どういう?」
煙を前方へ吐き出す。風がないので、まっすぐに流れていく。
「第三に回る刑事の人員がかなりの数削られる」
「なるほど・・・」
「カネが動いている。内閣から圧力がかかった」
室井は握りしめた拳に力を加える。
「第三への風当たりは、悪いか?」
煙草を投げて加持。
「良くはない。酷くなっている。今、高榎が動いて調べている。じき改善されるだろう。それと妙なことには気を付けた方がいい」
「そうか。すまんな。よろしく頼む」

妙なことは、シンジに降りかかっていた。
シンジに向けられた刺客が急に増えだしたのである。
だが、彼にとってはものの数ではない。ただ報告書の量が増えるだけであってそれ以上でもなかった。 別段アスカに危険が及んだりクラスメイトが傷つけられたりしたわけではない。その点にはシンジも細心の注意を払っているし、それ以前にシンジに本人のみに絞って刺客が向けられていた。

レッド・ウルフからの刺客、原因不明の事故、旧ネルフ本部を狙ったと思われる小規模テロ、そして雇われ主の知れない殺し屋。いずれも今に始まったことではないが、このところ数は急増している。だが、それぞれが独立した事象であり、関係性が掴めなかった。ただ、そこにゼーレが見え隠れしている可能性は否定できない。
それに連れて、加持が第三新東京市を離れることも頻繁になってきた。
そして、ただ日にちだけが過ぎていった。

マリア・タナーが転校してきて丁度一週間が過ぎた、その日。二-壱に、声を揃えた驚きの叫びが木霊する。
「えええええええええっ?」

「すっかり忘れてたのよぉ。みんな許して!」
手を合わせて、ミサトがそう言ったのは、朝のホームルームの時であった。

「先生!もうちょっとしっかりして下さい!なんで修学旅行が近いなんてこと忘れてるんですか!」
ヒカリの言い分はもっともである。

今回はミサトが完全に悪いのである。 だがその日の夜、ミサトはシンジに逆恨みし八つ当たりする。

・・・・・・そうよ!私は悪くないのよね。すべてはシンジ君がいけないのよ

葛城ミサト、32歳。彼女の哀れな教師生活に幸あれ。

実に平和な時間が過ぎていく。シンジも自分が何に悩んでいたか疑うほど。
だが危機は、修学旅行と共に忍びやかに迫っていた。

 

つづく


シンジ、悩みの向こうの向こう(いや、あとがきなんだけど・・・)

作者 :強引だったかな、少し。
シンジ:いや、かなりですよ。マリーが出てきて早々修学旅行なんて。
作者 :イレギュラーじゃないよ。前々から決まっていたことだし。
シンジ:そうですか。で、行き先は?
作者 :取り敢えず、京都・・・かな?あ、地元名古屋ってのもあり?
シンジ:どうでもいいですけど、レッド・ウルフは?何ですかあれは?ゼーレと関係あるんですか?
作者 :次回分かるよ。あ、シンジ君の活躍も次回だ。
シンジ:まだ・・・引っ張るんですね?つじつまあわせることから逃げてないですか?
作者 :(図星?)
シンジ:頼みますよ。ほんと。
作者 :で、では次回、第八話「波乱の、修学旅行」をお楽しみに。
シンジ:ご意見、ご感想、誤字・脱字情報、24時間受け付けております。よろしく。