高い天井の教会。壁にはいくつもの縦に細長いステンドグラスの窓。
差し込む陽光がさまざまな色に染められて、真っ赤な絨毯を敷き詰めたるバージンロードの左右の席に居並び参列する正装の人々にふりそそぐ。
正面の祭壇にはキリスト像を象った大きな十字架の前に神父様が立っていて、パイプオルガンの調べが響き渡る中、豪華な正装姿の神父の少し前に、無精髭をきれいにあててすっきりした顔の新郎の加持が燕尾服に身を包んで待っている。
「加持さんったらあんなに緊張しちゃって・・・まったく見てられないわね。」
シンジのとなりでアスカがくすくす笑っていた。
薄桃色のドレスを着て微笑む彼女はいつにも増してきれいに見えた。
「そうだね。」
応えるシンジの顔も笑っている。
彼も今日は少しだけめかし込んで、ちゃんと礼装のスーツを着ている。
今日はミサトの結婚式。二人は新婦側親族として最前列の席に並んでいた。
彼らの後ろにはやはり美しく装った赤城リツコや伊吹マヤをはじめNERVの女性職員達が華やかに並んでいた。
対する新郎側には親族席となる第一列から日向マコトと青葉シゲルをはじめ同様にNERVの男性職員達がきっちりと礼服に身を包んで並んでいた。
加持とミサトの結婚式には海外のNERV支部などからも列席の希望があったのだが、二人のたっての希望で挙式には親しい間柄の人達だけが参加することになっていた。その変りと言ってはなんだが二人の新婚旅行は国連本部をはじめ主要な世界各国のNERV支部視察を兼ねたものが計画され、ドイツ支部など二人に関わりの深い支部では改めて結婚報告会という名の宴会が予定されている。
どうせ普通のカップルみたいに南の島でのんびりする暇なんて無いんだから利用できるものは徹底的に利用するわよ、と宣言したミサトらしい新婚旅行だと計画を知った全員の感想は一致している。
やがてオルガンの旋律が最高潮に盛り上がったとき、バージンロードを閉ざしていた大きな扉がゆっくりと開かれ、純白のウェディングドレスに身を包んだ新婦が付き添いの紳士の腕を取って登場した。自然と拍手が沸きあがる。
花嫁は胸元に大きなブーケを片方の白いレースの手袋で抱き寄せ、もう片方の手をしっかりと紳士の腕にからませて、美しく長い黒髪を結い上げた頭上の銀のティアラから透き通ったレースのベールを長く後ろに引いて、その初めての一歩を赤い絨毯の上に踏み出した。
新婦の傍らに立つロマンスグレーの髪をバックにまとめた痩身の紳士はミサトから父親役を頼み込まれた冬月司令であった。
冬月もこの日のためにオーダーし直した燕尾服を身に付け、やはり緊張のため強ばった表情のまま、新婦と共にバージンロードを一歩一歩ゆっくりと歩く。
あたしは幸せになる・・・加持くんと二人で・・・・・・
バージンロードのその先では加持が待っている。
花嫁衣装を着たミサトの姿を衣装合わせの時も今日の挙式の直前にも、何度も見ているはずなのに、加持はゆっくりと近づいてくるミサトの姿から目を離すことができなかった。
一歩足を進めて立ち止まりまた一歩足を進める。
バージンロードをゆっくりと新婦と父親が歩いてくる。
新郎はただひたすらその父親の手から花嫁を譲り受ける瞬間を待ち続ける。
こんどこそ・・・幸せになろう・・・ふたりで・・・・・・
花嫁が祭壇の前にたどりつくまでに長い長い時間が必要だった。
一歩一歩。立ち止まりながら歩いては立ち止まる。
それは幸せな時間。幸せを予感させる時間。
少しうつむきながら歩く花嫁。心なしか肩が震えているようにも見える。
押さえようと思っても押さえ切れない熱いものが加持の心にも沸き上がった。
立ち止まった新婦をエスコートした冬月の前に加持は進み出た。
互いに静かに礼を交わして冬月が横にさがり新郎に席を譲った。
加持はミサトの横に立ちゆっくりとその身体を祭壇に向き直した。
差出した腕にミサトの手が添えられ、二人はさらに一歩前に進み出た。
讃美歌が流れオルガンの曲がかわって神父の言葉に二人は愛を誓いあう。
「・・・かわることなく愛しつづけることを誓いますか?」
「はい。誓います・・・」神父の問いに加持が応える。
「・・・かわることなく愛しつづけることを誓いますか?」
「はい。誓います・・・」神父の問いにミサトが応える。
誓いのあと二人は指輪を交換する。
加持がミサトの左手をとり薬指に指輪を与える。
ミサトが加持の左手をとり薬指に指輪を与える。
「では新郎は新婦のベールをあげ神の御前にて誓いの口付けを・・・」
震えを隠しきれない加持の手がミサトの顔にかかるベールを持ち上げた。
ミサトは潤んだ瞳を閉じて・・・二人の唇が重なる・・・
挙式のあと晴れて夫婦となった加持とミサトの二人は、ライスシャワーの歓迎を受けながら教会の庭に設けられた小さな鐘の前に向かった。
二人で鐘の紐を持ち静かな音色を幾度も鳴らす。
祝福の音。天に召された大切な人達へせめて届けたい。届いて欲しい。
二人が結ばれたことを。幸せになることを。その報告を。
父へ・・・母へ・・・そして・・・・・・
余韻の残る鐘を後に二人は教会前の噴水の前に立ち、彼らを祝福するために集まってくれた人達に向かってミサトがブーケを投げ上げた。
それは弧を描いて一人の女性の手に、伊吹マヤの手の中に落ちた。
ブーケを譲り受けたマヤもその周囲の人達も幸せそうな顔をしていた。
「アスカはブーケ欲しくなかったの?」
二人は新郎新婦を囲む人混みから少し離れて立っていた。
こういうセレモニーが大好きなアスカだからシンジは当然アスカもブーケをもらうために加持とミサトの側に向かうと思っていたのだが、ウェディングチャペルの鐘の音を聞いたあと、アスカはさっさとこの場所まで移動してきたのだ。
シンジもアスカの後を追うようにこの場所に移動した。
「いいの。ミサトと話して決めたの。」
「え?」
いたずらっぽく微笑んでアスカが応えた。
「アタシ達はブーケをもらわなくたって大丈夫だから。ね、シンジ?」
「そ、そうだね。」
少し赤くなって応えるシンジにアスカがすりよった。
「あれ?ミサトさん・・・もうひとつブーケを持っているみたいだよ。」
照れて視線をさまよわせたシンジがミサトの手にあるものを見つけた。
白い美しい小さなユリの花。1輪だけの小さなブーケ。
シンジの声が聞こえたかのようにミサトがブーケを蒼い空に投げあげた。
空を舞う白いユリのブーケを目で追ってアスカが小さな声でつぶやいた。
「あれはね・・・ファーストの分よ・・・」
ありがとう・・・
そよ風が二人を包んで・・・綾波レイの声が聞こえたような気がした。
「馬鹿ね・・・ありがとうなんて・・・」
思わず涙ぐんだアスカをシンジが強く抱きしめた。
「綾波らしいじゃないか・・・」
「シンジにも聞こえた?」
「たぶん・・・そんな気がする・・・」
周囲のざわめきが聞こえなくなるまで二人は動くことができなかった。
「アスカ・・・ミサトさんと加持さん。見送らなくちゃ。」
「うん・・・もう大丈夫。いこっ。」
シンジの胸を離れたアスカはいつものように笑っていた。
教会の前では今にも新郎新婦の乗った青いルノーが走り出そうとしていて、二人はあわてて教会の庭から駆け出していった。
白い小さなユリの花が噴水に揺らめく水面から二人の姿を見送っていた・・・
夜雷です。性懲りも無くまた書いてしまいました。
ミサト姉さん・・・加持さんと共に幸せになってください。
そしてレイのことも、これからもずっと愛してあげてください。
シンジとアスカとレイ・・・三人の今の居場所は違うけれど、
いつかまた三人が集える日がくること祈っています。