第十五話 予感

「第二十一次起動試験開始」

中田アキヨシのその号令によって起動試験が開始された。いつもならシンジが映し出されているはずのスクリーンには、白のプラグスーツを着たアメリカ人の少年が映し出されていた。シンジの気分転換と北米支部の強い要望により、シンジが渡米して初めて候補生による起動試験が行われることになったためである。彼らはこれまで起動水準のシンクロ値を得ることは出来なかったが、3週間にわたる整備により完成度の増した機体ならば、候補生でも起動水準まで達するのではないかと言う期待からのテストである。北米支部の関係者、本部から来たエンジニア、そしてシンジが激しく明滅する光の帯を真剣に見つめていた。

「シンクログラフ正常。絶対境界まであと10、9、8……
だめです。シンクロ率7。エヴァンゲリオンの起動数値に達しません」

モニタには、褐色の髪をした長身の少年が頭を抱えている姿が映し出されていた。マイク・スペンサー、ネルフ北米支部によって選出されたパイロット候補生である。個人の経歴だけを取ってみれば、シンジでは足下にも及ばないすばらしい物だ。両親の揃った裕福な家庭で育ち、高度な教育とスポーツにおける数々の実績。いわゆる典型的なエリートとして育てられてきたのである。そして明るく朗らかなその性格はアメリカのホームドラマに出てくる主人公の様でもあり、その点日本から来たメンバーにも受けは良かった。ただ思うとおりにならないと若干荒れる癖はあったが。

『やれやれ、また荒れるのかな』

マイクが苦しんでいる姿を見て、シンジは一人溜息を吐いた。なぜだかその少年は、シンジにだけは打ち解けようとはしなかったのだ。それどころか、シンジに対して突っかかってくるようなそぶりを何回も見せていた。明らかにシンジを好ましからざる物として認識し、エヴァにおいて、自分がシンジに対して遅れを取っている事実が我慢ならないようだった。

「マイク……大丈夫か」

マイクを心配したオペレータが、じっとして動かなくなった少年を心配し声を掛けた。しかし少年はその言葉に応えず、ただじっと唇を噛みしめていた。

『あの様子じゃあアドバイスなんて聞いてくれそうも無いな』

むろんシンジにしたところで、どうしたらエヴァとシンクロできるかなどと、的確なアドバイスが出来るわけでは無い。ただシンジの目から見ても、今のマイクは無駄な力が入りすぎているのだ。シンジには、彼が自分の思い通りにならないエヴァに対して、いらだちながら乗っているのが感じられた。『もっと力を抜けばいいのに』それがシンジの偽らざる気持ちだった。
そんなシンジに隣に立っていた少女が声を掛けてきた。

「マイクは大丈夫?」

アスカに比べてより鮮やかな金色の髪、そして少し緑がかった蒼色の瞳。そしてシンジの基準ではやや太めの体をした少女。もっとも彼にとっての基準はアスカであり、レイであるのだから世間の水準では魅力的なスタイルをした美少女と言って良いだろう。メリィ・スミス、もう一人のパイロット候補生だった。こちらの少女はマイクとは異なり、積極的にシンジとの接触を持とうとしていた。何かに付けシンジの周りにまとわりつき、自分の女性を最大限に発揮して様々な情報を引き出そうと努力しているようにシンジには感じられた。

「あの程度なら問題ないよ。エヴァからの干渉を受けるレベルにまで達してないから」

この少女がマイクのことを心配していないことはシンジにも分かっていた。どちらかと言えば、後から乗る自分のための質問だった。そう言った意図が随所にかいま見えるこの少女の方が、シンジには苦手だった。彼にとっては、あからさまに敵意を向けてくるマイクの方が分かり易く安心できる相手だった。逆に女性を前面に出してシンジに絡んでくるメリィは、シンジにとって鬼門とも思えた。放っておけば、何時シンジのベッドに忍び込んでくるか分からない。そう思わせるだけの空気を彼女は漂わせていた。そしてそれが必ずしも冗談ではない事をシンジは理解していた。メリィがシンジに対して好意を抱いているのならば、まだ話は簡単だった。しかしメリィの時折見せる態度からは、好意とは正反対の物をシンジは感じとっていた。そのことがシンジにメリィを苦手にさせる理由であった。

「次は私なんだけど、シンジはアドバイスをくれないの」

そう言ってシンジの腕を抱えるようにしてメリィは身を寄せてきた。頭一つシンジより背が低いメリィは、この動作がどんな効果をシンジに与えるのかを知っているように、胸の谷間に彼の腕を挟み込んだ。そんなメリィのあからさまな仕草に、シンジは心の中で溜息を吐いていた。

『ケイコさん、何とかして下さいよ』

何ともシンジらしいと言ってしまえばそれだけなのだが、シンジはメリィを突き放すことも出来ないで途方に暮れていた。かといってケイコから助けが入るはずもないので、シンジは溜息を一つ吐くと先輩としての注意点をいくつか挙げた。

「そうだね、まず最初に精神を落ち着けることだね。
気負っていてもなんにも役に立たないから、なんにも考えないことかな。
それから何でも受け入れるような気持ちでいること。
わかりにくいかもしれないけどそれぐらいかな」

そう言った瞬間、シンジは自分の頬に柔らかい感触を感じた。

メリィは飛びつくようにシンジの頬にキスをすると「じゃあ後でね」と言って走り去っていった。シンジはそんな彼女の態度に『困った物だ』という表情でメリィを見送るしかなかった。しかしその顔も、後ろを振り返った瞬間情けないものへと変わった。

「なに、やって居るんですか?」

慌ててPDAを隠したケイコに、シンジはもう一度その理由を尋ねた。

「何をしていたんですか?」
「いえ、葛城さんから逐一報告するようにと……」

少なくとも、シンジを脱力させるには十分な回答だった。

***

「起動レベルに達しないパイロットを引き取ったところで、役には立たないか」

ダンチェッカーは、目の前に映し出される3D表示を見ながら一人呟いた。彼が居るのは、オペレーションルームから離れた見学施設だった。そこで彼は、北米支部のMAGI経由でタイタンのデータを受け取っていた。

「候補二人とサードチルドレンでは明らかにパターンが異なっているな」

ディスプレーにシンジの示す脳波パターンの3D表示を映し出すと、それを今試験をしているメリィと重ね合わせた。

「同じシンクロ値でもずいぶんとパターンが異なる。内部配置はほとんど変わらないはずなのに……」

パイロットの様子をモニタするスクリーンでは、今度はメリィが顔を歪めていた。

「脳波分布の近い人間を捜し出す方が早いかもしれん」

ダンチェッカーはキーボードからそう報告書に書き込んだ。そして画面を消去すると実験を見守っているシンジの隣に立ち、シンジの顔をまじまじと見た。その視線に気づいたシンジは、ダンチェッカーに向かって小さく会釈した。

「えぇっとドクターダンチェッカー、ほわっつまたー……」
「クリスで良いよ、霧島シンジ君」

たどたどしい英語で話しかけたシンジに向かって、ダンチェッカーは意外にも流暢な日本語でそう答えた。

「え、あ、あの日本語が出来るんですか」
「商売柄ね、どうしても必要になったからな」

意外なシンジの反応に、ダンチェッカーは悪戯が成功した子供のような表情をして笑った。シンジはその笑顔で、気むずかしいと思っていたダンチェッカーが意外と好人物なのでは無いかと、自分の考えに修正を加えていた。

「はあ、そうですか」
「少し話をしたいんだが、いいかい」

ダンチェッカーは誰も座っていない椅子を指さし、シンジにそう言った。

「ええ、良いですよ」

シンジとダンチェッカーは実験が見渡せる場所に椅子を移動し、窓の向こうに見える5号機を眺めながら会話を始めた。

「単刀直入に聞くが、どうして君はシンクロできるのかね」

ダンチェッカーは何から話し出すべきかとふと頭を捻ったが、日本から来た少年と共通の話題があるわけでも無い。それに今日の天気のことを話すわけにもいかないため、結局単刀直入に本題を切り出すことにした。

「わかりません。理論的なことはボクの担当外ですから」

『以前はその理由があったが、今シンクロできる理由は分からない』シンジはその答えを飲み込んでダンチェッカーにそう答えた。その反応に何かをダンチェッカーは感じ取ったのだが、問いただすわけにも行かず気づかないそぶりをした。その裏には、一介のパイロットの知りうる情報ならば、MAGIの中を検索すれば見つけられるだろうと予測したのである。そしてその程度の情報ならば、今更新しい進展はないだろうと考えたのである。何しろ、一番情報を持っているはずの本部ですら、新しいパイロットを一人しか選出出来ていないのである。だからダンチェッカーは、少し質問の方向を変えることにした。

「そうか……それもそうだな。なら質問を変えよう。
君にとってシンクロするとはどんなものなんだね」

シンジは、その漠然とした質問に少し頭を捻った。今まででそんなことを考えたことも無かった。確かにどんな感じなんだろうと。

「そうですね、エヴァの心みたいな物と一つになることでしょうか。
自分の心が、エヴァを通して大きく広がっていく気がします」
「エヴァの心とかね」

ダンチェッカーは初めて聞いたその言葉に驚いた。エヴァンゲリオンが生物であることはすでに分かっている。ならばそこに心に似たものが有っても不思議ではないことは理解できる。しかし本当にそんなものと心を通じることが出来るのかとなれば、また問題は別のことである。
しかしこの少年はそれを感じることが出来ると言っている。ならばエヴァの心とはどんな物なのだろうかとダンチェッカーは興味を覚えた。

「ボクの錯覚かもしれませんけどね。
エヴァに乗ってシンクロすると、色々なものを感じることが出来ます。
この前乗ったときには友人の心が流れ込んでくる気がしました。
ここでは明確なものでは無いですけど、何か意思のようなものを感じます」

『成る程』とダンチェッカーは考えた。エヴァンゲリオンが生物であり、意思を持つのならそれを理解した者になら心を通わせることが可能だろう。そして精神波長が酷似しているのなら、それ以上の結びつきが可能である共。『砦』に帰ってから確認することが増えたな、とダンチェッカーは考えていた。

「エヴァとボクが両方から歩み寄っている……そんな感じかな。
すみません、わかりにくいですね」

何も言わずに黙り込んでしまったダンチェッカーに、シンジは的外れなことを言ってしまったのか頭を掻いた。

「いや、ありがとう。お陰でおぼろげながらシンクロと言うもののイメージが掴めたよ」

そう言ってダンチェッカーは、油断無く彼らの方を見つめているケイコの方に一瞬視線を移した。

「お礼と言ってはなんだが、夕食を招待したいのだがどうかね。
もちろん君の美人の保護者も同伴でと言う条件が付くが」

そして、そんな誘いの言葉をシンジに投げかけた。

シンジはケイコの方を良いのかという風に視線を向けた。そしてケイコが頷くのを確認すると、喜んでご馳走になると頭を下げた。

「まあ、そう緊張しないでくれ。
君も一度会ったことがあるのだが、私の知人も君にたいそうな興味を持っているからね。
まあ下心ありだと思って、遠慮なくやってくれたまえ。
何しろ財布はそいつ持ちだ。
私にとってもこんなおいしい話はないよ」

そう言って笑うダンチェッカーに、シンジは初めの頃に抱いていた『気むずかしい』と言う印象が間違っているのを感じていた。

その夜シンジは、大勢の護衛を引き連れ、ゲイツを加えた4人でかなり高級なレストランでの食事を楽しんだ。

***

アスカはネルフの黒服が運転する車で、本部へと向かっていた。とりあえずあてがわれたマンションは、可もなく不可もなくという物件だった。後は、先送りにしていた身の振り方を相談するだけとなっていたのだ。

「ちょうど良かった。アタシもアスカに話したいことがあったのよ」

アスカから訪問の話を聞いたとき、ミサトはそう言ってアスカに訪問の時間を指定した。

黒服の安全運転により、アスカは定刻通りミサトの執務室へたどり着くことが出来た。無機的な扉の前にたどり着いたアスカは、ためらうことなくその扉を叩いた。

「思ったより早かったわね」

アスカの訪問を待ち受けていたのか、ミサトはすぐさま扉を開いてアスカを自分の居室へ迎え入れた。ミサトの部屋に入ったアスカは、すぐさま部屋の中をぐるりと見渡すと、さも意外そうにその感想を述べた。

「へぇ~、ミサトの部屋にしては片づいているじゃない」

アスカが驚くのも無理はない。しばらく同居した関係から、ミサトが整理整頓に対して頓着しないことを思い知らされていたのだ。もっとも、ミサトにしてみればいわれの無い決め付けのようだった。

「アンタ何を期待してんのよ」

入っていきなりのアスカの言葉に、ミサトはそう言って不満を表情に現した。しかしすぐに表情を和らげると、すぐにからくりを暴露した。

「まあ秘書の人が全部片づけてくれるんだけどね」

その言葉に、アスカは大きく頷いた。

「それは適切な判断ね。
そうしないと決裁書類なんて発酵しているかもしれないもんね」

アスカは大まじめな顔でそう言うと、ミサトの勧める椅子に座った。

「まあ認めたくは無いけど、そうかもしれないわね」

言い返すことの出来ない自分にミサトは少し顔をゆがめたが、すぐに気を取り直すとコーヒーサーバーから注いだコーヒーをアスカに手渡した。

「ありがとう」

そう言ってアスカはとそれを受け取ると、コーヒーに口を付けた。これもまた、アスカに小さな驚きを与えた。

「これ、おいしいじゃない!」

そんなアスカの賛辞を、ミサトはさも当然と言った顔で受け取った。

「親友がマニアだと、影響を受けるのよ。
それにここでエビチュを飲むわけにいかないでしょ」

ミサトはそう言って笑うと、自分もアスカの向かいに腰を掛けた。そしてアスカに一冊のファイルを手渡すと、最初に自分の用件を切り出した。

「査問の件だけど、まず冬月指令が査問自体を回避できないか交渉しているわ。
数少ないエヴァのパイロットの重要性を前面に出してね。
確率はフィフティフィフティと言うところかしら。
今を乗り切るだけでなく、将来に渡っても無罪放免としないと意味がないでしょう。
これからも冬月指令には頑張って貰うわ。
それとは別に、アスカに不利になる情報が無いかに着いても今洗っているところ。
UN、ネルフ支部、民間も含めて漁っているけど、今のところ見つかっていないわ。
どこから何が出てくるのか分からないから、今後も続けて行くけどね。
まっ、今のところはこれだけよ」

そう締めくくって、ミサトは椅子の背もたれにもたれかかった。

一方アスカは、ミサトに手渡された検索情報リストを黙って眺めていた。このリストの1ページ1ページがアスカへ向けられた好意なのだ。アスカは、黙ってその重みを噛みしめたいた。そんなアスカを、ミサトは優しく見守った。
そして、余韻を感じるのに十分な時間がたってから、ミサトはおもむろに口を開いた。

「良かったら、あなたの話を聞かせてくれる?」

アスカは少しにじんでいた涙を拭うと、ゆっくりと自分の用件を伝えた。

「あたしの身の振り方なんだけどね。
甘えて悪いのだけど、作戦部で面倒を見てくれない?」
「技術部でなくて良いの?」

そう尋ねたミサトに、アスカはこくりと頷いた。

「今のあたしは、戦いの場所こそ居場所なのよ。
だから技術部じゃなく、作戦部が似合っていると思うわ」
「まあ、アスカの知識は貴重だから歓迎だけどね……」

でも、と。

「やっぱり高校って答えは出てこなかったわね」
「いまさら、高校に行ったところで時間の無駄でしかないわ。
それよりも、早く戦いを終わらせることを考えたほうが良いわ」
「お友達も居るのでしょう?」
「別に、学校でつるむだけが友達づきあいじゃないわ」

そんなアスカの答えに、ミサトは隠れてため息を吐いた。

「アスカには、その無駄な時間の中で何かを見つけて欲しかったんだけどね……
でも、義務教育じゃない以上、前みたいに無理強いは出来ないわね」
「悪いわね」
「いいのよ……
とりあえず、今の話は総司令に伝えておくわ。
発令は、今しばらく待ってもらえるかしら。
こう言った組織は、とにかく手続きが煩雑なのよ」
「別に急がないわよ。
今でもパイロットの身分はあるんだから。
発令所なら、それでフリーパスでしょう?」

そりゃあそうだ。アスカの言葉にミサトは納得した。

***

アスカから申請のあった、作戦部への所属の話はあっけないほど簡単に承認された。まあ、もともとパイロットの身分があるのだから、形にこだわるほうがおかしいのではある。その中で起きた問題は、つまらないことだがアスカの格付けだった。アスカは、パイロットとしては一尉待遇だったのである。しかし、純粋に作戦部としてみれば、一尉は日向達よりも役職が上になってしまうのだ。配属したてと言う事情も鑑みると、いかにもこれは都合が悪いように思われた。何しろ、ミサトの直下と言うことにもなれば、アスカが日向達の勤務評定を行うことになるのである。
そこで人事が頭を捻った結果、アスカは二つの肩書きを持つことになった。作戦部付き一尉待遇のパイロットと言うものと、作戦部所属の武官と言う肩書きである。当面試用期間ということもあり、作戦部としては肩書きは無しと言うことに落ち着いた。ここまでの手続きに、およそ一週間と言う時間が必要だった。もちろんこれは、国連の組織として考えれば、異例のスピード決定に違いなかった。

その初登庁の日、アスカはいつもと違った緊張感を感じていた。

「……何でだろう?」

通いなれたネルフへの道。それこそ、嫌になるほど通ったところのはずだった。発令所にしても、何度も足を踏み入れた場所のはずだった。それなのに、なぜか緊張してしまうのだ。いつもと違う理由を考えたアスカは、着慣れない制服を着たことに答えを求めた。

「形から入るってのも、まんざら嘘じゃないのね……」

とりあえず理由がついたことに満足したアスカは、初登庁となるネルフへの道を急いだ。

「しかし、久しぶりに見ると無意味に大きい施設ね」

ジオフロントに潜っていくリニアからは、地下に広がった広大な空間を見渡すことが出来る。採光管を通して、それなりに明るく照らし出されているとは言え、地上の明るさとはやはり別物なのである。そのうすら暗いと言って良い空間に、イルミネーションされたピラミッド型の建物が浮かび上がるのは幻想的でもあった。

「精神的余裕って奴かしら。前もこんな景色を見ていたのに、なんにも感じなかったなんてね」

ぼんやりと窓に肘を突き、アスカは窓の外の景色を見つめた。これから再びネルフ本部と深く関わることになる。ネルフから抜けられない以上仕方がないことなのだが、そこには大きな問題が横たわっていた。

「シンジがアメリカに行ってくれて良かったな」

逢いたくないわけではない。いや、むしろ逢いたい気持ちの方が強かった。だが同時に、受け入れてはいけないとも考えていた。だからこそ、しばらく顔を合わせなくてすむというのはありがたかった。

「昔みたいな関係になんて戻れるはずがないじゃないの……」

その点、ミサトは見誤っていると。アスカは自分自身の気持ちを理解していた。シンジの気持ちがどうかは問題ではない。アスカ自身、男としてのシンジを切望していた。

「あたしは、絶対にシンジを求めてしまう。そんなことをしたら、絶対にシンジを巻き込んでしまう」

そして、自分がシンジを求めた結果が見えてしまうのだ。アスカは、自分の罪がそれだけ重いことを自覚していた。多くの命を奪ったことは分かっていた。だから自分自身も生き残るつもりもなかったのだ。だからこそ、エヴァの自爆などと言う選択をしたのだ。しかし、おめおめと生き残ってしまった。

「やだなぁ、本当にきらいになれたら良かったのに……」

アスカにとっての問題は、遅かれ早かれシンジと対峙しなくてはならないと言うことだ。アメリカへの1ヶ月と言うのは、アスカにとって短すぎる猶予でしかなかった。

「とにかく、適当な男を見つけないと……」

誰でもいい。抱かれてしまえば、忘れることが出来るだろう、諦めてくれるだろう。相手がチルドレンでなければ、いやシンジでなければ世界を敵に回すことはあり得ない。しかし問題は、シンジが認めるような相手でなくてはならない。そうでなければ、自分の嘘を知っているシンジを騙すことも出来ない。

「相手の人には悪いかも知れないけど、その分私が尽くしてあげるから」

許して欲しい。そうつぶやいた時、アスカは刺すような痛みを胸に感じた。

「この痛みだって、いつか忘れてしまうから……」

アスカがそうつぶやいた時、リニアは静かに目的地へと滑り込んだ。その時になって初めて、非常事態警報がアスカの耳に飛び込んできた。

「……使徒、また来たの!?」

リニアを下りたアスカはそのまま駆けだした。

to be continued.