第拾壱話 流れのままに

<ネルフ本部 展望ラウンジ>

「サードインパクト。それが現実に起きたのか否か、断言できる者はいない。唯一それに答えられる人物、サードインパクトの要となったサードチルドレン碇シンジは何も語らず口を閉ざした。ただ、世界中の人々が何かが起こったと感じていた。何が起こったのかは理解できなくとも。そして、多くの人々が世界から姿を消したことは確かな事実だ。まるではじめから存在していなかったかのように…」

 

ミサトはカップを手にとってその中が空なのに気付いた。

おかわりをもらおうにもリツコも加持も既にいなくなっている。

腕時計を見る。

午後1時45分。

少々昼休みが長くなりすぎたようだ。

ミサトはノートパソコンを閉じると自室に向かった。

 

「サードインパクト直後、ネルフ本部及びジオフロントにて起きた事件はMAGIの分析においても解析不可能と出ている。戦死したり負傷したネルフ職員並びに戦自隊員が本部内、ジオフロント内に出現。いずれも無傷であった。記録によると確実に死亡したとある者であっても。ただ、双方に多くの行方不明者が存在した。文字通り消失していたのである。戦自によって破壊されたネルフ本部、ジオフロント、エヴァンゲリオン弐号機によって掃討された戦自部隊そのいずれも戦闘前の状態を留めていた。唯一、大破したエヴァンゲリオン量産型四機が戦闘のあった事実を物語っている。日本政府はネルフより出された停戦勧告を受諾。戦自部隊は即日撤退した。全ての兵士が戦意もなくただ第三新東京市を見ながら引き上げていった」

 

「……う、うぅ~ん」

ミサトは中腰になると背中と両腕を伸ばした。

「ふあああああ、もうこんな時間か、テストの様子を見に行かないと……」

ミサトは肩を回しながら執務室を出ていった。

 

「……というわけで今回はエヴァが二人の動きについていけるか。言ってみればエヴァの体力測定といったところね」

リツコの説明を受けているシンジとアスカ。

そこへドアが開きミサトが入ってくる。

「遅いわよミサト。鈴原君と渚君はもう始めてるわ」

「ごめ~ん。二人は確か射撃訓練だったわね」

そういってマヤのコンソールを覗く。シミュレーション上のエヴァが目標に対して射撃している。

「純粋に命中率なら渚君の方が上ですね」

「ふ~ん」

ミサトがデータの検討を始めるとリツコはシンジとアスカに向き直る。

「二人にはATフィールド中和状態という設定で素手での格闘を行ってもらいます。シミュレーション上だから実際に壊れることはないわ。遠慮せずに相手を叩きのめしてね」

「はーい!」

元気な返事を返すアスカ。

「はい」

対照的に落ち着いたシンジ。

「いくらシンジの方がシンクロ率が高くても格闘技術はアタシの方が上だもんね。容赦しないから覚悟しときなさいよ!」

「…はは、お手柔らかに」

(…あらアスカ、覚悟するのはあなたの方よ。死にものぐるいになりなさい)

リツコはそう考えた後シンジに頷いた。

「…ははは」

(…徹底的にやれってことか。テストなんだから本気でやらないと駄目だけど…後でどう言い訳しようかな?)

憂鬱なシンジだった。


「エヴァの回収を終えたネルフは全世界に情報の公開を行った。セカンドインパクトの真相。使徒との戦闘記録。ゼーレの存在とその意図。そして人類補完計画のすべて。

無論、これらには適度な情報操作が行われており、自然、ネルフが善、ゼーレが悪という構図ができあがる。ネルフのゼーレに対する宣戦布告といわば同義であった。

実際、ネルフとゼーレどちらが善でどちらが悪なのか、どちらも善なのか、どちらも悪なのか、そのどちらでもないのか、判断を下すのは各人の心に委ねられる。

ネルフが事実として発表した内容の基本骨子を以下に記す。

 

ゼーレ、裏死海文書を発見。人類補完計画を立案し、自らを神とすることを画策。

南極にて第一の使徒アダム発見。葛城博士率いる葛城調査隊の尽力により使徒を卵へ還元。これによりセカンドインパクト発生。だが、葛城調査隊による還元が無ければ地球そのものが破壊されていた。

使徒に対抗するための特務機関としてネルフ結成。

人類の最後の砦として偽装迎撃要塞都市第三新東京市建設。

第三新東京市に対し第三使徒襲来、UNによる迎撃は失敗。

ネルフの擁する汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンにて使徒を殲滅。

以降、第十七使徒までことごとく撃退。

その過程で第三新東京市は壊滅。

使徒の狙いは第三新東京市ネルフ本部内に隠されたアダムとの接触によりサードインパクトを引き起こすこと。これは同時にゼーレの裏死海文書の履行でもあった。

使徒を全て撃退したネルフに対しゼーレはサードインパクトを起こすべくネルフの排除を決定。日本政府に対し戦略自衛隊によるネルフ本部の占拠を命令。同時に残存するエヴァンゲリオン2機に対し量産型エヴァンゲリオン9体での攻撃を敢行。ネルフこれに応戦。

サードインパクト。ただしネルフの働きによりゼーレの計画は阻止。詳細は不明。

 

…ネルフは自らの役目を終えたと判断。国連に全ての権限を委ねた。

国連総会によりネルフは引き続き国連直属の特務機関として存続。ネルフが所有するオーバーテクノロジーの管理と世界の軍事バランスを監視する平和維持機関へと生まれ変わった。無論、これは各種の裏工作による結果であったのだが、一般にはネルフは好意的に受け止められた。これらの動きに対しゼーレは当然反撃を試みたが、そのことごとくが失敗に終わる。各国政府は現存するエヴァを全て所有するネルフに対し脅威を感じており、また、裏から世界を操るゼーレに以前から不満を抱いていたこともありネルフ寄りの立場をとった。また、実際使徒と戦って倒したのはネルフであるため世論はネルフの味方をした。特にネルフ本部の占拠を試みた日本政府は、国内外から批判を浴び内閣が総辞職、親ネルフ政権が誕生した。事態が進展する中、ネルフはゼーレ配下の施設研究所を次々と破壊、エヴァの製造方法、ダミープラグシステムなどの技術をネルフ独占とした。ゼーレ内部は幹部の多くがサードインパクト時に行方不明になっていたこともあり混乱を極め、ことここに至りゼーレは表面上、歴史の舞台から姿を消した」

 

「射撃の腕はともかく勘の方は鈴原君の方がいいみたいね」

「そうですね。渚君の方は先読みして行動している分、突発事に対する対応にやや欠けます。もっとも体勢を立て直すのも早いんですけど」

「ま、総合的には渚君の方がいいんだけどね」

仮想空間では2体のエヴァがひたすら射撃を繰り返していた。

 

「…使徒との戦いで壊滅した第三新東京市だったが、人類を守るために失われた都市に対する人々の反応は好意的で、世界各地から各種援助が送られた。この地は世界の注目の的であり各国、各企業とも最高の宣伝効果が得られると考えた結果である。その惜しみない援助の甲斐もあり、驚くべき短期間で第三新東京市は復興した。思惑はどうであれ世界中の人々が協力して行った人類初の大事業として今後も語り継がれることになるだろう。余談ではあるが各種兵装ビル等は再建されることはなかった。新しい第三新東京市はあくまで人類の心の都として生まれ変わることとなる」

 

『場所は市街地よ。余裕があるなら建造物への被害を抑えてね』

「はい」

「わかったわ。あ、この前できたお店がもうある!」

「可能な限り現状に即してるんだろうね」

「ねーシンジ今度の週末…」

『コホン。アスカ、いい? …では、第二次運動試験開始』

「いくわよシンジ!!」

アスカは仮想上の伍号機で走り出した。

シンジの七号機は腰を落として待ち受ける。

 

「…ネルフの現有戦力は量産型エヴァンゲリオン伍号機から八号機の計4機。弐号機と初号機は凍結が決定された。惣流キョウコ・ツェペリンと碇ユイの魂がどうなったのか知る者はいない。いまだエヴァのコア内に眠っているのかそれとも全ての人々の魂の安息の地に向かったのか。いずれにしろ、サードインパクトの要となったエヴァ初号機は厳重に封印されている。リリスの分身たる初号機が存在する限りフォースインパクトの可能性が皆無とは言えないからである。ネルフ存続の一つの理由には初号機の監視も含まれている。そして、もう一つの要となったサードチルドレン碇シンジに対する監視も当然である。ネルフはサードチルドレンをアメリカの第一支部に出向させた。ネルフがフォースインパクトを起こすつもりのない意志表示の一環である。二年の後、サードチルドレンは第三新東京市に帰還した。これは少なくとも表面上は世界の各国家がネルフを信用している証である」

 

「たぁぁぁーっ!」

アスカがローキックを放つ。

エヴァ量産型はその形状から初号機や弐号機に比べややバランスが悪い。

そこをついてまず転倒させようという作戦である。

 

「…エヴァシリーズの残り4機がどうなったかは不明である。大破しているのは間違いないだろう。だが、先の戦闘で破壊された九号機のようにどこかに隠され修理されている可能性は高い。想定される戦闘のためにパイロット達は訓練を続けている。

それが無駄に終わるのが一番だが、それは希望的観測と言わざるをえない」

 

「!?」

シンジの七号機は姿勢を低くしてローキックを左手で受け止めた。そのまま伍号機の脚を回転させるように払うと伍号機に向かって跳んだ。