FILE-03「Dancing, Investigation Line」

―――全国の勇敢な警察官、並びにそれを目指す諸氏に捧げる―――

日本の警察史上に刻まれた伝説の人、室井ケンジ。

若き日の彼は、はえぬきの敏腕警察官僚であった。
2018年、内務省の腐敗を暴いた事件で、裏から手を回していたのは、最近になって発覚した事実である。
まさに日本の誇る警察官と言えよう。
昨年、彼が他界し、彼の個人的日記や膨大な量の事件記録が彼の自宅から発見された。

今回、その事件記録の中からある一つの事件を取り上げ、ノンフィクション小説の体裁で発表する。これは彼の出世にも世間の警察への印象にも影響を与えた事件であり、また日本警察史上希にみるもので、当時の事件関係者はつい最近までこの事件を回想することを拒んでいた。彼らは口を揃えたようにこう言う。

「これは警察の不祥事であり、我々警察官は今後このような事件を引き起こさないように肝に銘じなければならない」と。
この事件を書き残すことは、親愛なる読者諸賢、並びにこの事件のことを知らない警察関係者に二度とこのような警察の汚点に繋がる事件が起こらぬよう、常に心の片隅にとどめて頂きたい思いからであることを、ここに明言したい。

また同時にこの事件を当時のジャーナリズムから『被害を最小限に押さえた解決』とまで言わしめた室井氏の手腕を伝えるものである。

その事件は俗にこう呼ばれている。

「プラトンホテル占拠人質事件」

さていささか前置きが長くなってしまったが、最後にこの作品の執筆にあたり、快く取材を受け入れて下さった、氏のご令嬢・室井アカネさん、氏の親友で元内務省事務次官・高榎ミチタカ氏始めとする多くの方々に感謝の意を表したい。

2083年、秋  筆者拝

Destiny ANOTHER
FILE-03
「Dancing,Investigation Line」

 

〔壱〕

2020年、師走。
まさにその言葉が表す通り、師たる教師も走るほど目まぐるしい忙しさが、そこら中に溢れていた。
国内のごたごたがようやく落ち着きを取り戻したのは今年の中頃である。ここに配属されてからと言うもの、書類整理や凶悪事件の報告書、全警察機構の見直しなど彼が手がけた仕事は多岐に渡っていた。……しかも短期間に。

まさに今の彼には『忙殺』という言葉が似合っている。

警察庁刑事局参事官・室井ケンジ警視正。それが彼の名、彼の肩書きである。
彼はデスクの上のノートパソコンと、横に置かれた書類の山と格闘してもう3時間を経過させていた。
そろそろ彼の目の疲れを訴えている。室井参事官は一度手を止めて、目頭を強く押さえる。そして、引き出しをあけ中身に視線を下ろした。
中には豪華な装飾の施された一通の封筒がある。

「……先読みして欠席で出しておいたが……やはり残念ではあるな」
それは彼に届いた結婚式の招待状である。差出人は田辺コウスケ・梶原サチヨとなっている。
田辺、といえば警視庁で知らない人間はいない。警視総監・田辺イチロウはコウスケの父親だ。そして梶原の姓は警察庁に置いて有名である。警察庁次長・梶原クニヒコ。サチヨの父だ。
型破りの結婚。そう呼ばれている。なぜなら、警察庁と警視庁は歴史的に仲がよいとはいえない関係であるからだ。特に室井参事官はそのことを実感していた。警備局警備三課課長であったときも、最近まで配属されていた、警備局警務課にいたときも。表だった確執はないが、官僚同士の意地の張り合いがある。
そうした事情により、一次は破談になるような兆しもあったこの結婚だが、総監・次長共に首を縦に振ってしまっては、外野はとやかく言えない。ごたごたの中でしばらく先送りされていたが、ようやくこの年末に結婚式が決まった。

室井にとってこの結婚は、警察内での身内結婚以上の意味を持っていた。彼がまだ警視庁捜査一課にいたころに、田辺イチロウは彼の部下だった。仕事に対して非常にまじめで、室井が心底嫌っている官僚的思考はさほど以ておらず、どちらかと言えば彼の思想に共鳴する側に立っていた。また親の七光りを振りかざすこともなく実力で警察のヒエラルキーを上っている。そう言う意味では、室井も同じ境遇で親近感のようなものを感じていた。
その彼の結婚式に出られないのは非常に残念ではあるが、それも仕方がない。希にみるスピード出世を果たす彼は、先に述べたように多忙を極めていたのだから。

「失礼します」
部下の一人が、束の書類を持って入室してきた。
「参事官、刑事部からの報告書の追加です」

「悪いな、そこに置いてくれ」

「だいぶお疲れのご様子ですね?」
退室しようとして、彼は立ち止まった。

「……そう見えるか?」

「はい。ご無理はなさらぬよう」
と、一礼して去っていった。

「……疲れるほど働くな、か」
室井参事官は急に思い出したようにそう呟く。それは彼の腐れ縁の刑事がいる所轄署の尊敬すべき指導員の言葉である。年長者であることを除いても、その指導員は尊敬に値する。現場の刑事と捜査の指揮を取る本庁捜査員・警察官僚とは相容れないものがある。

室井が警視庁刑事部捜査第一課に配属されたとき、まず始めに学んばされたことは、「刑事は組織の駒だ」ということだった。もちろん室井自身はそういう考えなど持っていないし、否定している。彼が管理官に昇進したとき、まず上に上申したのは、組織の見直しだった。

その思いは、管理官時代によく捜査を共にした、腐れ縁の刑事との出会いでつよくなった。

彼は椅子をずらして足を組み替え、少しだけ背もたれに体を預けると、懐かしむような顔をしてこう呟いた。

「あいつは元気だろうな。・・・青島巡査部長」
勇み足だが、熱血漢のその男のことを思い浮かべて室井は呟いた。

第二東京市湖岸署。

野尻湖を囲む景色とその風の心地よさで、保養地として発展するはずだったその地は、セカンドインパクトの影響による首都移転の為に、副都心として開発が押し進められるようになった。しかしその矢先、さらに第三次遷都計画なるものが噴出し、開発費や人員はそちらに裂かれてしまい、残ったのは広大な敷地とそこに住み始めた人々、そして副都心のシンボルとなるはずだった「第二プラトン」だけがその姿を雄々しく晒していた。

しかしながら、そのホテルはやはりこの景色と相まって、都会人の心を癒すに相応しいものとなり、今年で12年目を迎える「第二プラトン」も予算的に新館を建設する余裕すらあった。

そうした場所での治安を守る所轄署は湖岸署である。第二東京の中では未だ、三番目に新しい所轄署だ。そこへ、まだ通勤ラッシュが始まる少し前の時間に一人の刑事が、大股で入っていった。

黒系の色のスーツにモスグリーンの、皺の寄ったラフなコートを羽織った、一見するととても刑事には見えない容貌の男。

青島シュウサク。階級は巡査部長。彼は小走りに階段を上って、刑事課の大部屋に入って行く。その大部屋には強行犯係、暴行犯係、知能犯係、盗犯係、鑑識係の5つの係がそれぞれ10台ずつほど机を並べている。それらでここの刑事課をなしているのだ。

刑事課の、ほぼ年中開きっぱなしの、観音開きの扉をくぐり抜けると、青島は挨拶も省いて言う。
「課長、会社役員連続暴行事件の内定、終わりました」

「おお、青島君。ご苦労さん。で、どうだったい?」
大柄の人当たりの良さそうな袴田刑事課長が、青島の肩をたたいて訊く。

「やっぱりリストラされた中間管理職社員による犯行でした。……気持ちは分からなくもないですけどねぇ、ねぇ課長?」
青島は屈託なく笑いながら言った。

「馬鹿なこと言うんじゃないよ。さ、早く報告書出して。次の事件が待ってるよ!あ、雪乃さん、この前の事件の報告書できてる?」
袴田は逃げるようにして他の刑事に指示を出す。青島は困ったように頭をかいてから自分の席につく。

「よ、お帰りブラッド・ピット君」
パソコンの画面に報告書のフォーマットを立ち上げて、自分の名前を打ち込んだ時に、凛とした声が聞こえた。

「ただいま、スミレさん」
20年近く前の映画が最近になってリメイク放映され、二人は連れだってそれを非番の日に見に行った。そこで「モーガン・フリーマンの役柄が、いかにも同僚の和久ヘイハチロウ巡査長にイメージが似てる」などと青島が言ったときに、彼女、恩田スミレがこう返してきた。

「じゃあ、青島くんはブラッド・ピットね」
それ以来、時折彼女は青島を“ブラッド・ピット”と呼ぶようになった。

「そっちはどう?」
タバコに火をつけながら、同じように報告書をつけはじめた彼女に声をかける。

「師走だからね、今年もたぶんサンタとは逢えそうにないわ」

「湖岸署内のサンタと食事でもどう?」
椅子を移動させて、彼女の隣に入り気取って言う。

「……青島ぁ、刑事というのはなぁ」
彼女はこの署ないでも署長・副所長・刑事課長を押さえて確固たる地位を持つ、ベテラン刑事の真似をして笑った。彼女特有の悪態というやつだ。

「和久さんの真似はやめてよ」
青島は肩を竦めると報告書に集中した。

師走に激務を被るのは何も警察庁の官僚だけではない。またお節料理屋だけでもない。所轄署も歳末決算報告で帳尻を合わせるために、多くの事件を解決しなければならないのだ。
ここ湖岸署では、どこの課も係も上へ下への大騒動となっていた。

ようやく仕事に余裕が出たのは、午後に入ってからだった。

「真下、飯行くか?」
青島は強行犯係の上座に座る、自分よりも6歳年下の上司に声をかけた。彼は現・警視庁第六方面本部長の息子にあたる。とかくキャリアは頭脳と血統が重視されるのは、今も昔も変わらない。

彼の名は真下マサヨシ。湖岸署刑事課強行犯係係長で国家試験を合格して警察に採用された、いわゆる「キャリア組」である。警察には厳格な階級制度の他にこうした二つに分けられたもう一つのヒエラルキーが存在する。

キャリアとノンキャリア。
国家公務員上級試験に合格しているか、していないかで分けられる。ノンキャリアが警察官人生のほぼ大半を「捜査の駒」で終わるのに対し、キャリアはゆくゆく警察の政治に関わってゆく。当然、階級の出世も早い。

キャリア組はノンキャリアを差別する思想を持っていて当然なのだが、彼はキャリアには珍しく差別感を嫌っている。それどころか、ノンキャリアで階級も役職も格下の青島を先輩と呼び慕っている。

「いいですね。久しぶりに外でも行きますか」
真下はノートパソコンのデータを保存すると立ち上がった。

「私も行っていいですか、青島さん」
そう言って一人の女性が立ち上がった。
まだ湖岸署に配属されて間もない、柏木ユキノ巡査。青島がこの湖岸署に配属されてはじめての事件で、被害者の娘として知り合った。その後、様々な事件で青島や湖岸署と親しくしているうちに、彼女は刑事になると決め、そしてこの湖岸署刑事課強行犯係へとやってきた。
まだ見た目は女子大生のようだが。

そこへ時同じくして、神田署長と秋山副署長が、慌てふためいた様子で、刑事課へ走ってきた。全員の視線は一度だけそちらに向く。袴田は立ち上がって、

「これは署長、どうされましたか?あ、忘年会の打ち合わせでしょうか?」
と笑顔ではなした。

「どうしたもこうしたもないよ、袴田君」

「は?」

「実は、明日第二プラトンで、総監のご子息と警察庁次長のご令嬢が結婚式をなされることになっていたらしいんだ」
秋山が、髪の少ない頭を、ハンカチで拭きながらまくし立てた。

「それはそれは。いやはやおめでたいことで……でも急な話ですね」

「君ねぇ、何呑気なこと言ってるんだよ。本店からたくさんのお客様があそこに泊まられるんだよ?」
とかく所轄署の人間はこの警察組織形態を皮肉って警視庁を“本店”、所轄署を“支店”、警視総監を“社長”と呼んでいる。もっともそれは所轄の人間同士で話すときに限られる。それに習うと神田署長は“支店”の支店長ということになる。

「もしかしたらこちらに立ち寄られるかもしれないじゃないか」

「そ、それは!大変だ」
袴田を焦り始めた。それを横目にして、青島と真下がコートを持ち刑事課を出る。

「知ってた?真下」

「ええ。もちろん知ってましたよ。有名な話でしたから。本店の同期のヤツに聴いたんですけどね、どうやら明日は、警察庁警備局と警視庁警備部合同で警備にあたるらしいですよ」
警視庁が第二東京警察本部であるのに対し、警察庁は全国の警察署を指導・監督する立場にある組織である。また他府県では地方機関である管区警察局を通じて指揮・監督を受けるのだが、警視庁は直接の指導を受けている。

警視庁にとってみれば国の中枢を守る国家警察の誇りを持っているのに、それに対して政治的な面からとやかく言う警察庁は表目には出さないが煩わしく思っている。それが長きに渡って両組織の確執を生んでしまった。それは首都が長野に遷都された今でも変わっていない。

「じゃ、俺達のすることないな」

「ええ。所轄には所轄の仕事です。急がないと書類が溜まりますよ」

「すみれさんじゃないけど、ホントクリスマスも正月もなくなっちまう!」
二人は駆け出すと階段を降りて、1階ロビーを駆け抜けていった。

正面玄関を出るとき、帽子を被った無骨な初老と個性的な雰囲気を持った苦労性の中間管理職風の男の姿が目に入り、思わず習性でこう言ってしまった。
「和久さん、係長代理、お疲れっす」

「疲れるほど働くなって言ってんだろいつも……なんだ、これから飯か?」

「はい。今日は久しぶりに外食でもと思いまして」
答えたのは真下だ。柏木も頷く。

「和久さん、私らも行きましょうか?」
と苦労性の顔を和久に向ける、強行犯係係長代理・魚住ジロウ。

「そうするか。おい、青島、俺達もつれてけ」
青島の方に顎を向けて和久ヘイハチロウが言う。

「じゃぁ、どこがいいです?和久さん」

5人は並んで歩き出しながら。ああでもないこうでもないと、いろいろ店を考え始めた。もっとも、この近辺の飲食店など限られてくるのだが。

昼食をとって署に戻り、書類整理や裏付け捜査、小さな傷害事件や窃盗犯逮捕の応援、この時期に多くなるチンピラ同士の集団喧嘩を止めに行ったりと、日が落ちるまで彼らの休む時間はなかった。夜になって、ようやく残業組がバラバラと帰り始めるころ、青島は本日の当直であるため、毛布などを刑事課応接室に運び、自分のデスクで捜査費用の領収書の計算をしている。

「青島、先帰るぞ」

「先輩、お疲れ様でした」

「青島さんお先に失礼します」

「じゃあ青島君あとよろしく」
等間隔ではないにしろ、強行犯係の同僚達も帰り支度をして帰宅していく。

がらんとし始めた署内で、青島のパソコンのキーをはじく音だけがやけに大きく響いていた。そこへ恩田が、カップラーメンを運びながら後ろを横切り、自分の席についた。

「あれ?盗犯の当直って、スミレさんだっけ?」
時計で時間を確認してからスミレはその質問に答える。

「武君がね、風邪っぽいって言うから変わってあげたのよ」
頷く青島。

「じゃぁ今夜はここで二人っきりってワケだ」

「……優しくしてくれる?」
上目遣いになって恩田が言う。その瞳を青島は見て、一瞬沈黙が流れるがすぐに二人は声を立てて笑った。

「最近平和ね」

「ん?そうだね。デカイヤマがないからだろうな」
一時期―――と言うのも青島が湖岸署に配属された当初のことだが―――やたらと大きな事件が起こったことがあった。その度に本庁捜査一課が湖岸署を訪れており、島津捜査一課長や当時、管理官だった室井と顔をあわせる機会も多かった。

青島は名コンビだと思っているが、室井はただの腐れ縁だと思っている。だが二人にはある約束があった。真下がある事件で犯人に撃たれ重体になった、拳銃発砲未遂事件の時、二人は勝手な捜査で犯人を逮捕し、揃って査問委員会に出たことがあった。

室井は上へ行く。そして青島は下で頑張る。室井が偉くなった暁には今の組織体勢を見直し、現場の捜査員が正しいと思ったことができるようにする。だからその為に青島も所轄で努力をする、という約束。
青島と室井はその約束を共有することで、働いている場所も階級も違うが心を同じくしているのだ。

だがこの約束は二人しかしらないこと。湖岸署にとっては青島が配属されたために事件がよく起こるようになった、と冗談めかして言っている。

「青島君がいるのに……変ね。もしかして史上最悪の事件が起こる、嵐の前の静けさってヤツ?」
……そう思う人間は案外近くにいるものだ。青島は恩田を睨んだ。彼女はカップラーメンに視線を落として食べながら、

「こりゃ失敬」
とだけ弁解した。

「さぁーて、お仕事お仕事」
伸びを一度だけすると、青島は再びパソコンに向かった。そんな青島の後ろ姿を恩田は楽しそうに眺めながら、ラーメンを口に運ぶ。

「んーっ、キムチィー」
彼女は豚キムチラーメンを食べていた……。

忍びやかに夜が更け、結婚式当日の朝が訪れる。それはまた事件の朝でもあった―――。


真冬の晴れ空、とでも表現できるような空が、野尻湖の上を包んでいた。セカンドインパクトの劇的な環境変化も2015年を境にそれ以前へと少しずつ戻っている。しかしながらその後退は歩み遅く、真冬といってもまだ肌寒さを感じるほどでしかないのだが。

ブラインド越しに降り注ぐ朝日が目にかかり、青島シュウサクは目を覚ました。開ききらない目を擦りながら課長席の後ろのブラインドを開ける。窓から朝の風景画が見えた。窓枠がまるで額縁のようで、青島は自分なりにいい目覚めをしたと思いつつ、収縮した体をのばす。

「さぁて、今日もはりきって刑事しますか」
誰にともなく呟いてから、彼は煙草に火を付ける。

明け方から今朝にかけて警視庁受理台からの通報もなく、残務処理もはかどった。こんなことは珍しい。去年の暮れなどは本当に過労死するほど働かされたのが嘘のようである。
青島はデスクに戻ると、残り少ない煙草の箱から一本取り出してくわえた。

あと数時間もすればここは湖岸署の刑事達でごった返す。そしてまた一日が暮れていく。忙しい毎日だが、彼はサラリーマンを辞めてまでこの世界に飛び込んだことを後悔していなかった。すばらしい仲間がいて、上には自分と同じ気持ちでいる上司が頑張っている。青島は今を好きでいた。

同じ時間帯、室井はまだ自室に居た。警察庁から電車で4駅ほど離れた場所にある官舎で、数時間ほどの仮眠をとっていた。目覚ましがなって、室井は起きあがると青島と同じように窓から朝の風景を眺める。久しぶりに自室に戻っての仮眠だった。このところ刑事局につめることが多かった彼は仮眠ながらも、溜まっていた疲れを癒すことができた。

まだ街は完全に動き出してはいない。そこを早出勤のサラリーマンや、マラソン中の青年、新聞配達の軽車両が往来している。

スーツを着込み、銀色の使い慣れたアタッシュケースに整理しかけの書類を入れ、コートを羽織る。

時間通りに、部下が車を回して待っていた。ここから室井の一日が始まる。

「参事官、本日は長官をはじめとしまして上層部の皆様は第二プラトンの方へ向かわれています。庁舎の方は……」

「空状態と言うわけか。……イヤなことにならなければいいがな」
書類を読む手を止めて彼は呟く。

「考え得るすべての危険性をシュミレーションさせた混成部隊を警備にあたらせる、と聴いておりますが」

「すべてをカバーすることなど不可能だ。どこにでもイレギュラーは存在する」
眉間の皺を増やして室井は言い切った。そして室井のこの危惧は図らずも実現してしまった。

野尻湖を見渡せる場所に建てられたホテル、第二プラトンは第二東京第三次副都心計画のシンボルとも言うべきこの建物は、アメリカの先鋭的若手建築家のデザインによる様相を見せている。

それは近代的でありながら、古代ローマの匂いを感じさせる作りとなっている。正面玄関を入ると、三階までを吹き抜けにしたひろいエントランスが広がる。エンタシス型の柱が並び、大理石の床に、絨毯が引かれている。開放感に溢れたそのエントランスは、初めて訪れた者の心に何かしらの印象を残しこのホテルのことを忘れさせないだろう。

今日、このホテルには異様な緊張感が走っていた。傍目には通常の営業をしているように見えるが、このエントランスだけでも、私服・制服合わせて130名以上の警察官が配置されている。既に数ヶ月前からホテル側と警察・警視庁の間で入念な打ち合わせが行われ、今朝の訓辞でもホテル従業員に念を押す形で、各部署のチーフ、マネージャーから普段と変わりない接客応対をするように申し渡されたが、彼らに気にしないでいるほどの神経の太さは持ち合わせていなかった。ホテルマンといっても一人の人間であるのだから。

小さなイヤホンで常に無線連絡をする警官たちが回りの客に気を配っている。また従業員の一部にも警察官が入っていた。

今日、ここで問題が起これば警察の威信、さらには日本の治安維持にも多大な影響を及ぼし、明治における明治維新以後創立された「警察」に大きな汚点を残してしまうことになる。

第二プラトンの大広間、“鳳凰の間”にはいくつかに分けられたテーブルに既に料理のセッティングが行われている。礼服に身を包んだ警察官たちがその動向をみつめていた。本日午後より田辺・梶原両家の結婚披露宴が行われる。
警視総監・警察庁次長の子息令嬢の結婚であり、その出席者の大半は警察関係者である。それもキャリアでも上層部が顔を揃える。名簿には参事官、審議官、局長、部長クラスに始まり、本部長クラスの警察官僚たちの名もある。こうなると、新郎新婦の友人や恩師などは末席の方に配置されたしまう。またここでも「厳格なヒエラルキー」の幅は広く、席次にもその階級や役職が大きく関係し、また警察庁か警視庁かでも座るテーブルが違う。部署同士仲の悪いところはなるべくテーブルが離されていた。

余談ではあるが、この配置決定に3日を有している。

何はともあれ、今日ここがおそわれるようなことがあれば、警察による事件解決は難しくなる。室井が危惧するのはこれだ。爆弾テロ、営利目的の人質事件・・・。様々なケースが予想され数十に及ぶ配置パターンが考えられて、警備にあたる警察官も本庁選りすぐりで構成された。

この指揮本部長を担当したのは警察庁警備局参事官・加賀シカオ。警察庁でも第二東大首席卒の有能なエリートである。総監も次長も彼ならば、と安心して任せていた。加賀自身も気酔いはなく、作戦本部となったホテルの一室で、各所に配置した警察官及び監視カメラを睨んでいた。

「どうかね?加賀君」
礼服姿のまま警察庁警備局長が、作戦本部に現れた。

「はっ。完璧です。捜査員の配置も既に終了しています」

「さすがに400人近く捜査員を投入しただけはある。加賀君、君の手腕如何によってはしかるべきポストへの昇進を約束すると長官も次官も言っておられた」
加賀は答えずにただ頷く。
「では私もそろそろ会場に向かう。あとは頼むよ」

「わかりました」

披露宴の開始時間まであと1時間を切った。会場には既に半数の出席者が席についており、開始が待たれていた。そして、すべての席に出席者が座し、開始時刻となる―――。

新郎新婦席から見て左手の演台に、司会者が立ち、マイクのスイッチを入れる。末席の方ではその姿にどよめきが起こった。無理もない。数々のヒットバラエティー番組の司会をこなす、元局アナウンサーが立っていたのだ。彼はたとえ大物俳優の披露宴であってもなかなか司会をしないことでも有名だ。その彼が今回司会を勤める。
『御列席の皆様、大変長らくお待たせしました。ただいまより田辺イチロウさん、梶原サチヨさんの結婚披露宴を開始させて頂きます。この良き日に僭越ではありますが、本日の司会を請け負うことになりました……』

湖岸署は、平常通りの業務が進んでいた。今朝、警備局参事官の名でメールが届き、

『所轄は披露宴警備に関しては一切の関わりはせず、通常業務を続ける』
と念を押されていた。

「どう思うかね、袴田君」
湖岸署刑事課に神田署長と秋山副署長が来て、袴田となにやら相談していた。

「署長しかしまずいですよ。今朝も関わるなとメールが届いていましたし」
と袴田。

「しかし君、ここで花の一つでも贈っておけばね、僕も春の人事で昇進させてもらえるかもしれないじゃないか」

「しかし署長、あのメールは加賀参事官の名前で正式な通達でした。逆に降格も考えられます」
とは秋山である。

「署長、今回は見送りましょう」

「……そうだね。それじゃあみんな、今日も頼むよ」
たっぷりと間をおいて言ったあと、神田は笑顔を振りまきながら刑事課を出ていった。

「こういうことでも『所轄はあっち行ってろ』か」
呟いたのは青島だ。

「そう言うな、青島。お前、新郎か新婦と知り合いか?」
と、柏木に書類の書き方を注意していた和久が、青島の呟きに反応して言う。

「いえ」
姿勢を正して、軽く答える。

「だろ?そんなことよりお前も早くいい人みつけろよ」

「いいですよ、俺は。仕事が大変ですから」

「……はりきりすぎるな、青島。室井もお前も一生独身でいるつもりか?」

「いつかはしますけど、今はいいですよ」

他愛もない会話が続けながら、通常業務をこなす一同。今日も刑事課は小さな事件がいくつも舞い込んでいた。

しかし、突然、その日の夕刻に事態は一変する。最初にその異変に気がついたのは交通課の婦警と雑談していた、盗犯係の恩田刑事である。彼女たちは窓際で立ち話をしていたが、外から聞こえる轟音に形のいい眉をしかめた。

「お、恩田さん、あれ……あれ見て下さい!」
一人の婦警が窓の外を指さす。その先には、湖岸署屋上のヘリポートを目指して、『警視庁』と書かれたヘリが飛んできていた。

「ちょっと、何よあれ」
そう言い恩田は階段をすべりおりる。

次に異変を感じたのは、正面玄関で立ち番をしていた森下巡査と緒方巡査であった。

「おい、森下……あの車、こっちに向かってきてるよな」

「だよな」
彼らが見つめていたのは、列をなしてこちらに向かってくる何台もの覆面パトカー及び乗用車である。中には見覚えのある車もあった。捜査一課の車である。夢見心地な自分が幻覚や幻聴を体験しているのではないかと思い、二人は耳を叩いたり眼鏡の曇りをとって聞き直し、見直しても状況は変わらなかった。

それは現実なのだ。

「ほ、本店の大移動か?」
しかしその疑問に答えられる者はいなかった。

時間を少しだけ戻す。
報告が警察庁に上がってきたのは、午後2:00になってからだった。上級官僚たちがいない庁舎で残された数名の官僚達が自分の職務を全うしている中、それが警視庁から送られてきた。

書類は公安部部長のサインがなされている。それをみた警察庁庁舎に残っていた警察官僚は全員青ざめた。

室井の所にも程なくそのコピーが届けられた。

『本日、午後1:32、警視総監・警察庁次長の子息令嬢の披露宴が行われている第二プラトンが、何者かによって占拠される。当初、セキュリティーコンピューターの異常による事故だと目されていたが、ホテル外周警備中の本庁捜査員の数名が異常を察知。ホテルが占拠されたことを確認。現場の警備部警備一課三係係長が突入を命令する。その際多数の負傷者を出したが突入は失敗。現在ホテル内部への進入ルートはない。またその後犯人と思われる組織・人物からの要求や不振な連絡は、警視庁には届いていない(午後1:53現在)。公安部はいくつかのマークしていたテログループを調べている最中。これを重大事と受け止め、警察庁にも応援を要請する』

「やはりなってしまったか」
書類を置いて彼は立ち上がった。

午後2:13。

部下の一人に公用車を回させて、急ぎ警視庁へ向かった。そしてエレベーターで公安部の部室へ走る。

自動扉が開くと、一番に大声が聞こえた。

「公安部はいったい今まで何をやっていたんですか!いいですか、公安部はただのお飾りじゃないんだ」
室井はその聞き覚えのある声に反応し足を早めた。

「やめるんだ」
公安部長に掴みかからん勢いで怒鳴りつけるその男に向かって叫ぶ。そこでそこに居合わせた全員の視線が室井に集まった。

「室井…参事官」
呟いたのはかつて彼の上司であった警視庁捜査一課課長・島津ヨシヒサであった。相変わらず半白髪の頭で、現場で培われた独特の雰囲気で立っていた。

「室井さん、これは警察・警視いや警察史上始まって以来の汚点だ。この事態に公安部は悠長すぎる」
徹底した怜悧な印象を持つ、目つきの鋭い男が今度は室井に対して毒を吐いた。

警視庁捜査一課管理官・新城ケンタロウ。それが彼の名だ。彼は煮え切らない様子視線をはずした。

「失礼します!各係からテログループの動向調査の報告書が来ました」
と、公安部長のデスクに数枚の書類をおいた。黙り込んでいた彼は急ぎその書類に目を通す。そしてその書類を投げ出すと、頭を押さえた。

「どうやら公安部で押さえてるテログループの犯行ではないようだ。引き続き公安部はテログループの線で追ってみる。現場は君たちに任せる」

「行くぞ、新城管理官。特捜だ」
踵を返すと、振り向かずに歩き出す。特捜とは特別合同捜査本部のことである。警察マニュアル通りなら、事件発生から通報、緊急配備から初動捜査の流れを経て、所轄署にこの特捜本部が設置されるのだが、今回は特別な例外に属するだろう。何しろ幹部の大半が人質となっているのだ。

室井のあとを島津、新城そして捜査一課の捜査員が続いた。

「特捜本部は湖岸署に設置になりますね、参事官」
横から島津が歩きながらいった。室井の眉が動く。

「湖岸署か……」
そうとだけ室井は呟いた。

午後2:28。
警視庁に残っている刑事部の捜査員が召集され、湖岸署への特捜本部設置を命令された。この時点で、誰が指揮をとるかが問題になった。

「私が警視庁から指揮しよう」
そこに現れたのは、警備局局長補佐であった。警察庁警備局局長はいわゆる傀儡だという噂がある。この局長補佐が実務をしきっている。鋭い眼光を持つその男は眼鏡でそれを遮断していたが、殺気だった雰囲気がその場の空気を引き締めた。

「局長補佐!ご出席なさらなかったのですか?」
聴いたのは新城である。

「ああ。最悪のケースも考えられたからな。私は局に詰めていた。まさかこうなるとは」
嘲笑するような仕草で彼が言う。そして全員に視線を巡らすと、彼は続けた。
「現場本部長は室井君、君にやってもらおう」

「私が、ですか」

「そうだ。無論、この事件を解決すれば相当の点数が君に与えられるだろう。頼むぞ」
所詮、警察も点数社会だ。出世は試験とこの点数で決められている。特に捜査の花形、捜査一課ではその点数稼ぎの思想が強く、捜査員同士が自分の出世の為に情報を隠し、結果的に捜査の解決を遅らせている。事件解決が目的なのか、点数稼ぎが目的なのか、彼らは見失ってしまっている。

この発言に、室井はこの警察での矛盾を再確認したが、局長補佐の言葉の裏を読んでその思考も止まった。成功すれば評価は高いが失敗すれば降格どころの騒ぎではない。

彼の顔は明らかに室井の失敗を望んでいた。室井は足を止め、その場に立ちつくす。その横を新城や一課の捜査員達が追い抜いていった。

「厄介な方に目をつけられましたな、参事官」
島津の声は同情を含んでいた。そしてその島津も彼の前を歩いていく。

午後2:45。
警視庁より、特別合同捜査本部要員として147名の捜査員が数十台の車と数台のヘリに分乗して出発した。行き先はもちろん、特捜本部が置かれる警視庁管轄湖岸署である。


披露宴は恙無く進み、順調そのものだった。そして長くなるであろう、田辺の上司達の祝辞が始まった。彼や父親・義理の父までが頭を悩ませたのがその順番である。

最初からの順序は非常にスムーズなものだった。警察庁長官、長官官房長、副総監……。問題なのは階級・役職が同じの部署の違う官僚だ。
様々な意見交換がされ、やっと決定した順番がこれである。

恙無く、本当に恙無く終わるはずだった。

突如、会場は暗転した。しかもまだ祝辞の途中だ。一瞬、ざわめきが起こり、会場内に配置された警備の捜査員達に緊張が走る。だが、すぐに照明がつき、そこに居合わせた全員の無事が確認された。

『会場内、異常なし!』
会場の警備主任が全員の報告を受けて、本部にいる加賀シカオ参事官に報告した。だが、本部では別の問題の噴出に焦りそして困惑していた。

「もう一度報告しなおせ!なんだ?それはどういうことだ!?」
加賀はジャケットを脱ぎ捨て、ホテル入り口を移しているカメラを主モニタにうつして、拡大した。

そこには騒ぎを聞きつけ、ホテル関係者やカフェに居た客、そして制服・私服警官が入り口を叩いている。

『正面入り口扉、開きません!!ホスコンで管理されているはずのホテル管理システムが何者かによって乗っ取られた模様!既にシステムルーム、警備室とは連絡不通!内部からか外部からかも不明!!』
中の捜査員の一人が、大声で報告する。彼も焦っているようだ。その声の後ろで、客の騒ぐ声や必死に落ち着かせようとする捜査員の声、そしてフロントマネージャーに詰め寄る者の怒号が響く。

「外部との連絡は?」
本部にいる部下に訊く。

「電話回線、元から切られているようです。携帯の電波もシャットアウトされています!!」
加賀はその報告に立ち上がった。

「シャットアウトだと!?どうしてそんなことが可能なんだ?……誰でもいい。ホテルの捜査員窓を破らせろ!!」

『無理です!全窓に強化ガラスを使用しているようで、人間の手で破ることはできません!!』

「ホテル支配人を呼んでくれ。最悪の事態だ……」
うなだれた様子で、加賀はかろうじてそれだけ言った。

10分後、こちらも焦りで発汗し続けているホテル支配人が現れた。

「お聞きします。このホテルのセキュリティーはどうなっていますか?」

「はい、建設当初よりパシフィック・システム社が開発しました、総合警備システムを使用しています。これは全部屋を一台のホストで管理する画期的なシステムで」
「ご託はどうでもいい!そのホストの暴走と考えられないのか?」
加賀は苛立ち、語気を荒げる。

「それも考えられますが、内部・外部からシステムに何らかのアプローチをしているかもしれません」

「くそっ、外部とも連絡がとれない、原因も詳細不明。どうしろと言うのだ!?」
加賀は机を叩いた。

午後3:23。
警視・警察庁を出発した全車両が湖岸署に集結した。室井は部下に車を任せると、湖岸署の正面入り口に移動する。玄関では、緊張した面もちで敬礼を送る緒方・森下両巡査がいた。
彼はそれを確認してから湖岸署に入った。受付には既にこの騒ぎで何人かの湖岸署警官が様子を伺っている。

「通常業務を続けて下さい」
室井は極めて落ち着いた声でそう言い歩みを進める。

そこへ、腰を低く神田署長が降りてくる。その後を秋山副署長、袴田刑事課長が続く。いつもの3人である。

「いやぁ、これはこれは。室井参事官。お久しぶりでございます」
愛想笑いで彼は丁寧に挨拶する。彼も上司に対する点数稼ぎしか考えていない。室井は3人のこの態度だけは気に入らなかった。彼らとて所轄の意地は持ち合わせているが、出世欲が強く、青島や和久、恩田のように“所轄のやり方”を全面に押し出してこない。

彼らには青島の上司である以上、所轄の意地を貫いてほしいのだが。

「緊急の事件が発生しました。事件については上でお話します。……捜査本部設置をはじめてくれ」
室井は背後に控えていた部下に指示を出す。

「それではぁ、とりあえず署長室へどうぞ」
神田が案内した。

絨毯敷きの署長室に通され、ソファーに座る。ほどなくして一人の婦警がお茶を運んできた。見覚えのある顔だ。確か交通課の婦警である。
「ありがとう」
と彼女だけに聞こえるほどに礼を言うと、彼女ははにかんで軽く頭を下げて署長室を出た。

「で、緊急事件とはなんでございましょう?」

「・・・第二プラトンで警察関係者の披露宴が行われているのはご存じでしょうか?」

「ええ。あのー、総監のご子息の」

「ホテルが何者かによって占拠されています」
3人は目を丸くして同時にのけ反った。このあたりのタイミングが揃っているのも不思議なものだ。

「それはあの、まさか警察庁の方々、並びに官僚の皆様が人質になっているという……」

「断定はできません。まだ犯人からの要求はありません。しかし十分に考えられる事態です。そこでこの湖岸署の大会議室に特別捜査本部を設置させていただきたいのです」

「いやぁ、それは構いません。秋山君、大変なことになっちゃったね」
室井に言ったあと右隣に座っている秋山に声をかけた。

「参事官、我々に何かお手伝いできることはありませんかね?」

「いえ。今回の作戦は警察庁より警備局局長補佐が指揮し、そして私が本部長を勤めます。……今回は本庁の捜査員で事件にあたるそうです」
彼にとって、これは辛酸をなめさせられているようなものだ。青島と約束したことに反するからだ。明らかに現場の刑事を無視した作戦だ。そしてその本部長に彼を据えた。

室井は立ち上がって、3人に軽く頭を下げると本部である大会議室に向かう。

―――厄介な方に目をつけられましたな、参事官

そこに島津はいなかった。だが1時間程前に彼に言われた言葉が不意に思い出された。彼は知っていたのだろう。所轄の側にたつ異端児的存在の室井を、局長補佐が毛嫌いしていることを。

階段を降りていくと、そこには懐かしい顔があった。青島シュウサク。室井の腐れ縁の友。

「室井さん、なんかあったんスね?」
彼は近づいてそう言った。

「あった。だが今回の捜査は本庁のみでやることが決定されている。青島君、君は通常業務だ」

「また本庁だけ、ですか?……室井さん!」
今日は何もかもが『本庁』、『本庁』だった。今に始まったことではないにしろ、この忙しさも相まって、青島のフラストレーションは限界に近かった。そのことは室井にもよく分かっただが。

「すまない。こればかりは私にもどうすることもできない」
そう。どうすることもできないのだ。或いはこのまま事態が最悪の方向にいくようなことがあれば、自分は間違いなく今の地位を追われるだろう。そうなれば約束も守れない。そんな愚痴をいう心の弱さを、室井は振り払うように背を向けたままで、大会議室へ向かった。孤独な戦場に向かう兵士のような背中で。

「室井……さん?」
彼の心配げな声が聞こえたが、最後は遮るように会議室の扉が閉まった。

「室井さん、さきほど警視庁宛に犯人からファックスが届きました」
会議室の前方で、新城が言う。室井はコートを脱ぎながら小走りで駆け寄った。島津からそのコピーを受け取るとその文面に目を通す。

文章にこれといった特徴はなかった。まさにセオリーにのっとった文面だ。どこにでもマニュアルが存在する昨今、誘拐にもマニュアルがあるのではないかと思われる。

「使用されている用紙、プリンタ、そして文面を書いたソフト、共に一般普及が一番高いものを使用している。ファックスは巧妙に送り先が分からないようになっていた」
と島津。

「かなりコンピューターに精通したものの犯行かと思われます」
捜査員の一人が言う。

『室井君、公安からは情報はない。身代金人質事件の1からの捜査になる。現地本部の初期設定をマニュアル通り終了してくれ』
スピーカーを通して、局長補佐の声が響いた。室井には彼が警察庁会議室でほくそ笑む姿が浮かんでならなかった。

「了解しました」
思わず持っていた紙の端を握りしめた。顔を上げ、ブラインドの降りた窓に目を向けた瞬間、視界に口の端をつり上げて笑う、新城の顔があった。

室井はこの場所にあって孤独を実感した。

さて、警察の身代金誘拐事件マニュアルには通常の初期設定に加え、人質の身の安全を第一に考えられた事項が追加されている。最後に記者クラブとの報道協定を結ぶことで終了する。しかしながら今回の場合、規模は尋常でないことと、監禁されている場所が明確であるということが例外である。

閉じられた会議室の扉の前で、青島はただ立ちつくしていた。その胸にあるのは、先ほどまで見ていた、完全孤独な檻に入れられた翼をもがれた鷹の姿であった。もちろんこの鷹とは室井のことである。

「青島」
背後で、重厚に彼の名を呼ぶ声がした。和久である。明らかに彼は青島の心配をしていた。

「和久さん……。室井さん、追いつめられてます。俺、何か何かできませんかね?」
青島は和久に詰め寄る。

「落ち着け。いいか、青島。室井はキャリアでも上の人間だ。今どんな事件が起こっているのか知らねぇ。どんなに厳しい状況に立たされていてもな、あいつが助けを求めてくるまではお前は動いちゃいけねぇ。お前が勇み足すると、室井に迷惑がかかるんだ」

「でも和久さん!」

「指導員の言うことは聞け!……お前、約束したんだろ?室井は上にいく、お前は下で頑張る。その約束をお前の勇み足で無駄にしちまっていいのか?」
和久は冷静だった。誰よりもこの状況を把握している。厳しい視線を青島に注いで一言一言に重みを持たせていたが、急に表情を和らげた。
「なんてな。いくぞ、青島。支店には支店の仕事がある」
言い終わる前に和久は歩き出していた。数歩遅れて青島もその後を追う。しかし、すぐに振り返って、大会議室の扉に見入る。数秒、何か思うような顔でみつめたあと、大股で走り出し、和久の後を追った。

彼らはまだ、どんな事件が起きているのか知らなかった。マニュアル通りならこの秘密裏の動きは人質事件のはずだが、誰がどのように監禁されているのか分からないのだ。

二人は刑事課に戻った。

「あー、青島君、和久さん!」
課長のデスクに、袴田と真下、魚住、柏木の4人がいて、二人が刑事課の入り口にくると袴田が手招きした。

「課長どうした?」
訊いたのは和久だ。

「いやぁ、大変なことになったよ和久さん」

「だから何だよ」

「実は第二プラトンが何者かによって占拠されてるみたいなんです」
と真下が説明する。

「占拠!?」
聞き慣れない言葉に、青島が驚いた。

「だから本店が慌ただしく動いてるのか?」

「そういうこと。でもウチは通常業務だよ。青島君、くれぐれも捜査の邪魔しないように。頼むよ」

「そ、そんな!課長、なんかやらせて下さいよ」

「青島っ!」
和久が彼の腕を強く引っ張った。そしてきつく睨んで首を振った。

「……わかりました」
まだ納得いかない様子だが、一応は返事した。

「じゃぁ、通常業務!いいかい?このままだと正月ないよ、みんな」
袴田は全員に仕事を促すように、手を叩いた。

「じゃあ、係長代理、さっき通報があったところ行きましょうか」
真下がコートを取って言う。

「はい」
と魚住。二人は刑事課を出た。

「じゃぁユキノさん、この前の傷害事件を裏付け行くぞ」

「はい、和久さん」

「何事も勉強だよ」
そして、刑事課に強行犯係は、青島一人になった。彼は回りを見回したが、他の係も忙しそうにしてる。横を通りすぎた恩田も、窃盗団の検挙で動き回っていて、側にいる彼に気づいていないらしい。彼は口の端をつり上げて笑い、細心の注意を払いながら、刑事課の入り口に移動する。ゆっくりゆっくりと。

観音開きの扉までたどり着くと、後ろを確認する。

「聞き込み行って来まーす」
小声でいい、彼は走り出した。

「ちょろいもんだねぇ、ウチの署撒くの」
青島は軽い足取りで、湖岸署を出ていった。

「状況報告」
何度目かの捜査、いや作戦会議が行われている、大会議室に、本部長・室井の声が響いた。

現場から戻ってきた二人の捜査員が立ち上がり、会議室のカーテンが閉まる。そして30分ほど前のホテルの様子が投影された。

「ホテル内への侵入は不可能です。既にホテルを建設した会社の方にも設計図の類は残っていませんでした」

「先ほど特科車両隊との連絡がとれました。すでに機動九隊とともに待機しています」

「ホテル外周の状況は」
「現在投影している通り、野次馬のホテル敷地内への侵入は押さえていますが、目下外周捜査員が内部へ侵入できたとの報告は入っていません」

「参事官、どうなされますか?」
島津が顔を寄せて訊く。

『強行突入しかあるまい、室井君』
大会議室のスピーカーに、忌々しい声が流れる。

「しかし局長補佐!中には警察関係者の他にも、多数の一般客がいます。ここは身代金を用意すべきです」

「じゃあどこに25兆円なんて莫大な金があるんですか、室井さん?」
新城が吐き捨てた。それは室井にも分かっていた。分かっていたが、しかし。

「人命が最優先だ」
点数と出世しかなくなった本庁で、彼は警察の根元をなくさなかった。警察はレスキューではない。がしかし国家を守護する組織だ。国を守ることすなわち国民を守ることである。室井は言った後、どうしうようもない威圧の視線が集中していることに気がついた。

『……室井君、警察官はいつ死ぬか分からない覚悟をしなければならないことは知っているな?』
唐突な質問だった。だが、局長補佐の言うことは正しい。警察官は捜査に関わる以上、常に死と同居しているのである。

「はい」

『それは捜査員に限ったことではない。総監も長官も、常にその危険にさらされているのだ』
実例が記録に残っている。たとえ官僚である警察庁長官でも突然路上で撃たれることがあるのだ。
『ホテルに残る長官も総監、並びにその他の警察官も分かっているはずだ。我々はいつ死ぬかわからない、そして君が言うように、民間人の人命が最優先だと言うことにね』
あの局長補佐の顔が目に浮かんだ。

「お言葉ですが、局長補佐!この事件は脅迫状からも分かるように、明らかに警察関係者をねらったものです。下手をすれば民間を巻き込み、披露宴会場を爆破するおそれもあります」
反論したのは新城だった。

『新城君、君は出世したくはないか?』

「は?」

『まぁいい。現場はこちらの指示に従えばいい。室井君、捜査員を数名ホテルへ向かわせたまえ。既に今、特科と九隊が出動した』
独善的にまくし立てて言う。

「分かりました」
まさに苦虫をかみつぶしたような顔のままで、彼は続けた。
「捜査一課特編は、直ちにホテルへ向かって下さい。特科と九隊の活動を支援。あとの者は引き続き、犯人グループの洗い出しに専念してくれ。以上で捜査会議を終了する」

会議室が慌ただしく動き出した。残っていたホテル警備に回らなかった捜査一課のメンバーを特別に編成した特編係で、現在事件にあたっている。他に、科研(科学捜査研究所)、国捜(国際捜査課)が中心になって犯人の選定にあたった。

会議室には、室井、そして新城、島津らが残った。

『室井君、これ以上の遅延は許されない。事は一刻を争う。……先ほど戦自から応援の売り込みがあった』
基本的に戦自(戦略自衛隊)がその指揮権を内閣総理大臣直下にあるのに対し、警察は総理の管轄下にあるものの、間に国家公委員会がある。指揮系・命令系はここが預かっているのだ。それに関係しているかは不明だが、警察と戦自協力体制というのは確立されていない。

現状、仲がよいほうだとはとても言い難く、こうした人質事件それも政府高官・著名人が捕まっている場合は、戦自との手柄争いが水面下で発生する。

「しかし!」
眉間の皺、額の血管。室井はこの上司の講じる対策すべてが最善策には思えず、既に我慢の限界に来ていた。

『忘れるな!所詮君も組織の駒でしかない。現場の捜査員がポーン(兵士)なら、君たちはビショップ(僧正)やナイト(騎士)だ。上の決定に従え、室井!』
それが本心なのだろう。だが警察のヒエラルキーはそのような構造の上にある。変えられない、組織構造が。

室井は、合掌した親指で眉間を押さえ、やるせなさを沈めようとした。だがうち寄せるその波は一向に静まる気配を見せなかった。


揺るぎない夏が当然だった時期があった。汗をハンカチでふき取り見上げる、年中照り輝いていた太陽を、青島は今でも覚えている。

ネルフが、サードインパクトの危機を回避させた頃、彼は突然勤めていた会社に辞表を出した。中小企業のコンピュータメーカーの営業マンとして、入社から退社まで成績はトップだった彼は、ふとしたことで物を売ることに疑問を感じ、そしてその毎日に嫌気を感じた。そして辞表である。

彼が転職に選んだのは刑事だった。やる気と熱意で、交番勤務から内勤へ。そして配属されたのが、今の湖岸署だった。

今、青島はタクシーに乗っていた。流れる景色に目をやりながら、ふと過去を回想していた。

「あ、お客さん、ここから行けないよ」
我に返ったのは、路側帯沿いに停車して、振り返らずに言った運転手の言葉によってだった。車が止まったのは、第二プラトンまで約100mの地点だった。湾曲したデザインのプラトンがフロントガラス越し見えている。

「あ、運転手さんここでいいや」

「ほいよ。それじゃ、2480円だ」
青島は一瞬黙ってから、千円札を三枚出して、苦笑いする。

「領収書、頼むね」
釣り銭と領収書を受け取ると、彼は礼を言って、車外へ出る。鞄を肩にかけ直して、プラトンを見上げた。曇りだした灰褐色の空に、彼には奇抜にしか見えない曲線的な建物があった。

「これ、経費で落ちるかな……。自腹だろうなぁ」
彼の心配事は余所にあった。趣味で集めている時計。それを買い込んだ所為か、今月彼の財布は寒かった。それでなくても最近、会計課の査定が厳しくて経費で落ちるものが減少しているのだ。

刑事とて会社員と変わらない。
考えたくないことだが、こういう現実的な事態に直面してしまうとそうも言っていられない。青島は苦笑いしながら、モッズコートのポケットにそれをねじ込む。

「うっし!」
小声で気合いを入れると、何食わぬ顔をしてホテル入り口付近にできた黒山の人だかりに潜り込んだ。
入り口は、警視庁の札がかけられたロープによって仕切られ一般人は中に入れないようになっていた。野次馬の一人が立ち並ぶ本庁の刑事の一人に何があったのか尋ねている声に、彼は聞き耳をたてた。

「さがりなさい。大変危険です。ホテルのどこかに爆弾が仕掛けられたという予告があったんです」
つきやすい嘘だろう。本庁もこのどうしようもない事件に、混乱しているようだ。

(大変だな、室井さんも)
心の中だけでそう言うと、彼は人だかりを離れて、煙草に火を付けた。

「青島さん!」
前方から聞き慣れたアルト系の声がした。黒系のスーツを着た女性が走り寄ってきた。

「片山さんか。久しぶり」
片山サキ。一般紙で様々なスキャンダルを公にしてきたが、その尻拭いで最近夕刊紙に移動させられた敏腕記者である。天性とも言うべき観察力の鋭さと、瞬時の状況判断で常に一つ先のことを見ている女性だ。

ところで、所轄は様々なところに情報源をもっていなければならない。本庁から所轄に降りてくる情報は限られている。その中で捜査しなければならない現状に、青島は独自のネットワークを作り上げた。そして彼女もその「情報屋」の一人である。

ショートカットで、ヒールのほとんどない靴を身につけている。彼女は青島の、高校時代の後輩に当たる。

「やっぱり事件ですか?」

「いやぁ……まあね」
青島は曖昧に返事した。彼女はそれを聴きほほえむと、青島に近づいてこう囁いた。

「ホテル占拠に関する情報、ほしくないです?」

「えっ?」
彼女は微笑んだ。青島は付近を確認して、他人に聴かれないであろう場所を探した。
「……。片山さんちょっと」
人だかりを離れて、ホテルの道沿いの、人気の少ないところに歩いてきた。そして立ち止まったところで、最初に口を開いたのは片山だった。

「親会社から通達が来ました。この事件にはノータッチでいろって。それで、いろいろ調べてみたんです。そうしたら、すごくきな臭いことがわかったです」
腕を組んで彼女は、ホテルの方向を見つめた。

「きな臭い?」

「ええ。ホテル占拠に関わっているのは……ある警察関係者かもしれないって」

「なんだって?」
声が裏返る。

「ここの警備システムを納入したパシフィック・システム社、実はある人物の天下りに指定されてるんです。まだ現職の警察官僚ですけど」

「誰だか教えてくれないか?」

「もちろん。青島さんにはお世話になってますから」
彼女との間には、彼女が今の夕刊紙に移動してから協定のようなものを結んでいた。相互に情報をやりとりし、互いの有益を考える。それが二人の約束事のようなものだ。
「現警察庁警備局局長補佐。彼の天下りに用意されたのがこの会社だと聴いてます。既に社長や幹部とは何度か個人的な接触はしてるみたい」

「じゃあ、まさか……」

「絶対とはいえない。でも疑惑はぬぐい去れないわ」

「すごい情報じゃないか!片山さん、ありがとう」

「どういたしまして。でもこちらにも情報お願いしますよ」
そこで、彼女は、一瞬で表情を仕事の顔から、個人の顔に戻った。
「なんか、先輩に片山さんなんて呼ばれると照れくさいですよ、やっぱり」
片山は、セカンドバックを肩にかけ直すと、心なしか頬を上気させてうつむいた。二人がこんなに親しいのは、高校時代の先輩後輩の仲であるからだ。

「いや、感謝してるよ。片山が新聞記者になってくれたお陰でこうして情報が得られるんだし。片山サキ様々だね、ホント」

「青島先輩!」

「こりゃ失敬」
青島は肩を竦めた。

「じゃぁ追加で何か情報が手に入ったら連絡します」
彼女は律儀に頭を下げた。

「よろしく頼むよ」
彼女が乗るべきタクシーを止めて見送ると、青島はもう一度ホテルの外観を見上げて目を細くした。眉間の皺がどことなく室井を思わせる。彼はまた少しよれた煙草を1本とり出し、口にくわえる。そしてマッチを持ち、慣れたというより既に自然な動きでその煙草に火を付ける。

肺の中に煙草の煙が入り、どこか高揚感に似たものを感じる。そしてそれを空気中へ吐き出した。

「さてと・・・どうするかな?」
彼の真剣な表情は長くは持たず、すぐにおどけた表情になってしまった。
「とりあえず行こっか」
誰に語るわけでもなく、青島はホテルの方へ再び戻った。

湖岸署の大会議室は空気が凍てつくブリザードのようだった。先ほど二回目の連絡があった。今度はメールによるものだ。発信源を探ったが、プロバイダーが海外にあり、しかもそこの個人情報は絶対に漏洩しない。たとえ捜査の為でもそれは不可能だった。徹底した個人情報の管理で、プライバシー保護を謳っている。

室井はこのうえない苛立ちと戦っていた。自分に、やりきれない命令に、この本庁のサラリーマン刑事たちに、そして何より片鱗すらも見せない犯人グループに。

それを落ち着かせるように、彼は今までの警察官人生を回想した。だが、重大事件と関わっているので、ふけることはなかったが。

彼が警察官を志したのは、中学の頃だった。彼の父は警察官僚。そして箱入りのエリートではなかったが、既に出世の道を約束された人物だった。

彼はそんな父の仕事に疑問を抱いていた。幼い頃から、警察の機構について少なからず理解しようと努力していた。そしてその矛盾に気がついたのが中学卒業当時。所轄署の署長を経て、本庁に戻った父が、そのついた椅子によってころころと意見・主義主張を変えていく姿に、それを見た。

何故警察官は自分の信じた道を進めないのか。

父はそれに悩むことなく、「優秀な官僚」として、方面本部長の椅子を獲得し、数年間居座った。
室井が大学に入り、国家公務員上級職試験に合格し、警察官になることを告げると、父はその舞台から降りた。一応は父親だったと言えるだろう。彼にもすぐに察しがついた。彼が本庁に入庁し出世するのが、父親の力によるものだと思われ、彼本来の実力が認められないことを避けたのだろう。

密かに彼は父に感謝した。官僚としては型にはまりすぎていた父に。

それから室井も知らず知らずの間に型にはまっていた。睡眠時間などほとんど与えられないような生活の中で、彼は彼の理想を忘れかけていた。

しかし、彼は親友との再会、そして現場での経験がその彼の理想を呼び覚ますことになる。

警視庁捜査一課管理官。彼がそのポストを与えられたのは、出世コースに乗せられたことと同義だった。ある種、一番「彼が擦れていた」時期だ。しかし室井はそのポストについたとき、ある刑事と出会った。それが青島シュウサクという男である。

型にはまった官僚に成り下がっていた彼を、青島は衝突を繰り返し、彼が纏わされた鋼鉄の鎧を破壊した。その理想を外気にさらしたのだ。

そしてある時、彼らはある約束により、その理想を共有した。その約束の為、彼は時には自分を押し殺すことも厭わず、ただ上を目指した。だが、彼の理想はこの型に押し込んだ警察において疎ましい存在でしかない。

室井は参事官になるまで、やはり多くの敵を作ってしまった。

その結果が、今こうような形で顕れはじめていた。

『まもなく、現場に到着します』
特科車両隊と機動隊九隊に合流した捜査一課のチームから連絡が入ったのは、本部の動きを嘲るかのような犯人グループからのメールが届き、約15分後のことである。我に返った室井は、幾分胸のつかえが和らいだような気がした。彼は自分の席につく。

続いて本庁の捜査員が一斉に所定の位置についた。

「よし、裏口から入れ。正面は民間人で溢れている」
室井はマイクのスイッチを入れるとそう指示した。

『室井君。ご苦労だった。ここからは私が指示する』
局長補佐の言葉であった。室井は立ち上がった。

「何を言い出しているんです!私は現場本部長ではないのですか?」

『重要な局面だ。そんな場面を君に任せられるほど、君は責任をとる地位にはついていない!』
強い断言であった。

そう。彼には責任を取れるほどの地位はない。まだまだ中間管理職なのだ。だが、彼にもプライドがあった。

「私が現場本部長です!裏口で待機!!」

『室井の言うことは聴かなくていい!すぐに突入しろ!!』

「いい加減にして下さい!局長補佐!!」
明らかに本部も現場も混乱していた。

『上司に向かってその態度とは!……失望したぞ、室井。警察社会の戒律も守れない駒はこの捜査本部に必要ない。出ていけ。島津課長、君が代理で本部長をしろ』

「……今出ていけ、と仰りましたか」
低く唸るように室井が言う。手にしていた資料が見る見る皺になっていく。

『そうだ。君の態度はこの作戦が終了次第、問題にさせてもらう。査問委員会だ』
警察には、内部不正を裁く査問委員会というものが存在する。だが、今はそのようなことを問題にしている場合ではなかった。今この瞬間にも、自分たちは現職の警察官を含む、数千人の命を天秤にかけているのだ。どちらかと言えば、室井の方が失望したと言っていい。
『いつまでもその場にいるな!出ていけ、室井!!』

室井は黙って立ち上がり、コートと鞄を手にすると、会議室の出口に向かった。

「参事官」
島津一課長がその後に続く言葉を押しとどめた。

「室井さん」
と新城。そしてマイクにスイッチを入れ、叫んだ。
「局長補佐、聞こえますか。新城です」

『何だ、新城君』

「今室井さんを本部長からはずすことは得策とは思えません。撤回して下さい!」
はじめてのことだった。新城は室井をライバル視、酷いときでは見下すほどだったが、その新城が室井を弁護した。

『指揮は私がする。君も余計な口を挟まずおとなしくしていろ』

「しかし!」

「やめろ!新城管理官。君の立場まで悪くなる」
顔を向けずにそう言うと、室井は会議室を出た。扉の閉じる音が断絶のようにも聞こえる。彼は深く深くため息をつき、肩を落とした。

「室井……さん」
顔をあげた先に、青島がいた。

「何をしている、青島。君は通常業務のはずだ」

「……すみません。今の話、聞こえちゃいました。……捜査本部、いられなくなっちゃいましたね」

「……イヤな上司だ。こんな事件なのに悠長なことをしている」
彼の前で室井は嘘や隠し事ができなかった。唯一本音で語り合える“仲間”だからである。

「……その上司って、まさか、警備局長補佐じゃないですか?」
探るような声で言う。

「何故知っている?」

「やっぱり。……室井さん、前みたいに足で捜査しましょうよ。俺達の手で事件解決して、あの局長補佐を見返してやればいいんです」

「青島」

「ちょっと凄い情報掴んだんですよ、俺」
彼はきょろきょろして人目を探ると、休憩室の方へ室井を促した。

ソファーと、昔和久巡査長に送りつけられた、時限爆破装置の付けられていた―――当然今は取り外されているが―――座椅子、そして自販機が置かれている休憩室に二人があらわれる。青島は室井に着席を促して、缶コーヒーを二本買い、一本を室井に差し出す。二人はほぼ同時にプルタブを開けた。

「情報、聴かせてくれるか?」

「はい。実はこの事件、警察関係者が首謀した事件じゃないかって噂があるんです」
なるべく小声で、青島は言った。そして室井の眉が動き、皺がいっそう凄みを増した。
「妙だと思いません?あれだけの警備ですよ?その監視の目をかいくぐるなんて配置を知らなきゃ、物理的に不可能じゃないですか?」
確かに青島の理論は正しい。本庁の人間すべてが、その基本的な見落としをしていたのだ。室井も、自分の危惧が的中し最悪の事態が発生してしまったことに気を取られ、闇雲に事件の無事解決だけを考えていた。

「俺、さっき見て来ました。ホテルの表ですらあれだけの警備がいるんです。普通手を出そうとは思いません」

「それもそうだな」
室井は全脳細胞を総動員して、事件のあらましを見直しながら、青島の言葉を聴く。そしてある一つの結論に及んだ。
「……警備配置を知っている……現職の警官、いや警察官僚か」

「ビンゴ!」
青島は微笑み、指さした。
「知り合いの新聞記者から聴きました。現警備局補佐の天下り先が、パシフィック・システム社らしいと」

「パシフィック……確かプラトンの一括管理システムを納入した会社だな?」

「そうです。室井さん、やりましょう。まずそこを叩いて、情報を引き出すんです。それからホテルの方へ」

「しかし!」
これは単独捜査になる。過去、訓告で済んだが、今度こそ青島と揃って懲戒免職だろう。だが、室井はすぐにそれを押しとどめた。局長補佐が今実働部隊の指揮もしている。青島の情報から予測されることは、『首謀者=警備局長補佐』だ。このままでは上の者の誰かに危険が及ぶ。そうなれば、自分に責任転嫁することだろう。そうなれば懲戒免職どころの騒ぎではない。
「……わかった」
室井が立ち上がり、青島も立ち上がった。

「名コンビ、復活ですね」

「腐れ縁だ。はやぐ行くぞ」
秋田訛りを交えて、室井が歩き出す。青島は苦笑いして頭をかくと、その後を追う。

「待って下さいよ!室井さん!!」


湖岸署から1台の車が出ていった。車種はファミリア03。警察庁の公用車でも、湖岸署の捜査車両でもない。青島の私物だった。実は駐車禁止で罰金を払うのを恐れた彼は、しばらく忙しくなるこの時期に、署の地下車庫の隅にこっそりとおいていた。

去年はそれで正月仕事が明けてから、真下と初詣に出かけた。

正月早々僕ら何やってんですかね、先輩、と真下が明後日の方角を見ながら言ったのを青島は今でも覚えている。

(ホント、正月早々何やってんだって感じだよな)

「こうやって乗るのは二度目になりますね、室井さん」

「ああ、そうだな」
言い淀むように室井は答えた。そのあとたっぷりと間をおいて続ける。

「だが一つだけ前と違うことがある」
言葉をかみしめるように言った。

「何ですか?」

「今回は失敗すれば懲戒免職どころの騒ぎじゃないことだ」
室井はため息をついた。

「そ、そうすねぇ~」
明らかに声が裏返り、掠れた。彼らの、いや今青島の行動には日本警察の威信と、警察の中枢がかかっていた。

運転に集中しなおして彼は思う。
(こーなりゃ自棄だ)
ギアを入れ替え、二人の乗るファミリア03はスピードが極端に上がった。公道は意外に車が多かった。青島は時計に目をやりすぐに納得する。

「ラッシュ、みたいですよ」

「そのようだな」

ありきたりのない台詞のやりとりが続く。

「で、青島君。どこへ行くつもりだ?」

「塩尻にあるパシフィックの本社ビルです」

「叩くなら大勢の方がいい。警察庁の刑事部を」
と携帯を手に取る室井。青島が左手で、それを制した。

「駄目ですよ!警察が行ったとなればガードが堅くなります」

「じゃあどうする!?」

「営業、かけるんですよ。俺、脱サラ刑事っすから」
子供のように笑う青島の横顔を見た室井は、一抹の不安が心によぎらせていた。

ラッシュ渋滞に捕まり、思うように車が進まず、パシフィック本社ビルについた頃には日が暮れていた。だが青島は自信に溢れた表情のままだった。

車を近くのパーキングに放り込み、顔を一度叩くと室井に言った。

「室井さん、俺が交渉して中に入れるようにします。だから室井さんは何も言わずついてきて下さい。あ、あとコートは車の中に置いてって下さい」
そして青島もモッズコートを脱ぎ、後部座席に放り投げた。

右眉をつり上げて、怪訝そうな顔をする室井に対し、青島は笑顔で答える。久しぶりに復活した名コンビは、まだ噛み合いを見せていない。

パシフィック・システム社。元は大電気機器メーカーの一部だったが、業務拡張でゲームハードに参入した時期に資金運用が大きくなり子会社の一部を吸収・分離する形で派生した会社である。

2・3年でコンピュータソフト部門で大規模な業務展開を行い、2003年、あっという間にその部門では世界トップクラスに入る。代表取締役社長は設立から2代目で政財官界にネットワークを持つ人物だ。旧東大閥の出身であるからとの見解が大半だが、真実は彼の努力によるところが大きい。そうしたネットワークを持つ割には、一頃世間を騒がせた『汚職』には全く手を染めず、クリーンな会社を貫いている。誤解のないように書くが、彼は国税局監査に対し、全面公開を行っている。会社の隅々までだ。

さて、警察官僚の天下りを受け入れるようになったのは、もちろんネットワークからである。2007年の、総合警備システムの基礎理論と試験機初号の製作には、科研(科学捜査研究所)が関わり、保有する犯罪資料のすべてをデータベースとしてシステムに保有させた。

そこから警察への繋がりを深めたのだろう。

本社ビルは先頃建て替えられた新社屋だ。

「よっし!」
青島は鞄から名刺を一枚出すと中へ進んだ。最近、『受付嬢』という職業はその影を潜めつつあった。それは大会社になればばるほどだ。すべてがオートメーション化されており、受付に女性が並ぶ必要もなくなったのである。

だが、パシフィック・システム社は敢えてその慣例には習わず、『受付嬢』を置いていた。これは先代社長の意向らしい。

「あの」
青島は真剣な表情で、目の前に座る女性に声をかけた。

「いらっしゃいませ」
彼女は微笑みかけた。

「あ、私信濃電子機器の青島と申します。すみません、開発課の高橋さんにお会いしたいのですが」

「高橋でございますね。少々お待ち下さい」
彼女は手元のキーボードを弾いて開発課に繋ぐと、受話器を取った。

「申し訳ございません。生憎高橋は既に帰りました」
彼女は本当に申し訳なさそうに頭を下げた。青島はその瞬間、大物をつり上げたような顔をした。

「あ、そうですか。じゃぁ開発課に入れていただいて構いませんかね?高橋さんに、先日よりお願いしていた資料を頂にきただけですので」

「はぁ」
受付嬢は少し怪しむような顔をした。

「そんな疑わないでよ。これ、名刺」
と青島は彼女に名刺を差し出す。名刺には『信濃電子機器営業一課 青島シュウサク』と書かれている。社章もしっかりと刻まれていた。
「ね?」

「どうぞ、お入り下さい」
彼女はエレベーターの方を示した。

「ありがとう」
室井に向かって頷いてから、青島は歩き出した。その後を室井が続く。

「お待ち下さい、青島様。そちらの方は?」
受付嬢に呼び止められ、彼は緊張するが肩の力を抜くようにして、受付に近づく。

「最近ね、ヘッドハンティングされてきたウチの主任。すっごく優秀だから。配属されたのがついこの前だからね。まだ名刺ができてないんだ」
こうなるともう青島のペースだった。彼女はそれ以上の疑いを持つことなく、再び二人に微笑んだあと、立ち上がって深く頭を下げた。

二人がエレベーターに乗り込む。

「こういうことははじめてじゃないのか?」
唐突に室井が訊いた。

「前に一度あります。あの岩瀬オサムを逮捕した時です。でも今回の方が楽でした。この前の内定捜査のときに作った名刺がありましたから」

「……所轄も大変だな」

「仕事ですよ、これも」

「で、どうする?」

「社長室に乗り込みます。まだ居るはずですよ。そういう男です、ここの社長は」
伊達に営業マンをしてきたワケではない。会社に潜入して捜査するにも怪しまれない裏には、青島が優秀な営業マンとしての才覚を持っているからであろう。そしてそれはこうした場面でも色濃くあらわれている。たった2ヶ月の内定捜査の間に、勤めた会社の内部事情はもちろん、ライバルから取引先まで、大概のことは熟知していた。

彼らはビルの最上階へかけ上った。

事件に、進展はなかった。突入を開始したはずの特編隊は、内部で足止めをくっていた。既にその半分は負傷し、近くの病院へと運ばれていた。

「管理官?」
島津一課長は先ほどから熱心に考え込んでいる新城に言った。

「あの人は何を考えているんだ。この非常時に」

「私にもわからん」

「それに室井だ。あいつはどうした」

「……そういえばみかけないな」
先ほど休憩に出たとき、島津は顔なじみの和久に行方を尋ねた。

―――見かけなかったな。ウチの青島がいないのと何か関係があるのか

青島と訊いて、彼も嫌な予感がしていたが二人で何ができる訳でもない、そう思い島津はそれ以上考えなかった。

「組織の駒。兵隊は所詮兵隊か」
新城は押さえきれない怒りを拳に込めて耐えていた。

最上階には社長室のみだった。既に日は落ちる寸前だった。秘書はいないようだ。

「本当にいるのか」
室井は酷く落ち着いた声で、青島に視線を向けながら言った。

「行きましょう」
二人は社長室の扉を開く。

そこは広い、整理された部屋だった。絨毯敷きのすべての音を飲み込んでしまうような空間。横長の外気を入れる機能を持たない窓に、社章が刻まれている。そこに映る景色は、夜の第二東京の明かりが、地上に舞い降りた色とりどりの星のように見える。
部屋には大理石製の机を囲むようにしてソファー、そして社長の机があった。そして、黒革張りの座椅子が背もたれを見せていた。

「何だね、もう帰ろうと思っていたところだが……何だね、君達は」
振り返った座椅子には、固く結ばれたネクタイをした、壮年の男がいた。神崎ヒデオ、この会社の二代目社長である。

「お若いですね。見たところ40前半でしょうか?」
と青島。

「誰だ!」
彼は立ち上がって、手元のボタンを押そうとした。

「お初にお目にかかります、神崎社長。警察庁刑事局参事官、室井ケンジです」
室井が青島の前に出て言う。彼の手が止まった。そして座椅子に座り直すと、二人を交互に見つめ背もたれに寄りかかった。

「ほう、警察庁の方が一企業の取締役に何のようですかな?」

「時間がないので単刀直入にお願いします。第二プラトンの警備システムを停止させて下さい」

「参事官、それは無理な相談だというものです。あのシステムは止めてはならない」
社長は机に肘をつくと、何処か見下したように参事官を見て、薄笑いした。

「あんたね、これには人の命がかかっているんだ。変なこと言ってる場合じゃないでしょう」
青島が、机に拳を叩きつけた。

「そうは言われましても刑事さん、私は社長であって技術屋ではありません。まず止め方も知りませんよ」

「言い逃れするな!こっちはね、遊びでやってんじゃないだ」

「無理なものは無理です。お引き取り下さい」
鼻で笑ってから、彼は座椅子のキャスターを少しだけ引き足を組んだ。その姿にさらに食ってかかろうとした青島の肩を室井が引っ張る。

「何すんスかぁ!」
振り返って室井を睨んだが、逆に彼が青島をにらみ返した。ほんの一瞬だったが。そしてその強い炎の宿った瞳は、目の前の社長に向けられた。

「青島、今のお前は冷静さがない。少し黙っていろ」

「は、はい」
気負けしたと言っていいだろうか?青島は3歩後退した。

「あなたは、あなたのコネでどうにでもなると思っているようだが、そうは行きません。あの男は思惑通りに事件が運んでも運ばなくても、あなたを逮捕しているでしょう。彼はそういう男です。神崎さん、犯罪者として処分されるか、それとも謝罪のみでしばらくはまだこの椅子に座り続けるか、それを選ぶのはあなたです」
流暢にだが決して相手に聞き流されることのない口調で、室井は問いかけた。

神崎の顔が一気に青ざめた。肘掛けに置いた手が、所在なく動いている。

(もう少しだ)
届いている。神崎が心の奥に封印した良心が呵責の念を抱きはじめている。

「あなたの協力が必要です。事件解決に協力して下さい。それであなたは犯罪に荷担していないことを証明するんだ」

「神崎!」
強く彼は言った。それにビクリと神崎が反応し、先ほどからは想像できないような覇気のない表情で室井を見上げる。

「私は……まだ……ここにいたい」

「なら止めて下さい。大至急!」
青島が急かせる。

「ああ、私だ。神崎だ。大至急、技術部システム管理チームを召集してくれ。そうだ、急いでだ」
連絡を入れてから、彼は頭を抱えた。

「あの人は、私を脅して来たんだ。先代社長が科学捜査研究所との技術提携の為に、多額の賄賂を送ったことを公表することを盾に」
ふるえている手のひらを見つめる神崎。
「怖かったんだ。先代社長もあの人の重圧に耐えられず入院した。私も、いつかそうなるのではないかと」
頭を押さえて震え始める。
「今回のことも……もっと警察庁でやりやすくなるからと……無理矢理協力されたんだ」

「安心して下さい、神崎社長。僕らはあなたを逮捕したりしません。警察は証拠がない逮捕はできませんし、それに逮捕されるのはあなたじゃない。先代社長とその人ですよ」
青島が神崎の顔をのぞき込んで、語りかける。

彼のふるえが止まった。ゆっくりと青島の顔に目を向けて、安心したようにため息をついた。

「ありがとう、刑事さん。少し楽になりました。失礼ですが、お名前は?」
その言葉に反応するように、彼は営業スマイルになりこう返答した。

「青島です。総理と、同じ名前の」

数十分後、会議室に5名のシステムスタッフがあらわれた。彼らは室井と青島を、メインホストルームへ案内し、『第二プラトン・ホスト』と書かれたディスクを渡した。

「これは?」

「最悪の場合に備えて、我々が開発した、システム停止用ディスクです。任意のシステムのみを中断させることもできます」
と一人が言う。

「ただ先ほども説明しました通り、ホテルの地下二階に設置したホストコンピュータにこれをセットして貰う必要があります。これ以外の平和的なシステム停止方法はありません」

「なるほど」

「それをセットした後、画面の指示に従って、パスワードを入力して下さい。パスワードは『ココロノタビヲエイエンニ』とカタカナで入力するのです。いいですね?」
女性技術社員が念を押す。

「感謝します、みなさん」
青島がいい、室井が同時に会釈した。

パシフィック・システム社から出た二人は、すぐさま車に乗り込み、ホテルに向かって走り出した。

「今から出るとホテルに到着するのは夜中になりますね」
しばらく走って信号待ちに入った時だった。

「ホテルの方の状況を知っておきたいところだな」

「新城管理官に電話してみましょうよ、室井さん」
信号が青になる。滑らかに滑り出し、スピードが上がる。

「新城に、か」
室井には一抹の不安と期待が入り交じっていた。あの新城だ。確かに彼が本部長を解任されたとき、彼は弁護に回っていた。室井もそれには酷く驚愕した。が、しかしこれまでの彼の行動、自分に対する口調や言動、どれをとっても自分を好意的には見ていない。

そんな彼が果たして情報を回してくれるだろうか。敢えて不安定な要素の多い新城よりも、島津一課長の方が安全ではないか。室井はコートの内ポケットに入れて置いた携帯を取り出し見ながら、葛藤を続けた。

「悩んでるんですか、室井さん」

「ああ」
答えるのにもかなりの間があった。

青島は少しだけ笑みを見せた。
「あの人を信用して上げてください。新城管理官も警察官です」

「青島……」
室井は驚きを隠せなかった。部下の報告で、青島は新城に酷い嫌がらせを受けていると聴いていた。恨んでもおかしくないはずななのに、この陽気な熱血漢は、恨むどころか好意的に見ているようだ。

「そりゃあ、俺や室井さんのことを良くは思っていない。でも局長補佐と俺達、どっちが警察官として正しい行動をしているかは、新城さんにだって分かると思います」
室井は聴きながら、さらに携帯を注視する。そしてヒーターの音と、時折反対車線を通り過ぎる車の走行音だけが彼の耳をかすめて行き、何度目かのその音で、彼は携帯の番号をプッシュした。番号は新城の携帯のものだ。

6度目のコールで、ようやく彼が出た。

『新城です』

「私だ。室井だ」

『何やってんですか、室井さん』

「今どこにいる?」

『湖岸署の正面玄関です』

「好都合だ。君に頼みたいことがある。今現在のホテル周辺の様子を教えてほしい」

『また単独捜査ですか。今度ばかりは局長補佐も黙ってませんよ』
新城は淡々と忠告した。だが今室井もそれを意に介している余裕はなかった。

「その局長補佐が絡んでいる。頼む、一刻を争う。教えてくれ」

『……分かりました。現在、突入した編成隊の一部がホテル外部まで後退、ホテル周辺の警備だけを強化。第二陣の突入は躊躇されている。依然、犯行グループの特定はできていない』

「そうか。特定は無理だろうな」

『どうやら室井さん、あなたは何か掴んだようだな』

「ああ。新城、お前にだけは話しておく。ホテルの警備システムを納入した会社と、局長補佐の意外な接点がみつかった。この事件の首謀者はあの人だ」

『まさか!』

「信じる信じないは君の自由だ。ただ客観的に見て私と補佐、どちらが正しいことをしているか、それは分かるはずだろう?」
新城は沈黙を護った。
「私と青島は手遅れになる前に、システムを止めて宿泊客及び警察関係者を救出する。じゃあな」

『むろ』
途中で切った。室井は携帯を見つめて動かない。

「新城さんだったら分かってくれます。俺達はいつも通り、正しいと思ったことをしましょう」

「ああ。無駄なことでもな」
前方に車がないことを確認してから、青島はアクセルを踏む足に力を入れた。


唐突且つ一方的に会話を切られ、新城は嘆息した。そして携帯を内ポケットにしまうと湖岸署の玄関をくぐり、人気の少ないロビーを闊歩し足早に階段を駆け上がる。
捜査本部が設置されている大会議室の付近は、慌ただしく捜査員が出入りしていた。

「何かあったのか」
新城は追い抜いて行く捜査一課の刑事を一人捕まえるとそう尋ねる。

「管理官。局長補佐が二度目の突入を指示されました」
新城は大きく目を見開く。

「突入は一時中止しろ。私と島津さんでもう一度、局長補佐に確認をとる。いいな、むやみに突入させるな。たとえ局長命令でもな」
新城が語尾に力を込めて、大会議室の扉を開けた。

「管理官!」
新城の入室を最初に確認したのは島津一課長だった。だが新城はそれに対応することなく、大股でマイクに向かう。

「局長補佐!新城です」

『どうした、新城君?』

「第二次突入の話、私は聴いておりませんが」

『指示の必要はないと判断した。私が指揮する。君は見ていればいい』

「局長補佐!」

『新城君、君はもう少し利口な男かと思っていたが……。室井と同類のようだな』
新城は奥歯を噛む。きつく、さらにきつく。

「わかりました。そうおっしゃられるなら、私も独自の判断で動きます」

『新城!』
局長補佐の怒号が会議室に響きわたったが、新城は耳を貸さなかった。

「島津さん、現場へ行こう」

「管理官、それは」

「あとは向こうで室井さんと合流してからだ」
会議室が慌ただしくなる。

『裏切るのか、新城』
局長補佐の罵声がその言葉でいったん止まったが、新城は聴く耳を貸さなかった。それは会議室にいる全捜査員の総意でもある。

「我々が向かうべきは、現場だ―――」

ホテル付近の野次馬は、少しずつ減っていた。それほどの動きもなく、面白くもないのだ。野次馬は興味を失って当然である。

室井と青島は、正面玄関へ悠然と車を乗り付け待機していた捜査隊を見回す。中の本庁捜査員達が、口々に室井の名を呟いた。警視庁刑事部参事官、室井慎次。彼を知らない本庁の人間などいるはずがない。

「室井さん、どうします?」
エンジンを切り、キーを抜くと相棒は彼に相談した。

「降りるぞ」

「はい」

二人が車を降りると、中隊長らしき人物を中心に室井の前に並び、指示を聴きたがっていた。それまでの漠然とした喪失感と不安感を一気に消し飛んだかのように晴れやかな表情。室井はその瞬間、痛烈に縦割り構造の弱点を認識した。

上の命令なくして、彼らは動けない、まさに駒である。

しかし今彼の理想を振りかざしている暇などなかった。
ともかく急がなければ、いつ手遅れになるか分からない。したくない想像だがもう手遅れなのかもしれないが。

「室井さん」

室井は指示が出せなかった。彼には今、二作戦を同時に展開する必要があった。

ひとつはホテルの警備システムの停止と人質の救出。

そしてもう一つは警察庁舎にいる、警備局長補佐の即時逮捕。

しかし、困ったことに彼の体は当然一つしかない。ホテルで人命を最優先させるべき状況だが、あの局長補佐が何を仕掛けているか予想もできない。かといって、こちらを置いたまま警察庁へ向かうこともできないだろう。事は一刻を争う。ここに青島を残して、彼に頼むことも考えたがこのエリート集団が自分の命令だとしても、たかが一介の脱サラ刑事の指揮下に入ることをよしとしないだろう。

身動きがとれなかった。彼の額に血管が浮き上がった。目を閉じて深く静かに考える。

(落ち着け、室井慎次……。何かある、きっと抜け道がある)

不安が当たりを包み出したとき、彼の耳に数台の車が近づいてくるイメージが浮かんだ。目を見開いて、振り返ると、既に青島がそちらの方向を見ていた。

「む、室井さん、あれ」

彼の目にもその瞬間理解できた。それはどう見ても捜査一課の車両だ。4台、二車線の道を進んでくる。

かなりのスピードだ。

近づいてきた車両は青島の横をかすめ、数メートル先で停車する。

後部座席の扉が開いて、見慣れた男がロングコートの裾を叩いてあらわれた。

「新城」

「新城さん」
青島はそれが新城の理想共鳴として、ポジティブに受け取って、笑顔で彼を迎えたが、新城はそれに目もくれなかった。

「勘違いするな、青島。私は君と同じように室井さんのお友達になるために来たんじゃない」
そして青島に一瞥くれてから、室井に視線を投げた。
「局長補佐より……室井さん、あなたの方が警察官として正しいと判断したから協力するだけです」

「そうか。しかしありがたい」

「その言葉は総監や長官が無事救出されてからだ。どうするつもりか聴かせてもらおう」
新城の相変わらずの挑戦的態度に舌を巻く青島。

「よし。今パシフィック・システムから停止用ディスクを借り受けた。パスワードも聴いている」

「踏み込み隊の組織ですか。島津さん、やってもらえますか?」
伊達に東大を現役で卒業していない。多くを語られなくとも、その並外れた頭の回転力で大方のことは分かるのだ。そして瞬時の状況判断力。いくら長官が東大閥の人間で、贔屓目に出世が許されるとしても、彼ほど有能でなければ多方面からの期待はないだろう。

それに関しては室井の明晰さは異常とも言える。大学血統が最優先される官界で、東北大学というネームでここまでスピード出世を遂げたのは彼の優秀さの成せる技だろう。

新城は振り向き島津を見た。

たたき上げの、ノンキャリア刑事。ここにいる室井も新城も、そして青島も経験では劣ってしまう人物だ。風格もそれに見合ったものを持っている。

「分かりました、管理官」
大仕事を幾度もこなし、キャリアの若造を何人も上へ押し上げた手腕、それらが彼に大きな自信を与えている。彼は臆することなく引き受けた。
その言葉に、室井が彼の前に移動する。

久しぶりの対面である。

「島津一課長、私と新城管理官で局長補佐を緊急逮捕します。システムのことは青島君にすべてを預けますから彼を加えて突入して下さい」

「青島巡査部長を……ですか?」
島津も、湖岸署の神田署長らと同じく、彼の行動に何度か胃を痛めた経験がある。そして室井の推薦で一課に配属されたときも手前勝手な行動で、危うく被疑者を取り逃がしそうになったこともあった。

島津の脳裏に、そうした彼の失敗談がよぎり不安を募らせた。しかし、室井がここを離れる今、彼しか行く手を阻むシステムを止めることができないのだ。鼻で息を抜いて、心を鎮めて室井に答える。

「わかりました、参事官。こちらはお任せ下さい」

「室井さん!早く乗って下さい!!」
素早く捜査車両の1台を手配し、後部座席の扉を開けたままにして、新城が言う。

「わかった」
振り向かずに答え、こんどは青島を見る室井。

「いいか、失敗は許されない。島津さんの指示に従って、無事人質を救出するんだ」

「わかってます。室井さんこそ。……あ、これ和久さんの受け売りなんスけど、『逮捕の瞬間が一番危険だ』って」
室井が手渡したディスクをコートのポケットに入れると、彼はそう言った。

「……肝に銘じておく」

「じゃあ、気をつけて」
青島は姿勢をただして最敬礼を送る。室井もまた敬礼し、車に滑り込んだ。

「青島君!こっちに来てくれ!」
見送る暇すら青島には与えられなかった。彼は表情を固くして、島津を中心にできた本庁捜査員の輪の中に入った。

「いいんですか、青島にディスクを預けて」
ホテルから数百メートル走ったところで、隣に座った新城がそう言った。

「いいんだ。なあ新城、お前はあいつを軽く見ているようだが」

「彼は組織の中ではやっていけない。それは警察官としては使えないということですよ、室井さん」
言いかけたところで、新城は反論してきた。

「聞け。私はああいう人間こそ組織には必要だと思っている。猿の群がいい例だ。猿は異端を群から追い出し、他の群でもその異端は受け入れられず潰されるという。だがそれこそ、群の血を濃くさせない為の欠くことのできない重要な循環行為ではないかという説がある」

「異端こそ組織の要、とでも言いたいんですか」

「そうだ」

「やはりあなたとは根本的に考えが違うようだ。だが面白い理論だとは思いますよ」
彼は自分の意図が理解できたのだろうか。横目で顔を見ながら、室井は思った。しかし新城は室井の考えを理解した上でそう言ったのかは定かではない。

カーブを曲がる時に、横Gがかかり二人が扉のとってを握った。警視庁はもうすぐである。

ほどなくして車が警視庁にたどり着いた。セカンドインパクトで沈んだ旧東京の庁舎をそのままの姿で復元した外装の建物。現警視庁はその外装の中に近代設備を盛り込んだ形になっており、課のそれぞれの部屋配置などが明らかに変わっている。

「局長補佐は第一大会議室ですよ、室井さん」

「ああ、わかっている」

正面玄関を通って、ロビーから先へ続く上へ行く為のただ一つの階段を室井と新城が上っていく。二階より上はエレベーターで上ることになる。大理石の階段を叩く二人の靴音だけが盛大に響いていた。

それしか音がないように。

エレベーターで第一大会議室のある階へ。そして二人は固く閉ざされた扉の前に立った。

「開けます」
新城が言った。室井は声を立てず頷く。

扉が開く時に音はなかった。まさにスッと開いたと言って良かった。

中央に丸机が置かれていて、ただ独り局長補佐がそこにいる。

「やはり来たか」
背もたれに体重を預け、足を軽く組んだ姿勢で二人を迎える。すべてを見通した目をしているが、これほどの余裕があるのは何故だろう。

「局長補佐、あなたがなそうとしたことは警察に対する裏切りでありひいては国民に対する反逆です」
と室井。

「なるほど。そうだな。私がなそうとしていることは不正だ」
軽く笑みを浮かべる。
「だが、ここで君たち二人がこの事件の真相を忘れる、もしくは消えた場合、私はなんとでも言い逃れることができるな」
短く刈り込まれた短髪。そしてその目には野望をたたえている。

「往生際が悪いですよ、局長補佐」
今度は新城が言う。

「性分だよ」
と、立ち上がって円卓の上に置かれていた銃を抜いた。
「悪いな、2人とも。私はここでつぶれる訳にはいかんのだ。私の身代わりになってもらおう」

空気が凍り付く。さほど面識のなかったこの警備局長補佐は、ここにきて警察官ではなく犯罪者の側面をさらけ出した。

「局長補佐!いい加減にして下さい!あなたはプライドというものがないのですか」

「そのプライドを保持する為だ。忘却した訳ではあるまい、室井。警察は縦割り構造なのだ。上の決定は絶対だ。君らの口さえ封じることができればいい。考えてもみろ。ノンキャリアや研修中のキャリアと局長補佐の証言、どちらが信頼を得る?」
考えるまでもない。当然彼の証言が最優先だろう。
「ここで起きたことは私の作り上げた偽証で塗り固められ、私はさらに上に上る」

「傲慢な出世欲に魅入られたんですか、局長補佐!」
室井が叫んだ。

「やかましい!!貴様も分かるだろう?東大閥でない人間の苦しみが!!」
ほとんど何もない会議室という空間で、彼の声が反響する。

2人は答えなかった。反響がこだまする。静まってから、長い沈黙が包む。

「これまでだ、室井、新城」

『本部、応答願います』
拳銃を構える音だけがやけに大きく聞こえた一瞬あと、聞き慣れた声がした。島津一課長である。

『代わって下さい、島津課長』

『何をする、君』

『室井さん、新城さん、居ますよね?長官以下警察関係者、一般客、全員無傷で救出。ホテルのシステムも正常化しました。室井さん?新城さん?』
薄明かりに照らされていた、局長補佐の顔から殺気が抜けていく。

カチャ。

そして拳銃を下ろした。

「ここまでだな」
拳銃が手からこぼれ落ちる。両手を軽く握り拳を揃えて、軽くつきだした。新城が内ポケットから手錠を取り出し、彼の右腕を握る。

「室井さん、かけて下さい」

「私が、か?」

「そうです」

「局長補佐、あなたを……逮捕します」
室井は敢えて罪状を語らず逮捕した。彼には多くの罪がかかりすぎている。そして何より警察官として彼を許せない気持ちが強かったこともある。

「青島の思想はあなたが原点だったんですね」
と新城。

「何故だ?」

「ヤツはいつか言いました。『警察官は逮捕するのが仕事です』と」

「それは私ではない。愛すべき湾岸署のある刑事の台詞だ」
踏み込んできた本庁一課の刑事達に局長補佐だった男が取り押さえられたのは、その数十秒あとだった。

静かな大会議室に、再び室井と新城だけが残された。

しばし引っ張っていかれる覇気のない被疑者となった男を眺めていたが、突然新城が室井の前に立ち彼を睨む。

「あなたに逮捕して貰ったのは、単に場を譲っただけではないことを覚えておいてもらおう」

「何だ」

「あなたにはああなってほしくない。これ以上警察の汚点は増やさないために。……『戒め』、だと思って下さい」
口の端をつり上げて笑い、新城は背中を向けて歩きだした。彼も会議室の外の光の中に吸い込まれるようにして、この場から退場した。ややあって、彼は大きく息を吸い込みゆっくりと吐き出す。

いつになく疲労している自分に気がついた。顔がしかめっ面になっていることもよくわかった。

「『戒め』、か」
自分はああならない。ああなりたくはない。室井の中で二つのせめぎ合いが起こる。

そのとき、ふと彼の脳裏を湾岸署のことが駆け抜けた。そして青島との約束がまた明確化された。

「私は……大丈夫だ」
自分に対して持てる大きな自信が、室井の中で大きくなる。湾岸署がある以上、青島シュウサクという刑事が警察にいる以上、室井は出世欲という悪魔に魂を売り渡すことなく上へ上って行ける。

だがその『戒め』は、室井の心に深く刻まれたのは言うまでもない。

生涯、その手錠をかけた瞬間だけは忘れることがなかった。

室井はコートの襟を正すと、一つだけ開かれた会議室の扉へ歩いていく。そして、事件の解決を象徴するように、会議室の扉が閉じらた。

―――暗い会議室の中で未だに状況を写し続けるモニタの明かりだけが酷く明るく見えていた。

FILE-03 OVER...


野暮な男二人のしょうもないコメント…だったはず

『Dancing,Investigation Line著者、平岡セイイチの書斎にて』

平岡 :ふう。ようやく上がったよ。あとはこれにあとがきをつけてっと。
アスカ:とりゃぁっ!

めきっ。

平岡 :ほげっ!な、なにすんだよ、君!!
アスカ:何すんだじゃないわよ、アンタ!!いい加減アタシの小説書きなさいよっ!
平岡 :えっ?それは今の僕ではなく1999年を生きる平岡誠一君に…
アスカ:どっちでもいいのよ、この際!!(–#)
シンジ:僕もそろそろ書いてほしいんですけど?
平岡 :き、君達ねぇ。これだって試験勉強の合間を縫って、何とか書いてるんだよ?
     分かってよ。
アスカ:分かってる?アンタ。2083年の平岡から1999年の平岡に戻ってるわよ。
シンジ:だから、どっちでもいいんだよアスカ。僕らの言い分が聞き入れられるなら。
平岡 :シンジ君まで…ひどいな。
アスカ:いい?ホント早く「踊る大捜査線」引き上げて、こっちにかかるの!
シンジ:そうですよ。
平岡 :わかった…でもこの作品はこれで終わらないんだよねぇ。ま、後日お楽しみ。
アスカ:その前にこっちよ!
平岡 :はいはい(^^;
シンジ:じゃぁ改めて。長いことかかりましたね、今回も。
アスカ:ホ~ント。しかも拍子抜けなラストは相変わらずだしぃ。
平岡 :ごもっとも。でもさ、室井さんの話じゃない?これ。だから青島とのシーンで終わらせたくなかったんだよね。
シンジ:でももう少しやりようがなかったんですか?
平岡 :今の僕にはこれが限界ですm(--)m
アスカ:下手クソ。
平岡 :くっ…四文字で片づけやがった…
シンジ:そういえば、これってこういう世の中じゃもう隠す必要もないと思いますけど、「踊る大捜査線」のパロディなんですよね?
平岡 :そう。室井を「エヴァD」に登場させた当時は、まだこんな大人気になる前だったから。
シンジ:じゃぁ芝居好きな平岡さんとしては、リアルキャストなんかは考えたんですか?
平岡 :もちろん。つーか、オリジナルキャストって2人しかいないけどさ。

警備局長補佐/伊武雅刀
P.S.社社長/段田安則

アスカ:アンタ、意外に詳しいわね。
シンジ:ホントだね。まさか伊武さんの名前が出るあたりは。
アスカ:し、シンジも詳しいわねぇ。
シンジ:えっ?いや、その、あの。
平岡 :ともかくさ、パロディとして成功したのかな?
シンジ:どうでしょう?僕はそれなりだと思いますよ、ラストのあっけなさをのぞけば。
アスカ:アタシこのドラマ見てなかったからわかんない。
平岡 :……。
シンジ:どうしたんですか?黙ってしまって。
平岡 :や、いいんだけどね。ともかく、後日をお楽しみ。あ、ご意見・ご感想懇願です!!
アスカ:なんか引っかかるわよねぇ、その後日ってのは。
シンジ:雑記の「踊る地方捜査線」を短編としてまとめる気じゃないのかな?
アスカ:甘いわ、シンジ!コイツは何かたくらんでるわよ、きっと。