「たっだいまぁ~・・・っと・・・そっか・・・」
応える者のない玄関で、ミサトはため息をついた。
背後でドアがプシュッと閉まる。
「今日はアスカはいないんだっけ。ヒカリちゃんのとこにお泊りするって言ってたわよね・・・」
廊下からリビングに入る。見慣れているはずなのに、自分独りきりだと思うと、とても寂しく冷たい感じがする。
取りあえず自分の部屋で制服を脱ぎ、動きやすいタンクトップとホットパンツを身につけて台所に戻ったミサトは、いつも通りに冷蔵庫からビールを取り出し一気にあおった。続けて一抱えほどビールを取り出す。
ふと見ると、ダイニングテーブルの上には1枚のメモ。
ミサト。アタシはヒカリのとこにいるから心配しないでね。
晩御飯にはカレーを作って冷凍庫に入れておいたから、レンジで暖めるだけで食べれるわよ。
ご飯も炊いてあるんだから、カップメンなんかに入れないでよね。
それから朝食用にオムレツも作って冷凍しておいたから、朝からビール
ばっか呑んでないでちゃんと食べるのよ。
残したりしたら承知しないわよ。 アスカ。
「へいへい・・・わかってるわよ・・・」
思わず苦笑しながら返事をしてしまうミサト。
ビールを片手に台所に戻って冷凍庫を開けてみると、カレーの入った容器に並んで美味しそうなオムレツがラップされて入っていた。
「見た目は変んないのにねぇ・・・」
はじめてミサトが作ってアスカに食べさせたメニューもオムレツだった。
卵をさっとといて調味料を入れてフライパンで焼くだけの簡単な料理。
後ろから不安そうに見つめていたアスカも、少々焦げ付いて形はいびつでも、これなら食べられるとその時は安心してテーブルについたのだが・・・それは甘い期待でしか無かったことを直後に思い知らされることとなった。
「・・・っげぇぇぇぇ!ミ、ミサト・・・!い、いったい何を入れたのよ!」
「え?美味しいでしょ?」
今日はうまく出来たわ!とにこにこ顔でオムレツをほお張っているミサト。
対照的に顔を真っ赤にしてシンクに駆け出すアスカ。
あわてて水をのみ何度もうがいをする。
「・・・あんたねぇ、いったいこの世のどこに辛いオムレツがあんのよ。アタシを殺す気!?」
「いやぁねぇ。ちょっとワサビを入れてみただけじゃない。美味しいと思ったんだけど、気に入らなかった?」
「・・・はぁ~・・・」
がっくりとうな垂れるアスカであった。
その後も数日間はミサトの作る料理につきあったアスカだが、結局ミサトの料理を食べつづけることは命を縮めることに等しいと悟らされた上に、掃除洗濯に至るまでミサトにはその能力が決定的に欠如していることを実感することとなった。
こうしてアスカが、すべての家事を自分が担当することを宣言するのに、さしたる時間は必要無かったのでる。。
元々来日の際に一人暮らしで自炊する必要がある予定だったから、最低限の知識は学んできたアスカである。
やるからには徹底的にやる。洗濯や掃除は幼い頃から自分でやっていたから洗濯機や掃除用具の使い方を覚え洗剤の種類や用途を把握するだけで事足りた。
問題は料理である。知識はある。実践も一応は身につけていたつもりだったが、実際に見るとやるとでは大違いであり、最初の頃は食べられるだけミサトの作る料理よりはまし、というレベルからのスタートであった。
アスカは頑張った。ヒカリという親友の特訓と、学校の授業時間の大半を料理関係の本の読破に費やした結果、10日ほどで3~4日サイクルで異なるメニューを並べられるようになり、1ヶ月も過ぎる頃にはそのサイクルも1週間に届こうとしていた。そして2年が過ぎた今、どこの誰に食べさせても胸を張れるぐらいの腕前となっていたのである。
「・・・いっただきまーす・・・」
独りで食べる食事は寂しい。TVをつけてリビングで食べることにした。
時計をみると9時40分。ニュースも無いし、ドラマを見るにも中途半端すぎる時間である。
リモコンでチャンネルを切り替えながら、もくもくとカレーを食べるミサト。
合間にビールをあおる。あいかわらず行儀が悪い。
(プルルルル・・・ プルルルル・・・ プルルルル・・・
「あら?誰かしら?」
ミサトの部屋の電話が鳴り始めた。
NERVからの連絡であれば携帯電話を使うはずである。
一瞬、加持の顔が脳裏に浮かんだが、加持とは先ほどジオフロントで別れたばかりである。そのとき「冬月司令の頼みで今夜は徹夜だよ・・・」と、いつもの微笑みを浮かべながら嘆いていた。
サードインパクト後の事後処理もNERVの有利に・・・というよりも、ほとんどNERVの希望通りに進展しているとは言え、残存する全てのエヴァを保有し続けているNERVに対する風当たりは強い。
碇司令亡き後NERVの最高責任者となった冬月の懐刀として、加持は多忙な日々を送っている。
ミサトは自分の左手に光る指輪を見つめた。加持がくれたダイヤの指輪。
何年も待たせてすまない。心配ばかりかけてすまない。だが、許してもらえるならば、これを受取ってはもらえないか。今はまだ葛城の側に戻ることはできないが、必ずもどってくると約束する。だから俺の気持ちを受取って欲しい。
愛しているとは言ってくれなかったが、真剣な加持の口調にミサトは頷いた。
待ってる。何年待っていたと思うの。わたしが断るわけ無いじゃない。
プルルルル・・・ プルルルル・・・ プルルルル・・・
ミサトが回想にふけっている間も電話のコールが鳴り続けて、そして留守番電話の応答メッセージに切り替わっていた。
いまさらあわてても仕方が無いのだが、プライベートな寝室の電話への通話であることと、その相手に心当たりがないことから、ミサトは立ち上がって自分の部屋へと急いだ。
『はい。葛城です。ただいま留守にしていますので、発信音の後にメッセージをどうぞ・・・ピーーーーッ・・・』
ベットの枕元のサイドテーブルの前に立ったとき、ちょうど応答メッセージの再生が終わり、録音モードになるところだった。
「・・・・・・」
誰?一瞬の沈黙・・・そして懐かしい声がスピーカーから流れ始めた。
「お久しぶりです。シンジです・・・」
線の細いシンジの微笑む顔がいっぱいに広がる。
頭が真っ白になり電話機の前に立ちすくむミサト。
「シ、シンジ君!?・・・」
2年ぶりのシンジの声。記憶にあるものより少し低くなってはいるが、間違いない。あの少年の声。嵐のような過酷な運命を背負わされ、身も心もボロボロになりながらも戦いつづけた少年。守るべきものを守り抜き、陽炎のように自分の前から立ち去った少年。
ままごとのような生活だったけど、大切なわたしの家族・・・血のつながりは無いけれど間違いなく家族と断言できる存在・・・大切な、大切な私の弟。
『はい。葛城です。ただいま留守にしていますので、発信音の後にメッセージをどうぞ・・・ピーーーーッ・・・』
10数回の呼び出し音の後、留守番電話のメッセージから流れた懐かしい声。
胸が熱くなり一瞬声が出せなくなる。
「・・・」
外出中?いや、まだ仕事が忙しくて帰ってこれないのだろうか?
残念に思う気持ちが半分、ほっと安心する気持ちが半分。
揺れる気持ち。悔恨と切望。情けないほど自分は成長できてない。
ミサトと話せないのが残念だった。
でも・・・まだ正面から立ち向かえるだけの勇気が自分にあるのだろうか?
留守番電話が相手なら幾分楽な気持ちで話すことができる。
「お久しぶりです。シンジです・・・突然電話してすみません。
ミサトさん?お元気でしたか?
みなさんもお変わりありませんか?
僕は元気です。少し背も伸びました・・・(ガシャ)・・・
『シ、シンジ君。シンジ君、あたしよ。』
割り込むようなノイズ音に続いてミサトの声が耳に飛び込んできた。
突然本人が出たものだから、動揺して声が裏返りそうになる。
「・・・えっ?ミ、ミサトさん!?・・・い、いたんですか?」
『ちょっちね。リビングでご飯食べてたのよ。それで間に合わなくって。
嬉しいわぁ。シンちゃんの声が聞こえたとき、自分の耳が信じられなかったんだけど、電話してくれて本当に嬉しかったわ。
元気なのね?元気で暮しているのね。心配してたのよ。
ね、どこから電話しているの?あ、先生のところからかしら?
・・・あら?どうしたの?シンジ君?シンジ君???・・・』
「・・・いえ・・・なんでもないです。
ただ・・・ミサトさんの声を聞いたら、う、嬉しくて・・・
ご、ごめんなさい・・・なんか・・・」
機関銃のように続くミサトの声を聞いているうちに、思わず涙がこぼれそうになり押し黙ってしまったシンジだった。
嬉しい。ミサトさん、昔と変らない。暖かいものが心の底からわきあがってきてシンジの心をそっと包み込む。
電話してよかった。電話して間違いじゃなかった。涙がこぼれおちる。
「はい。元気です・・・元気に暮しています。でも・・・」
『でも?』
ミサトのやさしさが感じられて、ますます涙がこみあげてくる。
いっしょに暮した思い出があれこれと思い出されて、シンジは鳴咽をもらし言葉を詰まらせた。
思いやりの沈黙。やさしく先を促す沈黙。
抱きしめてもらったときのようなミサトの穏やかな息遣いだけが受話器から聞こえてくる。
やがて落ち着いたシンジは、ミサトのもとを別れてからのことを話し始めた。
長野に帰ったシンジを先生がやさしく迎えてくれたこと。
以前に通った中学に復学したこと。友達もできたこと。少しだけ昔より積極的になれたみたいで、学校も楽しいと思うようになったこと。
チェロの教室にも再び通いはじめたこと。
平和で穏やかな日々が続いて、第三新東京市での思い出も全てではないが、大部分を受け入れることができるようになったこと。
悲しい思い出も多いけど、悲しい思い出だけじゃなく楽しい思い出もあることを思い出せたこと。懐かしいとさえ思えるようになったこと。
「でも・・・」
『でも?』
昨年末、突然に先生が倒れたこと。
脳溢血だったらしい。病院に運ばれたが回復は思わしくなく、結局、先月他界してしまったこと。再びシンジは独りになったこと。
先生が亡くなったあとに弁護士の人がきて、自分が先生の残した家や蓄えの相続人になっていたことを知ったこと。
しかし未成年であるため施設に入るか、後見人を見つけなければ先生の残してくれた家に住みつづけることができないこと、などをミサトに話した。
「いまさら・・・いまさら、こんなお願いをするのは勝手なことだと思うんですけど・・・
ミサトさん・・・僕の後見人になってもらえませんか?」
とシンジは結んだ。
「・・・ありがと」
『え?』
シンジが自分を頼ってくれたことが、ミサトには嬉しかった。
別れのとき、シンジが言った言葉。自分には先生以外頼れる人が居ない。
その言葉はミサトの心に小さなしこりを残していた。
自分の復讐のために子供たちを道具として扱ってしまった自分。
傷ついた少年と少女を、自分は救うことが出来なかった。
いや、救おうとしなかったのかもしれない。
少女の傷を癒したのは、この少年だった。だが、この少年の傷を癒したのはこの少年自身なのだ。なんと強い心の持ち主なんだろう。
そう言うときっとこの少年は否定するだろう。だが・・・傷つくことを知りそれでも他人を思いやることができる。そんな心が弱いはすがない。
自分はこの子達の何の役にも立てなかった。
家族と称して自己満足に浸っていただけのような気がする。
だから少年が自分を頼ってくれたことが嬉しかった。
「シンジ君がね・・・わたしを頼ってくれたことが嬉しいの」
この少年にははっきりと言葉で伝えてあげないと心が伝わらないことがある。
優しすぎるのだろう。あいまいな言葉は少年を惑わせる。
昔は他人の顔色ばかり伺う少年の性格を疎ましく思うこともあった。
だが慣れ親しんだ人に向ける少年の心は、限りなく深くやさしく温かなものであることをミサトは知っている。少年自身がそれを求めているから。求めて求めて、求め続けているからこそ、惜しげもなく他人にそれを与える少年。
『ミサトさん・・・』
「遠慮なんかしなくていいのよ。わたしたち家族じゃない。」
心から沸き上がる喜びがミサトの声を弾ませる。
『ミサトさん・・・』
電話の声から少年の表情がうかがえる。
きっと、また、涙ぐんでいるに違いない。
心が通い合った気がする。
会いたい。直接会って話しをしたい。そして抱きしめてあげたい。
暖かいものが心を満たす。
「で、もっちろんOKよん。
そーいうことはお姉さんにまっかせなさい。」
『・・・ありがとうございます。』
「で、どうすればいいのかしら?
書類だけ郵送ってわけにもいかないでしょ?
あたしも忙しいっちゃ忙しいんだけど、最近は休みも取れる身分になったしね。
正直シンちゃんの生活も見てみたいのよ。
いいでしょ?一度、そっち行きたいなぁ。
明日は日曜日でお休みだしナイスだわ。構わないわよね?」
『構いません。構いませんけど、申し訳ないです。
僕のほうからお願いしたんだから、僕の方からミサトさんを尋ねるのが筋のよ
うな気がします。
それに・・・まだ書類が整ってないんです。
今日はもう遅いし、明日は日曜だから弁護士の人もきっと休みですよね。
僕もミサトさんに会いたいですけど、無駄足をさせるわけには・・・』
「いーの、いーの。気にしない。
弁護士の先生や書類のことは気にしないで。あたしの肩書き知ってるでしょ。
電話一本でOKよん。嫌とは言わせないわ。」
思わずニタっと笑うミサトである。
電話越しにそれを感じ取ったのか、細い声でシンジが応えた。
『それって職権乱用じゃ・・・ありません?』
「あ~に言ってんのよ。当然じゃない。
今のあたしにとって、シンちゃんのことより大切なことなんてありません!
頼ってくれたシンちゃんのために、あたしはあたしの全能力をもって速やかに完璧な作戦を立案実行するわ!
それが作戦本部長であるあたしの勤めよ!
いいわね。作戦は明日決行よ。」
『・・・ミサトさん・・・(はぁ~)』
結局ミサトの勢いに押し切られるようにシンジは沈黙した。
シンジもミサトの思いを正しく受け止めたのだろう。
その声には明るい響きが漂っていた。
その後、シンジの電話番号と住まいの詳しい住所と道順を聞きだし、ミサトが用意すべきものをひとつひとつ丁寧にメモって、受話器を置く。
「ふう・・・今度こそ、なんとかしなくちゃね。
もう後悔するのは嫌だわ。
2年後れになっちゃったけどね。あたしはあの子達の保護者なんだから。」
リビングに戻る途中で、アスカの部屋に視線を送る。
シンジ君・・・とうとう、一度もアスカのこと聞かなかったわね・・・
判るけど、シンジ君の気持ち・・・でも間違ってるわよ・・・
アスカはね、シンジ君のこと嫌ってなんかいないのよ・・・
ううん・・・絶対・・・あなたのことが好きなはずなんだから・・・
今度こそ後悔しない。なんとかしてあげる。
だから・・・アスカ・・・あなたも今度こそ素直になりなさいよ・・・
「さぁて・・・と・・・作戦、作戦・・・
うえぇ・・・ご飯冷めちゃったわね。
おまけにエビチュもぬる~~い。
あらあら、もう11時?1時間近くも話してたのかぁ。
ふふふ。
どーしよーーーかなぁ。
せっかくだから劇的にしたいわよね。
といってもシンちゃんにそれを望むのは無理ってもんよね。
となると・・・やっぱアレね。アレしか無いわ。くくくくくっ・・・」
冷えたカレーライスとぬるくなったビールを前にしても、ミサトは満面の笑みを浮かべていた・・・いや満面のニヤリ顔が正解だろうか?
使徒の殲滅を終えた今、作戦本部長としてのミサトの能力が求められることはほとんど無いに等しい。
現に週に5日はNERVからアスカの通う第一高校に出向しているのだ。
というより唯一の実戦経験をもつアスカのガードの一環として、教職資格を持つミサトは、アスカのクラスの担任としての日々を送っているのである。
対使徒では無いとは言え、その使徒すら押さえ切ってきた二人のチルドレンを相手とする作戦行動である。久々に燃え上がる情熱を感じるミサトであった。
腐ってもNERV作戦本部長の肩書きを持つミサト。
約1時間のエビチュを片手の独りだけの作戦会議を終え、早速行動開始である。
携帯電話を取り出し軽やかにボタンをプッシュする。
『はい。加持です』
「あ、加持くん。あ・た・し(はぁと)』
『葛城?めずらしいな。こんな夜中に愛の告白でもしたくなったのかな?』
「ばぁか。告白したのはあんたで、あたしじゃないでしょーが」
『・・・どうしたんだい?葛城らしくないな。何か問題でも発生したのか?』
予想以上にハイな調子のミサトに、すぐに異変を感じ取るあたり、さすが加持である。ここらあたりが安心できる理由よね。と独り御満悦のミサトであったが、逆に言えば加持のその評価されるべき情報収集能力と分析能力が今回は邪魔になるのである。
「あんたアスカがお気に入りよね。」
『確かに・・・小学生の頃から見守ってきてるからな。』
「アスカに幸せになってほしいわよね。」
『もちろんだ。葛城に幸せになって欲しいと思う気持ちと同じぐらいアスカにも幸せになってもらいたいと思っているよ。』
まったくこの男はのうのうと・・・少し頬が赤らんでしまう。
「だったらねぇ、これから何日かの間。あたしの行方を追わないこと。
あたしの行動を知ってもアスカにも誰にも言わないこと。
あたしの行動の結果を推測してもアスカにも誰にももらさないこと。
いいわね!加持くん。」
『・・・判った。葛城。頼む。』
これだけの言葉で判ってくれる。自分の考えなどお見通しなんだろうけど、昔はそれが面白くなかったが、今はそれを嬉しく思う自分がいる。
「もちろん、頑張るわよ。精一杯ね。じゃ、またね。」
『おやすみ。葛城。』
加持との打ち合わせ?を終えたミサトは、続けてリツコに電話をかけた。
「リツコ~。あ・た・し」
『・・・まったくあなたいま何時だと思ってるの。ミサト。』
「わあってるわよ。そんくらい。』
『緊急事態?』
長い付き合いだ。すぐにマジメな口調に変る。
スクランブルを指示して秘話モードに入る。
秘話モードにしたところでMAGIに記録されるわけだが、リツコと接続された回線は最重要機密扱いとなり、諜報部のトップの権限でも情報が開示される事は無い。情報開示を指示できるのは冬月司令とリツコを除けば、国連事務総長ただ独りである。
「あのさ、こないだ敵対組織で動きがあるって言ってたわよね。」
『ええ。でも説明したとおり実行可能なプランでは無いわよ。
単にエヴァとパイロットを手に入れれば世界征服も可能だから、なんとかできないかって与太話をしてる連中ばかりだわ。
だいたい今のNERVに弓を向けることが自殺行為だってことぐらい、誰にも判ることじゃない。それがどうかしたの?』
「そりゃそーなんだけど・・・さ・・・」
『なにが言いたいの?ミサト?』
「確かに今のNERVって強大よね。
エヴァを占有し、世界中のMAGIクローンを押え込んだMAGIオリジナルを持ち、表向きの経済力こそ些少な評価を受けてるけど、実際には軍事力経済力とも世界を手中に収めているに等しいわね。」
『・・・だから?』
「NERVがこうなれたのって・・・いいえ、人類が救われたのっていったい誰のおかげかしら。あたし達が生き残れたのはどうして?
あたし達人類は生き残ったわ。幸運よね。幸せって言ってもいいわよね。」
『・・・』
「でも子供たちは・・・あの子たちは不幸な・・・ままよ」
『・・・判ったわ。わたしは何をすればいいわけ?』
「リツコ・・・ありがとう」
『お礼を言われる立場じゃないわ。わたしもミサトもね。で?』
「きっついわねぇ・・・でも事実よね。判ってる。
今更自己満足でしか無いってこと、リツコに言われるまでもないわ。
でもこれ以上後悔したくないのよ。
チャンスなのよ。もしかしたら最後のチャンスかもしれないわ。
逃したくないのよ。絶対に。」
『・・・シンジ君ね。』
「そうよ・・・で、リツコに頼みたいのは・・・」
ミサトは計画案を提示した。リツコの立場から弱点を検討して計画を補強する。
30分ほどで計画案は了承された。
『ここまでやるのね。本気ってとこかしら。』
「もちろんよ。あたしは明日の朝、直接でばるから、後よろしくね。」
『判ったわ。後は任せて・・・頑張ってね、ミサト。』
「もっちろん。」
電話を切ったミサトの表情は真剣だった。
勝負は明日。本気でいくわよ!
「さてと。残念だけど今夜はお風呂はパスね。シャワーで我慢我慢。」
と食べ散らかした食器と空缶をリビングに放置したまま、シャワールームに向かうミサトであった。