僕はヒト
シトは、ヒトの敵
みんながそう言った
だから、殺した
この手で
僕の分身の手で
母さんの、手で
僕には何もなかった
誰も傍にいなかった
誰も見てくれなかった
君は僕の事を
『スキ』
って言ってくれたのに
君は僕に
『ケシテクレ』
って言った
残酷な一言
僕は、泣いた
涙はLCLに溶けた
心の中では血の涙を流していた
誰も気付いたヒトはいない
君に裏切られた
そう思った
思い込んだ
そうやって、逃げた
身体の軋む音が
骨の砕ける感触が
生暖かい血の感触が
ポチャン、と水を打つ音が
ボクヲ、コワシタ
あんな思いはしたくなかった
二度と味わいたくなかった
だから
頑張ったのに
やりなおしたのに
その結果がこれなの?
其ノ弐拾四:サイゴノシ者
一週間前、NERV本部
定期試験を終え、シャワーを済ませたシンジに、カヲルが話し掛けた。
「・・・・・シンジ君、この後の予定は?」
「何も・・・・・あ、夕食の買い出しくらいだけかな」
「なら、少し話さないかい?」
「良いけど・・・・・・ふたりきりじゃなきゃ、ダメかな?」
「どうしてだい?」
「別に深い意味はないよ。
ただ、アスカとレイが待ってるかな・・・・・なんて思って、さ」
「・・・・・彼女達が羨ましいよ」
「へぇ・・・・・珍しいね、カヲル君がそんな事言うなんて」
「珍しいかな?
僕にだって『寂しい』という感情くらいはあるよ」
「・・・・・ゴメン、そんなつもりで言ったわけじゃないんだ」
「気にしてないよ」
「でも・・・・そうだよね、カヲル君はいつもひとりだし・・・・・・・・あ!」
「どうしたんだい?」
「ねぇカヲル君?
良かったらさ、一緒に晩御飯・・・・食べない?
そうすればアスカとレイを待たせないし、みんなで話もできるし。
君さえ良ければだけど・・・・・・どうかな?」
「良いのかい?」
「良いも悪いもないよ。
食事は大勢で食べたほうが美味しいしさ、ひとり分増えたって作る手間は変わらないしね」
「・・・・・・シンジ君の手料理か・・・・・・」
「たいした物はできないけど・・・・・・」
「・・・・・お言葉に甘えようかな」
「ホント?
じゃ、早く支度しようよ。
カヲル君、好き嫌いとかあるかな?」
「大丈夫、キミの作るものなら何でも美味しく頂けるからね」
「・・・・・さりげなくプレッシャーかけてない?」
開かれたドアから、楽しそうな笑い声が廊下へと漏れていく。
廊下の向こうに、人待ち顔をした少女の姿が見えた。
意味がなかったの?
どうして僕はここにいるの?
君はどこへ行ったの?
今度こそ大丈夫だと思ってた
アスカ
レイ
ミサトさん
加持さん
リツコさん
父さん
冬月さん
マヤさん、青葉さん、日向さん
トウジ、ケンスケ、洞木さん
僕の大事なひとたち
みんなを護りたかったから
僕はここで頑張ってきた
君も、そう
僕にとって、大事なヒト
なのに
どうして?
答えてよ
三日前、市立第壱学校
「・・・・・そっか、仕方ないよね・・・・・・」
「・・・・ゴメン。
お前達が頑張ってるっていうのに、俺達だけ・・・・・」
「ナニ言ってンのよ?
アタシも、レイも、シンジも・・・・・・ついでにカヲルも、アンタ達の事心配してるンだから。
戦況が悪化してる今、いつまでもこんな場所にいる必要なんてないわよ」
「ついでなんて酷い言い草じゃないかい?」
「ウッサイわねぇ・・・・・名前出してあげただけでも感謝しなさいよっ!」
「アスカ、止めなよ。
わかってるんだろう?カヲル君も僕達と同じ気持ちだって事くらい・・・・・」
「・・・・・・そりゃそうだけどサ・・・・・・」
「・・・・・・で、どこに疎開する事になったの?」
「それがね、私達別々の場所に疎開する思ってたんだけど・・・・・・何故か同じ第二新東京市なのよ。
NERVの施設に入れてくれるって、黒い服を着た人が来て・・・・・」
「本当に?」
「そうなんや。
ワイの妹もなぁ、ちゃんとした設備の病院に入院さしてくれる言うてな。
なぁシンジ、お前何か聞いてへんかぁ?」
「ううん、何も聞いてない・・・・・初耳だよ」
「・・・・・・・・・・きっと、碇司令だわ」
「レイ?」
「あなた達は大切な友人・・・・・・・だから、しれ・・・・・おとうさんが手配してくれたのかもしれない」
「・・・・・・父さん・・・・・・」
「でも、それじゃ・・・・・・」
「・・・・・ヒカリ、言いたい事はわかるわ。
生真面目なあなたの事だから、自分達だけが優遇される事に抵抗を感じる・・・・・そうでしょ?」
「それはワイも同じや」
「俺も・・・・・そうだな。
俺達と同じような境遇にある人は他にも大勢いるのに・・・・・・・なんか後味悪いよ」
「やっぱりアンタ達も、か。
でも、もしこの話が司令の差し金なら・・・・・受けて欲しい。
ウウン、アタシからもお願いするわ」
「アスカ・・・・・どうして?」
「・・・・・・・・・・贖罪、だから」
「・・・・・・・そうね、レイの言う通りよ。
今まで司令はシンジに、レイに対して・・・・親らしい事は何一つしなかった。
それどころか、単なるモノとして扱ってきたの・・・・・・アタシも、だけどね。
でも、今は親として精一杯の事をしてあげたいと思っているのよ・・・・きっと。
そうする事によって、深く刻まれた親子の溝を埋めようとしているんだと思う。
確かに、職権乱用かもしれない、公私混同しているとも言って良いわ。
ハッキリ言って、親馬鹿ってのが目覚めたってヤツかしら?」
「・・・・・・・・アスカ・・・・・言い過ぎ・・・・・・」
「でもね、それだけじゃないとも思う。
アタシ達が戦闘に専念できるように気を遣ってくれてるんじゃないのかな・・・・・・・。
不安要素はひとつでも少ないほうが、良い結果を生み出すはずだし。
だとしたら・・・・・・友人としてだけじゃなく、EVAのパイロットとしても願ったり叶ったりだわ。
居場所がハッキリしてれば、連絡も取りやすいし、ね?」
「そうだね・・・・・僕からもお願いするよ。
この話が父さんの厚意からだとするならば、受けてあげて欲しい」
「アスカ、碇君・・・・・・・」
「・・・・なら、決まりだな」
「せやな・・・・・ワイはこの話、受けるで。
お前らの負担になるくらいやったら、死んだほうがマシやしな」
「アンタバカぁ!?
誰も死なせたくないからそう言ってるンじゃないの!!」
「そうよ、スズハラ!!
言って良い事と駄目な事の区別くらいつけなさいよっ!」
「そら誤解やって・・・・・・言葉のアヤっちゅーもんで・・・・・・」
「「ゴカイもロッカイもないわよっ!!」」
「トウジ・・・・・・一言余計だよ」
「そうそう、自業自得だね」
「そんな事言わんと、助けてやぁ・・・・・・シンジ、ケンスケ!」
「やれやれ・・・・・・・キミ達リリンは大騒ぎするのが余程好きなようだね?」
「でも・・・・・・・楽しいわ」
ドタバタと逃げるトウジ、それを追うアスカ、ヒカリ。
そんな様子をシンジは苦笑しながら、ケンスケは腹を抱えて笑いながら眺めていた。
夕日が教室内を紅く染めていく。
まだ、平和だった一時の出来事。
君が僕を裏切った、なんて思いたくはないよ
でも
そうなの?
君はシトだけど
僕の友達だった
それは単なる思い込みでしかなかったの?
ねえ
答えてよ
前日、執務室内
「・・・・・・・・子供達の様子はどうだ?」
「特に目立った報告は受けていない。
何事もないと考えたほうが良かろう」
「・・・・・・そうか」
「・・・・・・・・・ひとつだけ、あったな」
「何だ?」
「『ありがとう』、とな・・・・・・・・・・・・・・・・シンジ君達からだ」
「・・・・・・・・・・・」
「やはり気付いたようだな。
まったく・・・・・・・コソコソ隠れて画策する事でもなかろう?」
「・・・・・・・・・今はこのままで良い」
「・・・・・・・不器用なのは相変わらず、か」
「・・・・・・・・・」
やれやれといった表情でゲンドウを見下ろす冬月。
その表情からは、何も読み取る事はできなかった。
ぽっかりと
虚しい
虚しい
哀しい
カナシイ
カヲル君
「パターン、消失・・・・・・・・・・・・・・使徒殲滅しました」
青葉の低い声が、発令所内に響く。
だが、誰も声を発さない。
使徒を殲滅したのに。
真っ白に染まるモニタに、ゆっくりと映像が映し出されていく。
紫
真紅
青
三体のEVAが立つその場所は
つい先程まで死闘が繰り広げられていたとは思えないほど、静かだった。
そして
漆黒のボディを持つ参号機の姿は
どこにもなかった
モニタ上にも
地上にも
どこにも