- ——————————————————————-
戻れない日々 第4話 赤い羽2006/04/29 初稿
2006/09/01 誤字訂正
——————————————————————-「さ、これでよし っと」
早速、ミサトからルーを通して連絡のあった、ヒカリへの転送アドレスにお祝いのメールを送る。
あたしの近況とかは書けなかったけれど、精一杯の祝福と、仕事が終わったら必ず
お祝いの品を持って伺うことを書き添えて、送信ボタンを押した。・・・ヒカリ、元気にしてるかなぁ・・・。子育てねぇ・・想像つかないわね・・・
・・・でも、ヒカリは思いやりがあって優しいし、面倒見がいいから、きっといいママ
してるわよね。・・・・・・結婚かぁ・・・つい自分の身に置き換えて考えてみたが、全然ピンと来ない。
自分と並んでいる相手の姿が想像できないのだった。
・・・う~、UNの連中は筋肉バカで、どこかひねてる奴ばっかしだし、かと言って
ここの連中じゃあねぇ・・・・・・いままで、言い寄ってくるやつは星の数ほどいたけど、友達として付き合えたのは
あの三バカトリオだけだし、恋愛対象っていうと加持さんだけかな・・・その加持でさえ今では、幼い頃に精一杯背伸びをしていた少し恥ずかしい思い出として胸に残るだけだ。
過去に知り合った色々な男性の顔を思い浮かべるが、全くトキメキというものが湧いてこない。
むしろ、”あんなやつ居たなあ”と思っても印象が薄くて姿形が全く思い出せない人もいる。
・・・ええっ、もしかして、あたしってこの歳で男性経験ゼロの超潔癖女ってこと?・・・
・・・ネルフの時は、マヤがそんなこと言われてたけど、あれは本当に潔癖症で
ユリがかってたし、ちょ、ちょっとまってよ・・・ミサトのせせら笑う顔が目に浮かぶ。
”あら~、アスカったら、今頃そんなことに気づいたのぉ”と幻聴まで聞こえてきそうだ。人からどんな風に見られているか思い当たったことにショックをうけて、必死に何か無いか
思い出そうとしても、逆に多くの人に見向きもしなかったことしか思い浮かばなかった。・・・そういえば、あいつとはキスしたんだっけ。・・・
無意識に避けていたのか。
ふとした拍子に、一緒に暮らした少年を思い出す。
そして、一度思い出すと次から次へと色んなことが思い出されて止まらない。
台所へ立った姿、風呂の準備、料理、掃除、洗濯、買い物、通学時の無駄話、学校の言い合い、
日常の会話。一緒に乗って戦った最初のエントリー、二人で練習したユニゾン、溶岩の中助けに来てくれた。
一人チェロを聞かせてくれた。特別な関係わらった顔、怒った顔、様子をうかがう顔、偉そうな顔、心配そうな顔、
そして、
・・・泣いている顔、おびえている顔、訴えている顔ポタッ
膝の上で握った手の上に涙が落ちる。
・・・あたしなんてことしてきたんだろ・・・
今まで、思い出さなかったのは、自分の心の中で本当は判っていたから。
取り返しのつかないことをして、未だに過ちを償えないでいる自分に。
人を蔑み、傷つけ、好意を向けられても当然と思い、無慈悲な奉仕を要求した。
トップでいる限り、自分には何でも許され、誰もがあたしを見てくれる。・・・
・・・『こどもの理屈』だったどこかで、似ているあたしは、正反対の行動をとるあいつに惹かれていた。
共感する何かがあった。あいつならわたしをわかってくれると思えた。
でも、あいつの活躍が、あたしの思いを阻んだ。何人もあたしの前を歩くことは許せなかった。
エヴァに乗っていた頃のあたしはそうだった。真の自分を認められなかった。
誰よりも優秀で、誰からも認められる自分が真の姿で、それを阻むものはすべて邪魔者で、
排除すべき敵だった。他にどんな思いがあったとしても、あたしの存在意義を脅かす相手を認めることが出来なかった。
だから、それが、かなわない現実と、突きつけられたとき、あたしは耐え切れなかった。
・・・自分はもう追いつけない・・・だから、誰もあたしを見てくれない。・・・
・・・もう、価値なんて無いんだ。・・・そして、あいつがあたしの後から出撃して、あたしがやられたあとを始末してくる。
あたしの欲しかったものを全て持っていきながら、自分には何もないと人を羨む。
そのとき、あいつに惹かれる思いを覆い隠して憎む思いが、あたしを埋めていった。
そう、あの時、確かにあたしは、あいつを憎んでいたのだ。
「フッ、やだな、こんなのあたしじゃないわ」
落ち込んだ気分を切り替えようと思ったとき、メールペットが着信を知らせる。
・・・誰だろう、このアドレスは仕事以外使ってないんだけど・・・
メールウィンドを開くと、さっき送ったばかりのアドレスから返信が届いていた。
・・・ヒカリ・・・
急いで、本文をクリックする。開いたウィンドには、短いけれど心温まる文字が並んでいた。
『アリスへ、
出産の祝福ありがとう。なにやら遠くでお仕事中と聞きました。
アリスのことだから、元気で頑張っていると思います。
でも、あたし達の子は本当にかわいいんだから、早く会いに帰ってきてください。
私も、トウジも、この子も待っています。
ではお体に気をつけて、風邪など召さぬよう・・・ヒカリ』はっきりとは書いてないけど、無事に帰ってくることを願っていることが伝わってくる。
あたしを必要として、見てくれる、待っていてくれる人がいる。
・・・ヒカリ、ありがと・・・
自分自身への哀憫とわずかな安らぎで、なんだか、眠れない夜になってしまった。
—————————————————————————
その日、あたしは屋内配線用の狭いスペースにいた。
チーフのデータを盗聴していてもこれ以上、核心には迫れそうにない。
どこかもっと中枢に迫るラインを探さなくては、ならなかった。
・・・チ、ここもダメか・・・
公式の構造図から、極秘の回線がありそうなところを片っ端から当ってみる。
中には厳重な警戒態勢で、近寄ることさえ出来ない場所もあったが、少しでも可能性があるところは
確認して回った。・・・人のやることはどこかに盲点があるはず・・・
侵入感知用のセンサーを殺して、当りをつけた目的のポイントまで少しづつ這って進む。
と、なにやら右手の壁から、人の話し声らしき音が聞こえる気がする。・・・この向こうは・・・汚水処理施設のはずだけど・・・
持ってきた盗聴用のツールの中から、ピックアップ付き小型アンプを取り出して
壁に当ててみる。イヤホーンを耳にはさむと、今度は内容がはっきりと聞こるようになった。
「・・・くん、いよいよ、システム的に目処が立ったと連絡があったよ」
・・・ん、この声、どっかで聞いたことあるわね。
あたしが知ってるってことは技術部門に近い誰か・・・「では、いよいよいけるんですね」
・・・! この声はチーフだ。偶然だけど、大ビンゴかもしれない・・・
「焦ってはいかん。まだ目処が立っただけだ。これからもまだまだ受難の時は続く。
既にいくつかの問題点が発生してるが、君のところから誰か本部へ人を回せないかね」「それは、メンバーじゃなくてもという意味ですか?」
・・・メンバー?・・・じゃあ、チーフ以外にも部門内にいるってわけか。・・・
「彼を派遣することは難しいかね。?」
チーフの少し考え込む間が空いて、”無理です”という返答が聞こえてくる。
「今、彼を引き抜いては、計画に支障を生じます。それよりも、何も知らせず、
国家機密とか偽って一般の技術者を派遣した方がリスクが低いと思いますが・・・」「誰か心当たりは?」
「うちに、適任者が一人います。ですが、やはりすぐにというわけには・・・」
「どのくらい待てばできるかね?」
「一月くらいは最低必要です」
「わかった。本部へその方向で打診してみよう」
・・・ラッキィ。これで、いよいよ本部の所在がわかるわね。・・・
近々、部門内から誰か移動になるのをマークすれば、場所が特定できる。
盗聴装置をそのまま壁越しに仕掛けて、通常のネットワークのパケットに紛れて送信するようにセットする。
・・・なるほど、こんなところで意思の伝達が行われていたのね。
データを探しても無いわけだ。・・・
・・・こんな大掛かりな改変ができるということは・・・そうか、あの声は開発担当兼常務か・・・センサーを元にもどして、侵入口をふさぐ。
念入りの痕跡を消して、何食わぬ顔でその部屋から出ようとしたとき、部屋の隅から
気配を感じさせず声をかけたやつがいる。「アリスちゃん、めっけ」
あたしは心臓が飛び出すかと思った。
軍事訓練の成果か、思考とは別に体が動き、腰を落として反撃の態勢を取る。
すでに、右手にはピックを持ち、右足が床から浮いてダッシュしようとしていたが、
相手を認識したところで止まった。「ルー、あんたね、変なところで、いきなり声をかけたら危ないじゃないの!」
「いやあ、アリスちゃんが危ないは、いつものことだよ~ん」
「・・・・・・・・・」
・・・ほう、あんた命がいらないわけね。こんどは逃がさないわよ・・・
ピックは納めたが、そのまま拳を固めて間合いを詰める。
顔面に向けてジャブ、懐へ入ってのショートフック、左へ逃げるルーへフェイントぎみの
左アッパから、踏み込んで右ストレートのコンビネーションブロー。(シュ、ブン、ブン、スカ)
・・・こ、こいつ、全部かわした?・・・
サイドステップでかわしたルーは最後にバックステップして間合いをとると、にやにやして
”ほらね”と言ってから、ドア横に立って外へでるよう促す。しかたなく構えを解いて、あきらめたフリをする。
ドアを開けて出て行くすれ違いざまに、ル-の顔面に裏拳一発。
(ボクッ)
・・・あ、決まった?・・・
モロに顔面に食らって吹っ飛んだルーを助け起こして、あたし達は研究所をあとにする。
顔面に青あざを作ったルーを引き連れて出てくるあたしを見て、所員達がこそこそ話しをしていたが
内緒話にしては大きい声にあたしの頬が引きつって、こめかみに青筋が立ちそうだった。(ひそひそ・・・やっぱり、下僕かしら・・・)
(・・・きっと折檻されたのよ・・・)
(・・・いやあ、オレはちょっとあそこまでは・・・)
(・・・お姉さま、すてき・・・)
・・・こんちくしょう、こいつら締めてやりたい。・・・
いまさら、否定しても誰も信用しないことは分っていたが、それでもあの所員の連中を
黙らせたかった。このあと、どんな噂が飛び交うか、想像したくも無かった。
・・・それにしても、あれだけのステップを見せておきながら、あそこで裏拳食らうなんて・・・
・・・油断した?・・・いいや、こいつは周りがこんな反応をすることを知っててわざと一発食ったんだ。
こいつはそういう根性が捻じ曲がったやつなんだ。 あぁ~、むかつく!!・・・「いっつつ、アリスちゃん、これはあんまりなんじゃない?」
「うるさい、あんたもう一発喰らいたいたいわけ」
街中で、顔を押さえながら抗議してくるルーを睨んで、このムカッとした気分を拳に変えて、
さらにルーに向けてぶつけたら、どんなに気持ちいいかと、あたしは本気で考えていた。「最近顔を全く見せないと思ってたら、急に変なところに現れて、あんたいったいなんのつもり?」
「そんなに待ってくれちゃってるなんて、おいら困っちゃうなあ」
「ダ~ッ、誰がそんなこといっての~、バッカじゃないの!!」
「あれえ、もうすぐだからって伝言頼んだんだけどな」
・・・それは。・・・ウ~、仕事の話か・・・
外見はへらへらしているが、どうやらまともな話のようだ
こいつは、どこまでが不真面目なのか見当がつかない。まともに対応してると、こっちがバカを見そうだ。
「・・・そう、で、いつから?」
「すぐにでも、ただし、おいらの方では何が重要かわからない。その取捨選択はお願いするよ。」
「OK、で、どこへデータを送ってくれるの?」
「それは、アリスちゃんの胸の中・・・て、そういう意味じゃなくて、・・・」
あたしが握りこぶしを目の前に突き出すと、あわてて訂正を入れてきた。本気で殴ろうとしたのを
感じたらしい。「施設内のサーバならどこでも、アリスちゃんの都合のいいところへ送るよ。」
そういうことならば、チーフのサーバ内に作ってある、不可視領域へ置いてもらえばいいだろう。
そうそう、うちの部署から組織本部へ移動になる人物がいること、スタッフに組織の一員がいること
そして常務も組織の仲間であることをルーに伝えておこう。技術部門のスタッフはチーフの下で働いているのだから、チーフより上位にいることは
無いだろうし、組織の全容など知りもしないだろう。特にマークする必要はない。重要なのは一ヶ月後にここを離れる人物のマークと常務の動向だ。
「ん~、分ったよ~ん。技術スタッフの移動にはマークするように手配しとくから」
「常務はどうするのよ」
移動する技術スタッフは重要だが、常務だって重要だ。と、思っていたあたしの考えを、
ルーはあっさり否定する「常務なんてマークするだけ無駄さ。あの男は管理能力を買われているだけで、
他の事なんかさっぱりだもんねえ」「てことは、ルー、あんた最初から、常務が組織の一員だって知ってたわね」
”言ってなかったけ”と、とぼけるルーへ裏拳を見舞うが、今度はあっさりかわして逃げ出す。
やっぱり、さっきのはわざとだったんだ!。
通りの向こう側へ走り去ると、あいつは最近あたしが気にしていることを口にした。
「アリスちゃん。そんなに気の強いとこばかり見せてっと、いい男が寄ってこないよ~ん」
・・・ガーン、あんなナンパ野郎に、もてないって言われた・・・
「うるさい、うるさい、こら~、ルー、戻ってきてあたしと勝負しろ。今度こそコテンパンに
のしてやる~!」”やなこった”と捨て台詞を残して、ルーは奥の角へ消えて行く。
・・・ク~悔しい。ルーめ、憶えてろ・・・
あいつに言われたことは、自分も心のどこかで思っていたから、よけい悔しい。
でも、だからといって、自分を変える気はさらさらない。
あたしはあたし、あたしのことを理解してくれて、あたしのことを見守ってくれて、
あたしのために手を差し伸べてくれる人を・・・きっと見つけてやる。To be Continued.
—————————————————————————まいどお世話になります。@赤い羽です。
まいった。もう話数の制限を無くしたら、力いっぱい伸びていきます。
今回の部分はイベント構成時には全くありませんでした。
プロットにも”アスカの活躍と偶然から組織の全貌を知る”・・・・これだけ
”こんなんでプロットと言えるか!!”と自分で自分につっこんでしまいました。
しかたなく、新たにイベントを起こしましたが、ちょっと中だるみかもしれません。
次は組織の目的の部分になります。
待っていてくれる方(いるのだろうか?)できるだけ早くお届けします。
それから、誤字脱字、意味不明など、苦言提言なんでもお聞かせください。
ではまた。
novelai2000@yahoo.co.jp
2006/09/01
Dragonfly様より誤字の指摘をいただきました。ありがとうございます。
第4話
【完結】戻れない日々