VOL.7 ~不屈の心・迷える心~

NEON GENESIS EVANGELION

ANOTHER STORY

 

SAVE THE LOVE !!

 

VOL.7 ~不屈の心・迷える心~

 

written by とみゅー

 

病室に戻ったシンジは半身を起こしてベットの上に座り込んでいた。

窓から外を眺める。雲が空をゆっくりと流れていく。

「傷はどうだい?」

突如耳に届いた声に驚いたシンジは、視線を声のする方向へ移し、再び驚いた。

「えっ...!?......さん?」

『...そんなバカな...でも....』

シンジは動揺し、声にならない。

でも、確かに今ここに存在している。

後ろで束ねた長い髪。顎にはトレードマークの無精髭。そしていくつもの死線をくぐり抜けてきた男の目。

加持リョウジがそこにいた。

「よっ!久しぶりだねシンジ君。」

そう言うと、加持はシンジの側に来て椅子に腰掛けた。

「生きて...いらっしゃったんですね...驚きました。」

シンジはようやく口を開くことが出来た。

「ははは、死に損なってしまったよ。ほら、ちゃんと足もある。」

加持は両足を上げて、パンパンと音を鳴らす。

「しかし、俺が来るのがもう一歩遅かったら...君はこの世から決別していたな...君といいアスカといい...冷や冷やさせる...」

「アスカに!?」

アスカと聞いて、ピクンと反応するシンジ。

「ああ、6日前にドイツでね。とっても魅力的なレディになっていて、正直ドキドキしたよ。」

アスカが無事に生きている。それを聞いただけで、シンジの心は踊った。

今直ぐ逢いに行きたい衝動に駆られるが、シンジは理性でその衝動を押さえ込んだ。

「...だが、彼女は自殺しようとしたんだ...」

「何だって!!!!」

加持の衝撃な発言に、同じだけのマイナスのベクトルがシンジの中に現れた。

シンジの表情がめまぐるしく変わる。

「大丈夫、心配は無い!命に別条はない....ただ....彼女の心の問題がある....彼女は君が死んだと思い込んで後を追うつもりだったんだ....」

「あの事件が....アスカに....」

あの時、シンジは観念した。

自分に向けられるVTOLのロケット砲...

まるで、勝誇るように...

しかし、そのロケット砲が発射される事はなかった...

地形から襲撃地点を予測していた加持は、用意していた歩兵用の地対空ミサイルランチャーをVTOL目掛け発射した。

撃墜され、落下していくVTOL...

爆風と破片に飲み込まれ、シンジは負傷して入院となっていた。

そして、加持はアスカに起こった、ありのままの事実をシンジに話した。

シンジの身体が小刻みに震えている....

「加持さん...僕達を助けて頂いて有難うございます...でも、お伺いして良いですか?」

身体中に沸き立つ激情を堪え、シンジは冷静に振舞った。

「何だい。シンジ君。」

「何故....もっと早くアスカを助けて頂けなかったんですか....その...ゲルハルトとかいう“ブタ野郎”に....」

言いかけて、シンジは絶句した....

加持に責任転嫁している自分に気がついたからだ...

「すまない....ゼーレの妨害工作にあって、近づく事が出来なかったんだ....俺の致命的なミスだ....詫びて済む事じゃないが....許して欲しい....」

シンジは、これ以上矛先を加持に向けることは出来なかった....

シンジ自身...アスカが助けを求めたにも拘わらずベットで昏睡状態だったのだから...

「ごめん....アスカ.....僕のせいで.....」

シンジは静かに瞳を閉じた...

二人の間に流れる沈黙....

静かにシンジが口を開いた。

「加持さん....もう一つお伺いしても良いですか?」

「何だい。シンジ君。」

「どうして...どうして直ぐに僕たちの所へ来てくれなかったんですか?」

加持の表情から笑顔が消える。

「加持さんが...居なくなって...ミサトさん...どれだけ嘆き悲しんだか判りますか?」

シンジには何となく解っていた。

加持の気持ちが...

でも、敢えて加持の口から聞きたいと思っていた。

「そうだな...葛城には心底申し訳ないと思っている...今、俺が何を言ってもそれは言い訳にしかならないことは百も承知している...だが、聞いて欲しい。」

「はい。」

シンジは居住まいを正した。

「俺が意識を取り戻したのは、第二新東京にある倉庫の一角だった。あの時、確かに俺はゼーレの手の者に撃たれ死んだ筈だった...だが、不思議なことに俺は今こうして生きている。だから、再び活動を始めたんだ。

『人類補完計画』の謎を解くために...そして、シンジ君がキーマンであったことが判った。

シンジ君と初号機・それにレイいや...リリスというべきなのか...が融合する事によって新しい世界が発生するということに...」

加持は話を続けていた。

サードインパクトが発生し、世界中が大混乱に陥っていた。

この混乱に乗じてゼーレと結託していたドイツ支部が活動を活発化させていることを加持は察知した。

加持は急ぎこの事実を本部に伝えようとしたが、結局間に合わず、アスカは連行されシンジは重傷を負った後だった。

そこで、加持は自分が死んでいる人間であることを利用して、ドイツへ潜入する事にしたのだ。

ドイツ支部の目的を探るために...

そして、密かに現司令の冬月と密かに連絡を取りドイツ支部の動き、アスカの状態を逐一報告していた。

加持にしてみれば、エヴァがある限りアスカに危害が加えられることはないと思っていた。

ただ、目的のために、精神崩壊から立ち直ったアスカを、再び破壊する事は十分考えられていたので、加持はアスカに接触する人間の身辺調査を行っていた。

そして、その目的を持っていると思われる人間が浮かび上がった。

その人物の名はゲルハルト・メックリンガー...

アスカの共同研究のパートナーであった。

さらに調査を続けると本名はゲルハルト・フォン・シュタインバウアーであることが判り、ドイツ支部司令ハンスの甥に当たることが判明した。

彼らの真の目的は、フォースインパクトを発生させ、人類を再度一つにし、ゼーレによって選ばれた人間だけを残そうと企てていた。

その媒体となるのがエヴァであり、アスカであった。

そして、アスカにとって最後の心の拠り所であるシンジを抹殺する事によって、アスカの人格は崩壊し、エヴァの覚醒も促進されるように計画されていた。

シンジの握る拳に力が加わった。

『おのれ.......よくも....アスカを......!!』

シンジは静かなる闘志を胸に秘めた....

「という訳だ。俺はこれから冬月司令の許へ行って正式にNERVに復帰する。そして、今度こそ君たちと一緒に戦うつもりだ。」

「はい..........事情は解りました。」

シンジは加持を見て頷いた。

「それと...一つだけ約束して欲しい事があるんですけど...」

怪訝そうな表情の加持を見て、シンジは微笑んだ。

「ミサトさんを...必ず幸せにするって...」

そのシンジの微笑みの中に浮かぶ瞳は真剣だった。

加持は持ち前のユーモアでこのシンジの要請をかわそうとしたが、シンジの瞳を見てそうすることを断念した。

『...ここで、約束をしなっかったら、シンジ君は絶対俺を許さないだろう...

...一人の男として、これに応えなければならない...』

「ああ、約束する。君が証人だ。」

加持ははっきりとシンジに宣言した。

シンジは肩の荷が少し降りたような気がした。

「よかった。」

シンジは加持に握手を求めてきた。加持はフッと笑うと、シンジの手をしっかりと握り返した。

「『お姉さん』をよろしくお願いします。」

「任せておけ!我が弟!」

そう言って、二人は初めて笑い合った。

その時ドアがノックされ、ミサトが勢い良く入ってきた。

「シンジ君。ちゃんと寝てるぅ?」

「ミサトさん!」

「!!!!!」

言いかけたミサトが急に息を飲んだ。

彼女の目の前にあった光景。

ベットに半身を起こし座るシンジ。その傍らでシンジと話し込む加持。

二人は笑顔で話しており、ミサトが待ち望んでいた光景でもあった。

だからこそ、ミサトは幻を見ているような感覚に捕らわれた。

『...何でアンタがここにいるのよ!?』

ミサトは心の中で叫んだ...はずだった...

しかし、実際に彼女の思いは声帯を通して発せられ、加持とシンジに意味の通じる言葉となっていた。

二人の驚いた顔が自分を見ていることに気付く。

そして、一人が椅子から立ち上がった。

「よっ!葛城。元気にしてたかい?」

ミサトにとって、失ってみて初めて気付いた大切な存在。

もし、万一再び巡り会うことがあれば、今度こそ素直になろうと思っていた。

そして、今加持とミサトは再び巡り会った。二人の予期せぬ時、予期せぬ場所で。

「!!!」

ミサトは今、自分が何をしているのか理解できなかった。

加持の身体がみるみる近付いてくる。

シンジの眼からは、ミサトが加持に駆け寄って行くのが見えた。

全身を通して感じる加持の温もり....ミサトは暫く加持にしがみついていた。

加持が生きている事を確認した喜び、それと同時にみるみる沸き上がる怒り。

「...葛城?...」

パシン!

ミサトの力任せの平手打ちが加持の左頬を捉えた。

ミサトの瞳から止めどなく溢れる大粒の涙。

加持は黙ってミサトからの仕打ちを受け入れた。

「なに今になって帰って来たのよ!私が今までどんな思いしてきたと思ってんのよ!!」

「...すまない...」

「加持が生きていたことさえ私は知らされてなかった...私って一体何なの!!」

ミサトは錯乱していた。

そんなミサトを抱き寄せようとした加持を突き飛ばし、病室から飛び出すミサト。

「葛城!!」

「加持さん!此処は僕に任せてください。」

追いかけようとした加持をシンジが制する。

「...すまん...頼む。」

シンジは黙って頷いた。

病院の屋上の手摺に顔を埋め、ミサトは震えていた。

シンジはミサトを見つけると、側まで歩いた。

「来ないで!!」

「僕です。ミサトさん。」

「...シンジ君...?」

シンジはミサトの右にやってくると、そっとミサトの右手に自分の左手を被せた。

「!!」

ミサトはシンジの行動に驚きを隠せなかった。

人と人との接触を極端にまで避け続けていたシンジが、自らの意志で接触を求めていることに。

「ミサトさんの気持ちは良く解ります。いつも側で見てたから...」

「.....」

ぎこちなくトツトツと話すシンジの言葉が、ミサトの心に染み込んで行った。

「加持さんが、何故直ぐに現れなかったのか。事情を聞いたんです。聞いていただけますか?」

ミサトは黙って頷いた。

シンジは先程加持から聞いたことをミサトに話した。

「...と言う訳です。僕は思うんです。加持さんは本当はすぐにでもミサトさんの所へ行きたかったんじゃないかって。きっと腸がネジ切られるような思いをしてきたんじゃないかって...だって、加持さんの瞳すごく悲しい色をしてたから...だからって、加持さんを受け入れてくれって言う訳じゃありません。けど、加持さんの気持ち...どんな思いでいたのかも、解ってあげてください。」

「.....」

ミサトからの返事はなかった。

無理もないとシンジは思う。

「それじゃ、僕はこれで...」

暫く一人にしておいてあげた方が良いと判断したシンジは立ち去ろうした。

「...どうして...そんな事を言いに来たの?」

ミサトの問いかけにシンジは立ち止まる。

「加持と私の事じゃない...シンジ君には関係ないことなのに...どうして?」

「だから心配なんですよ。お二人とも、意地っ張りだから...」

シンジは、はにかみながらそう答えた。

「僕に...いや、僕とアスカにとって、ミサトさんは唯一の『家族』なんです。だから幸せになって欲しいんです。」

照れながら話すシンジであったが、その瞳は真剣だった。先程、加持に見せたのと同じ真剣さであった。

そんな真っ直ぐなシンジの思いがミサトの心の琴線を弾いた。

『...こんな私を...認めてくれるの?...何時も怖い目に合わせてきた私を...』

「それに...僕は...ミサトさんには迷惑かもしれないけど...加持さんとミサトさんに僕とアスカの未来像を投影してたんです。口ではいつも言い合いをしてても、心はしっかりと繋がっている関係...そんな事が、僕とアスカも出来たらいいなぁって...」

「迷惑だなんて...」

「ですから、お二人にはつまらない意地の張り合いで、大切なモノを見失って欲しくないんです。僕たちのように...」

「シンジ君...」

「ごめんなさい。勝手な理想を押しつけて...」

そう言って俯いてしまったシンジを優しく抱きしめた。

「ありがとうシンジ君。そしてゴメンね...らしくないわね...いい歳して...」

そう言うと、ミサトは大きく伸びをした。

「私、もう一度アイツと話してみるわ。」

「ミサトさん。」

シンジを見つめ、そして微笑む。

「...嬉しかったわよ。シンジ君から、初めて私を『家族』として認めてもらったから...」

「僕たちにとって、ミサトさんは大切な『お姉さん』ですから。」

そう話しかけたシンジは、力を使い果たしたのか、そのまま腰砕けになりへたりこんでしまった。

「シンジ君!」

「あはは、やっぱり決まらないですね...」

冗談を言うシンジであったが、かなり無理をしているのだろう。顔色が悪くなっていた。

シンジはミサトに呼び出された加持によって、病室に連れて行かれると深い眠りに落ちていった。

しかし、その顔には安堵の色が浮かんでいた。

「では、エヴァ14号機は完成したのだな?」

《そうだ。我々の手にある。もちろんパイロットも用意してある。これが何を意味するか判るな?冬月。》

男の声は陰惨を極めていた。

「要求は何だ。」

冬月はモニターを覗き込んで、手を顔の前で組んだ。

モニターに映る相手...ハンス・シュタインバウアー...は余裕の笑みを浮かべていた。

右の口元がつりあがっている。

《要求ではない。これは命令なのだよ。判るか冬月。命令だ。》

自尊心が肥大化すると、かくも人間は醜くなるのか...と冬月は思った。

《冬月。MAGIをこちらへ引き渡せ。エヴァのない施設に本部機能は不要だ。》

「バカな...血迷ったか、シュタインバウアー...」

冬月は吐き捨てるように冷たく言い放った。

《言っただろう冬月、これは命令なのだ。拒否は許されないのだよ...フフフ...》

「...クッ!...」

冬月は腕組みをしたまま、ハンスを睨み付けた。

そして、屈服した。

「欲しければ勝手に持って行け....邪魔はしない...」

《なかなか殊勝ではないか...冬月。》

冬月はモニターを睨んだまま、話を続けた。

「勘違いするな、シュタインバウアー...こちらは手は出さないと言ったのだ...当然スタッフは全て引き上げさせる。」

絞り出すような声で、俯いてモニターへ話す冬月。

《それは許さん。冬月!君自身がMAGIを運ぶのだ。いいな。NERV総司令の冬月コウゾウが、自らMAGIをドイツの新本部へ運び、総司令の座をこのハンス・シュタインバウアーへ明け渡すのだよ。分かったら直ちに運んでこい!》

そう言うとハンスは一方的に通信回線を切断した。

「.....」

冬月は暫く暗くなった画面を睨み続けたが、やがておもむろに袖机の引き出しを開け、受話器を取り出した。

「...私だ...30分以内に葛城一佐と加持二佐を作戦室へ召集してくれ...ああ、それから技術一部部長へ回してくれ.......北上二佐、私だ...例の状況はどうか?.......そうか....その件に付いては二部長の大井二佐と協議してくれ...そうだ、何とか間に合わせるのだ.........マッチング?...問題はない。」

第3新東京市郊外。

左目に眼帯、右腕に包帯を巻いたシンジはサードインパクト後に出来た泉を訪れていた。

LCLで満たされた湖のような赤い泉...

6年前は海であった。

辺りに人影はなく、シンジが運転してきたスカイラインだけが人工物として存在するのみだった。

『...また来ましたよ...キョウコさん...綾波...カヲル君...』

シンジは車の後部座席に積んでいたチェロを取り出し、畔へと向かった。

年に1回だけ訪れる秘密の場所...

共に戦い、同じ時代を生きた仲間達...

そして、自分自身が傷つけてしまった存在...

その悔恨に苛まされた自分が立ち上がった場所...

シンジは静かに奏で始めた。

奏でる曲は『カノン』...

毎年欠かさずに捧げる彼らへのレクイエム...

『...キョウコさん...今日はあなたにお願いがあって参りました...

 ...アスカを...あなたのお嬢さんを...エヴァの呪縛から解き放ちたいんです...

 ...あなたの力を...僕に貸してください...』

シンジは曲を奏でながら、眼を閉じキョウコへと語りかけた。

やがて、彼の前にアスカとよく似た面影を持つ女性が現れた。

《...シンジ君...ようやく来たのね...この時が...》

歓びで満ち溢れているキョウコを見て、シンジの心は沈んだ。

『...でもそれは、あなたのサルベージを放棄する事になるんです...二度と実在の人間に戻ることが出来なくなるんです...僕は...』

シンジの言葉を遮り、キョウコは話した。

《...そうね...でも、それは始めから分かっていた事...そのために私はあそこに残ったんだもの...あなたが気にする必要はないわ...》

『...いいえ、違うんです!そうじゃない!!...』

シンジは顔を苦痛に歪めながら叫んだ。

『...僕はキョウコさんが思ってるような立派な人間じゃない!...
人の目が気になって、自分が傷つきたくないくせにいつも誰かに逃げ場を求めていた...
その結果がこのザマです...綾波に逃げ...アスカに逃げ...そして傷付け踏みにじった...
そして、今度はアスカを取り戻したい...ただそれだけの...自分勝手なやましい理由から...
キョウコさんを利用しようとしている...それが、アスカからキョウコさんを...ママを...
奪うことになるのを知ってて...それがアスカを、また傷つける事になるのに...
僕は...最低です...』

シンジはそう言うと俯いた。既に奏でていた手は止まっていた。

『...それでも...僕は...アスカを...』

シンジの瞳から止めどなく溢れる涙。

自らの行いを懺悔するかのように...

その時、キョウコの手が自分の頭を優しく撫でている感覚をシンジは覚えた。

《...優しいのね、あなたは...優しいからこそ心が痛むの...よく聞きなさい...》

キョウコは穏やかな微笑みを浮かべながら、シンジに語り掛ける。

《...人はね、みんなあなたと同じような心を持ってるの...
先ず自分というものがあって、そして自分にとって大切な人のために頑張れるの...
私は...母親としては失格だったけど、それでもアスカを...娘をいつも見守ってきた...
あの娘は私が至らなかったばかりに、愛情の発し方、受け止め方を知らない子になってしまってたの...
そしていつも寂しい思いをさせてしまった...そんなあの娘をあなただけが受け止めてくれた...あなたなりの方法で...
勿論他人同士ですもの、行き違いや逆にあなたがあの娘に支えて欲しかった時もあったでしょうけど...
私はアスカを見守ってきたのと同じ位あなたを見守ってきたの...私のかけがえのない仲間ユイが残したあなたを...
私はアスカのためにあなたがどれだけ頑張ってきたか解ってる...だから、私が戻れなくても、安心してあの娘を託していける...》

シンジが哀しげな眼をキョウコに向ける。

《...心配しないの!...私の身体はどのみちサルベージは出来なかったんだし、それに心はいつもこの泉にいるんだから...あなたの大切な仲間達...レイちゃんとカヲル君と一緒にね...だから、逢いたくなったら...いつでもいらっしゃい...》

シンジは思わずキョウコの胸に顔を埋め、小さく震え、消え入るような声で叫んでいた...

『...母さん...』

思わず口にした言葉、それは母親の愛情を知らずに育った子供が母を求める叫びであった。

キョウコはシンジがアスカと同じように育ってきたことに思いを馳せ、シンジの母親にもなることを決心した。

《...シンジ...》

キョウコは微笑みを浮かべ、シンジを抱きしめた。

《...メソメソしないの...男の子でしょう?》

キョウコの胸元で、シンジは小さく何回も頷いてみせた。

その周りを別の二つの人影が近付いてきた。二人の髪はシルバーブルーに輝き、紅の瞳はシンジを見つめていた。

《...碇君...私は祈ってる...あなたの持つ優しさという武器が、あなた自身を傷つけるために向けられるのではなく、他の人を包み込み、労るために向けられることを...》

『...綾波!...』

《...シンジ君...忘れないで欲しい...僕はいつでも君と共にあるって事を...そして、自分自身を信じて前に進むんだ...いいね...》

『...カヲル君!...』

キョウコ・レイ・カヲルからシンジを優しく包み込むような光が放たれる。

『...暖かい...』

キョウコが、そっとシンジの左目の眼帯を外した。

はっきりと開いていくシンジの視界...そして輝きが灯った。

《...もう大丈夫でしょ?...行きなさい...そして、守りなさい...シンジ...》

シンジはスクッと立ち上がり、泉を後にした。その瞳に決意を浮かべて。

「行ってきます!!」

シンジはGT-Rに乗りこむ...

ブオン!

その決意を表現するかのような、強い咆哮を上げ、スタートを切った。


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どうも、こんにちは! VOL.7をお届けしました。

当SSは、シリアスLASストーリーです。

アスカの所在を知ったシンジ...

そしてアスカに起こった事を知ったシンジ...

その腸は煮え繰り返っています。

キョウコにアスカを託され、いよいよ反撃開始です!!

それでは、またお会いしましょう。