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戻れない日々 第2話 前編 赤い羽
2006/04/16 初稿
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「調査部の結果が出たわ」
ミサトが、ブリーフィングルームに入ってくるなり、コンソールのメインモニタスイッチを
入れる。
メインモニタには、先日押収した機器の調査結果と、技術部門のコメントを添えた報告書が映し出された。
隊員の大多数が興味なさ気に眺めているが、あたしにはこれがどんなに危険なものか
よく判っていた。
「ヘイ、ミサト、で、一体これはなんだぁ?」
突撃隊員の一人が気の抜けたような質問をぶつけた。
うちの部隊は指揮官の性格を反映して、非情にフランクな雰囲気だ。
どうかすると友達感覚で下士官へ話し掛ける連中もいる。
階級なんてくそ食らえと思っているのはあたしも同じだから、全く咎めることはない。
よその部隊では考えられないが、上官と意見が合わなければ平気で殴りあって、
決着をつける。
そうでなければ、自分の背中を任せられないからだ。
勿論、あたしも変なちょっかいを出してくるやつは叩きのめす。
それが、部下だろうが、上官であろうがだ。
上層部は葛城ジャパニーズヤクザとか、ビヤ樽マフィアとか、色々陰口を
たたいているようだが、
”ふふん、そんなこと知ったことじゃないわよ。”と、いってやりたい。
残念ながら言う機会がないだけだが。
しかし、今回は様子が違った。
いつも陽気に返答するミサトが堅い顔を崩さない。じっとメインモニタを見つめている。
その様子に隊員たちも気づき、ブリーフィングルーム内が緊張に包まれだした。
モニタ関係のうなりが聞こえるほど静まり返った中、ミサトはメインモニタに
映し出されたプラグ内部のインテリアを凝視してブリーフィングを始める。
「これはね、人類を一瞬で滅ぼせる力を持った神様を、操るコックピットの一部よ」
周りがざわつき始める。
・・おい、それって、・・ああ、あれだろ、・・バカな、あれはなくなったはずだ、・・
エヴァの件はUN内部でも超極秘事項になっているが、知っているものも多い。
あの時、出撃した者さえ居るくらいだ。
さすがに単なるパイロットだった、あたしのことまで知っているやつは殆どいないが、
ミサトのことを知っているものは大勢いる。
通信班のリーダが代表して質問すると、誰もが聞きたい内容に、ブリーフィングルームは
再び静寂を取り戻す。
「コマンダー葛城、エヴァンゲリオンは復活したのですか?
フォースインパクトはおこるのでしょうか?」
ミサトは、メインモニタから目を離し、隊員を見回すと一つため息をついて答えた。
「正直言って分らないわ。これだけではなんとも言えない。少なくとも、フォース
インパクトまで繋がるかどうかは全くの未知数よ」
そこまで話すとミサトは言葉を切る。
いつもならば、ここからは作戦の目的とか攻撃目標や作戦内容の説明に移るのだが、
ミサトは先を進めようとしない。
隊員達は訝りだし、口々にいろんな事を言い始める。
その時、あたしは目の前のサブモニタで調査部からの報告書をひたすら読んでいた。
エントリープラグやインターフェイスに関してならミサトよりあたしの方が詳しい。
報告内容から相手の目的や技術レベル、今後の可能性など考えられる限りの検討を
行っていた。
「ヤー、アスカ、ナニカ、イツモト チガウネ」
少し年上の中国系らしい突撃隊員が変な日本語で、あたしに話し掛けてくる。
こいつはいつも、あたしにちょっかいを出してくる。
どうやら気があるらしいが、今はそれどころじゃない。
視線を向けて睨みを利かせると、肩をすくめておとなしく引き下がっていった。
・・・よし・・・
ひと通り読み終えて、内容は理解した。
いくつかの疑問点は残ったが、それはこれからの調査にゆだねて、今後の方針を
決めなければならない。
サブモニターから顔を上げると、腕を組んでいるミサトがあたしを見ている。
・・・そういうことか・・・
ミサトはあたしが説明をするか、判断をゆだねているのだ。
あたしが軽く首を縦に振ると、視線を下に逸らしたミサトだったが、すぐに全員の方を向くと、
これから先の説明は、あたしが行うよう指名した。
「これより先は、惣流・アスカ・ラングレー チームリーダが説明します。
惣流 リーダ、前へ」
「イエス・コマンダー」
ミサトの部隊には、似合わない角張った引継ぎに、普段ならジョークやヤジが
飛んでいるはずが、今回だけは誰も何も言わない。
それほどまでに、二人の間には緊張が読み取れたのだ
「それから、これより話される内容は最低でも情報ランクA、ランクSのものが
ほとんどです。
一切の他言無用、この室内にいるメンバー同士でも、ブリーフィング終了後は
禁止されます。
各員の宣誓は行いませんがこの部屋へ残った場合、宣誓されたものと見なします。
できない者は、今すぐここを退出するように。」
ミサトの宣告に”ランクSだって”というつぶやきが聞こえる。
ランクS、それは、世界規模で破滅が起こる可能性がある超機密事項。
人類滅亡が可能にあるエヴァンゲリオン関係の情報はこれに当たる。
ジェネラルクラスでも、この情報に触れることはできないから、隊員が驚くのも
無理はないだろう。
ミサトと入れ替わりにコンソールに着くと、隊員たちの不思議がる表情が目に飛び込んできた。
ミサトは後ろにさがって壁にもたれている。
事態が深刻だから何も言わないが、彼らは、あたしがここに立つことに、
疑問でいっぱいだろう。
覚悟は決まっている。あたしは説明を始めた。
「この、ユニットはエントリープラグと言い、エヴァンゲリオンの・・・・・・・」
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「・・・・以上が押収された設備の機能になります。」
ここまでは、あそこにあった設備の予備知識だ。
あそこにあったのは、エントリープラグとLCLの再循環装置、シンクロ用の小型
インターフェイス及び通信ネットワーク設備、それらに電力を供給するユニット
あと利用目的の分らない水槽。インターフェイスと繋がっていて試験管の巨大な
ものみたいだった。
「次に、予測される使用目的とその理由は、次にあげる・・・」
いろいろな考察を加えて解説し、最後に自分の意見を加える。
まとめると、あれは試作品もしくは訓練品で、あれではエヴァは動かない。
また4thインパクトは、アダムかリリスのどちらかが必要で、どちらも失われているから
起こりえない。
最後に、エヴァの技術にはお金がかかるから、経済的調査から始めたほうがいい
と、説明した。
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「以上が、あたしの考察と今後の予定ですが、何か質問は? 」
部屋の中はし~んとして、誰も質問をしようとしない。
アスカの指揮する小隊の連中は居眠りをしていた。
・・・しまった。学術的な報告になりすぎたか。・・・
・・・あまりにも真剣に考えたので、学会の発表みたいになってしまった。・・・
アスカが、周りを見ると、ぽかんとしている隊員が目に付いた。
彼らには何を言っていたのか、理解できていないだろう。
内心、焦ったアスカだったが、一番前で足を組んで聞いていた古参の隊員が口を開いた。
「譲ちゃんよ、オレには難しいことは解らねえが、一つだけ教えてくれねえか。
あんた、なんでそんなにエヴァやネルフに詳しいんだい?」
・・・とうとう、来たか。・・・
アスカは、今まで触れなかった自分の過去を、公にする時が来たと悟った。
部隊のメンバーは大勢ではないが、知る人が増えれば必ず情報は漏れてゆく。
自分のことは、いずれは世界中に知れ渡るが隊員の信頼を得るために必要だと、
アスカは覚悟を決めていた。
「それは、あたしがエヴァのパイロットだったからよ」
高波が起きるように、ざわめきが段々大きくなってゆく。
・・・そういえば、パイロットは14才とか、・・・今なら19か20・・・
・・・初号機は少年だって・・・じゃあ、弐号機か・・・弐号機?・・・
・・・あの、赤い悪魔か・・・俺達に護衛艦を投げつけた・・・
隊員たちのアスカを見る目が変わったように見えた。
”ねえ、聞いて!”とアスカは大声を張り上げた。
「あたし、あの時の事はあやまらない。あの時はあたしもあんた達も、自分が正しいって
信じてた。でも、本当はみんな踊らされていただけだった。」
「ネルフもゼーレも、サードインパクトを起こすことは一致していた。あたし達はみんな
身勝手な計画で死ぬ予定だった。」
アスカの告白に、ざわめいていた隊員たちが耳を傾け出し、部屋にはアスカの声だけが
響いていた。
「でも、シンジが、サードチルドレンが、あたし達を元に戻してくれた。もうこんな奇跡は
二度と起こらない。だから今度は、あたし達がこんな、世界を巻き込むような勝手な
陰謀を止めなきゃいけない。」
「お願いよ、あたしと一緒に戦って。こんな計画を止めさせて・・・お願いし・ま・す・・」
耳が痛いほどの静寂の中、アスカは最後には涙ながらに懇願する。
一つの拍手が鳴り響き出した。見ると、さっき質問した古参の隊員だった。
「なあ、野郎ども、こんな嬢ちゃんが14才の頃から世界を救おうとしてきたんだぜ。
いい大人がそれに力を貸してやらねえわけにはいかねえだろ。」
ふたつ、みっつ、よっつ、と拍手が増えていき、最後には割れんばかりの喝采となった。
壁に寄りかかり、事の流れを見守っていたミサトは、泣きながら素直にお礼を言っている
アスカを見て、彼女の成長をうれしそうに眺めていた。
と、その時、緊急情報の警告音が鳴り、部隊全員を凍らせる情報が流れ込んできた。
『旧ネルフ・ドイツ、謎の武装集団に襲撃される』
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翌日から、その謎の組織の調査が始まったが、すぐに行き詰まった。
旧ネルフ・ドイツは、現存するネルフ関係でも最大の施設だった。
そこを襲撃できる組織など本当に限られている。知られている組織は全部シロだった。
誰もが今回の一件と同じにおいを感じ、闇組織の本隊が襲撃したのではと疑っていた。
ドイツでの調査は施設が完璧に破壊され生存者も皆無だったため、何も手がかりが
つかめなかった。
こちらの調査でも、末端の組織から順に追ってゆくのだが、いつもあるところで
途絶えてしまう。
闇組織のくせに、高度な科学力、情報操作能力、資金力、組織力、いずれも想像以上で
特に団結力は類を見ないほど強固だった。
判明した構成員と思われる人物への買収や恐喝が成功した例はなく、別件で拘束した
メンバーに催眠術や自白剤のたぐいも使っては見たが、心理ブロックが施されていて、
危うく死んでしまうところだった。
そうこうしている内、UN上層部から調査の凍結命令がきた。
ミサトが驚いて、理由を問い合わせると、ドイツの一件は別の組織の犯行で、こちらの一件は
規模が小さいから別の重要な任務に戦力を向けろとの仰せだ。
「ゼーレの残党か、厄介ね」
おそらく、闇組織は国連内に巣くっていた、かつてのゼーレの構成員達と接触を持ち、
共闘関係に入ったのだ。
最初から潜入していれば、もっと早い段階で妨害してきただろう。今頃になって圧力を
かけてくることが、いい証だ。
極秘に調査を続けさせたが、あまり芳しくなかった。
その闇組織は外部からの調査だけでは、存在規模の片鱗さえつかめなかった。
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To be Continued.
まいどお世話になります。@赤い羽です。
構成では、もう少し先まであったのですが、話の流れからここで切った方がよいと
判断しました。他所で全4話と書いたので前後編です(単なるつじつま合わせ)
何か一言でも感想をお寄せください。見たよといっていただけるだけでも
モチベーションが違うのでよろしくお願いいたします。
(皆さんがスルーしているかもと不安なんです。)
ではまた