VOL.5 ~野心家たちの煉獄~

NEON GENESIS EVANGELION

ANOTHER STORY

 

SAVE THE LOVE !!

 

VOL.5 ~野心家たちの煉獄~

 

written by とみゅー

 

ドイツ...マンハイム...

NERV第三支部は関連施設を合わせて、ここに一大拠点を形成している。

数年前、ジオフロント内で広がっていた本部施設と同じだけの規模を地上に展開していた。

その一角の地下...

照明を消された室内に男達の話し声が聞こえる。

室内には5人の男が円卓を囲んでいる。それぞれの端末の明かりが、僅かに顔を照らし出している。

「我々の計画は既に2年以上遅延している。しかし、ようやく実行段階まで漕ぎ着けた事になる。」

議長格の男の声に全員が頷く。

「ここで、問題となる存在が一つある...『3番目の適格者』の事だ。奴の力は侮れない。おそらくその力はセカンドを遥かに上回っている筈だ。」

無言となる一同。

「そのサードが動き出したという情報がもたらされた。」

「...その情報はこちらにも入っています...どうやら、本部と接触するようですな。」

「...フン、親子そろって、我々と敵対するつもりか....」

「できることなら、こちら側へ引き込みたいですな...セカンドを盾にすれば...奴とて...」

「おそらく、呼びかけには応じないだろう。」

「そんな必要はないでしょう!かえって障害となる可能性が高くなるだけです。いくらサードが動こうとも、本部には稼働できるエヴァはありません!!エヴァのないサードなど恐るるに足りないと思いますが!!」

男達の中で一番若い男が、輝く金髪を掻き上げ、悪意の篭った声で言い放った。

「その油断こそが、恐ろしいのだ。」

議長格の男が若い男を制止する。

「奴にはサードインパクトを起こす程の力があるのだ...その事を忘れるな...」

その言葉に一同は黙り込んだ。

「そうであれば、速やかなるサードの抹殺...これしかありません...」

先程の若い男から、自分の興奮を押さえ込むように冷ややかな口調で提案が為される。

「セカンドはどうする。事実が知られたら、暴走するやも知れん...そうなれば、誰にも止められないぞ。」

別の参加者より、懸念事項が提示される。

「問題ありませんよ...それにシナリオでは、始めからセカンドには壊れて貰うつもりだったのでは?」

男の瞳はその色のように冷酷なモノを秘めていた。

「母親同様、元々精神的に脆い存在なんですから、サードが命を落としたことを知ればどうなるか...結果は見るまでもありません。後はアヤツの砕けた心をエヴァにフィードバックさせてやるだけで、新たなる秩序を造り上げる事が可能なのです。」

今の質問を予期してたかのように、先程の興奮状態から一変、冷酷な響きを以て説明した。

「我々の目的に、障害が出ることは許されん。」

「本来そのための『NERV』です。あの男によって牛耳られ狂わされたシナリオを元に戻し、全てをあの男の息の掛かった者から奪い取らなければなりません。」

「サードの件は一任する。速やかに抹殺せよ。」

「はい、叔父上。」

答える男の口元は、歪んで陰湿に笑った......

『...ハン!そう言うことか...何の話をしてるかと思えば...』

潜入し、陰謀の一部始終をモニターしていた男は、最後に金髪の男が退出したのを確認して部屋に侵入した。

男は不精髭を撫で、デスクに残されたコーヒーカップを取り縁にテープ状のものを張り付け直ぐ剥がした。

その動作を5回繰り返す。

『...アンタらの身元...しっかり洗わせて貰う。悪く思うなよ...』

男は、その部屋から姿を消した。

第3新東京NERV新本部。

かつての本部施設は全て崩壊しており、辛うじて作動していたMAGIシステムを移植して現在の場所に建設したのが、現在の本部棟である。

赤木リツコ・伊吹マヤというエキスパートがサードインパクトによって失なわれたため、現在もMAGIはその能力をフルに発揮することは出来ないでいた。

それでも、葛城ミサトの指揮のもと青葉シゲル・日向マコトの両名による懸命な復旧作業により、 MAGIの能力は徐々に回復していった。

そんな新生NERVに彼はやってきた。

メインゲートをくぐり、走る抜ける1台の車...トランクリッドには『SKYLINE』と『GT-R』の文字...

サファイアのような光沢を放つブルーのボディ。

年季は入っているものの、しっかりと整備されていた。

駐車場に車を止めて大きく伸びをすると、ツカツカと本部棟の方へ歩いていった。

見知らぬ通路。

かつて自分がいた場所と同じ名前をもつ組織の建物の中を歩く。

『...何故ここにいる...?』

少年だった頃、常に自分自身に問い掛けていた。

『...今はハッキリ答えられる...』

しかし、その目的を達した時、一体自分はどうなるのか...それは彼自身判らない。

『...それでも僕は帰ってきた...この場所へ...』

彼...シンジは前を見据え、そして気付く。

通路の一角に佇む人影に...

青み掛かった黒く長い髪。胸に下がる十字架をモチーフとしたペンダント...

シンジが心のどこかで頼っていた「姉」とも呼べる存在...

葛城ミサト...がそこにいた。

「...ミサトさん...!?」

シンジの足取りは徐々に速くなり、やがて駆け出す。

彼の視界にあるミサトの姿はどんどん大きくなる。

「久しぶりネ。シンジ君!!」

自分より身長の高くなったシンジを見上げながらミサトは微笑む。

繊細で優しい面影を残しながらも、鍛えられ精悍さを増した顔立ち...

その瞳は、どこまでも澄みきっていた。

彼女はこの瞳と、同じ輝きを持った蒼の瞳をもつ少女を、保護者として守っていたことを遠い昔のように感じていた。

「ミサトさんもお元気そうで何よりです。」

シンジの挨拶に、ミサトは思った所を正直に口に出した。

「すっかり逞しくなったわね...」

照れたように頭を掻くシンジ。

その仕種は6年前と変わらない。

ミサトは少しだけ救われたような気がした...少しだけ...

『...そして私は、この子をまた過酷な世界へ放り込もうとしてる....』

忸怩たる思いが心を過ぎる...

戦略自衛隊による、本部施設の直接占拠...

蹲るシンジを強引に引き出し、初号機ケージへと急ぐ...

そして、銃撃戦...

「大人のキスよ。帰ってきたら続きをしましょう。」

開く扉。

倒れ込むようにその中へ入っていくシンジ....

ミサトは壁により掛かり、そして床へ...倒れ込んだ...

「はぁ...こんなことなら、アスカの言うとおり...カーペット、換えときゃよかった。ねぇ...ペンペン・・・」

「加持くぅん...私、これで良かったわよね....」

その直後、ミサトの意識は途絶えた...

気が付いたときは、辺りは静寂の闇に包まれ、誰も居なかった...

「私...生きてるの?...それとも、死んでるの?」

ミサトはヨロヨロと起き上がり、辺りの様子を覗った。

床は捲れ上がってズタズタになっているのが分かってきた...

周囲を冷たく照らしつける月光...

『ジオフロント...そう...死に損なったのね...私...』

だが、脇腹に受けたはずの、銃創がない...

「とにかく...発令所へ...」

ミサトは、再び歩き始めた...

「...ミサトさん?僕の顔に何か付いてますか?...」

不思議そうな顔をするシンジを見て、ミサトは慌ててその思いを振りきった。

「な、何でもないの。ついシンジ君に見蕩れちゃったダケ。さぁ、冬月司令がお待ちよ!」

「はい!」

そそくさと先に歩き出したミサトを追って、シンジ慌てても歩き出した。

ミサトとシンジはNERV司令冬月の前にいた。

「司令、碇二尉を連れて参りました。」

「ご苦労。葛城一佐。」

シンジは冬月との公式な対面ということで、型通り冬月に向け敬礼する。

「申告します!第7航空団第201制空飛行隊所属、碇シンジ二等空尉であります。本日付けを持ちましてNERV航空隊への転属を命じられ只今着任致しました。よろしくお願い申しあげます。」

「着任を許可する....よく帰ってきた、シンジ君!」

「ハイ。冬月先生! 」

NERV司令、冬月コウゾウは成長したシンジを眺め、眼を細めた。

先ほどミサトが覚えた感慨を、冬月も感じていた。

『...ユイ君に似てきたかな...父親に似なかったことが幸いしたな....』

冬月はシンジを見てそう思った。

「君を呼び戻したのは他でもない。」

感傷を切り替え、実務的な話に変わると、表情を変えた。

冬月はシンジに『極秘』と書かれた資料を渡した。

「これは?」

「君にこれから就いてもらう任務の要綱だ。君にも一員として実戦に参加してもらいたい。」

「僕が...いや小官がでありますか?」

シンジは渡された資料に目を通しながら、冬月に尋ねた。

「そうだ。」

「ご命令と言うことであれば従います。ですが...」

言葉を続けようとしたシンジを遮り、冬月が話し始めた。

「シンジ君...君には考えて欲しいのだ。私たちは君達『チルドレン』を常に危険な所へ送り続け、傷付け続けてしまった。今回私が君を呼んだのは、この任務は君が一番適していると思ったからだ...君自身どう思うかは判らないがね。だからこそ、考えて自分自身の意志で決めて欲しい。」

「..........」

『...冬月先生の言いたいことは分かる。

...命令されて動くのではなく、自分がどう思ったのか、その結果どうなるのか考えて動けと言う事なんだ。

...だけど、僕には...』

そんな、シンジを見て冬月は言葉を続けた。

「時間をあげたいのだが、事態はそれほど悠長に構えてられないのだよ。いや逼迫してると言ってもいい。」

冬月の言葉に作戦の要綱を眺めていたシンジは尋ねる。

「....どういうことでしょう?」

「エヴァンゲリオン14号機....間もなく完成する....」

「!!!」

冬月の言葉にシンジの表情が凍り付く。

「エヴァが!?」

「そう、第三支部で極秘裏に製造していたようだ....」

『....今さらエヴァを作って...一体何をするつもりなんだ.....そして....!?....』

シンジの心に浮かぶ疑念...

...使徒を撃滅するために存在したエヴァ...

...しかしそれは、同時に世界の混乱を引き起こす諸刃の剣....

...だからもう、人類にエヴァは必要ない....

...それは、キョウコさんと話して判った偽りのない気持ち...

かつてエヴァ初号機に乗り使徒と戦い続け、サードインパクト後に弐号機のキョウコと共感したシンジが一番思い知ったことだった。

「『3番目の適確者』としての君の力を、もう一度我々に貸して貰いたい...」

そう言う冬月の顔に苦悶の色が浮かぶ。

咄嗟のことでシンジは即答するのを躊躇った。

「....一晩....一晩だけ時間をください.... 」

暫く沈黙を守っていたシンジは、ようやく重い口を開いた。

「わかった。君にはまだ拒否する権利はある。良く考えて結論を出して欲しい...」

「ありがとうございます。司令。」

シンジは冬月とミサトに敬礼すると、司令室を退出した。

残された二人の間に広がる重い空間。

窓からは残照が二人を照らす。

「...結局、また彼に頼るしかないのか....」

俯く冬月を黙って見つめるミサト。

『...シンちゃんと、話しておく必要があるわね....』

ミサトはシンジが去った方向を見やった。

沈む夕日を、愛車スカイラインGT-Rのボンネットの上に座り込んで、シンジは眺めていた。

咥えた煙草は所在なさげに紫の煙をたなびかせている。

目の前には荒廃したかつての第3新東京市の町並みが広がっていた。

学校の帰り道、よくアスカに連れてこられ二人で眺めた風景。

その蒼い瞳には、深い翳りが在ったのをシンジは覚えている。

そんな時、アスカは僅かであったがシンジに昔のことを思わず洩らしてしまっていた。

『...何で、あんたにこんな事言わなきゃなんないのよ!』

誰も尋ねたわけではない、勝手にアスカが話しているのを聞いていただけだった。

そんな理不尽なアスカの主張だったが、怒る気にはならなかった。

ただ、黙って微笑んでいた...包み込むように...

そんなシンジの姿に一瞬顔を赤らめ、プイッと横を向いて怒ったように立ち去るアスカ。

慌てて追いかけるシンジ。

そんな日常が繰り広げられた思い出の場所。

シンジはフッと笑い煙草を吸った。

内向的な性格は、少しは改善されたもののあまり変わらない。

沈む心...

どうしようもない思い...

考え込む時、きまって煙草を口にしてしまう。

悪い癖が付いたなとシンジは思った。

「やっぱり。ここに来てたわね。」

その声に驚き、振り返るシンジ。

「ミサトさん...どうしてここにいると...?」

「アスカとの思い出の場所だもんねー♪シンちゃん♪」

ミサトは努めて能天気な声でシンジを冷やかした。

「...知ってたんですね....」

「こう見えても、私はアンタ達の保護者だったんだから、当然でしょ。」

俯くシンジに得意気なミサト。

「いえ、そうじゃありません...アスカが...ドイツにいるってことをです....

そうでなきゃ、僕が此処...アスカとの思い出が一杯詰まった場所にいると言う事が判るはずありません...」

『.....!!!.......』

ミサトは自分の迂闊さを呪った。

シンジは認めたくなかった。

アスカがドイツにいる....という事実を。

だからこそ、この場所で考え事をしていた。

『...アスカの操縦するエヴァと戦うことになるのか...エヴァを抹殺するために...』

『...アスカか僕...どっちかが倒れる事になる。いや、どちらもかな?...』

『...いずれにしても、僕達は一緒にここに戻って来ることは出来なくなったのかな?...』

シンジは試していた...

もし、アスカがドイツに居なかったとしたら...

ミサトがアスカがドイツに居る事を知らなかったとしたら....

ミサトは直ぐには来ないだろうと思っていた...

だが、ミサト直ぐにやってきた。

シンジの疑念は確信へと変わった。

ミサトは先程とは打って変わって黙り込んでいた。

シンジは俯いて沈黙するミサトに穏やかな声で語り掛けた。

「...こうなることは覚悟してました。アスカが連れ去られた時から....」

「...5年前よ...彼女が第三支部に居ることが判明したのは.....」

発令所にスタッフが、一人また一人と帰ってきていた...

全てと融和するのを拒み、自分は自分で居たいと思う人間は、自らの意思でLCLの海から上がってきた...

リツコとマヤ...そして...ゲンドウを除いて...

「君達に話しておかねばならない事がある...」

副司令の冬月は、重苦しい口を開いた...

初めてスタッフ達に明かされる人類補完計画の全貌...と...ゼーレの実態...

その拠り代となるのが、シンジと初号機だったということ...

そして、今此処に自分達が居るということは、人類補完計画が失敗したということ。

「チルドレン達を何としても助けたい!このままでは、彼等が生贄となり処刑されてしまう...今一度、この老骨に力を貸して欲しい!!」

ミサト達ネルフの残存部隊が駆け付けた時、二人のチルドレンは輸送機へ連れこまれる所だった...

突如始まる銃撃戦...

アスカを庇ったシンジは凶弾に倒れ、アスカは輸送機に連れこまれた...

ミサトはシンジに自分が知っている事柄を話し始めた。

「今、彼女はエヴァのパイロットとして、有機人工知能研究所の所長として、今でもドイツ支部の保護....いえ、監視ね...を受けてるわ。」

「やっぱり...そうですか...」

煙草を燻らせながら呟くシンジ。

「私たちは、シンジ君にこの事実は伏せていた...あの時のシンジ君では、シンジ君自身の破滅になると私たちは考えたから....」

「僕は僕です。それ以上でもそれ以下でもない...その頃の自分と何も変わってないと思いますが....」

「いいえ、あなたは成長した。良い意味で大人になった....」

ミサトはシンジの隣に腰掛け、シンジの方を見ながら優しく続けた。

「あの時のシンジ君は正直言って、ガラス細工のようだった...何かこう...思いつめて、余裕が無くて、ちょっとの衝撃で壊れてしまいそうな...その姿は、まるでアスカの様だった。」

「......」

シンジは言葉を発せなかった。

外界との接触を意図的に避けて、憑り依かれたかのように勉強し体力強化していたあの頃...

少しでも周囲の人と馴染み安寧な生活を送れば、挫けてしまいそうになる自分...

『....アスカを奪われた時、誓ったことを忘れるな!!』

それは、自分を守ることしか出来ず、アスカの想いを最悪の形で裏切ってしまった自分への戒め....

それでもそんな自分を望んでくれた少女を、為す術も無く奪われた自分の非力さ....

『あの時、誓ったことを忘れるなっ!!!』

それ故に、誰にも何も頼らず、彼は黙々と知識・能力の習得に励み、夜は生活費確保のためのアルバイトをこなした....

一分一秒たりとも時間は無駄にできない。

シンジは必死だった....

それ以外は何もできなかった....

結果的にシンジは学校では常に独りだった。

『3バカトリオ』の二人、鈴原トウジは生体パーツの移植テストに志願して松代へ旅立ち、相田ケンスケは北海道へ引越していた。

彼等を取り巻いていた少女...委員長洞木ヒカリは、家族は弘前に疎開したものの、一人離れトウジと行動を共にし、綾波レイは渚カヲルと共にLCLの泉に魂を残し、もう存在しない。

彼等に代わる新たな存在を見出せなかったシンジはそのまま高校を卒業した。

ただそれだけであった。

死んだと思っていたムサシとマナに再会するまでは.....

「...今のシンジ君であれば、きっと大丈夫...って、聞いてる?」

ミサトの声で現実に戻る。

シンジが過去に思いを馳せている間、ミサトはずっと喋り続けていた。

「えっ!...あっ....はい...」

「もう、人の話はちゃんと聞くものよ。すぐ考え込むんだから。」

そう言うと、シンジの頭を軽く小突く。

ミサトの態度は弟を気遣う姉のようなものに感じられた。

シンジは今まで自分を自由に行動させてくれたミサトに感謝した。

短い間であったけれども、確かに存在した『家族』...

時には傷付け合い、時には労り合った存在...

その温かさは決して忘れない。

「ミサトさん。僕は....」

「シンジ君がどういう結論を出すのかは、私には判らない....私たちの依頼が断られたとしても、誰もシンジ君を非難しないわ....それがシンジ君が自ら考え抜いて決めた事なら...」

何かを言いかけたシンジを遮るように、ミサトの言葉が続く。

「あなた達は充分過ぎる位戦ってくれた...皮肉な結果になってしまったけど、シンジ君とアスカには静かな場所で二人で幸せに暮らして欲しかった...私たちは心からそう願ってたの。それだけは解かって頂戴。」

ミサトはそう言うと、ひらりと車から降りた。

「そんじゃ、私は帰るね!」

ツカツカとシンジから歩み去るが、急に歩みを止めてシンジの方へ振り返る。

「碇二尉。これからは自分の身の回りにも注意するのよ。」

「えっ?」

ミサトは表情を固くしてシンジを見つめる。

「碇二尉。あなたは昔の目立たない“シンジ”じゃないの。エヴァンゲリオン初号機専属パイロット...“3番目の適確者”...なの。あなたが好む好まないを問わずにね。」

「そんな...」

「今、世界のあちこちで不穏な動きがあるの....おまけに存命する正規のエヴァのパイロットは世界でたった二人...一人はアスカ。もう一人は...あなたよ。」

「...!!...」

事実である為にシンジは絶句する。

「アスカは監視下にあると言っても、身の安全は保証されてるわ。でも、シンジ君は違う。

あなたは常に狙われているの。シンクロ率、使徒煽滅率で、アスカより高い能力を発揮したシンジ君だからこそ、みんな恐れているの。既にあなたが私たちと接触したという情報は知れ渡っているって考えていいわ。」

「そうですね...気をつけます。」

シンジは無理に笑ってミサトを見送った。

ミサトと別れ一人ワイディングロードを走るシンジ。

眼の前に連続的に続く小コーナーを最短距離で駆け抜けていく。

基本的にはFRのGT-Rであるが、タイヤのグリップやトルク伝達が後輪へ伝わらなくなると、時折前輪を駆動させるというトルクスプリット4WDが機能する...

クラッチが重く、挙動は我が侭で、じゃじゃ馬のような走行特性を持つこの車を、シンジはこよなく愛していた。

まるで、或る人物に想いを馳せるように...

「うん?」

シンジは後方から激しいパッシングをしながら迫ってくるスポーツカーを認めた。

『....やれやれ、コーナーリング族か....』

ここは第3新東京で数少ない山道の一つであり、ここを攻めに来るカーマニアも多い。

シンジは道を譲ろうと、車を左側に寄せてやり過ごそうとした。

しかし、接近するにつれ何か様子がおかしいことに気付く。

助手席側から男が一人身を乗り出して、何かを取り出している。

「!!」

突然何かが光り、続いて前方で小さな固まりが跳ね返る。

『....自動小銃!...殺られる!!...』

事態を悟ったシンジは咄嗟にアクセルを床まで踏み込んだ。

エンジンが唸りを上げ、続いてターボ過給機のタービン音が甲高く響く。

身体にかかるG。

戦闘機程ではないにしても、この山道では車を操るのが精一杯であった。

後方より盛んに銃撃を浴びせる車。

シンジの車はNERVの手により、特殊防弾加工を施されており、小銃弾や散弾程度では易々と弾き返しているため、被弾してもダメージはなかった。

長い直線に入り、シンジも護身用のハンドガンを取り出し、応戦した。

無論照準なんかつけていない。

始めから当たることは期待してなかった。

「どうする?...シンジ!」

一旦、銃を助手席に置く。

「一か八か...やってみる!」

大きく左に続くコーナーが迫る。

目の前には壁のようにそびえ立つ断崖。

大きく素早くハンドルを切る。

グリップを失った後輪が慣性の法則に従い右へ流される。

素早くカウンターを当ててドリフト状態で、このコーナーを抜けていく。

後方にはシンジを車ごと吹っ飛ばそうと追跡車が真っ直ぐ突っ込んできた。

「これでも食らえ!!」

シンジは右手を離し、銃をその車のフロントガラスめがけ投げつけた。

相手の車のフロントガラス一面が真っ白になるのを見届けたシンジは、左手一本の運転で不安定になっている車の姿勢を立て直した。

その直後響く激しい激突音。

その後に訪れる静寂。

そして爆発音。

シンジは車を停めて、呆然としていた。

『...一体、何者...?』

ミサトからは注意を促されていた。それでも、シンジはピンと来なかった。

たった今狙われるまでは。

『...とにかくここは危険だ。逃げよう。』

シンジは愛車に乗り込み、その場を立ち去った。

しかし、シンジの危機はそれだけではなかった。

後方より迫る爆音。

『...VTOLか!』

ロケット弾の直撃でも受ければ、それこそひとたまりもない。

シンジは即、冥界の門をくぐることになる。

「冗談じゃない!」

この車の持てる能力を全て使い、使える限りのテクニックを駆使してシンジは逃げた。

メーターはすでに振り切っており、どれだけスピードが出ているのか判らなかった。

しかし、スカイラインGT-Rがどれほどのハイパフォーマンスマシンで速くても、地上を走る以上、航空機から逃れることは出来ない。

彼の努力も空しく、易々とシンジの後方上空を占位したVTOLはロケット弾を2発発射した。

ロケット弾はシンジの車を瞬時に追い越し、遥か先の崖に2発とも命中した。

ゴオォォォォォォッ!

音を発てて崩壊する岩盤。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

車内にシンジの絶叫が響く。

膨大な岩石・土砂はシンジの行く手を完全に塞いだ。

シンジはフルブレーキを掛け、最後にスピンターンで停止して辛うじて、土砂の下敷きになるのだけは避けた。

だが、そこまでだった。

目の前で勝ち誇るようにホバリングするVTOL。

『クッ....此処迄か....』

ロケットランチャーの照準がシンジに向けられた。

「アスカ...ごめん...」

シンジは観念した。

「もう...逢えないね......此処で消える僕を...許して...」

シンジは眼を閉じ最愛の人の事を想い語りかけた。

ズカッ!!ドォォォォォォォォォォン!!!

轟音と激しい炎そして熱風が彼を飲み込んで行く.....

碇シンジの意識はそこで途切れた...


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1999-3/26作成
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どうも、こんにちは! VOL.5をお届けしました。

当SSは、シリアスLASストーリーです。

ちなみにこのSSはLASKYLINEではありません...

悲壮な決意を抱いて一人で生きてきたシンジ...

そのシンジにも魔の手が伸びる....

ゼーレに襲われたシンジの運命は...

それでは、またお会いしましょう。